2013.04.21
みなさん,こんにちは.M2の吉川遼です.
先日,構想発表会にてM1に向け自身の研究計画をプレゼンしたり,後輩に研究室の業務を引き継いだり,...と4月の様々な出来事を通して自身がM2になったことを実感すると同時に,残り1年を切った修士生活と静かに迫り来る修論執筆に対して,残り少ない日々のよい過ごし方を考える毎日です.
さて,今回は「今年の研究計画」第3回ということで今年度自身が取り組む研究の大まかな内容についてご紹介させて頂こうと思います.
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楽器演奏の熟達化を促すゴースト表示システムの開発
■背景
ギター演奏の熟達化においては,専門家の指導を受けることなく独学でのギター演奏の習得形態が選択されやすい(数森ほか 2010),初心者より演奏経験の多い初級者においても楽曲の分析において楽譜上に明示された特徴の把握に留まる(大浦 1999)といった問題があるが,通常,演奏者は,楽曲を分析し,作曲者の意図を読み取った上で,自分自身の意図を加えて演奏を行い,このような芸術的逸脱は芸術的かつ多様な演奏にとっては不可欠なもの(山崎 2007)とされている.
しかしながら,熟達化においては,模倣のみでは熟練者の見た目の動きがどのような過程を経て生まれたものであるのかを把握するのは困難(伊東ほか 2009),世界観など,暗黙的な要素を習得することが重要(佐藤ほか 2009),自身のパフォーマンスや理解に対し違和感を覚えることが必要(北村ほか 2005)とされている.
上記の問題に対し,現実世界への働きかけに対するより多くのフィードバックが得られる拡張現実感技術を用いた学習支援(杉本 2008)により,自身と熟達者とのパフォーマンスの差異がフィードバックで獲得できるものと考えられる.
このような差異を示すにあたり,「ゴースト」と呼ばれる提示手法(Yang et al., 2002)が考えられるが,学習者が自身の身体動作に半透明や色彩がスワップされた形の指導者の身体動作を模倣する形で学習をおこなう形式においては一定レベルまでの到達は早いものの,ゴーストがない状態とほぼ同じ程度までしか到達できない問題点も指摘されている(高橋ほか 2004).
熟達における問題点や楽器演奏熟達者の特性を考慮し,
1. プロセスにおける熟達者の暗黙知的要素の提示
2. ARによる視覚的フィードバックによる差異の提示
3. 演奏者の一人称視点からの手本提示
の3点が楽器演奏支援においては必要な要素だと考えられる.
しかしながら,楽器演奏支援の先行研究(元川ほか 2006,樋川ほか 2006,楊ほか 2012,など)においてはこれらの要素が考慮されていない.
■目的
初級者を対象に,自身の演奏を形成するための教示として熟達者の所作を一人称視点からゴーストで表示し,自身のつまづきや疑問点を熟達者の語りで補完するゴースト表示システムを開発することで,初級者の演奏における芸術的逸脱の達成を支援し,演奏技能熟達化を目指す.
■システムの設計
熟達者の運指映像を輪郭抽出,透過率50%等によって可視化,ヘッドマウントディスプレイを用いて重畳表示を行う.また,熟達者がどの点に気を付けて演奏しているか等,演奏における熟達者の意図をパート毎に提示する.
■実験手法
初級者10名程度に対し,システムを用いた演奏練習を一定期間実施する.
■評価手法
事前質問として曲に対する意識や普段の演奏時の意識を,事後質問として知ったことにより,どのような演奏を心がけるようになったか,作曲者や自身の意図を反映した演奏ができるようになったか,等の項目についてインタビューを行い,演奏観の変化を発話から分析する.
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このようにして見てみると,「博物館で背景情報を使って学習支援する,という話はどこに行ったのか?」と1年前と比べてみて感じるのですが,この1年間様々な分野における「背景情報」に当たり,その中で「熟達者の動作」における「身体知」とその動作を可能としている「暗黙知」が,普段単純に模倣するだけでは学べない「背景」なのではないか,と考え,今の研究に至りました.
まだまだこの先開発や実験,分析,そして論文執筆と自分が取り組むべき課題は山積していますが,一つ一つ目の前にあるものに対し全力に,丁寧に取り組んでいきたいと思います.
