2011.02.08

【エッセイ】デジタル教材の評価・よくある誤解

仕事柄多くの方々とデジタル教材についてお話しする機会がありますが、評価の話をするときに、陥りがちな誤解のパターンがあります。

「お金をかけて教材を作るのだから、学習成果がでるのは当然だ。」

教材を使う前よりも使った後の方が学習成果が出るのは当たり前のように思えるかもしれません。確かに事前に知らなかった単語を想起できる率は事後の方があがります。しかし、評価目標を記憶ではなく、概念やスキルの獲得に置くと、統計的に有意差が出ないケースも多くあります。複雑で高度な内容の学習は時間がかかりますので、短時間の教材での学習では差がでにくいのです。

「ITを利用しているのだから、紙やテレビより学習成果がでるはずだ。」

最先端の情報機器を利用していることから、紙やテレビ番組などとメディア比較した場合、圧倒的な差が出そうなイメージがあるのだと思います。しかし、基本的に同じ視覚的刺激を提供する場合、メディアの違いによって学習効果に差が出ることはありません。(内容が同じであれば紙とPDF、テレビ番組とFlash動画では差が出ないということです。)情報機器でしか実現できない相互作用性を上手に活用した教材では統計的な有意差が確認されますが、その差は通常10%から20%程度のものです。

「デジタル教材の学習成果が確認できれば、教育が革命的に変わる。」

教材の評価で確認されることは、一定の条件下で限定的な教育効果があることだけです。実際には教材の影響力よりも人間の影響力の方が大きく、教員・家族・友人などとのインタラクションの要因を入れると、教材の評価は簡単にひっくり返ります。
また、デジタル教材を設置・運用する際に教員側に負荷がかかるような状況だと、教材研究や子どもとの対話時間が減り、長期的に成績が下がることもあります。大規模な導入の場合にはアセスメント的な研究も不可欠になります。

デジタル教材は医療における薬の位置づけに似ています。たとえば解熱薬は熱をさげるという限定的な機能しかありません。しかし、多様な薬が日常的に手に入れば健康を維持しやすくなるように、多様な教材がインターネット経由で使えるようになれば、学習をよりよく支援できるようになります。できることとできないことの実像を知ってもらった上で、優れたデジタル教材が一人でも多くの学習者に届くことを願っています。

山内 祐平

2011.02.04

【私の学びの場】TAとしてかかわる大学授業

皆さま、こんにちは。博士課程1年の大城です。

授業やゼミ以外での学びの場を紹介するシリーズ【私の学びの場】最終回は、「TAとしてかかわる大学授業」をお送り致します。

修士1年の頃から、とある私立大学の学部生向けの授業で、TA(ティーチング・アシスタント)を務めさせていただいています。修士1年・2年の間は、インストラクショナルデザインに関する講義+演習の授業、博士課程に進学した今年度は、前期は1年生向けのアカデミックスキルの授業、後期は2年生向けの、卒業生と在学生の交流をデザインする演習型の授業に参加させていただきました。

高等教育を研究テーマとする以上、普段から他の大学の授業を継続的に見られるのは、非常に貴重なことです。


■ホンモノの大学生が見られる!

悲しい(?)ことに、自分も大学院生という学生の立場ながら、今の大学1年生とは6つも歳の差があります。平成生まれだなんて...おやまあ!「大学生の感覚」を、自分自身が大学の学部生だった頃の感覚で考えるのが難しく、また危ういものになってきました。

自分の研究は、、「大学講義の理解を促進するためのデジタル・バックチャネルの導入方法に関する研究」と題し、大学の授業中にコンピュータやネットワークの利用を取り入れることを前提に、その使い方を提案することを目指していますが、デジタル機器に対する姿勢や使い方の習慣は、数年単位の世代の違いによってずいぶん変わって来ると考えられます。仮に「理論的には、大学生はこうこうこうして学ぶのがいい!」ということを説明できたとしても、それが実際の大学生の感覚とあまりにかけ離れたものであると、現実的でなくなる恐れがあります(介入をする以上、ある程度の変化を求めるのは前提となりますが...。)

文献調査によって裏付けられた理論をもとにして考えるだけでなく、それが「今を生きるホンモノの大学生」にとってどのような意味を持つのかを、彼らの気持ちや態度に寄り添って考えていくことが重要です。ですので、「ホンモノの大学生」を見て、話ができるというのはとてもありがたいです。


■先生方の授業運営の様子を見られる!

