2011.03.07
京大などで起こった入試投稿事件について、様々な論調があります。その中には「今の入試システムは知識を問うことに特化しているので、より問題解決的な課題や長期的な評価、ITを利用できる条件整備をすべきである。」という意見も見られます。
このような方向性に対して異議はありません。しかし、今回の事件と結びつけられて論じられることには違和感があります。
問題解決学習やプロジェクト学習を行っている大学も増えてきています。(BEAT Seminar:プロジェクト学習が大学を変える)このような学習では、課題解決結果や制作物の評価(成果の評価)と学習状況を記録したポートフォリオの評価(学習過程の評価)の組み合わせが一般的に行われています。このやり方を応用すれば、1ヶ月程度のプロジェクト型の課題をAO入試の書類・面接審査と組み合わせて実施することは原理的には可能です。(膨大な手間とコストがかかりますが、ここでは別の問題として切り分けます。)
このやり方であれば、ITを利用しながら他の人と協調して課題解決するプロセスも評価対象として取り扱うことができます。また、アウトプットに論文を入れれば、思考力や作文能力を見ることもできます。
ただし、このような方法を使うためには、本人が正直に過程を公開することが前提になります。他者がなりすましを行ったり、答えをプロセスも含めて直接引き写されては評価は機能しません。面接を組み合わせればかなりの割合で防ぐことができますが、入試が人生を左右する重みを考えれば、公正さの保証は必要になります。
研究者が論文執筆時にオリジナリティに関わる盗用を行えば、場合によっては職を失うほどの厳しい処分が行われます。ウェブ上の情報共有コミュニティでも、情報を提供した人への敬意が必要であり、人がやったことをそのまま自分のものにすることは許されていません。今回の事件のように直接他者に回答を丸投げする行為は、問題解決的で長期的な評価でも盗用にあたり、公正さに反するのではないでしょうか。
今回の事件は多様な側面を含んでおり、大学として入試とは何かということを真摯に問い直すきっかけにすべきだと考えています。ただし、改善案を考える際には、受験生が納得できる公正さを担保する必要があると思います。
【山内 祐平】
2011.03.03
みなさま,こんにちは。
メンバーがそれぞれの目線で4月からの1年間を振り返るシリーズ【1年間を振り返る】,第4回は修士2年の伏木田がお送りいたします。
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1年間で1番変わったこと。
それは,「研究に対する心構え」だと思っています。
それまでの自分は,ほんとうに人に甘えていて,誰かがやってくれればそれでいいと,自分の研究を傍観しているようなところがありました。
与えられた課題を淡々とこなすことが好きで,その課題が誰に何をもたらすのかを考えることに苦痛を感じていました。
人の役に立つ研究をしたいと強く思いながらも,そのために自分がすべきことから目を背けて過ごしていました。
そういうふわふわとした考えでは駄目なんだと,少しずつじわじわと気づくことができた。
それが今年1年の大きな収穫だったと感じています。
研究をはじめるにあたっては,「社会的背景」と「理論的背景」をじっくり見極めることが求められます。
なぜその研究が社会に必要なのか,これまでの研究にはない新規性はどこにあるのか。
自分の知りたいことは何で,それを知るためにはどのような方法をとる必要があるのか。
修士研究において最も大切だと感じたのは,「リサーチ・クエスチョン」を立てることでした。
私の場合,以前から教員と学生,学生と学生が関わり合う中で学ぶ場に興味がありましたが,文系の学部ゼミナールをテーマとして選択するまでには1年近くを要しました。
その後,学部ゼミナールについて知りたいことをあらゆる視点から書き出し,徐々に焦点を絞っていくのに数か月。
先行研究や関連する情報と照らし合わせ,学部ゼミナールの何が明らかにされていないのかを焦点化するまでにさらに数か月。
その間,文献のレビューだけでは具体的な課題が見えてこなかったこともあり,複数の教員の方々にお願いをして,いくつかのゼミナールに参加しました。
自分が選んだ学部ゼミナールというテーマに関して,頭の中にある知識と,実際の現場から得られた知見とを織り交ぜるプロセスは,楽しくもあり辛くもありました。