【吉川遼】
2013.04.16
初等教育資料4月号 に執筆した「未来に備えるための学習」について、編集部および文部科学省のご好意によって公開いたします。(この原稿は、教育とICTオンラインに連載した「10年後の教室」に加筆修正したものです。)
未来に備えるための学習:21世紀型スキルと専門技能の連続的習得
小学生の65%が今はない職業につく
一昨年、デューク大学教授であるデビッドソン氏がニューヨークタイムズのインタビューで語った予測が大きな波紋を呼んだ。「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今存在していない職業につくだろう」というのである。
情報化が進むにしたがって、我々の働き方は大きく変わってきている。10年前には情報セキュリティマネージャーやソーシャルメディアコーディネータという職業はなかった。企業がイノベーションを進める度に、業態の変化によって新しい職業が生まれ、既存の専門職を置き換えつつある。
65%という数字はアメリカを対象とした予測であり、日本でも同じようになるかどうかはわからない。ただ、国際化が進む世界では一つの国で起こった変化が瞬く間に広がる。私自身は、雇用の前提となる専門性の変化は常態化し、職業が安定した存在ではなくなるだろうと考えている。
現在の教育は19世紀末から基本的な構造が変わっていない。大学で専門家を養成することを頂点とし、必要な知識や技能を段階的に小学校から積み上げていくという仕組みである。このシステムは微修正を積み重ねながら、100年以上有効に機能してきた。しかし、今後職業が安定したものでなくなるとすれば、教育システムは大きな変化をせまられることになる。
21世紀型スキル
21世紀型スキルは、このような社会の変化を背景に、21世紀に生きていく子どもたちに必要な一般的能力を整理したものである。ここではATC21S (The Assessment and Teaching of 21st-Century Skills)の定義を紹介したい。この団体は21世紀型スキルの普及と教育改革のために作られた国際組織であり、アメリカやオーストラリアなど6カ国の政府と大学・産業界が協力して活動している。
ATC21Sによる21世紀型スキル
• 思考の方法 創造性、批判的思考、問題解決、意志決定と学習
• 仕事の方法 コミュニケーションと協働
• 仕事の道具 情報通信技術 (ICT) と情報リテラシー
• 世界で暮らすための技能 市民性, 生活と職業, 個人的および社会的責任
思考の方法
知的生産を行う労働者が行う高度な思考に必要な能力である。批判的思考や問題解決能力については従来から学校の教育目標に取り入れられてきたが、創造性や意志決定、自己学習能力やメタ認知などは、イノベーションに必要な技能として最近重要視されるようになってきている。
仕事の方法
知的生産を行う労働者が仕事をするために利用する技能である。コミュニケーション能力は、母国語と外国語で話し言葉・書き言葉を問わず意思疎通ができることであり、協働はチームでプロジェクトを遂行していくための技能である。
仕事の道具
知的生産のために道具として利用する情報通信技術に関する知識や能力である。情報にアクセスしその価値を評価するための情報リテラシーと、技術やメディアを知り操作できるICTリテラシーが含まれる。
世界で暮らすための技能
世界のどの国に住んでも民主的社会を担う市民として暮らしていくための能力である。多様な文化の尊重や他者との共生を基盤としながら地域社会の中で役割を果たしていくための様々な技能があげられている。
これらの能力定義から透けて見えるのは、国境を越えて活躍するビジネスマンやNGO関係者の姿である。ICTを活用しながら高度な思考をフルに発揮し、世界の課題をイノベーションによって解決していく「グローバルでタフな」人材に必要な能力だと言ってもよいだろう。
21世紀型スキルは、不透明な時代を生きていくために必要な能力として提唱されているが、未来への備えとして考えると、それだけで十分とはいえないだろう。ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授は、書籍「ワークシフト」の中で「専門技能の連続的習得」という言葉を使い、変化の激しい社会では専門性が学習によって常に最新の状況に保たれている必要があり、専門分野を超えた人的ネットワークを構築し、自分自身で複数の専門技能を身につける必要があることについて言及している。
一つの専門性を獲得するだけでも大変なのに、それを更新し続け、さらに複数の専門技能を身につけるのは高い目標といわざるをえない。このような高次元の専門性の学習をささえるのが、21世紀型スキルのような、高度かつ転移可能な一般能力という関係になるのだろう。いずれにせよ、今後求められる知識や技能は飛躍的に高度化することになる。現在でも教育内容に対して時間が不足していることが問題になっていることを考えると、何らかの抜本的な対策が必要になってくるだろう。その一つの方法が「反転授業」である。
「講義」が宿題になる-反転授業
スタンフォード大学医学部教授であるプローバー氏は、「講義のない教室」と題された論考の中で、限られた授業時間を活用するためにテクノロジーを利用した学習の方法を検討している。それは、講義の内容を10分から15分の映像にまとめて自宅や講義の空き時間に視聴できるようにし、授業では患者の臨床事例や生理学的知識の応用を中心とした対話型の活動を行うというものである。この方法を導入した生化学の授業では学生評価が大幅に向上し、出席率も30%から80%に増加したという。
このような、説明型の講義をオンライン教材化して宿題にし、従来宿題であった応用課題を教室で対話的に学ぶ授業は、「反転授業 (Flipped Classroom)」と呼ばれ、数年前から米国の小・中・高等学校を中心に広がり始めている。
カーンアカデミー
反転授業を成立させるためには、宿題として学習効果が見込めるオンライン教材が必要になる。教師が自作する例も多いが、技術の進歩により教材制作が簡単になったとはいえ、時間が必要であるため、導入に二の足を踏む教員も多かった。
このような教員に利用され、反転授業の普及を支えてきたのが、カーンアカデミーである。カーンアカデミーは小学校から高等学校まで様々な教科に対応したショートクリップが用意されている教育サイトであり、3,200を越える映像を無料で利用することができる。