TAという立場では、教員の方々の授業運営を、微力ながらお手伝いするという形で、その様子を半期を通じて継続的に追うことができます。

自分の研究は、大学の授業を対象とするものの、当然ながら自分自身はまだ学生であり、大学での教授経験はありません。そこで、実際に大学教員の先生方が授業を進められていく様を、「こんな授業、こんな先生に自分の提案するバックチャネルの利用方法の導入をお願いするとしたら?」と、妄想もといシミュレーションしながら、そばで拝見できるのは貴重な時間です。

先生方の授業中の学生の反応に対する臨機応変な振る舞いや、半期全体で見た科目の進行スケジュール調整の様子などを、授業時間内外ともに直に見られるのは、自分にとって、リアルな大学授業を掴むのに大変役立っています。


------

このように、自分の場合は「大学の授業」ですが、教育を研究するうえで、その対象となる教授者や学習者がいるフィールドとつながりを持つことは大切であり、それは重要な学びの場だと思います。このような機会をいただけることに、先生方や学生の皆様への感謝の気持ちを忘れずに、これからも様々な大学の授業に参加していきたいです。

[大城 明緒]

2011.01.28

【私の学びの場】高校という文化

みなさまこんにちは。博士1年の池尻です。



授業やゼミ以外での学びの場を紹介するシリーズ【私の学びの場】
第8回は池尻が「高校という文化」というテーマでお送りします。


きっかけはM1の冬でした。山内研の先輩である森さんに都内のある高校を紹介してもらい、それ以来2年間その高校の世界史の先生の下で勉強させてもらっています。今回は、僕とこの高校の関係を大きく3つの時系列でお話したいと思います。


---
(1)ベテランの先生の授業観察(M1の冬〜M2)
●高校現場にいないと見えない仮説を発見する
●学校文化のリズムを吸収する


 最初の頃は、ベテランの先生にお願いして授業を毎週見学させてもらい、授業後に質問をするというサイクルを1年間続けていました。毎回、授業を見る観点を変えて生徒や先生の様子を観察し、自分の中の仮説を確かめたり先生の暗黙知を探ろうとしていました。そして毎回、以下のような発見をまとめていました。


 ・生徒は今に関連することを話すと顔が上がる
 ・教え方が「具体的なエピソードの紹介」→「抽象的な概念の説明」順になっている
 ・生徒の部活や好きなことを把握した上で質問を振る相手を決めている


 授業観察ノートは2冊ほどになり、合計数十個の発見を書き留めました。M1の間にずっと論文を読みあさっていた僕としては、高校現場にいないと見えてこない仮説を発見できたことはとても財産になっています。

 また、1年間通ってカリキュラムの流れを知れたのも大きな収穫でした。単発のワークショップや実験的な活動ではなく、学校文化の時間敵な流れにカチッとはまるように研究のアウトプットを考えられるようになったのもこの頃からでした。


(2)別の先生の授業観察(D1の春〜冬)
●自分とは違う授業スタイルを吸収する
●ポートフォリオ的に教材を作ることを知る


 2年目からは世界史の別の先生の授業を見させてもらいました。こちらの先生は写真や風刺画を散りばめたプリントを自分で作る先生でした。僕は自分のスタイルも受けてきた授業も板書型で、上で紹介したベテラン先生も板書型だったので、プリント型の授業スタイルを吸収できたのは大きな収穫でした。

 プリント型というと教科書の穴埋め形式のようなものを想像する方もいると思いますが、この先生のプリントは歴史の流れを丁寧にまとめているだけでなく、教科書も資料集にも載っていない風刺画や写真を載せて視覚で歴史がわかるように構成されていて、自分の授業観の枠組みが広がる印象を受けました。ああ、自分はこういう授業をしている先生には何も話せない状態だったんだなと反省もしました。

