2011.05.05
皆様はじめまして。今年度から山内研で学ばさせていただいている、M1の呉重恩です。
今週の【今年の研究計画】シリーズを担当させていただきます。
研究のテーマ:
情報化に対応するキャンパス・ファニチャー
情報化した学びを支援する学校家具に関する研究
研究の背景 :
学習環境論の発展に伴い、学校、特に大学に設置されたキャンパス・ファニチャーのデザインと運用に着目する研究が増加しています。キャンパス・ファニチャーとは、椅子や机、照明設備までの学校に設置されていて、主に学習のための家具です(Mayer・Frederick・W,1976)。今までのキャンパス・ファニチャーについての研究は、学習用机・椅子の寸法と学生の身体の適合性など人間工学に着目するのが多いです。一方、インターネットとマルチメディア技術が盛んに使われた中で、大学における学習環境はますます情報化している姿勢が見られ、学びの形式、状態と仕組みも大いに変わったと言えよう。そういう背景の中で、情報化が主な原因で変わった学習環境に対応するようなキャンパス・ファニチャーの開発が要求されると見られています。しかし、今までのキャンパス・ファニチャーの研究は、人間工学に関するものが多く、情報化時代の学習者の動機付け、学習形式に配慮して学びそのものを支援するようなキャンパス・ファニチャーに関する研究が少ないです。
研究の目的
研究背景を踏まえ、学習環境に重要な位置づけとなるインターネットとマルチメディアの利用の諸問題に取り組む場合、学習者の学習の形式、動機付け、活動、人工物の依頼度、キャンパス・ファニチャーでの需要等の項目を考察しながら、それらの学習を支援し、学習の効果を向上させることを実現させるようなキャンパス・ファニチャーの研究を試みます。
研究の方法
文献のレビューと現場の調査などを行う予定です。まだ研究の具体的な課題が決まっていないですので、研究方法についてこれから詳しく考えようと思います。
今後に向けて
空間・家具などの人工物を含める物理的な学習環境が支えるのは、学習活動なので、まず支援したい学習活動の点で絞りたいと思います。学習活動は、形式によって様々がありますが、今興味を持っているのはPBL(project- based- learning)で、まずそれについて調べると考えています。
2011.05.02
京都工芸繊維大学 新世代オフィス研究センターから出版予定のNEOBOOK3に「仕事をより面白くするオフィス」というテーマで執筆しました。許可をいただきましたのでブログに転載します。
(1.あなたにとって「仕事が面白い」とはどういうことか 2.「仕事を面白くする」ためにはどうすればよいか を1000字程度でコラム風に書くという指示で執筆)
発見があるから仕事は面白い
「面白い」というのは個人的な感覚なので人によって違うのだろうが、研究者には「発見」におもしろさを感じる人が多いように思う。
発見は中世から使われている言葉だが、もともとはハツゲンと読み、見えないものが見えるようになるという意味で使われてきた。現在のように、今までにないものを見つけるという意味で使われるようになったのは明治時代以降であり、翻訳の中で生まれた用法である。
研究者は新しいことを生み出すことを生業にしているが、画期的な業績を出すのはごく一部の人であり、普通の研究者でも発見を論文として発表するのは年に数回である。ただ、それ以外はつまらない日々なのかといえば、そんなことはない。昔の人はこんなことを考えていたのかという発見もあれば、現場に出て自分の仮説と全く違う要因を発見することもある。学生の成長を発見することもあれば、自分自身の至らなさを発見することもある。見えないことが見えるようになるという意味では、毎日が発見の連続なのである。
発見を楽しむ文化を醸成する
研究職というのは、今はやりの言葉でいうとイノベーションを常に求められる仕事である。イノベーションというと多様な人々が集まって今までにない画期的なアイデアを生み出すことを想像するが、その前に考えておくべき大事なことがあるように思う。
