2011.03.07

【エッセイ】入試投稿事件と問題解決型入試

京大などで起こった入試投稿事件について、様々な論調があります。その中には「今の入試システムは知識を問うことに特化しているので、より問題解決的な課題や長期的な評価、ITを利用できる条件整備をすべきである。」という意見も見られます。
このような方向性に対して異議はありません。しかし、今回の事件と結びつけられて論じられることには違和感があります。

問題解決学習やプロジェクト学習を行っている大学も増えてきています。(BEAT Seminar:プロジェクト学習が大学を変える)このような学習では、課題解決結果や制作物の評価(成果の評価)と学習状況を記録したポートフォリオの評価(学習過程の評価)の組み合わせが一般的に行われています。このやり方を応用すれば、1ヶ月程度のプロジェクト型の課題をAO入試の書類・面接審査と組み合わせて実施することは原理的には可能です。(膨大な手間とコストがかかりますが、ここでは別の問題として切り分けます。)

このやり方であれば、ITを利用しながら他の人と協調して課題解決するプロセスも評価対象として取り扱うことができます。また、アウトプットに論文を入れれば、思考力や作文能力を見ることもできます。

ただし、このような方法を使うためには、本人が正直に過程を公開することが前提になります。他者がなりすましを行ったり、答えをプロセスも含めて直接引き写されては評価は機能しません。面接を組み合わせればかなりの割合で防ぐことができますが、入試が人生を左右する重みを考えれば、公正さの保証は必要になります。

研究者が論文執筆時にオリジナリティに関わる盗用を行えば、場合によっては職を失うほどの厳しい処分が行われます。ウェブ上の情報共有コミュニティでも、情報を提供した人への敬意が必要であり、人がやったことをそのまま自分のものにすることは許されていません。今回の事件のように直接他者に回答を丸投げする行為は、問題解決的で長期的な評価でも盗用にあたり、公正さに反するのではないでしょうか。

今回の事件は多様な側面を含んでおり、大学として入試とは何かということを真摯に問い直すきっかけにすべきだと考えています。ただし、改善案を考える際には、受験生が納得できる公正さを担保する必要があると思います。

山内 祐平

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