 さらに、このプリントが毎年グレードアップされているという話を聞いて驚きもしました。毎回の反省点の反映とは別に、日々行っている美術館巡りなどをプリントに反映しており、教材自体が先生のポートフォリオのようになっていました。

 僕も歴史の教材を作っていますが、製作期間外でコンテンツを再構成することは滅多にありませんし、それを行っている時間も取れないのが現状です。その中で、学校の先生の成長と一緒に教材が成長していく姿を見て、教育や学校や研究を長期的に考えるようにもなりました。


(3)自分の授業(D1の冬〜今)
●研究と実践を融合する感覚を知る
●反感ではなく共感してくれる今の学校の限界点を知る


 その後、この高校で非常勤講師をしてみないかというお話をいただき、現在は教壇に立って高校2年生に世界史を教えています。

 まずはしっかり基本を押さえるために、見てきた先生の授業を真似することにに力を入れました。せっかくなのでこの2年間で学んだことを全部出し切ろうと思い、初めてプリント教材を作ったり、発見した授業を良くする仮説を盛り込んだ授業を試行錯誤しながらやっています。

 「言うは易し、行うは難し」で実際に教壇に立つことで多くの学びがあったのですが、それに加えて「研究」と「実際の教育」の間の溝はそこまで深くないと感じられたのが大きな収穫でした。

 もちろん話せる内容や知識量では反省点だらけなのですが、それでも研究の知見を織り混ぜることで授業はまだまだ改善できると実感できたことで、研究者としてホッとした面もありました。

 元々僕は、距離を取って学校教育を批判するスタイルが好きでなく、できれば学校を内部から徐々に改善していきたいと思っていたのですが、頭のどこかで「研究」と「実際の教育」は融合できないんじゃないかという心配がありました。それを払拭できたことによって、自分の研究ポリシーが固まった気がします。

 同時にできるだけ学校の先生に歩み寄り、学校文化にどっぷり漬かることで学校が持っている限界点をリアルに感じられてきました。学校文化や教師を受け入れつつ、教師はどこに限界点を感じているか、どういう言葉で表現したら反感ではなく共感を得られるか、研究者として自分はより本質的なサポートができるか、がうっすら分かってきているところです。


---
まとめ

 「学びの場」における学びは、もちろんその場でしか学べないコンテンツやスキルも含むと思います。また、自分の考え方を相対化することも含むと思います。ただ僕は、より重要なことはその場の文化を「吸収する」ことだと思います。

 これはかなり長期間どっぷりその場に漬からないといけないので大変ですが、研究者にとっては体験して損はない期間だと思います。

 修士の頃は自分の意見をグイグイ押していましたが、今では研究領域や教育現場にいる色々な人の意見や悩みが頭の中で混ざり合うようなイメージになっています。こんな形で研究を進められるようになったのも、2年間もこの高校で学ばせてもらい、非常勤という機会をもらえたからだと思います。皆様、ありがとうございます。

 みなさんにも「学びの場」との素敵な出会いが生まれることを心より祈っています。


[池尻 良平]

2011.01.21

【私の学びの場】KDDIわかちあうケータイワークショップ

みなさまこんにちは,修士1年の土居です。
授業やゼミ以外での「学びの場」を紹介するシリーズ【私の学びの場】。


第7回では,「わかちあうケータイワークショップー助け合いによる人と人との繋がりをデザインするー」についてお伝えいたします。

山内研究室は企業とともにワークショップを実践することが多々あります。今回もその一つ。KDDIとの「わかちあうケータイ」ワークショップは"助け合いによる人と人との繋がりをデザインする"をテーマに、12月11日に実践されました。私はこのワークショップの準備、記録撮影等をお手伝いさせて頂きながらワークショップの勉強をさせて頂きました。

これまで人と人とを繋げるべく進化してきたケータイは、ケータイを持つ者同士を時間や距離といった壁を越えてつなげることができる一方,ケータイを持たないものを隔てるというジレンマが有ります。そこでこのワークショップでは助け合いの中で人と人とを繋げるシーンを振り返り、それを自然に助けることができるようなケータイを考え、そのような中から、今とは違う新しいケータイのサービスや機能を考えようというものです。

