2014.11.15

【夏休みの過ごし方】「まち」について考える

みなさま、こんにちは。
M1の青木翔子です。

秋をまたいで冬にさしかかっておりますが、【夏休みの過ごし方】、もう少しだけお付き合いくださいませ。

M1は、M2の方々のように実践や開発など大きな研究イベントがありません。
何を書こうかしら...と思いながら、夏休みを振り返ってみたところ、「まち」というキーワードが浮かんできたので、その方向で書きたいと思います。

入学当初の春頃、私は「居場所」というキーワードで先行研究をみたりしていました。
「居場所」はとても曖昧な言葉なので、使われる文脈によって意味はさまざまですが、主に「心」を重視するタイプと「場所」を重視するタイプに分けることができます。
「心」を重視するタイプは、心理学の分野で用いられており、本人が「居場所がある」と感じることができればある意味どこでも「居場所」になり得ると言えます。「場所」を重視するタイプは、建築や都市工学などで、まちのソフトの側面に着目したコミュニティデザインなどで用いられたり、公園などの公共の場づくりの文脈で用いられたりもします。私の研究としては「心」の居場所の方が近いのですが、個人的には「まち」にも興味があり、夏休みはそのようなワークショップに参加したり、ワークショップを実践したりしました。

そのなかのひとつは、大学院のリーディングプログラムの一環で行われた「東京の2030年を考える」というワークショップです。
このワークショップはなかなかヘビーで、事前準備を数日かけて行い、その後2日間のワークショップを行うという構成でできています。事前準備では、まず、それぞれテーマごとにグループを編成し、そのグループごとに先進的な事例を視察します。テーマは、リノベーションや農業の住まいの話、都市開発など多岐にわたっていました。私は、ものづくり場所、貧困住まいというテーマで、FABLABなどにお話を伺いました。
そして、ワークショップ当日は、それぞれの事例を報告しあい、ディスカッションをしながら議論を深めていきました。豊富な事例が紹介され、さまざまな視点から「東京」を考えるとても濃密な時間を持つことができたように思います。さらに最終的には、東京の2030年のあり方に関して提案をするところまで行いました。
ディスカッションをしていくなかで「まち」というものは本当に多様なステークホルダーを持っているが故に、
それらの意見を収集した上である一定の方向性を探りつつ、多様性を残していくということは大変だな、ということを改めて感じました。

そんなようなワークショップに8月に参加し、9月は自分自身がワークショップを実施しました。

これは、「メディアリテラシーについて学ぶワークショップをつくる」というお題のもと、チームをつくり実践を行うという大学院の授業の一環で行いました。私たちのチームのワークショップは、「まちのパラレルワールド!?〜顔出しパネルワークショップ〜」というものです。ざっくり言うと、「まち」のイメージというものがいかに生成されているかを学び、「まち」のイメージを表すような顔出しパネルをつくるという内容です。実践までは紆余曲折ありましたが、当日はなんとか実施することができ、実際につくった顔出しパネルを池袋にもっていき記念撮影も行いました。
このワークショップのポイントである顔出しパネルをつくるためには、その「まち」のさまざまな要素について考える必要があり、さらにそれをひとつの制作物に落とし込まなくてはなりません。実はこの議論と制作の過程は、まちづくりの話し合いで必要なものと通ずるところがあるのかもしれないな、と今になっては思ったりもします。

と、いうことで、研究以外ではこのような活動をして過ごした夏でした。
これから日本は、超高齢社会に突入し、少子化が進み、空き家が増え続けていくことでしょう。そんな未来を考えるためにも、個人的な関心事として、まちづくりにはこれからも目を向けていきたいと思います。
そしてそして、来年の夏休みは研究に捧げることになるでしょう!

それでは、次回は、M1の逆瀬川さんです!
ごきげんよう!

青木翔子

2014.11.08

【夏休みの過ごし方】モンゴルで、ワークショップ実践!

みなさん、こんにちは。
M2の中村絵里です。

11月になりました。7月下旬から9月末までの2カ月以上もの長い夏休み期間、院生は何をして過ごしたのか(過ごすべきか)について語る【夏休みの過ごし方】シリーズを先月からお送りしていますが、やはり研究テーマや研究の立ち位置が異なると、それぞれの過ごし方は随分と違うものですね。

M1の夏休みとM2の夏休みでは、研究の進捗度が変わりますので、一概には言えないのですが、いずれの学年であっても長期休業期間には、じっくりと腰を据えてできることに取り組むのが一番だと思います。私の場合、今年の夏休み中の最大の山場は、モンゴルでのワークショップ実践でした。