もともとカーンアカデミーは、創立者であるサルマン・カーン氏が遠隔地にいる親戚の子どものために作った映像をYouTubeに公開したことから始まった。そのわかりやすさが反響を呼び、学校でも利用されるようになったのである。
非営利団体として活動を展開するカーンアカデミーは、教育映像だけではなく、生徒の学習状況をモニターできる教師向けツールキットの提供も始めている。このツールキットを使うと、学習の進度を把握できるため、反転授業の際に学習につまずいた生徒とうまくいっている生徒をペアにして教えてもらうといった対応が可能になる。
学習時間の確保
私は「反転授業」を10年後の教室で主流になりうる学習スタイルだと考えている。その最大の理由は、実質的な学習時間が増えるからである。
2009年に米国教育省から出されたオンライン学習に関する報告書には、オンライン学習と対面学習の学習効果について興味深い研究知見が書かれている。
・対面状況よりも、一部または全てオンライン学習を受講した学生の方が成績が高い。
・オンラインと対面を組み合わせた教授は、対面だけ、オンラインだけよりも効果が高い。
・オンラインが対面よりも効果が高い理由は、学習時間が増えたからである。
・効果は学習内容や学習者の特性に依存しない。
つまり、反転授業のような対面とオンラインを組み合わせた形態は最善の方法であり、宿題になるオンライン学習は学習時間を増やすことによる学習効果が見込めるのである。
反転授業が教室で取り扱う応用的な課題は「21世紀型スキル」とも関係する高次の思考能力を育成する活動である。このような活動が普及しなかった最大の理由は「時間がない」ためであった。限られた授業時間に応用的な活動を導入すると、基礎知識を習得する時間が足りなくなってしまうのである。このことが「知識習得」と「思考能力」のどちらが大事かという論争の原因になっている。
実際には、知識に基づかない高次思考能力は存在しないし、応用できない知識は無意味である。「知識習得」と「思考能力の獲得」を両立させるためには、学習時間を延ばすしかないが、学校の時間はもはや隙間なく埋まっている。この難問を解く鍵になるのが、授業と自宅学習の連続化による学習時間の確保と学習目標に合わせた時間の再配置なのである。
世界最良の授業はウェブから来る
反転授業がICTを利用してより21世紀型スキルを含むより高度な能力を学ぶための方法であるとすれば、専門技能の連続的習得を支えるのは大学の授業のオンライン化である。
2010年8月に、ビルゲイツはTechnomy会議において「今から5年以内に世界で最も優れた授業はウェブから無料で手に入るようになるだろう」と述べ、今後大学レベルの高度な知識習得においてウェブが重要な役割を果たすことを予言している。
ウェブなどの情報通信技術を利用して、学校という制度的な壁を越え、教育に関する資源を誰にでもアクセスできるようにしようという考えは、「オープン教育(Open Education)」と呼ばれ、2000年代から活発になってきた動きである。
MITが始めたオープンコースウェア(OCW)など、急速に進んだ教育コンテンツの公開は、オープン教材(Open Educational Resources)と呼ばれる誰でも利用できる公共財を生み出した。
現在このような流れを受け継ぎ、無料で誰でも受講できるオンライン教育サービスであるMOOC(Massive Open Online Course:大規模公開オンライン講座)が登場している。
Courseraは、スタンフォード大学の2人の教授が2012年春に立ち上げたMOOCプラットフォームであり、授業が世界各国の一流大学から集められている点に特徴がある。プリンストン大、スタンフォード大、ミシガン大、ペンシルベニア大、カリフォルニア大などの講義が登録されており、単一大学では提供できない教育サービスになっている。2013年2月現在で260万人を超える登録者が世界各国から集まっており、1講義あたり数万人が受講している。CourseraをはじめとするMOOCのサービスでは、講義映像を見た後で問題演習を行い、自動採点テストで学習状況の確認が行われ、履修証も発行される。
オンライン講座そのものは無料で受講できるが、履修証を30ドルから100ドルで販売し、良い成績をとった学生を企業に斡旋することによって収入を得るビジネスモデルになっている。
従来、専門的技能を更新するためには、高い授業料を払って大学や大学院に入学する必要があったが、高等教育にかけるコストと得られる能力のバランスの悪さが問題になっていた、MOOCのような低コストのオンライン授業は、その隙間を埋め、より気軽に専門的技能を更新するための学習機会を提供することになるだろう。
【山内 祐平】
2013.04.12
こんにちは。4月よりM2となりました吉川久美子です。
今年度もどうぞよろしくお願いいたします。
「今年の研究計画」シリーズ、第2回目を担当させていただきます。
入学してから現在までの研究の変遷を振り返ると、本当に紆余曲折しながら進めて
きたと感じています。
それでも、改めて1年前の研究計画を見て驚いたのは、私の中で消えない強いこだわりが、無自覚的にずっとあったということです。
このこだわりを大事にしつつ、いよいよ論文執筆に入る今年度は、現時点で以下の
ように進めていきたいと考えています。
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【研究テーマ】
造形ワークショップにおける表現と鑑賞が相互に関連する効果的な学習方法の提案
【背景】
これまでの美術科教育は表現重視の傾向が強かったのですが、1988年に鑑賞重視傾向へと「転換期」を迎え(藤澤2008)、2008年になると、学習指導要領に「表現」と「鑑賞」の領域をつながりを持って指導するようにと「共通事項」が新設されました。美術館教育においても1980年代より、「みる」だけでなく「『つくる』『かたる』などの教育的配慮を積極的に打ち出すケースが多く見られる」ようになります(降旗 2008)。1998年になると、学校との連携を積極的に促され(藤澤2008)、美術科教育の動向も軽視できなくなってきました。
こうした動向より、鑑賞と表現が関連した学習方法の提案は、美術教育が直面している1つの課題だと言えます。しかし、両者をどのようにつなげれば、美術の本質的な学びが起きるのか、その方法は未だ模索中の段階と言えます。
【目的】
そこで本研究では、Dewey(1934)の表現と鑑賞の定義を借用しながら、美術