参加者には本大学の先生方数名,そして本大学の学生数名、市民参加者の方数名、そしてスタッフ,合計26名が福武ホールの地下2階に集まりました。

ワークショップが始まったのは11時半から。
まずはワークショップの趣旨を皆さんに説明し,アイスブレイクです。

アイスブレイクでは参加者全員が輪になって集合し手もらい,自己紹介とともに「最近他人に助けてもらったこと(自分ができないことをしてもらったこと)」を1分限定で発表し合います。

アイスブレイクが終わったところで12時になったのでランチブレイク!
と思いきやただのランチではありません。
ランチタイムは2つのランチレクチャーがありました。

一つは水越先生によるもので「携帯電話以前のメディアに利用される機器について,現在とは異なる使われ方がされていた事例について」でした。

そして二つ目のレクチャーは「子供が遊び,お年寄りがゆっくりお話できるオープンな場のデザインをしてきた立場から、異なるバッググランドを持つ人々の場の共有を促進する取り組みについて」でした。

約30分ずつの2つのレクチャーが終わったあと、机を4,5人ずつ、計4グループに分け、いよいよ本番です。

まず各グループに配られている模造紙やスケッチブックなどを使ってグループの中で以下の4点について1時間話し合ってもらいました。

(1) 提案するケータイやサービスの名称
(2) 分かち合うモノ•コト
(3) 提案するケータイやサービスの機能
(4) 分かち合いのシーン

皆さんそれぞれ創意工夫あふれるアイディアをたくさん出されていきました。アイディアがアイディアを呼びながらも,少しずつ一つのサービスへと向かっていきます。

1時間後休憩を挟んで,各グループの発表です。
どの班も大変素敵なアイディアを発表されていました。

電車で席を譲っていいかどうか悩む時に「席譲ります」の携帯で合図できるサービス、車などの移動手段で困っていた時に乗り合わせを可能にするサービス,今自分が誰かとランチしたいなどという時に誰か同じようなことを考えている人はいないかをすぐに確認できるようなサービス等々,ユニークで人と人に優しい繋がりをもたらしてくれるアイディアばかりでした。

約5時間半にわたるワークショップもあっという間に終わってしまいました。
最後はリフレクションということで参加者の方々から感想を頂き、そしてKDDIの方々も感想を述べられました。

私にとっても、お手伝いをしながら見ているだけで大変楽しめたワークショップでした。これからもこういった素敵な「学びの場」に出会いながら、自身の研究に取り組んで参りたいと思います。

皆さんも素敵な「学びの場」へ是非足を踏み入れてはいかがでしょうか。

[土居由布子]

2011.01.15

【私の学びの場】Beating特集「@Eduなう!」

みなさまこんにちは,修士1年の柴田です。
授業やゼミ以外での「学びの場」を紹介するシリーズ【私の学びの場】。
第6回では,Beatingの特集「@Eduなう!」についてお伝えいたします。

BeatingはBeatの研究内容や、モバイルデバイス、ユビキタス技術の教育利用に関する最新動向、公開研究「Beat Seminar」の案内をメールマガジン形式で月1回配信いたします。私は毎月、Beatingに掲載する解説記事の執筆にお手伝いしております。

Beatingの特集「@Eduなう!」の元記事は以前、東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座(BEAT)の公式アカウント「beatiii」でつぶやかれたトピックから選ばれています。

毎回さまざまな内容を取り上げられて、「beatiii」をフォローするだけでもたいへん勉強になります。
毎月、その中から3つのトピックを選択されます。私は、選択されたつぶやきの元にある英語の論文の内容をふまえて,日本語にて解説文の執筆に協力しています。
例えば、前回掲載されたテーマは:
・ 大学でのTwitter利用
・ ステレオタイプ
・ 学術的リーダーシップ

この解説文の執筆が【私の学びの場】になっています。

各トピックの元にある論文をみると必ずたくさんの新しい情報のリソースに導きかれます。自分の研究と直接関係してなくても、複数な研究方法や観点, 専門分野の知識を習得する事ができます。このように情報を探索する面白さや論文の読み方などを身につける機会になりました。