「リサーチ・クエスチョン」がようやく見えてきたころ,研究の「目的」を具体的に描けるようになりました。
そしてそれに沿う形で,研究の「方法」も少しずつ決まり始めました。
学部ゼミナールに参加している学生を対象に調査を行うため,学部ゼミナールにおける学びを構成している概念を操作的に定義し,その概念を測定するための尺度を作成し,質問紙を構成する。
これら一連の作業は,どこかで常に「仮説」を意識しながら行わなければならず,徹底的に自分の研究と向き合い続けることを強いられました。
「背景」,「目的」,「方法」,この3つが一直線に結ばれているか。
そして,得られた「結果」の分析とその「考察」は矛盾を含んでいないか。
最終的な「結論」は,「リサーチ・クエスチョン」の答えとしてふさわしいか。
1年間をかけて取り組んだ研究を修士論文にまとめる際は,この3点を強く意識させられました。
こうしてできあがった修士論文は,大きな課題とたくさんの可能性を含んでいます。
"もっとこうすれば...","もしかしたら別の方法も..."という前へ前へと進む気持ちをバネに,これからも誰かに寄り添えるような研究を続けていきたいと思います。
そして,そこから生まれた成果を本や論文という協力者へのラブレターとして,多くの方に届けていくことが望みです。
[修士2年 伏木田稚子]
2011.02.28
┏━━━━┯━━━━━━┓
┃お知らせ│BEAT Seminar┠─────────────────────
┗━━━━┷━━━━━━┛2010年度第4回 BEAT公開研究会
「ソーシャルメディアによって変わる学びのかたち」 3月26日(土)開催!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
BEAT(東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学講座)では、2010年度第4
回 BEAT Seminar「ソーシャルメディアによって変わる学びのかたち」を
3月26日(土曜日)に開催致します。
TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアは、人と人のつながりを変
えるインフラストラクチャになりつつあります。学習が本質的に社会的なもの
であることを考えれば、人のつながりを変える力のあるメディアは、学びの形
を変える力も持っているはずです。
この公開研究会では、BEATで本年度展開したソーシャルメディアによって
高校生と大学生・社会人をつなぐ「Socla」プロジェクトを中心に、ソーシャ
ルメディアによって変わる学びのかたちについて議論を深めたいと考えていま
す。
みなさまのご参加をお待ちしております。
■主催:東京大学 大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座
■日時:2010年 3月26日(土)午後1時より午後5時まで
■場所:東京大学 本郷キャンパス 情報学環・福武ホール(赤門横)
福武ラーニングシアター(B2F)
アクセスマップ>>http://www.beatiii.jp/seminar/seminar-map45.pdf
■内容:
1. 講演 13:00-13:40
「ソーシャルメディアが変える社会」
津田 大介(ジャーナリスト)
▼ 休憩
2.報告1 14:00-14:40
「Twitterを利用して高校生と大学生・社会人が進路と学ぶ意味について
考える"Soclaプロジェクト"」
山内 祐平(東京大学 准教授)
3.報告2 14:40-15:20
「グループで小論文を相互添削するシステム"Re:"(アール・イー)」
椿本 弥生(東京大学 特任助教)
高橋 薫 (東京大学 特任助教)
▼ 休憩
4.参加者によるグループディスカッション 15:35-16:00
5.パネルディスカッション 16:00-17:00
「ソーシャルメディアによって変わる学びのかたち」
司 会:北村 智 (東京大学 特任助教)
パネラー:今村 久美(NPOカタリバ 代表理事)
椿本 弥生(東京大学 特任助教)
高橋 薫 (東京大学 特任助教)
山内 祐平(東京大学 准教授)
■定員:180名(お早めにお申し込みください)
