2011.05.02

【原稿掲載】仕事をより面白くするオフィス

京都工芸繊維大学 新世代オフィス研究センターから出版予定のNEOBOOK3に「仕事をより面白くするオフィス」というテーマで執筆しました。許可をいただきましたのでブログに転載します。

(1.あなたにとって「仕事が面白い」とはどういうことか 2.「仕事を面白くする」ためにはどうすればよいか を1000字程度でコラム風に書くという指示で執筆)

発見があるから仕事は面白い
「面白い」というのは個人的な感覚なので人によって違うのだろうが、研究者には「発見」におもしろさを感じる人が多いように思う。
発見は中世から使われている言葉だが、もともとはハツゲンと読み、見えないものが見えるようになるという意味で使われてきた。現在のように、今までにないものを見つけるという意味で使われるようになったのは明治時代以降であり、翻訳の中で生まれた用法である。
研究者は新しいことを生み出すことを生業にしているが、画期的な業績を出すのはごく一部の人であり、普通の研究者でも発見を論文として発表するのは年に数回である。ただ、それ以外はつまらない日々なのかといえば、そんなことはない。昔の人はこんなことを考えていたのかという発見もあれば、現場に出て自分の仮説と全く違う要因を発見することもある。学生の成長を発見することもあれば、自分自身の至らなさを発見することもある。見えないことが見えるようになるという意味では、毎日が発見の連続なのである。

発見を楽しむ文化を醸成する
研究職というのは、今はやりの言葉でいうとイノベーションを常に求められる仕事である。イノベーションというと多様な人々が集まって今までにない画期的なアイデアを生み出すことを想像するが、その前に考えておくべき大事なことがあるように思う。
MIT(マサチューセッツ工科大学)には夕方から開く教員向けのバーがある。ここでは専門領域が違う研究者が集い、日々の気づきを報告し合って談笑する光景が繰り広げられている。ほとんどはたわいのない話だが、重要なのは内容よりも発見そのものを楽しんでいることである。
発見を楽しむ文化から、異質な気づきの交差と集積が生まれるのだろう。そのような「ため」がないままイノベーションを人為的に起こそうとしても長続きしない。
新しいことを生み出し続けている組織の空間にはそれぞれに独特の雰囲気がある。その雰囲気は、日々の発見を楽しむ営みの積み重ねから生まれているのだろう。

山内 祐平(東京大学 准教授・学習環境デザイン論)

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