もちろん、日本語の勉強にもなっています。毎回、緊張して原稿を書いています!
いつも編集担当の椿本弥生先生が間違いを丁寧に直してくれて、感謝しています。
掲載された解説文を何度も読み返すとまたもう一つの学びにつながります。本当に貴重な経験になっています。

メールマガジンのバックナンバーを読みたい方は以下のリンクからアクセスしてください:
Beatingメールマガジン • 登録無料
メールマガジンにご関心のある方は是非ご登録下さい。

[柴田アドリアーナ]

2011.01.08

【私の学びの場】共同研究

新年あけましておめでとうございます。修士1年の菊池です。
授業やゼミ以外での「学びの場」を紹介する【私の学びの場】シリーズ、第5回目となる今回は、僕が現在参加しているNHK出版、大日本印刷との共同研究についてです。

この共同研究では、「電子端末向けアプリケーションの共同開発」を全体の目的としており、僕たち研究者がこのプロジェクトにおいて担う役割は、学習効果の評価を行う部分になります。また、複数あるプロジェクトの中で僕が参加しているのは、小学生向けの英語学習教材をiPad上で動くアプリケーションとして開発するプロジェクトです。

僕は現在までに、このプロジェクトの中で、小学校「外国語活動」についての調査や、家庭内における親子での学習についての調査を行ってきました。以前に自身の研究についてのエントリーを書いた際にも紹介させていただきましたが、僕はもともと小学校での英語学習に興味をもっていたため、自分の研究を進めている感覚でこのプロジェクトに参加することができています。ただし、このプロジェクトに参加する中で、「これは個人での研究活動では得られない経験だろう。」と思うことも多々あります。今回は、そのような「共同研究をやっているからこそ得られる経験」に焦点を当て、自分が学んでいることについて2点紹介したいと思います。

1. 所属が異なる人との交流
まず当然のことですが、共同研究では所属の違う人との交流があります。普段の学生生活の中ではなかなか出会うことができない社会人の方たちと「仕事を通じて」お話をすることができ、物事に対する視野が広がっていると感じます。また、当然のことではありますが、議論を行う上では修士1年の僕も「研究者の一人」としての扱いを受けます。真剣な議論の場で「研究者としての自分」を表現できる機会であり、非常に恵まれた経験をさせていただいていると感じています。

2. 社会へ還元されるモノづくり
次に、モノづくりに対して感じることについてです。先程も述べましたが、この共同研究の目的はアプリケーションの開発にあります。僕は、学部4年生のときの卒業研究の際にも開発研究をしておりました。当時は小学生を対象とした国際理解学習の支援をテーマにしており、そのときも今と同様に「学習者にとって最も良いモノを作りたい」という思いをもちながら開発研究をしておりました。ただ、今になって卒業研究のことを振り返ると、「当時あんなに頑張って作ったモノが、今後活かされることはないのではないか・・。」といったような空虚感を感じることがあります。しかし、今回のプロジェクトで開発しているアプリケーションは一般の社会に対して還元されていくものです。開発を伴う共同研究を行うときの面白さは、まさにここにあるのではないかと思っています。

今回は、僕が参加している共同研究における、「所属が異なる人との交流」と「社会へ還元されるモノづくり」の2点に焦点を当ててお話をさせていただきましたが、もちろん、共同研究に参加することによって学べていることはこれだけではありません。修士1年の段階でこのようなプロジェクトに参加させていただけることに感謝しつつ、少しでも社会に貢献できるように、今後も研究を進めていきたいと思います。

2011.01.04

【エッセイ】2011年の注目ポイント

新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

世界的に多極化、流動化が進む中、恒例のメディアによる2011年の予測も心なしか数も少なく、ぱっとしないものが多いように思います。
予測というと難しいので、学習環境まわりで今年個人的に注目していることについてまとめてみます。