申込ページ:http://www.beatiii.jp/seminar/index.html
■参加費:無料
■懇親会
セミナー終了後1F UTCafeにて
参加希望者(¥3,000)
2011.02.26
みなさま、こんにちは。修士2年の程琳と申します。
メンバーがそれぞれの目線で4月からの1年間を振り返るシリーズ【1年間を振り返る】。
第3回は、修士2年のテイがお送りいたします。
一年間を振り返るといっても、この一年間は夜明けを待っていたように待ち遠かったものの、あけぼのの一瞬だけ真実を感じたように短かったものでした。
第一回目において、すでに安斉さんがタイムシートを挙げてくれましたが、学年度の始まりオフライン発表があり、七月に中間発表があり、その後の半年は修士論文を実の形にするために日々カウントダウンしてきたのです。いろいろやりたいという欲張りの自分と限りのある時間内で終わらせないといけないけっちな自分との戦いというしかありません。その中から私もたくさん学ばせられました。
(1)割愛ができないと愛は形になれない
入学式の日、学環の先生方から新入生への一言のショート演説がありました。その日に私はこういう話を聞きました:
「いくら計画しても、実際手足を動かし、始めてみたら、予定の三倍以上の時間がかかると分かります。」
院生の一年目は、二年目の仕上げがきっちりできるように、関係あるものを全部網羅してできるだけ抜けがないような関係図を作るための手探りと積み重ねの一年間に対して、二年目は探してきたものをどんどん捨てていかないといけない割愛の一年間でした。
というのは、研究者としてやれることは、探検者や革命者と真逆だということです。探検者や革命者は新しい世界を開く人で、ライトをどこまで当てられるかが問われるが、研究者は一羽の鳥ごとく、どんなに大きな森の中でも、結局一本だけの木にしか巣を作ることができません。
オフライン発表から中間発表を経て、実際の実践活動を決定するのも、活動の結果を修士論文に仕上げるのも、いずれも「選びと捨て」が伴っていました。
(2)雨降れば地固まる
二つ目は、多くの人の意見に耳を傾ける重要性です。
山内研で最大な幸せは、多くの方の支えと見守りのなかで、自分が愛を持ってやりたい研究を貫いてがんばれることです。
言われることしかできないのでもなく、独りよがりなパターンでもなく、山内研では、自分の研究をさらしだし、多くの方が叩き台を作ってくださるのです。
いくら修士論文を書き上げたにしても、研究の世界においては、私たちは子どものような存在で、「かわいい子には旅をさせろ」という考え方が先生方の頭の中にいらっしゃるのかな、私たちの未知の研究世界への旅の道中、ずっとまわりの人たちが照らしてくれた灯台がありました。
このかたがたがいないと、最初の甘い自分の考えのまま、実践原案から最後の修論へはたどりつけるのかも懸念でしょう。皆さん、本当にありがとうございました!
(3)カレンダーの使い方
時間は進むしかできませんが、カレンダーの使い方はいろいろあると分かったのもこの一年間でした。
今日これをやり終わったら、明日は次をやろうという人もいるでしょうが、タイムリミットがかかっているから、この日までにあと何日あるかを数えてカウントダウンをするタイプもきっといます。
私はいろいろな締切日を先にカレンダーに赤色で塗り、その前にプレの締め切り日、つまり、原形が出来上がるべき期限の最終日に更に黄色で塗り、それまではカウントダウンするという感じでした。
研究は個人作業ですが、一人では仕上げることができません。ですから、そのプレの締め切り日はつまり、叩き台に一度さらすことです。もしもそこで大きなミスがあったら、残りの時間でやり直して、また二度目の叩きあいを受けるのです。山内研では、研究員と院生からなるファシリテーター制度があるおかげで、いっぱいたたきを受けました。
こうして、経験する日々は長く感じましたが、やることが多すぎて、時間が去っていくのもはや過ぎです。それが私のこの一年間でした。
【テイ リン】
2011.02.23
この季節は人事選考や論文審査などで面接の機会が増えます。たくさん面接をしていると、内容と直接関係ない挙動で印象が変わることに気がつきます。
1)部屋への入り方
部屋に入るときに、笑顔で挨拶してきびきび動く人と、緊張した面持ちで小声で話す人では、好感度が変わります。