MIT(マサチューセッツ工科大学)には夕方から開く教員向けのバーがある。ここでは専門領域が違う研究者が集い、日々の気づきを報告し合って談笑する光景が繰り広げられている。ほとんどはたわいのない話だが、重要なのは内容よりも発見そのものを楽しんでいることである。
発見を楽しむ文化から、異質な気づきの交差と集積が生まれるのだろう。そのような「ため」がないままイノベーションを人為的に起こそうとしても長続きしない。
新しいことを生み出し続けている組織の空間にはそれぞれに独特の雰囲気がある。その雰囲気は、日々の発見を楽しむ営みの積み重ねから生まれているのだろう。
山内 祐平(東京大学 准教授・学習環境デザイン論)
2011.04.28
皆様はじめまして。今年度から山内研で学ばさせていただいている、M1の河田承子です。
今週の【今年の研究計画】シリーズを担当させていただきます。
【研究テーマ】
「子育てをめぐる、メディアと親の関係についての研究」
【研究の背景】
1960年代以降、核家族化の進行に伴い、育児に関する情報を得たり、身近に相談できる人が存在した地域コミュニティが衰退していきました。都市化の中で、孤立した子育てに直面しなければいけなくなった親たちは、育児に関する情報を提供してくれるメディアを必要とするようになりました。例えば育児雑誌は、出生数が減少しているにも関わらず発行部数が増加しており、相談相手を得られにくい親にとって貴重な情報源となっています。またテレビでも乳幼児の親を対象とした視聴者参加型の番組を放映しています。これらの子育に関する情報は、親が抱えている悩みを緩和させる効果がある一方、子育て体験談が多く含まれていることから、必ずしも正しい育児情報とは限らないことも指摘されています。さらに21世紀に入って急速に普及したインターネットの登場により、親は情報を受け取るだけではなく、自らも発信して双方向コミュニケーションを行えるようになりました。このように、多様な媒体から多くの情報が発信されていることから、良くも悪くもメディアから様々な影響を受けている親が存在すると考えられます。
【研究の目的】
このような背景を踏まえ、本研究では子育てに関する情報をめぐり、メディアと親の間でどのような相互作用が起こり、それによって親のどの部分が変容するのかを明らかにします。
【研究の方法】
親への調査から、子育ての現場で機能するメディアについて内容分析を行ったり、問題点・課題などを明らかにしたいと考えています。まだまだ未定な内容ばかりですので、具体的な研究方法についてはこれから検討していく予定です。
【今後に向けて】
今後の課題としては、親が親となる過程で、メディアを含めた子育ての情報がどのように関わってきたのかを調べていきたいと考えています。
研究目的や研究方法など分からないことは数多くありますが、日々精進しながら形にしていきたいと思っております。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
M1 河田承子
2011.04.25
皆様こんにちは。
【今年の研究計画】シリーズ、今週は修士2年になりました、土居が担当します。
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【研究テーマ】
動画共有サイトの投稿者の編集と素材選択能力獲得に関する研究
【背景】
近年,動画共有サイト「YouTube」などユーザーが作るコンテンツUGC:User-Generated Content)が普及を遂げています。簡易化する編集ツールが映像制作のハードルを下げる手法として期待されるが良い作品を作るには題材にあう素材を選ぶ力,構成力,演出力が必要だと言われています。(安田2008)UGCに関する研究は多いものの、一般ユーザー(特に作品評価が高いもの)の映像編集(素材を選んで意図的な順番で並べる)能力について評価したものやその能力獲得の条件、過程についての研究は見当たたりません。映像を作ってネット上に投稿するサービスは様々なものがありますが、映像リテラシーの向上を目的とし、「映像の選択」と「編集」に焦点をあてた「NHKクリエイティブライブラリー」というものがあります。