の学びとは、表現と鑑賞のサイクルの中で、ある対象に対して自分なりに新しい意
味生成を行うことであると捉え、研究を進めていきたいと思います。作品を媒介と
した表現と鑑賞のコミュニケーションが起こりやすいとされる造形ワークショップ
に着目し、学習者があるテーマに対し、自分にとっての新しい意味生成を行うこと
ができる支援方法を提案することを目的とします。
【研究方法・分析方法】
実際に本研究で提案する支援方法が組み込まれたワークショップと組み込まれて
いないワークショップを実践し、ワークショップ中の様子をビデオで記録し、制作
メモ等からデータを収集していく予定です。そして、両者間でどのような差異が見ら
れたかを比較検討していきたいと考えています。
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これまで、研究のアイディア等を検討していくために、さまざまな実践家の方々の
ワークショップを見学させていただき、お話をお伺いさせていただきました。
本当に感謝しております。
実践を通して(見学して)得たこと、文献レビューを通して得たこと、両者を
きちんと自分自身の中で整理しながら、まだまだ至らぬ点が多いこの研究を、
しっかりと育てていきたいと思います。
2013.04.05
こんにちは。M2になりました梶浦美咲です。
とうとう新年度に突入し、2日に新年度最初のイベントである研究構想発表会で研究発表をしてきました。
そこで新M1、新M2の方々から様々なありがたいご意見を頂きましたので、それを踏まえて今後更に研究計画を洗練させていこうと考えているところです。
さて、今年度最初のブログテーマは、例年通り【今年の研究計画】になりました。今週から各自の研究計画についてご紹介させて頂きます。
思い返すと、私の大学院入学当初の研究テーマは「メタ認知を促す学習計画の支援」でした。しかし、1年間の先行研究のレビューや学生へのインタビューなど通じて、テーマを変更することにしました。
その変更後の研究計画は以下の通りです。
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【研究テーマ】
初年次大学生のスタディスキル支援システムの開発研究
【研究背景】
18歳人口の50%以上が大学に進学するユニバーサル段階に突入(文部科学省 2004)している現在、大学生も多様化し、特に大学生の学力低下が問題視されるようになりました(山田 2007)。
実際は、そのような段階に入る以前から、大学生の学習技術不足は指摘されており、林(1981)、吉本ほか(2000)、安藤ほか(2000)によって、学習技術に関する質問紙(Study Skills Surveys, Brown 1965)を用いた、あらゆる大学生のスタディスキルの調査が行われてきました。その結果、「学習場面」「学習方法」「学習モチベーション」に関するあらゆる点で、学生たちは困難を抱えていることが分かっています。
そこで、私も実際に現在の初年次大学生がどのような困難を抱えているのか、首都圏の大学の初年次学生を対象としたインタビューを行いました。その結果、当初、学生は学習計画に困難を抱えている、と考えていたのですが、その学習計画以前に、授業に対するモチベーション、授業を聴いてノートを取る方法、レポートの書き方に困難を抱えている学生が多いことが分かってきました。
【研究目的】
そこで、本研究では、大学で学ぶ上で重要とされるスタディスキル(大学で「学ぶ」ための「聴く」「読む」「書く」「調べる」「整理する」「まとめる」「表現する」「伝える」「考える」の9つの力、学習技術研究会 2006)のうちの「レポートライティング」「ノートテイキング」「モチベーション」の3要素を支援するシステムを開発し、評価することを目的としました。
【研究方法(システム概要)】
具体的に、「レポートライティング」「ノートテイキング」支援は、授業動画を見ながら各スキルに必要なことを1つ1つ実際に行わせることで実現します。「モチベーション」支援は、各授業での気付きや面白いと思った点、考えたことを記入し、他者と交流するSNS機能を付与して行おうと考えています。
特に、各スキルに必要なことがなされる度にポイントを付与し、その過程を可視化する、ポイントに応じてバッジを与える、といったゲーミフィケーション的要素を加味することで、システム活用自体の意欲向上も目指します。
【評価方法】
大学1年生12名程度にこのシステムを使ってもらい、「レポートライティング」「ノートテイキング」「モチベーション」を測定する質問紙で事前・事後調査をします。そして、各スキルにどのような変化が見られるのかを確認しようと考えています。
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こちらはまだ現時点での研究計画であり、今後また少しずつ修正を加えていく予定です。
まずは、現在のシステム案を更に具体化していこうと考えています。
そして、最終的には、システムを開発し、評価実験を行い、結果を分析するところまでを行う予定です。
修士論文提出に向け、今年1年も頑張っていこうと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
【梶浦美咲】
2013.03.29
山内研究室のブログを書けるのもこれで最後になりました。D3の池尻良平です。
(3月に東京大学大学院学際情報学府を単位取得退学し、4月から同大学情報学環の特任助教を務めることになりました)
今回のブログテーマは【今年を振り返る】ですが、せっかくなので【博士課程を振り返る】に勝手に変更し、僕が博士課程に入ってからずっと意識していたことを書きたいと思います。
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僕は博士課程に上がると決心した時、不安に感じていたことが1つだけありました。それは「お金が稼げない」とか「人とのキャリアの足並みがずれる」とかではなく、「いつか研究者として枯れないか」という不安です。
例えば、いつまでも過去の栄光にしがみついて次第に重箱の隅をつつく研究者になったり、色んな領域に手を出して軸のぶれた研究者になったり、1年でできる目先の研究に追われて重厚な研究群を構築できない研究者になってしまうんじゃないかと不安に思っていました。