2)説明
相手が理解しているかどうか確認しながら落ち着いてリズム感よく話す人と、早口で一方的にまくしたてる人では、説明の理解度が違います。
3)やりとり
聞かれたことに短いフレーズで的確に答えてから補足説明する人と、前置きが長く答えも理解しにくい人では、やりとりの充足感に差があります。
人事選考の場合、これらの差を対人能力のあらわれととらえて評価対象にすることもあります。しかし、通常の論文や企画案の審査では、評価指標には入っていません。その場合、審査員は評価指標だけを意識するよう努力することになりますが、実際には無意識のバイアスを消すことは難しいのです。
このような面接やインタビューにおけるバイアスは、様々な研究によって明らかにされています。容姿の影響に関する研究が有名(たとえば人事面接における肥満の影響に関する研究)ですが、容姿以外にも評価指標と関係ない多くの要因が判断に影響することが避けられないのが、面接という方法なのです。
もちろん、対面でやりとりをすることによって得られる情報は多く、面接が評価の有効な方法の一つであることは間違いありません。しかし「会えばわかる」というほど確実な方法でもないということを十分理解した上で、他の評価方法と組み合わせて使うべきものだと思います。
【山内 祐平】
2011.02.17
みなさま、こんにちは。
メンバーがそれぞれの目線で4月からの1年間を振り返るシリーズ【1年間を振り返る】。
第2回は、修士2年の帯刀菜奈がお送りします。
私にとって修士課程最後の1年間は、夢を形にするため突進した日々でした。
と同時に・・・
4年前から抱いていた「高校生が夢中になれるような日本史学習の実践をしたい」との思いが実現するまでの軌跡は、迷走の記憶でもありました。
■倒せない妖怪、ぬりかべと対峙した夏
6月、修士研究では太刀打ちできない、大きな桁の学習課題を相手取ろうとしている自分に気付き、行き詰りました。
[どうして私の研究は必要があるのか] を捜して、焦点をあてたのは「学習指導要領に書いてある学習目標」でした。しかし修士研究で克服するには課題が大きすぎたのです。
目の前に 分厚い土壁 のように私の前に立ちはだかり7月の中間発表を前に途方にくれました。
■戦う相手を、いったんもめん(勝てそう)に変えた秋
私ひとりでは、なぜ研究が前に進まないのかもやもやしていましたが、研究ファシリテータの椿本先生や、山内研・中原研のゼミメンバーのアドバイスから、もっと小さな問題を切り出すことになりました。「歴史を考える力の構成要素、共感を向上させる」ことにシフトしたのです。
どうしても高校生の楽しそうな笑顔が見たい!!という思いは日に日に強くなり、
10月(プレ実践・本実践あわせて)およそ40名の高校生にご協力いただいて
映像制作ワークショップを開催することができました。
11月は助教の佐藤先生、山内研の池尻先輩に評価のお手伝いをいただきながら、分析と考察をしました。12月はひたすら執筆していました。
■ミッションを終えた冬
修士2年間を振り返ると、山内研には困ったときにいつも助けてくれる仲間がいました。
いま福武ホールの2階は私にとってかけがえのない居場所となりました。
山内先生、たくさんのチャンスと気付きをくださって、本当にありがとうございました。
修士論文提出を追え、私は4月から社会人になります。
山内研での学びを糧に学習環境デザインのお仕事に携わります。
中等教育から高等教育にフィールドを移してまた勉強したいと思っています。
ブログに登場するのは最後となりますが、今後もどうぞよろしくお願いいたします。
2011.02.14
NHK出版「iPhoneで学ぶ実践ビジネス英語」の調査研究モニター募集が始まりました。山内研究室はこの学習アプリ開発の企画と評価で協力しています。
4月から6月まで無料で学習アプリをお試しいただけます。ご関心のある方の応募をお待ちしております。詳しい情報は以下のURLをご覧下さい。
http://bizmon.nhk-book.co.jp/nhk/
【山内 祐平】
2011.02.11
みなさま、こんにちは。修士2年の安斎勇樹と申します。
早いものでもう2月...。今週から、今年度の最後のテーマとして、メンバーがそれぞれの目線で4月からの1年間を振り返るシリーズ【1年間を振り返る】をお送りします!