【目的】
NHKクリエイティブライブラリーを使って映像を作り、投稿したユーザークリエイターのメディアリテラシーのうち、映像リテラシー(特に表現能力に焦点をあて、素材探しと編集能力)をはかるとともに、それらの能力が高く、作品の評価が高い者がどういったインフォーマルラーニングをふみ、どういった意識のもと映像作りをしているのか等そのバックグラウンドを探ることです。
【課題】
一番の課題としては作品を評価する評価軸と、映像リテラシー特に表現能力に焦点をあて、素材探しと編集能力)をはかるための評価軸をクリアにすることです。
今のところ、Dogan, B (2009) によるDigital Storyteling評価尺度をベースに作品を評価し、高野(2004)によるVisual Literacy学習目標構造図、そしてHerry Jenkins(2009)による新しいメディアリテラシーをベースに具体的な評価項目を作成して質問紙、インタビューに使える様検討していこうと考えております。
【今後にむけて】
NHKクリエイティブライブラリーを使ったワークショップを毎月開催しています。その中で人々がどのように編集していくのかといった過程を見ることも映像リテラシーの評価尺度を具体化していくことに繋がると考えています。
自身の研究が映像文化の向上に繋がる様、今後も努力してまいりたいと思いますので、今年度も宜しくお願い致します。
M2 土居由布子
2011.04.15
みなさま,こんにちは。
【今年の研究計画】シリーズ,今週はM2の柴田アドリアーナが担当いたします。
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研究テーマ
「在日ブラジル人児童のための日本語学習教材の開発」
研究の背景
在日ブラジル人児童の現在 - 近年、日本に居住する外国人の子どもに対する教育問題が浮上しています。その外国人の中でブラジル人の割合はかなり高いです。文部科学省の調査によると日本語指導が必要な外国人児童生徒数を母語別で見ると、ポルトガル語が最も多いです。さらには、日本にいても、帰国しても不適応な状態で不就学の問題も大きくなっています。不就学の理由の一つとして、「日本語の難しさ」があげられています。
本研究はポルトガル語がメインで、日本のブラジル人学校で勉強している小学校一年生のブラジル人児童を対象としています。今までに作られてきた日本語教材はブラジル児童の文化と日本の文化の違いを前提とした日本語学習教材は作られていない。
研究の目的
本研究では、在日ブラジル人の子どもに異文化への気付きを生かした日本語学習教材を提案し、子どもが母国の文化と日本の文化の違いを理解した上で、言葉の意味を学べるようにするにしたい。そのためにブラジル人児童の日常的シーンからブラジルの文化と日本の文化の違いを踏まえて日本語を学べる教材を開発することが目的です。
研究の課題
先行研究によると在日した子どもは日本社会での生活を通して、複言語・複文化主義から新しいコミュニケーションの能力を作り上げる。そのためには日本社会に参加するために必要な日本語を学ぶ機会を保障することが必要だといわれています。
また、Cumminsの「二言語相互依存の原則」では、高度な認知的活動に必要な能力は2つの言語の間で共有されていると示し、母語保持教育•継承語教育の必要性に理論的根拠を与えています。
本研究で提案したいのは:
「イメージ」「音」「モーション」を組み合わせるデジタルな日本語教材。
→ 在日ブラジル人の子どもの生活を通して、日常的なシーンから日本語の使いやすい場面の例を上げる。
→ そこで、言葉の意味や文化的要素を説明していく・・・まずは簡単な挨拶から!