9月第1週目に、モンゴルのウブルハンガイ県において遊牧民の親を対象としたワークショップを実践してきましたが、この実践のために、夏休み以前から少しずつ調整を進めていました。モンゴルでは、学校が夏休みに入る6月末から新年度がスタートする9月1日までは、現地の学校関係者や遊牧民の保護者とのコンタクトが滞ってしまいます。そこで、現地の学校の協力を得るための連絡調整は5月頃から始め、学校を通じたワークショップの参加者募集の告知は6月には行いました。

6月の時点では、ワークショップの具体的なプログラム構成原理までは組み立てができていませんでしたので、7月から8月にかけて、プログラム構成原理を練り上げ、先行研究をレビューする作業を繰り返し行いました。この時期は、ファシリテーターの荒さんに、ほぼ週1回のペースで研究相談に応じて頂き、問題点とそれを解決するためのロジックを整理することに専念しました。振り返ってみると、1週間ごとに与えられた課題をクリアするために大量の文献をレビューし、自身の研究領域に関わる先行研究の知見を深めることができた貴重な日々になったと思います。また、夏休み期間は、いつにも増してご多忙の山内先生にも時間を割いて頂き、2度も面談をして頂きました。お盆の夕刻しか空き時間がないとおっしゃる山内先生に無理をお願いして時間を取って頂きましたこと、この場を借りて改めてお礼申しあげます。

私にとっては、ワークショップのプログラム構成原理を組み立てて整理することが一番の難関でしたが、同時に、モンゴルでの実践に向けたロジの調整も着々と進めていました。日程調整、訪問地の選定、通訳者の手配、ワークショップ備品の手配、参加者へのお土産品の調達等数えればきりがないほどの準備項目になりますが、このあたりのロジ調整は、実はこれまでの社会人経験の中で仕事を通じて培ってきたものがありましたので、焦ることなく、もれなくダブりなくできたように思います。

そして迎えた9月の本実践。研究のカウンターパートであるセーブ・ザ・チルドレン モンゴル事務所のスタッフに、多大なご協力を頂き、2つの郡で、各4時間のワークショップを開催することができました。現地では、想定内のハプニングは多々ありましたが、郷に入れば郷に従えで、彼らの文化を尊重しつつ、研究の大筋を崩さずに実践することを心掛けました。実践結果の評価については、今、まさに分析中ですが、はっきりと言えることは、参加者が皆さん喜んでくださったこと、そして、就学前自宅学習に対する新たな知識と情報源を持ち帰ってくださったことです。このワークショップのために、遠路はるばる90km以上も草原を移動して集まってくださった遊牧民の方々にとって、少しでも役に立てる実践になったのであれば、本望です。

9月の中旬から夏休み終了の時期までは、実践結果のデータ(質問紙データ)を入力・整理したり、分析したりする作業を行いました。現地で採録したワークショップ中の発話データも膨大な量がありますが、すべてモンゴル語であるため、活用できる量は限定的です。現在は、収集したデータを、研究の目的と照らし合わせながら解釈を行っているところです。

約2カ月間の夏休みは、長いようですが、目的を持って過ごさないと本当にあっという間に終わってしまいます。修士論文提出までの残り約2カ月間も、なすべきことを確認しながら大切に過ごしていこうと、改めて身を引き締めているところです。

次回からは、M1のみなさんの夏休みの過ごし方をお届けします。

【中村絵里】

2014.11.02

【夏休みの過ごし方】自分の内面の問題とどう向き合うか

「夏休みの過ごし方」シリーズ第三回は私、池田めぐみが担当致します。
8月、9月の夏休みは、主に大学生へのインタビューと、プレ実践、研究のロジックをたてたりしながら、月に2回程ファシリテーターの方や山内先生に研究相談をさせて頂くということを行っていました。相談に乗って頂いた先輩方と先生、実践に向け手助けして頂いた皆様、インタビューやプレ実践に協力して頂いた方々、本当にありがとうございます。

2014.10.24

【夏休みの過ごし方】Webアプリケーションの開発


みなさん、こんにちは。M2の青木智寛です。

もうすっかり夏は過ぎ去って、気が付くと冬が顔をのぞかせてきていますね。寒いのが苦手な僕としては、穏やかな冬であってほしいなぁと願うばかりです。

さて、今回のお題【夏休みの過ごし方】第2回 です。何を書こうかと思って悩んでいた、今日このごろですが...
9月に行われた毎年恒例の研究室合宿で、島根県隠岐島の海士町を訪問させていただき、ありがたいことに、僕がこれから行う修士研究の実践を実施させていただくことになったので、夏合宿について書かせていただこうかと思いました。...が、番外編で合宿についてはすでに記事が上がっておりますので(こちら)、今回はちょっと外して、普段ゼミや研究室でもあまりお話する機会のない、開発についてのお話をしようかと思います。思い返してみると、実際、夏休みの大半の時間は、修士研究のシステム開発をしていたように思います。