昨年度は、身体がバラバラになりそうなほど様々なことにトライした「実践の1年」でしたが、今年度は「修士研究」にとことん注力した「研究の1年」でした。
春〜夏にかけては研究計画や実験計画の決定、プレ実践を何度も重ねながら仮説の検証と分析方法の開発をしました。秋は初めてのJSET学会発表、そして本実践。冬にはデータ分析と論文執筆...と、まさに修士研究に全力を注いだ1年間でした。というわけで、1年間の修士研究のプロセスを振り返り、そこから僕が学んだことを3つ、まとめたいと思います。
(1)研究に時間をかける
一つ目は、研究に十分な時間をかけることの重要性です。
「時間をかけろ」というと、生産性や効率主義に反する古くさい根性主義に聞こえるかもしれませんが笑、それでもやはり、研究活動においては一定の時間を投資することが大切なのだと強く実感しました。
しかし僕の場合、昨年度までは常に複数の実践プロジェクトを抱えており、「そもそもじっくり考える時間が取れない」という致命的な状況でした...。そうすると、スキマ時間を使って作業をするしかないので、どうしても表面的で浅いアウトプットになりがちです。
そこで、今年度は「どんな魅力的な仕事であっても、実践のお誘いは断る!」というのを年間目標に掲げ笑、研究に無関係な実践は極力封印をしました。実際にかなりの数のオファーを断ることになり、とても心苦しい我慢の1年となりました...(笑)
しかしそのおかげで、うんうんと唸りながら一つのことをじっくり考え抜いた先に、ようやく新しい小さな発見が見えてくる...。そして、そうした発見の蓄積が研究を支えていくということを体感することが出来ました。
今後も、新しいコトへのチャレンジや可能性の拡がりは大切にしながらも、最低限研究に投資するまとまった時間は確保しなければ!と思ってます。
(2)精緻な視点で実践を眺める
二つ目は、精緻な視点で実践を分析することの重要性です。
僕はもともと実践家だったので、つい「子どもの目が輝いていた」とか「面白い作品が沢山生まれた」とか、ワークショップで起きているプロセスを"ざっくり"と捉えがちです。
しかし研究をするからには、具体的に学習者にどのような変容が起きていたのか?どのような実践上の仕掛けが効いてアイデアが誘発されたのか?良いアイデアが出たグループとそうでないグループの違いは?うまくいったグループはどのような発話のプロセスをしていたのか?...など、より精緻に現場で起きていることを見つめなくてはいけません。
修士研究では、44名を対象にプレ実践を13回、101名を対象に8回の本実践を行い、総計40を超えるグループの発話データを全て書き起こし、発話がどのように連鎖しながらアイデアが生成されていったのか、そのコラボレーションのプロセスの分析を行いました。分析方法に関しては、石橋健太郎さんに何度も相談をさせて頂き、認知心理学の精緻な視点を学ばせて頂きました。
これだけ細かく丁寧にワークショップを眺めるのは初めての経験で、数え切れないほどの発見がありました。実践のときには何気なく見ていた現象であっても、それをより精緻な視点で眺め捉え直すことによって、はじめてその本質が見えてくることを実感しました。
(3)人とのつながり
最後に、人とのつながりの大切さです。
言うまでもなく、修士研究は1人の力では成し得ないものでした。プレ実践や本実践のワークショップに参加して下さった大学生の皆さん、それらの実践の広報に協力して下さった皆さん(twitterでは何百ものRTを頂きました!)、実践に協力して下さった皆さん、そして大学院のゼミや他研究室の皆さん。多くの人とのコラボレーションや支援があってこそやってこれたのだなぁーと、振り返って強く思います。ご協力下さった皆さんには大変感謝しています。
大学院での研究は個人プロジェクトだと思いがちですが、今後も人とのつながりと大切にしながら、多くの人とコラボレーションしながら良い研究をしていきたいと思います。
※参考
これから修士研究をする人のために、今年度のスケジュールも掲載しておきます!
4月:研究計画の決定 / 研究構想発表会(オフライン発表会)
5月:プレ実践開始 / 複数の仮説を検証
6月:プレ実践 / 仮説(実験計画)の決定
7月:プレ実践 / 中間発表会
8月:プレ実践 / 分析方法の開発
9月:本実践開始 / 学会発表
10月〜11月:本実践 / データの分析
12月〜1月:データの分析 / 執筆
2月:修士論文審査 / 博士課程入試
[安斎勇樹]
2011.02.08
仕事柄多くの方々とデジタル教材についてお話しする機会がありますが、評価の話をするときに、陥りがちな誤解のパターンがあります。
「お金をかけて教材を作るのだから、学習成果がでるのは当然だ。」
教材を使う前よりも使った後の方が学習成果が出るのは当たり前のように思えるかもしれません。確かに事前に知らなかった単語を想起できる率は事後の方があがります。しかし、評価目標を記憶ではなく、概念やスキルの獲得に置くと、統計的に有意差が出ないケースも多くあります。複雑で高度な内容の学習は時間がかかりますので、短時間の教材での学習では差がでにくいのです。