1) ソーシャルメディアーワークショップーコミュニティ
ソーシャルメディアとイベントを接続することはUstreamによって一般的になっていますが、今までは会場に足を運ぶほどのコミットメントがない人に対する「周辺参加」の意味合いが強いものでした。今後は、イベントの単発性を補完し、ある期間コミットメントを持続させるための仕組みとして利用する動きが増えてくると考えています。短期的な実践共同体を構築し、連続ワークショップの間をソーシャルメディアでつないでいくイメージです。

2) 電子書籍とソーシャルリーディング
2010年に立ち上がったタブレットと電子書籍は当面プラットフォーム競争が続くことになると思いますが、普及が進むにつれて書籍のシミュレーションを越えようとする動きが様々な形で出てくると考えています。一番はやそうなのはソーシャルリーディングで、読んだ内容を引用しながらソーシャルメディア上でディスカッションするという形式です。大学では試行例がでてくるかもしれません。

3) 学童保育を補完するサービス
幼保統合という大きな動きが続いていますが、その次に注目されそうなのが小学校1年生から3年生の放課後学習環境です。4年生以上になると塾通いが増えてきますが、この層は学童保育以外のサービスがあまりない状態です。個人的には塾の低年齢化よりも、保育の延長となるゆるやかな学びの場を望んでいます。

4) 大学と社会をつなぐプロジェクト
仕分けをきっかけにして大きな議論があった大学の予算の削減は、首相の判断により一転増額になりましたが、再来年度以降については改革の成果によると見た方がよいでしょう。各大学は体制の改革とともに、大学の教育研究を社会と接続していくプロジェクトを進めなければならない状況にあります。これらのプロジェクトは最終的に広報や社会貢献を越えて、新しい大学モデルへとつながる萌芽になるかもしれません。

5) 新興国と日本の間の国際プロジェクト
不況が続く先進国と対照的に、新興国は着々と成長を進めています。今まで国際プロジェクトというと欧米を意識したものが多かったですが、今後はアジアを中心とした新興国と対等のパートナーシップを組む取り組みが増えてくると考えています。メーカーなどの企業では当然のことですが、これが教育界にも広がってくるでしょう。

山内 祐平

2010.12.31

【私の学びの場】山内研究室2


みなさまこんにちは,修士2年の伏木田です。
今年も残すところ,本当にあとわずかですね。
大みそかよりもお正月よりも,頭の中は修士論文でいっぱい...。

さて,授業やゼミ以外での「学びの場」を紹介するシリーズ【私の学びの場】。
4回目の今日は,「山内研究室2」をお伝えいたします。

「山内研究室2」とは,山内研究室の院生が集う部屋です。
ポートフォリオ(【山内研の秘密】第5回参照)やお菓子箱(同シリーズ最終回参照)など,特徴的なものがたくさん置かれています。
わたしたち院生はここで何をしているのか,内容を整理しながら書きだしてみました。

---
・研究に必要な文献を探して読む
・講読している学会誌を読む
・歴代の修士論文や博士論文を読む
・自分や他の院生のポートフォリオを読む

・授業に使う資料をつくる
・ゼミ発表で配るレジュメをつくる
・学会で発表するパワーポイントをつくる

・他の院生に研究の流れを相談する
・他の院生から研究についてコメントをもらう
・後輩にゼミ合宿(【山内研の秘密】第7回参照)のいろはを伝える
---

研究室に置かれたあらゆる資料を読むことで,専門分野の知識や研究方法についての知識を積み重ねることができます。
そして,得られた知見を資料などの形にしていく中で,研究に対するアイディアをより深めていくことができます。
ひとりで考えることに詰まったとき,他の院生と進捗や課題を共有することで,解決の糸口が見つかり次へのステップへとつながります。

このように,院生が思考錯誤を繰り返すプロセスにおいて,「研究室2」は大切な役割を果たしているといえます。
ときには,お菓子箱のおいしいものを囲みながら,研究に遠からず近からず,いろいろ話をすることができるのも,「研究室2」の醍醐味です。

院生同士の思いやりと,修士論文を執筆している修士2年の緊張感と,先生の心配りがほどよく混ざり合った「研究室2」。
授業やゼミ,学会とはまた違った,居心地のいい充実した学びの場だとわたしは感じています。