→ ストーリーを通して、デジタル教材のインタラクティブ性を楽しく探る。
今後の課題
まだはっきりとしない部分が多くあります・・・
まずは、デザイン原理をクリアに整理して、実現方法を具体化する必要があります。これを達成すると評価方法、分析方法を含めて次のステップへ進みます。
最初から子どもを対象にした一つの理由は「楽しい教材を作りたい!」でした。いろいろな面で日本とブラジルの絆を深まり、教育的に価値のあるものを作っていけたらと思います。
これからも頑張って研究を進めていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
[柴田アドリアーナ]
2011.04.09
みなさま、こんにちは。修士2年の菊池裕史です。
今年度も昨年度と同様に【あるテーマ】を設定し、そのテーマに沿って研究室のメンバーが順番に記事を書いていく形式でblogの更新を行っていきます。第1回目のテーマは例年通り【今年の研究計画】です。各学生が現時点で考えている研究計画をご紹介いたします。
研究テーマ
「小学生のデジタル英語学習教材使用時における親のフィードバックに関する研究」
研究の背景
既にご存じの方も多いと思われますが、小学校学習指導要領の改訂が2008年に告示され、公立小学校に「外国語活動」科目が新設されることになりました。小学校「外国語活動」の目標にはコミュニケーション能力の素地を養うことが明記されています。
また、第二言語習得の分野において、様々なICTを活用した研究・実践が行われています。たとえばマルチメディア教材を含むデジタル教材を利用した研究や、携帯電話やスマートフォンといったモバイル機器を利用した研究などが挙げられます。また、今後情報化が進むに連れ、多様なデジタル教材を利用した、家庭での英語学習の機会が増えることも予想されます。そのような家庭学習の場では、教材を利用して英語学習を行う子どもを支援する立場としての親の役割が重要になってくることが考えられます。
研究の着眼点
このような背景を踏まえ、本研究では家庭学習の場における親のフィードバックに注目します。今までに行われたフィードバックに着目した研究としては、授業の場面で教師が児童に行うフィードバックを観察した研究などがありますが、それらの研究は当然教師と児童という一対多の関係の中で行われるフィードバックに着目した研究となります。親と子という一対一の関係の中で行われているフィードバックに注目している研究は数多くありません。
研究の目的
そこで本研究では、児童がデジタル教材を利用して英語学習を行う場面での親のフィードバックを観察し、そこで行われる親のフィードバックの傾向を明らかにしたいと考えています。また、それらのフィードバックが子どもの情意面に与える影響を明らかにしたいと考えています。
研究の方法
親子でデジタル教材を利用して英語学習を行う際の発話や行為を(ほとんど介入無しで)観察したいと考えています。また、子どもと親の両方に対して質問紙調査を行う予定です。具体的な調査対象やスケジュールについては現在検討中です。
今後に向けて
まだまだ研究方法や期待される結果には不明瞭なところが数多くありますが、一歩一歩着実に研究を進め、子どもの英語学習のために貢献できるような、価値ある研究にしていきたいと思います。
今年度も引き続き、よろしくお願いいたします。
2011.04.05
東日本大震災および福島第一原子力発電所事故に関して様々な情報があふれています。多くの人が奔流のような情報に流されないようにしたいと願っているのではないでしょうか。
2003年に「デジタル社会のリテラシー」という本を書きました。その中では、情報を評価することを重視したリテラシーとして、情報リテラシーとメディアリテラシーをとりあげています。
情報リテラシーでは、情報の出所を確認することや情報発信者の信頼性を評価することが重視されています。また、メディアリテラシーでは、発信者のおかれた社会的状況と発信内容の関係を批判的に読み解く必要性が主張されてきました。
今回のような状況でも、これらの考え方は有用性を失っていません。ただ、情報の流れが速くなってきたために、情報を吟味する時間が少なくなっていることを危惧しています。Twitterで公式RTができるようになってから、その傾向が加速しているように思います。