「ITを利用しているのだから、紙やテレビより学習成果がでるはずだ。」
最先端の情報機器を利用していることから、紙やテレビ番組などとメディア比較した場合、圧倒的な差が出そうなイメージがあるのだと思います。しかし、基本的に同じ視覚的刺激を提供する場合、メディアの違いによって学習効果に差が出ることはありません。(内容が同じであれば紙とPDF、テレビ番組とFlash動画では差が出ないということです。)情報機器でしか実現できない相互作用性を上手に活用した教材では統計的な有意差が確認されますが、その差は通常10%から20%程度のものです。
「デジタル教材の学習成果が確認できれば、教育が革命的に変わる。」
教材の評価で確認されることは、一定の条件下で限定的な教育効果があることだけです。実際には教材の影響力よりも人間の影響力の方が大きく、教員・家族・友人などとのインタラクションの要因を入れると、教材の評価は簡単にひっくり返ります。
また、デジタル教材を設置・運用する際に教員側に負荷がかかるような状況だと、教材研究や子どもとの対話時間が減り、長期的に成績が下がることもあります。大規模な導入の場合にはアセスメント的な研究も不可欠になります。
デジタル教材は医療における薬の位置づけに似ています。たとえば解熱薬は熱をさげるという限定的な機能しかありません。しかし、多様な薬が日常的に手に入れば健康を維持しやすくなるように、多様な教材がインターネット経由で使えるようになれば、学習をよりよく支援できるようになります。できることとできないことの実像を知ってもらった上で、優れたデジタル教材が一人でも多くの学習者に届くことを願っています。
【山内 祐平】
2011.02.04
皆さま、こんにちは。博士課程1年の大城です。
授業やゼミ以外での学びの場を紹介するシリーズ【私の学びの場】最終回は、「TAとしてかかわる大学授業」をお送り致します。
修士1年の頃から、とある私立大学の学部生向けの授業で、TA(ティーチング・アシスタント)を務めさせていただいています。修士1年・2年の間は、インストラクショナルデザインに関する講義+演習の授業、博士課程に進学した今年度は、前期は1年生向けのアカデミックスキルの授業、後期は2年生向けの、卒業生と在学生の交流をデザインする演習型の授業に参加させていただきました。
高等教育を研究テーマとする以上、普段から他の大学の授業を継続的に見られるのは、非常に貴重なことです。
■ホンモノの大学生が見られる!
悲しい(?)ことに、自分も大学院生という学生の立場ながら、今の大学1年生とは6つも歳の差があります。平成生まれだなんて...おやまあ!「大学生の感覚」を、自分自身が大学の学部生だった頃の感覚で考えるのが難しく、また危ういものになってきました。
自分の研究は、、「大学講義の理解を促進するためのデジタル・バックチャネルの導入方法に関する研究」と題し、大学の授業中にコンピュータやネットワークの利用を取り入れることを前提に、その使い方を提案することを目指していますが、デジタル機器に対する姿勢や使い方の習慣は、数年単位の世代の違いによってずいぶん変わって来ると考えられます。仮に「理論的には、大学生はこうこうこうして学ぶのがいい!」ということを説明できたとしても、それが実際の大学生の感覚とあまりにかけ離れたものであると、現実的でなくなる恐れがあります(介入をする以上、ある程度の変化を求めるのは前提となりますが...。)
文献調査によって裏付けられた理論をもとにして考えるだけでなく、それが「今を生きるホンモノの大学生」にとってどのような意味を持つのかを、彼らの気持ちや態度に寄り添って考えていくことが重要です。ですので、「ホンモノの大学生」を見て、話ができるというのはとてもありがたいです。
■先生方の授業運営の様子を見られる!
TAという立場では、教員の方々の授業運営を、微力ながらお手伝いするという形で、その様子を半期を通じて継続的に追うことができます。
自分の研究は、大学の授業を対象とするものの、当然ながら自分自身はまだ学生であり、大学での教授経験はありません。そこで、実際に大学教員の先生方が授業を進められていく様を、「こんな授業、こんな先生に自分の提案するバックチャネルの利用方法の導入をお願いするとしたら?」と、妄想もといシミュレーションしながら、そばで拝見できるのは貴重な時間です。
先生方の授業中の学生の反応に対する臨機応変な振る舞いや、半期全体で見た科目の進行スケジュール調整の様子などを、授業時間内外ともに直に見られるのは、自分にとって、リアルな大学授業を掴むのに大変役立っています。
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このように、自分の場合は「大学の授業」ですが、教育を研究するうえで、その対象となる教授者や学習者がいるフィールドとつながりを持つことは大切であり、それは重要な学びの場だと思います。このような機会をいただけることに、先生方や学生の皆様への感謝の気持ちを忘れずに、これからも様々な大学の授業に参加していきたいです。
[大城 明緒]