どんなに情熱に溢れ、素晴らしい博論を書いたとしても、それは大学院時代の5年間レベルの産物であって、偉大な研究者が残した何十年レベルの重みに比べたら比較にならないことは明白です。つまり、偉大な研究者になりたいなら、博士課程「後」に研究者として枯れないための方法を構築しておかないといけないと思ったのです。
そうやって山内研の博士課程で3年過ごしているうちに、ようやくその鍵らしきものが5つ見えてきたので、長くなりますが書きたいと思います。
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(1)積み立てる意識で研究群をまとめあげていく
これは博士論文の構造を考えている段階で一番強く感じたことです。僕の所属している研究室では、博論を書く際に少し特殊なスキルが必要になります。それは、大学院時代に行ったAとBの研究を水平的につなげたり、AからBに掘り下げていくイメージでつなげるのではなく、AとBの研究群を使って一段レイヤーが上の研究Cを作るスキルです。これが実はかなり難しく、大目的をブレイクダウンしてAとBの小研究を作るのですが、その小研究の結果の足し算以上の大結果を作ることが要求されているのです。演繹思考だけでも帰納思考だけでもない、この積み立てていくような特殊な思考で研究群をまとめあげていくことが、偉大な研究者になれるかどうかの1つの鍵になるんじゃないかと踏んでいます。
(2)20%は研究外のものに接して「特殊な視点」を身につける
これは博士課程2年の頃に感じていたことなのですが、実は自分の専門領域ど真ん中の先行研究レビューは、頑張れば院生時代に終えることができます。実際僕の場合、「歴史学習」や「歴史的思考力」に関する論文は国内外含めて200本くらい読みましたが、質の良い論文は大体押さえた印象があります。ところが、先行研究の全体像がわかっても、そこから出てくるリサーチ・クエスチョンが鋭くなるとは限りません。この原因は「視点の固定化」にあります。つまり、どれだけ論文を読んでも今までと同じような切り口しか見えなくなるという感覚です。こういった視点の固定化を防ぐ方法として、研究時間の20%は歴史学習や教育学以外の学問の本を読んだり、研究対象である歴史を学習している生徒の観察に行ったりしていました。実際、僕が次にやろうと思っている研究は系統学や文化人類学や高校生の生活スタイルについての話から色濃く影響を受けていて、ようやく自分の思考の殻を一つ破れた気がしています。この殻を破るのに実に1年半程かかりましたが、こういった活動の余裕は確保しないといけないなと痛感しているところです。
(3)心地よいエコシステムに閉じない
最近はTwitterやFacebookなどを使って色々な人に情報発信ができるようになったことで、人から研究を肯定的に評価されたり、コラボレーションの機会が増えて研究者の存在価値を見出したり、自己効力感が高まることが多くなってきていると思います。それはそれで結構なことなのですが、自己効力感が高まることに快感を感じすぎて専門とずれたことに力を注ぐようになったり、自分にとって心地良いエコシステムに閉じこもることで批判が少なくなり、研究の強度が弱くなる危険性もあるように感じています。例えば博士課程3年の頃には、普段行き慣れている学会とは毛色の違う学会に行ったのですが、いつもとタイプの違う批判を受けて研究自体がかなりタフになった印象があります。こういった、一見心地よくないエコシステムは屈強な研究にするのには必要な環境であり、研究者としての視野を広げる意味でも不慣れな領域に足を突っ込む勇気が必要だと感じています。
(4)社会との差分を0にしない
研究者の存在価値は、社会で働いている人が持っていない知識や見方を持っている点にあります。だからこそ、研究者がコンサルタント的なことを行うこともできますし、僕も企業や学校からそういう依頼を受けたことがあります。ただし、同時にここで重要なことは、研究者である自分と社会との差分を0にしてはいけないということです。研究が生まれるスピードと社会が知見を吸収していくスピードはいまや完全に非対称な状態です。そのため、常に現在の社会から「2歩先」くらいを見据えた研究構想を立てる必要があるように感じています。これは、指導教官を見ていて強く感じたことです。
(5)チームで研究できるようにする
研究者として枯れないための最後の鍵は、チームで研究できるようにすることです。今の時代、高クオリティの研究を行うには一人の研究者では限界があります。例えば、僕は歴史の学習方法については専門性がありますが、学校での授業を兼任することは難しいですし、高度な歴史学的知識も持っていませんし、歴史の史料の著作権も持っていませんし、大規模なシステムやデータも持っていません。特に開発研究の場合、これらをうまく連動した研究を展開することが研究のレベルアップには必要になっています。そのため、前回の山内研ブログ【研究発表のこだわり】チーム感を作るでも書きましたが、自分の研究の強みを意識し、複数の強みを持つ人が集まった時にチームでの研究が想像できるようなビジョンを提示できることは非常に必要なスキルになってくると考えています。
と、つらつらと書いてきましたが、果たしてこれで研究者として枯れないかどうかはわかりませんので、つまんない研究者になりかけていたらビシバシ叱って下さい(笑)
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さて、最後になりましたが、山内研の博士課程、とても楽しかったです。何だかんだんで「研究が楽しい」と思い続けられることが、研究者として枯れないための一番の秘訣かもしれません。
また、上記のように研究者として大事なことを考える機会もたくさんいただきました。
お世話になったみなさま、本当にありがとうございました。
今後も面白い研究をしていきますのでどうぞよろしくお願いします!
[池尻 良平]続きは僕のブログで! → 池尻良平のオープン・ラボ
2013.03.21
Y-Lab Blogの【今年を振り返る】シリーズ、今回はD2の伏木田稚子が担当いたします。
2012年度は、良くも悪くも、「外の目」を意識し続けた1年でした。
いつも考えて自分に問いかけていたのは、以下のような(ややネガティブな)視点です。
(A) 自分はほんとうに、外から見ても研究と呼べる取り組みができているのか?
(B) 自分の研究は、外のいろいろなそれと比べて、どこがダメで何が足りないのか?
(C) 外の世界(実践の現場)で役に立つような知見を、生み出そうと努力できているか?