RTする前に発言者の名前で検索し、発信者が今までどのような立場にたって何を主張してきたのかを調べるだけでも、情報を吟味することにつながります。その際に重要なのは、その情報が嘘か本当かという二分法を捨てることです。この二分法は往々にして思考停止を招きます。ほとんどの情報は、嘘と本当の間にある「発言者にとっての真実」を反映しており、それを読み解くことが情報の評価の要だからです。
RTする前に発言者の名前で検索する文化を広めてください。過去の言動は情報を評価する鍵になります。
[山内 祐平]
2011.04.04
皆様、こんにちは。博士課程2年の大城明緒です。
まず初めに、この度の東日本大震災により被災された多くの方々に対し、心よりお見舞いを申し上げます。一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
新年度も始まりましたが、山内研のメンバーがそれぞれの目線で4月からの1年間を振り返るシリーズ【1年間を振り返る】最終回をお送りいたします。
■英語の授業と学会発表
2010年度は、博士課程に進学して最初の1年でした。印象に残っているのは、英語でのプレゼンテーションの仕方、論文の書き方を学ぶ、博士課程向けの授業(Academic Communication in EnglishとAcademic Writing Exercise)です。
学術的なコミュニケーションにふさわしい語彙や表現を選びながら、緻密に論理展開を組み立てて話す・書くということは、英語に限らず、日本語の場合でも十分注意する必要があることを感じました。また、昨年12月には初めて国際会議で口頭発表を行いました(発表論文)。
■予備実験と足踏み
博士課程では、修士研究とは違った切り口でのバックチャネルの授業活用を研究しようとしているのですが、なかなかこれがうまくいきません。ゼミの皆様や先生方に相談に乗っていただきながら、何度か予備実験の形でlinoやTwitterを使った映像講義の受講方法を検証していますが、研究の次の段階に進めるような方法をまだ見つけられていません。
誰に、どんな学習者であって欲しいのか。その根本的な目的と目標を明確にしない限り、前に進めないことを感じて悩んでいます。
■2011年3月11日
そんな中、本郷キャンパスで3月11日の地震を経験しました。生まれて初めて体験する大きさの揺れでした。そして、「大きな地震だった。怖かった。」と思いながらも、後からそのように振り返ることができて、怪我もなく無事に生きていられることは、本当に幸せなことだと思いました。
あの一瞬で命を奪われてしまった方がどれだけいたことか、命を奪われてしまった方の家族や友人が今どんな思いでいるのかを思うと、目の前が真っ暗になって頭がパンクしそうになります。どんなに想像したとしても、自分ではその悲しみや怒りを到底理解することはできないと思うとまた悲しくなります。
今、自分は直接的な形で被災されている方の支援に関わることはできませんが、今までしてきたことやこれからすべきことに淡々と取り組むしかないのだと思います。
そして、色々な場所で「支援」という言葉を耳にするたびに、それは「誰に向けての、何のための、どんな支援なのか?」という疑問が頭をよぎります。それは自分にも返って来る言葉でもあります。
それは、誰に向けての、何のための、どんな研究なのか?
引き続き淡々と、しかし以前よりも覚悟を持って研究に取り組まなければと感じています。
【大城 明緒】
2011.04.01
みなさん、こんにちは。
4月よりD2になる池尻良平です。
この度の東北地方太平洋地震や原発事故の影響で被災された皆様に、早く平穏な日々が戻ることを強く願っております。私自身、日常を取り戻す意味でもこの1年を振り返り、今後に向けての1歩にしたいと思います。
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博士課程に進学した当時、山内先生に強くアドバイスいただいたことが2つありました。それは、「研究を進める上での仲間を作ること」と「教師を体験すること」の2つでした。ちょっと長くなりますが、今回はこの2つを振り返りたいと思います。
(1)研究を進める上での仲間を作ること
この1年で3つの勉強会を開催し、その分野の知見だけでなく皆で勉強を進めていくノウハウもたくさん学びました。1つずつ簡単に紹介していきます。