[伏木田稚子]

2010.12.25

【私の学びの場】東京視点/东京聚焦

みなさま、こんにちは。修士2年の程琳と申します。
山内研究室院生が、授業やゼミ以外での「学びの場」を紹介する【私の学びの場】シリーズ。
第3回、程琳が紹介する「私の学びの場」は「東京視点/东京聚焦」です。

「東京視点/东京聚焦」は「身近な日本を中国へ」、「身近な中国を日本へ」伝えることを目指し、日中双方のメンバーが撮影した映像を配信する民間団体で、山内研究室の最初の外国人留学生の可越さんが発足したのです。

「東京視点」は、在日中国人の視点と日本市民の視点で、身の周りの日常を映像として捉え、日本語と中国語によりインターネットを通じて同時配信しています。ホームページができた2001年10月の配信開始以来、2週間から一ヶ月の頻度で、定期的にメンバーの誰かが1本のペースで10分前後の作品を発表し続けてきました。自主参加の形を取っている「東京視点」のメンバーは最初の日本人学生と在日中国人留学生のみでしたが、現在は口コミで一般の市民も多く巻き込まれてきています。中国側では人民日報のオンラインサイト人民網との共催で、これまで配信した作品は百本以上に達しております。

■初心者にやさしい東京視点
私が東京視点に出会ったきっかけは今年の初めでした。就職の相談に、研究室の大先輩の中国人留学生として、山内先生から可越さんのことを紹介していただきました。数回のEmailを交換したら、可さんから定期的に開く東京視点のイベントに来てくれないかとの誘いがありました。

そこで、大阪大学の大学院生の一人が「新聞売りのホームレス」を名に自分で取材撮影編集をまとめて作成したオリジナルな作品を披露しました。私は見るのも初回だったので、あれほどすばらしいものだからきっとプロの方だろうと思ったら、はじめの作品で、二回目の発表というふうに教えられて、あまりにも予想外で、大変びっくりしました。

実は、東京視点に一回だけ発表するメンバーもかなりいたようで、ここでは、プロを目指して作品募集を行っているわけではなく、敷居を低くし、まったくの初心者でもチャレンジできるようになっています。

自分の目にとどまることをカメラで記録し、われながらの形で一つの作品にし、そして多くの人に見せて共感してもらえるのは東京視点の魅力なところです。編集作業は複雑要求されず、基本ベースの技術指導は聞かれたら教えられる、必要なのは、作成者の独特なものを見る目と言葉に語る工夫だけです。

東京視点で顧問を務めている下村健一さんは、「素人だからというのは自分を不出来なほうに引きさげるための口実に過ぎないもので、世の中に、きっとあなたにしか見えないものがあるのだ。また、それを作品にするときは、"私もできる"と言うのではなく、"私だからできる"というような作品を作ろうという心が本当にすばらしい作品を育むのだ」とコメントを出しています。

■草の根だからできる東京視点
東京視点で作品を発表したメンバーはほとんど素人と言っていいのですが、みなそれぞれ自分の独自な視点から中国と日本を身近な出来事によって作品にし、遠く離れた人々に伝えています。そこで生まれた作品リストからも、テーマの広さと独特なアングルを垣間見ることができます。
たとえば、今年に入って、私がメーリスで知らされている編集会議などの定期行事で発表された作品名は「上海万博」「路傍のM」「新宿物語」「11人目のライナー」などがたくさん挙げられ、また編集会議以外に、大学との連携でメディアに関するワークショップ、日中関係に関わる講演や作品公表会などの情報もたっぷり得られます。つい先週土曜日に日中友好会館で「日中の未来を考える」のイベントも行われました。(http://blog.tvf2010.org/article/41734932.html)

今年10月で、10年目の誕生日を迎える東京視点は、ホームページのリニューアルや、これまでもっている100近くの作品ファイルをyoutubeや中国の土豆網などのメディアセンターにアップして更にこの草の根による交流の展開を繰り広げることが見られています。