このような「外の目」に関する視点をもつようになったきっかけと、それに対して考えていることを書き並べることで、今年の振り返りにしたいと思います。
■ 研究、できてる?(Aの視点)
今年の2月23日、24日の2日間、京都の立命館大学で第18回FDフォーラムが開かれました。
わたしは2日目の第11分科会「学部ゼミナール運営の課題」で報告者として、これまでの4年間の研究について発表させていただきました。
その準備の過程では、揺らいでしまう研究への自信と、研究成果を社会に還していきたいという信念みたいなものの狭間で、研究することの意義や大切なプロセスをあらためて考えることができました。
教育の実際の場から問題を引き出し、その問題に合う研究方法を駆使して、実践的かつ学術的な意義のある知見を導出する。
そのために、常に自分の中にポケット(=問題意識)を増やし、ポケットに詰めるあれこれ(=先行研究、理論や概念、研究手法など)を蓄えていく必要性を痛感した1年でした。
■ あの人の研究、ほんとうにおもしろい!(Bの視点)
2012年の1月~3月に実施した教員と学生への調査について、データを分析し、結果を論文にまとめる作業をする中で、いろいろな分野の、自分の研究とは直接関係のないテーマの論文をやみくもに読みました。
その中で、読んでいてほんとうにわくわくする論文と出会う瞬間が幾度もありました。
豊潤な研究背景に裏打ちされた斬新な問題意識をもった論文、研究方法がスマートでていねいに結果がまとめられた論文、示唆に富む考察と広がりのある結論がわかりやすく書かれた論文などなど...。
感嘆のため息をつきながら、ときには自分の至らなさにほんとうに悲しくなりながら、どうすれば自分の論文を豊かにできるのか悩み続けました。
そして、すばらしい論文の数々は、自分の研究の弱点を探るための「外の目」として大切だということに気づいた1年でもありました。
■ わたしの研究、役に立つの?(Cの視点)
2012年の10月~12月に、約20名の教員の方々にインタビュー調査をさせていただきました。
ご自身のゼミナール運営の極意や、試行錯誤の重なりについてお話を伺う中で、「この貴重な経験を必ず還元しなければ」という思いに何度も駆られました。
多くの先生方が内に秘めていらっしゃる情熱や、文字にするだけで零れ落ちてしまいそうな運営の深み、類型化するだけではもったいないほどの経験の蓄積を、どうすれば誰かの役に立つ研究成果として返していけるのか。
ひとつには、きちんと論文を書くことがありますが、それだけでは何かが足りないような気もしています。
今もまだ、その足りない部分についての答えは見つかっていませんが、学会やフォーラムなどでのご指摘や、他の研究者の取り組みなどを糧にしながら、わたしにしかできない成果の還元について考えていきたいと思っています。
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来年度は、博士課程最後の大切な1年です。
悔いの残らないよう、自分に妥協することなく歩みを進めていきたいと思います。
[伏木田 稚子]
2013.03.13
D2の安斎です。この1年間はキャリア上、とても重要な1年間だったように思います。2本目の論文もひとまず投稿し、さらには論文執筆を超えてさまざまな仕事に取り組ませていただく機会に恵まれました。
まず一つには、書籍の出版です。この1年は山内先生と森玲奈さんとの共著である『ワークショップデザイン論-創ることで学ぶ』の執筆に尽力し、無事、慶応義塾大学出版会より来月刊行されることが決まりました。本を書くのは初めての経験で、想像以上に骨の折れる仕事でしたが、無事に世に出せることを嬉しく思います。既にamazonで予約注文が可能ですので是非!続けて、京都造形芸術大学出版会より2冊目の書籍も出版させて頂くことが決まり、現在準備をすすめています。
もう一つの変化は、企業から仕事の依頼をいただく機会が劇的に増えたことです。これまでも産学連携のプロジェクトにはいくつか取り組んできましたが、今年度は株式会社ビジネスリサーチラボの主任研究員に就任させていただき、産学連携プロジェクトの営業活動とマネジメントを委託することにより、様々な企業と恊働する機会に恵まれました。自分一人の専門性では出来ないプロジェクトだらけで、「ああ、自分の専門性はこういう活かされ方もするのか」「こういうニーズもあるのか」「こういう研究者と組むと、こういうこともできるのか」と、専門性の活かし方の拡がりを実感しています。
最後に、東京大学が来年度から立ち上げる博士課程教育リーディングプログラム「ソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム(とんでもない名前...)」に、リサーチアシスタント(RA)として関わることになったのも大きな変化の一つです。実践的な問題解決能力を備えた博士課程院生を育成するための教育プログラムであり、ワークショップを軸に展開するため、そのプログラムデザインの仕事に関わっています。実践のフィールドとして被災地である岩手県大槌町や、ヘルシンキのアールト大学との連携が決まっており、視察をしながらプロジェクトを進めています。いまも、ヘルシンキからこの記事を書いています。
こうした仕事の拡がりとともに、研究に没入しているだけでなく、多くのステークホルダーの中で交渉と調整をしながら仕事をしなければならず、今までにない仕事の難しさも感じています。同時に、自分の専門性をもっと社会に活かしてかなければ、と使命感のようなものも感じはじめています。来年度はこうした仕事に引き続き取り組みながらも、それらの経験をうまく活かしながら博士論文の執筆に取り組めたらと思います。
[安斎 勇樹]
2013.03.07
こんにちは.修士1年の吉川遼です.
本日,2日間にわたって静岡で開かれた山内研春合宿が終わり,先ほど東京に戻ってきました.