【HAL勉強会】
この勉強会はアクティブな歴史学習(Historical Active Learning)を勉強する会です。2009年の秋から1つ下の学年の帯刀さんと2人でスタートし、現在で第4期目を終えています。詳細は帯刀さんが以前に【私の学びの場 Historical Active Learning】できれいにまとめてくれているので上のリンクからご参照下さい。
僕が山内研に入ったばかりの頃は周りに歴史学習を研究している方はおらず、ちょっと寂しく思いつつも一人で歴史学習の文献を読み進めていました。その後、後輩の帯刀さんが入学し、1年間は2人で勉強会を進めました。最初の方は手探りながらも、主に海外の歴史学習に関するレビュー論文を読んだり、海外の特定の学会誌を10年分読んだりし、「あぁ、同じ専門の仲間がいるとお互いにチェックしながら文献を読めるし、知識も倍のスピードで増えていくし、良いことづくめだなぁ」としみじみ思いました。帯刀さんには心から感謝しています。
また4月からは、新M1の末さんや他大学で歴史学を専攻し、社会科の教員を目指している新M1の方2人、それから僕の4人が中心になって第5期目のHAL勉強会を開催する予定です。今後もどんどん歴史学習の輪を広げていけたらいいなと思っています。
【DST勉強会】
この勉強会は、Digital Story Tellingについて勉強する会です。2010年の冬からスタートし、主に山内研の先輩の佐藤さんがデジタル・ストーリーテリングの最新の動向をレビューし、僕が理論的な面からストーリーテリングの学習効果についてレビューを行っていました。
この勉強会でとても面白かったのは、山内研周りの約10名の研究者が興味を持ってくださったことです。その結果、第二言語学習、組織学習、歴史学習、家庭内学習、ゲーム学習、CSCLなど色々な研究分野において、ストーリーテリングはどんな教育的効果をもたらせるのかを発表してもらうことが可能になり、デジタル・ストーリーテリングの各教育分野の利用可能性を具体的に掘り下げて議論できました。
直接的には僕の研究分野ではないものの、カラーの違う研究者が一同に集まって一つの分野を勉強することで、その分野の可能性を多面的・具体的に理解できたり、思いもよらず自分の研究へのヒントになったりするなど、色々な人を呼び込んで研究を進めていくことのパワーを感じました。
【Game-based-Learning勉強会】
この勉強会は心理学的な立場からゲ―ムの学習利用を考える会です。2010年の夏頃から中原研の福山くんと2人でスタートし、最初のうちはゲームと学習についての海外の論文を調べるところから始まりました。現在はゲーム学習を研究している浅見さんという方を加え、3人で進めている勉強会です。
最初こそ論文のレビューに徹していましたが、この分野はまだあまり知見が蓄積されていないことがわかり、2人でゲームならではの効果は何かを議論したり、実際に友達を呼んで実験をして仮説を確かめることへ活動がシフトしていきました。また、もっと教育へのゲーム利用の裾野を広げようということで「Game Learning ???」というワークショップを開催することを決め、2011年2月下旬に約20名の方と環境教育におけるゲームの導入効果を考える「Game Learning Eco」というワークショップも開きました。詳細は、上のリンクからご覧下さい。
この勉強会の面白い点は、他の2つの勉強会と違って「行動すること」を重視した勉強会に成長したことです。毎回刺激あふれる議論をし、仮説ができれば実験して確かめ、ゲームと学習について興味のある方へどんどん発信していく。この勉強会ではそんなアカデミックな空気感を生み出せ、それを味わえるという貴重な体験ができました。ちなみにこの勉強会も来期以降継続し、ワークショプを続けていくことが決まっています。
山内先生にアドバイスされた「研究を進める上での仲間を作ること」がこれらに該当するかはわかりません。もっと歴史学習系の仲間を増やさないといけないなぁとも感じています。新年度以降はもっとアクティブに行動し、生涯を通してアカデミックな実践・議論を共有できるような仲間を作っていきたいと思っています。
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(2)教師を体験すること