日中間は国の境目を始め、政治、文化、言葉、衣食住まで、多くの共通点と多くの違いが存在しているのはどこまで一般の民間人に知られているのでしょうか。普通マスメディアからしか得られない情報だけでは、私たちは片耳片目人間になりがちとは誰でも知ってはいますが、そのもう一つの耳、もう一つの目はどこにめければいいのかと問われたら、草の根だからこそ伝えられる情報を東京視点が集めているのではないでしょうか。

URL: http://www.china.ne.jp/tv/
http://people.icubetec.jp/video/
[程琳]

2010.12.16

【私の学びの場】Historical Active Learning

みなさま、こんにちは。修士2年の帯刀菜奈と申します。
山内研究室院生が、授業やゼミ以外での「学びの場」を紹介する【私の学びの場】シリーズ。
第2回、帯刀が紹介する「私の学びの場」は「Historical Active Learning(歴史教育勉強会)」です。

Historical Active Learningとは、通称 HAL(ハル)と呼ばれる2009年に誕生した勉強会です。
これは、海外の能動的な歴史学習について勉強し、
歴史学習の新しい可能性を考えていくことを目標とする仲間が集まっている勉強会です。

■英語文献の読み方相談から、歴史教育の学びへ

きっかけは、先輩に持ちかけた私の相談でした。
帯刀「私、歴史教育系の英語文献を読むのが遅くて、
    誤訳があるんじゃないかって不安なんです。」
池尻「それやったら、定期的に同じ論文誌を分担して読みながら
    スキルアップ図ったらどうかな。」

そうしてはじまったHALは
・隔週交代で、英語文献を分担

・担当箇所の内容を共有し、ディスカッション

・次回の宿題を考える
という2時間の型になりました。

現在のメンバーは、
 .池尻良平(山内研 D1) ←発起人
 ・末橘花(東京女子大学4年,山内研 M0)
 ・帯刀菜奈(山内研 M2)
の3人に加え、オブザーバーとして2名が参加しています。

■ざっくり掴み、深く掘ることも、興味を分かち合う仲間となら楽しい
HALでは、1つのテーマを3ヶ月かけて学びます。
過去全3期はこんな学びをしてきました。

①そもそもどなたが有名な歴史学者なのか知るために、
第1期は歴史学習のレビュー論文を読みました。

②レビュー論文で知った研究者を中心に
第2期では歴史学習研究者(Sumuel S. Wineburgなど)の英語文を読みました。

③そして近年の歴史学習の動向を知るために
第3期にはTheory and Research in Social Education誌の10年分に目を通しました。

1回1回の文献から得る知識はもちろんですが、私にとっては調べ学習の手順を身に付ける場でもありました。

...というとかたい感じもしますが、ディスカッションは毎回盛り上がります。

■みんなで歴史学習の手引きとなるマップを創ることが夢

特に「従来の歴史学習における今後の展開と可能性」
を話し合うと、つい終了時刻を超過してしまいます。
このあいだのHALをちょっとお見せします。
歴史的思考力の歴史学習は今後どのような展開を見せるかについて意見を出し合いました。

「批判的思考力研究は、与えられた解釈を選択することから抜け出すのが難しそう」
これは批判的な意見です。

「学習者個人の歴史観を変えてくれるような存在、例えば、外国人とか、価値観も社会背景も違う歴史学習者と、日本人の歴史学習者を繫げるような支援が出来たらいいかも?」
夢は膨らみます。

私はこのディスカッションを、
先行研究をもとに「私だったらこうするのに」という感覚を育てて、
言葉にする訓練の場
として活用しています。

今期、基礎を固めることを主軸とした前期を土台に
HALは「世界の歴史学習のマッピング」に挑戦します。
① 世界の歴史学習研究が対象にしているトピックを知る
② 世界の歴史学習で獲得目標とされる能力を知る
③ 世界の歴史学習で行われている実践を知る
ことを大づかみにしようという試みです。

HALが、国内、国外の同じような興味関心をもった勉強会や研究会と知見を交換しながら
よりActiveになることを願って、これからも積極的に関わっていきたいと思います。

この勉強会に興味を持ってくださった方、ぜひtwitterで話しかけてください。
お待ちしております。

[帯刀 菜奈]

PAGE TOP