静岡では1日目に静岡大学の益川弘如先生のご案内のもと,付属図書館のラーニングコモンズのご紹介や,図書館職員の方や大学院生との意見交換,益川先生ご自身の研究についてもご紹介いただき,非常に充実した視察となりました.
また2日目の今日は本年度修了されるM2の方々の修士研究と研究の経緯,研究に対する「想い」をM1である僕らがプレゼンする学習プログラムを行いました.
今回先輩方の研究について修論やインタビューを通してより深く知ることで,自身の研究の進め方について貴重な指針が得られたと同時に,これだけのものが1年後自らの手によって編み出すことが出来るのか,という不安も同時に生起しました.
現在のブログテーマである「今年を振り返る」になぞらえて,第8回の今回は修士1年の吉川遼が自身の研究・思考の紆余曲折について回顧しつつ,今後の方向性についても触れていきたいと思います.お付き合い頂けたら幸いです.
■背景情報とは?--学習に対するイメージの貧困
学部時代に,科学館の展示物にまつわる様々な情報を提示するシステムを開発していたことから,僕は物事の背後に存在する情報,すなわちある事象の時間軸上における「変遷の情報」を提示するシステムを開発することで学習に貢献できるのではないのか,と考えていました.
しかし「なぜ背景を提示することで理解に結びつくのか」という問いに対しては明確に答えることが出来ずにいました.また,具体的な対象や分野といったものも想定できず,周囲からは「卒業研究と何が違うのか」と厳しいお言葉もいただきました.
結局のところ,「対象となる分野」と「そこで問題となっている事象」の2つに僕は1年間頭を悩ませることになりました.毎回のゼミ発表で背景情報を元に様々な分野での応用可能性について提案してきましたが,なかなかいいものは生まれませんでした.
自身の中に「背景を知ることで学習が深まる」という学習のイメージは当初よりあったものの,ロジックとしては非常に薄いものであり,実際にどの分野・場面・状況において何が問題となっているか,そこで学習の障壁として何が存在しているのか,といったイメージが全く膨らまず,毎回のゼミで提案していたアイデアも「学習」とはほど遠いものでした.
今までのゼミ資料を見返してみると,自身の経験値の少なさに帰因する具体的な状況設定の貧困さに,ただただ恥ずかしさばかりがこみ上げてきます.
■背景情報の再解釈
しかしながら「背景情報」とは一体何なのか,と日々自問自答し続けて行く中で,物事の背景とは,単純に時間軸上に存在する物事単体で完結する情報に限らず,その物事にまつわる様々なヒト・モノ・コトとの相互作用の中に生起するものなのではないか,と考えるようになりました.
例えば,研究室の先輩でもある牧村さんの研究で扱っているワークショップ実践家のアイデア生成過程においては,「空間体験を通した実際のシーンの予測」「物理的空間のみならずそこに起こる状況を敏感に捉える」といった実践家独特の空間の捉え方が存在します.
当初の僕が想定していた背景情報の範囲だとおそらく「会場の仕組みや構造」といったものを可視化する,という程度に留まっていたでしょうが,相互作用,という点から考えると熟達家の視線・行動・発話といった一個人のアクティビティが環境との相互作用の中で生起しており,そういったアクティビティこそが背景情報だと捉えることが可能になってきます.
そしてこの数ヶ月は,外界との相互作用の中で生まれるこのような熟達家の暗黙知的な要素を背景情報として扱い,その情報を可視化することでどの分野のどの対象に一番効果があるのかを様々な文献にあたり考えてきました.
■方法が一番効いてくる対象に落とし込む
現在,楽器熟達家の所作をゴースト表示し,初学者がそれを見ながら熟達家の動作を模倣することで熟達家の暗黙知的な要素を学習できるようなシステムを開発しようと考えています.
ネクタイの結び方からギター,手話といった独学になりがちな自学自習の場面においては,元来手本が鏡像で提示される場合が多く,混乱することが多いですが,自身の視点から見ることで,そのような混乱も解消され,熟達家特有の暗黙知的な要素が獲得できるのではないかと考えています.
しかしながら,まだまだ自身の仮説に基づくところが多く,これから更なる文献レビュー,現場における問題の把握が不可欠であることは否めません.
■修士の折り返し--2年という時間のありがたみ
日々の授業や雑務,ゼミの発表,合宿の準備などに追われ,月並みな表現ではありますが,「気づけば1年が終わっていた」というのが正直な感想です.
ですが,この1年は様々な分野の方とお話しさせて頂く機会をいただき,また授業でワークショップを主催したり,ゼミ合宿でデューイやヴィゴツキーといった著名な教育学者について理解を深めるなど,狭窄な視野が一気に広がった1年でした.
そして,これだけ色々なものに触れ,ああでもないこうでもないと悶々としつつも考えられる時間を頂けることが,人生・社会という枠組みに当てはめて考えたときに,それがどれだけ貴重なのかを痛感した1年でもありました.
修士課程を1年終えたとはいえ,自身の至らなさからなかなか思うようにいかないことや,自身の伝えたい上手く表現できない苦しい日々が続きますが,まずは自分の目の前にある,自分がやるべきことを一つ一つ真剣に,そして全力で取り組んでいきたいと思います.
それでは.