もう1つの山内先生との約束は、博士課程の間に「教師を体験すること」でした。僕の専門が高校生を対象にした歴史学習であること、それから元々教師になろうと思っていたことも考えると、僕自身ぜひ教壇に立ちたいなと思っていました。
山内研の先輩である森さんのご紹介で、ここ2年間継続的に学芸大附属高校に授業見学に伺っていたのですが、(詳細は以前書いた【私の学びの場 高校という文化】のブログをご覧下さい)、お世話になっていた先生が一時的に休職されるということで2011年1月から3月の間に非常勤講師をしてみないかというお話をいただき、「何て嬉しいお話だろう」と思い、すぐにお引き受けすることにしました。
ところが見るのとやるのでは大違い。研究で習ったことが役立つ面もあれば、思ったより役に立たないこともあったり、今まで教師目線で考えていたつもりが、実は全然その目線になってなかったり、何より実際に教壇に立つことの難しさと喜びを体験できました。この体験を最大限吸収しようと毎回授業後にリフレクションを行いました。トゥギャッターにまとめましたので、詳細はこちらからご覧下さい。
3ヶ月と短期間ではあったものの、実際に教師をして得たことが3つあります。
1つ目は、生徒の顔を思い浮かべながら研究に取り組めるようになったこと。
2つ目は、自分の研究と高校教育の融合ポイントを発見できたこと。
3つ目は、もっと教師を体験しないと自分の研究は独りよがりになると気付けたこと。
自分はなぜ研究をしているのか、誰のために研究をしているのか、どうやったら社会的・文化的に受け入れられるようになるのか。非常勤を通して、この先の長い研究者人生に向けての1つの信念基盤を築くことができました。非常勤のチャンスを与えてくれた先生、並びに教師を体験することをアドバイスしてくれた山内先生に感謝致します。
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ちなみに今年度は山内先生に「海外に出ること」を強く薦められています。僕自身、日本の中だけで研究を発信することにもったいなさを感じたり、海外の歴史学習の動向や授業の様子などもっと広く見聞を深めないといけないと痛感してきています。
今年度の山内先生との約束もきっちり守り、また1つステップアップしたいと思っています。(もし守れなければ、エイプリルフールネタということでご勘弁下さい苦笑)
[池尻 良平]
2011.03.29
UP4月号(東京大学出版会・第40巻第4号)の「東大教師が新入生にすすめる本」に4冊の本を推薦させていただきました。編集部より許可をいただきましたので、転載します。
① 私の読書から――印象に残っている本
『凡才の集団は孤高の天才に勝る』キース・ソーヤー/金子宣子訳(ダイヤモンド社、二〇〇九)
我々は孤高の天才に宿る神秘的なアイデアが世界を一変させるというイメージに惹かれている。しかし、創造性とイノベーションの科学的分析を専門とするソーヤーは、画期的な変化を生み出すのは孤高の天才ではなく、集団ゆえに生まれる天才的発想「グループ・ジーニアス」であると主張する。情報革命によって人々のつながりが世界を変えつつある時代をとらえる上で、重要な示唆を与える一冊である。
② これだけは読んでおこう――研究者の立場から
『未来の学びをデザインする』美馬のゆり・山内祐平共著(東京大学出版会、二〇〇五)
情報化社会では、ワークショップや学習コミュニティなど、学校教育以外の学びの場が増えてきている。学習環境をどうデザインすれば、人々の学びを支援することができるのか、教育工学や学習科学の知見から検討した入門書である。
③ 私がすすめる東京大学出版会の本
『理解とはなにか』佐伯胖編(東京大学出版会、一九八五)
学習について考える上で最も本質的な「理解とは何か」という問いに対する格闘をまとめた本である。二十五年前の議論であるにもかかわらず、本質を見つめる視座はみずみずしさを失っていない。三章「理解におけるインターラクションとは何か」は、情報技術を用いた協調学習について考える際に必読である。
④ 私の著書(近刊も含む)
『デジタル教材の教育学』山内祐平編(東京大学出版会、二〇一〇)
オンライン上の学習が広まるなか、デジタル教材に何が求められているのか。これまでのデジタル教材の歴史と思想を辿り、近年における活用の動向も考察。さらに設計・評価の実際を教育学の観点を背景にして解説している。
[山内 祐平]