【吉川遼】
2013.03.01
こんにちは。修士1年の吉川久美子です。
今年度最後のテーマである「今年を振り返る」。第7回目を担当させていただきます。
早いもので、もう3月となりました。昨年の今頃M0として、ドキドキしながら春合宿に参加したことが、つい昨日のように思えます。入学当初はどうなることかと不安でいっぱいでしたが、山内研のみなさま、学府の同期や他研究室の先輩方、また友人や家族に助けていただきながら、修士2年目を迎えようとしています。
今年度を振り返ってみると、いろいろなことが思い出されますが、なかでも"所属が変わった"ことが、一番大きな変化だったように思います。
ワークショップやアートプロジェクトと呼ばれる活動に興味を持ち、美術大学の学部、大学院を通してずっと学んできました。当時の友人や先輩、また後輩と一緒に美術や美術教育、ワークショップについて「どうして?」、「なんで?」、「もっとこうしたらいいのに!」等とあれこれ話す時間は、今も昔もとても大切な時間です。この美術大学時代に芽生えた多くの疑問の種を抱えて、私は進学しました。
大学院に入学し、いざ授業やゼミに参加すると、目からうろこの体験や出会いが数多く待っていました。美術大学時代に友人たちと悩み話していた課題について、他領域の分野でも、それが課題とされ議論されていたり、正体不明な謎の現象と考えていたことが、この領域では「このように指摘されていたのか!」と思う場面が多々ありました。(とても主観的な感想です、すみません。)
もちろん、ただの不勉強だったという話ではあるのですが、"自分の専門としたい領域の中にいるだけでは気づけないことがたくさんあり、またその中で課題とされることを解決しようとした時には、別の領域の知見から発見することがある"ということを大学院の活動を通して学んだ一年でした。それと同時に、「美術大学を出たからこそ学べたこと」が、「美術大学だからこそ学べたこと」を逆に私の中で少しずつ浮き彫りにしてくれました。
とはいえ、まだそれをかたちにするところまでには至らず、四苦八苦する日々です。
とても魅力ある面白い企てを考える先輩や友人たちを見習いながら、来年の今頃、修士論文で1つの自分なりの答えが見つかっているように、残り1年を頑張りたいと思います。
【吉川久美子】
2013.02.21
こんにちは。修士1年の梶浦美咲です。
M2の先輩方のブログ記事を読み、とても感慨深くなりました。
修了されるということで、めでたくもあり、寂しくもあり、何だか複雑な心境です。
そしてとうとう私が最終学年のM2に上がります。あっという間の1年間でした。そこで、この【今年を振り返る】というテーマのもと、修士に進学してからの1年を自分の研究に焦点を当てて振り返ってみたいと思います。
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私は「メタ認知を促す学習計画支援システムの開発をする!」と言って山内研に入りました。
しかし、ゼミでは、「学習計画を立てる以前に、そもそも学習意欲が無いと計画は立てないのでは」、「対象となる初年次大学生の現状をまず知る必要があるのでは」、「そして学生たちが最終的にどうなって欲しいのか」、など数多くの鋭いご指摘を受けました。
そこで私は、先行研究のレビューを進めつつ、7月〜11月に大妻女子大学、専修大学、またロールモデルになるであろう山内研博士課程の方々を対象としてインタビュー調査を行いました。
まず1回目の大妻女子大学へのインタビュー結果から、学習計画を立てる学生は半数程度おり、それらの学生は確かに計画の立案と実行に困難を抱えていることが多いことが分かってきた、と思っていました。
しかし一方、ロールモデルとなりそうな山内研博士課程の方々にインタビューをすると、あまり計画は立てず、それよりも授業から面白いと思えるポイントを探したり、関心事に寄せ付けて授業内容を考え、自身を動機付けて学習していたことが分かってきました。
専修大学の学生さんにもインタビューを行うと、授業への意欲が低く、「ただやらされているだけ」、という声を多く聞いた私は、やはり授業へのモチベーションを上げる必要があると確信しました。特に授業内容が自身にとって役に立ち、かつ興味があるものだとモチベーションが上がる、ということをインタビューから聞くことが出来ました。また、大学生が持つべきスタディスキル(聴く・読む・調べる・整理する・まとめる・書く・表現する・ 伝える・考えるの9つの力)に不安がある学生が多いことも分かってきました。
そこで、ゼミにおける意見も勘案し、授業を通じたスタディスキルの習得過程を可視化し、それを意識させ、かつ授業内容と自分との関連性や気付き、面白いと思う点を他者と共有し合うことで授業への考えを深化させる、というテーマに変更することにしました。
実際の大学生に、直接インタビューをすることで、先行研究のレビューからだけでは分からない行動の裏に隠されている気持ちや、心情の変化など1人1人の考え方を知ることができ、とても興味深かったです。
今後はゲーミフィケーションなどの知見を導入しつつ面白いシステム案へとより具体化させて行こうと考えています。
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以上のように、ゼミでのコメントや先行研究、インタビュー調査を通じて多くのことを考え、行動し、しっかり大学生の現状を把握した上でシステム案を考えられたことがこの1年間の成果です。
ここからもう1年で、更に具体的なシステム案に落とし込んだ上で、実際に開発を進め、評価実験・結果分析をし、論文の執筆に入っていこうと考えています。
この中間地点に来るまでに、大事なことに気付かせてくれたゼミの皆様、またインタビュー調査をする上でご協力下さった方々、本当にありがとうございました。入学当初の研究テーマに比べ、より初年次大学生に資する研究テーマになったと自負しています。
この1年間、授業が想像以上にハードであった中、研究以外にも様々なタスクが降ってきたりで心が折れてしまうこともあったのですが、M1同士で励まし合ったり息抜きしたりで楽しく充実した日々を過ごすことができました。
2年目は研究に本腰を入れ、来年は私も先輩方のように胸を張って修了できればと思っています。
【梶浦美咲】