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山内研究室では、研究の領域として、大まかに分けて「空間」「活動」「共同体」「人工物」を対象として、各メンバーがそれぞれ研究を行っているのですが、(詳しくは研究室の紹介のページをご覧ください)僕は山内研に興味を持ったときから「人工物」の領域、すなわちシステム開発(+実践)型の研究をしたいと思っていました。
僕は、学部時代に「学力データを効果的に可視化する」ことをテーマとして、日々の学習履歴をアニメーションの形で可視化するアプリケーションを「processing」という言語兼開発環境を用いて開発していました。processingとは、MITが開発した、グラフィックを描画するのに適した言語(兼開発環境)で、無償で提供されている開発環境を用いて、細かい宣言をほとんどせずにかなり直感的に2D,3DCGを制作できるという便利なものでした。そこで、ある程度はデータを視覚的に表現することに関しては経験がありましたが、いざ修士研究で自分がつくることになったのはWebアプリケーション。どうして作っていこうかと、最初は少し戸惑いがありました。

基本的に、Web上に上がっているリソースを元にして簡単なものから作ってみて、だんだんと複雑化していく、というプロセスは経験上、浮かんでいたものの、どうしていいものかわからなかった時に、お世話になったのがドットインストールなどの無料のプログラミング学習サイトです。Webアプリケーションを作る際に必要な言語(HTML, CSS, PHP, JavaScript, MySQL ... など)についての解説だけでなく、ローカル環境を含む開発環境の設定まで細かく解説されており、最初の数日はこれに浸ってひたすら説明されているとおりに作っていきました。たまに+αとして自分なりのアレンジを加えてみるなどしながら、とりあえず簡単なものが動く状態をつくり、少し安心感が得られました。

次は、簡単な動くものを、自分が作りたいものに近づけていくフェーズです。基本的なステップとしては、開発者の方々がよくされているように、Googleで 「[言語] [やりたいこと] 」のように検索をかけて、フォーラムなどでおなじ質問をしている人の記事を読む、または載せてあるソースコードを自身のコードに適用してみる、といった作業を何回か繰り返してみました。

ところが、コーディング量が多く、正直このままでは間に合わないと判断され...再度焦りが生まれました。そこで、開発を大きく加速させることになったのが、「フレームワーク」の利用です。
フレームワークとは、世間でよく利用されている機能をあらかじめ作っておき、それをまとめてパッケージ化したもので、現在、様々な言語で提供されています。僕はPHPという言語を利用してサーバ通信するアプリケーションを開発していたので、PHPフレームワークとして多く使われているCakePHPを利用することにしました。これによって、"記事の投稿・変更・削除","コメント","ログインなどの認証"が非常に簡単に実装できました。

あとは、オリジナルな部分をいかに作りこむか、というフェーズに入り、「新しい機能を作る→動かす→バグ発見→修正→...」を繰り返して、設計した通りの形にしていき、今に至ります。ここまででちょうど夏休みが終わる9月末となりました。(もちろん、この後、テストしていくうちに安定的に運用できない部分が見つかり、順次修正していくのですが。)

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こうして見てみると、当たり前のシステム開発のフローを述べているだけですが、なにごとも初めてのことをするのには何かとハードルが高いものですよね。実際、上記の内容だけ見るとサクサク作っていけたように見えますが、何回も打つ手がなくなって途方に暮れていました(笑)そのようなときは、知り合いのエンジニアの方や、助教の先生方に助けていただき、なんとか切り抜けて行きました。基本は個人プレイなのですが、どうしようもなくなった時に、周りの知識と経験を持った方々の存在は大きかったです。やはり最後はGoogle先生よりもリアルな先生にお世話になりました。

と、いうことで、開発を終えて、これからこのWebアプリをもって、再度、夏合宿で訪れた島根県隠岐郡海士町に行ってまいります。このシステムが、高校生の皆さんのより質の高い学びにつながればと思っています。


さて、次回は第3回、M2池田さんです。

2014.10.16

【夏休みの過ごし方】ファシリテータとの積極的な研究相談

皆様いかがお過ごしでしょうか.
M2の吉川遼です.

さて,今回からの山内研ブログは「山内研メンバーの夏休みの過ごし方」というテーマで,7人それぞれが授業,研究,実践,学会や合宿など様々な角度から自分たちの夏休み中の生活や研究の進め方について書いて参ります.

僭越ではありますが,1回目の今週は吉川遼が担当致します.

さて,山内研の夏学期ゼミは7月最終週に終わってしまうため,冬学期ゼミの始まる10月第1週まではゼミがありません.

もちろん,やるべきことがないかといえば,むしろ学期中に比べると忙しいのではないかと思うくらいです.

例えばM1であれば,
◦夏合宿の準備,宿の手配,先方とのスケジュール調整
◦学際情報学府講義「文化・人間情報学研究法Ⅲ」でのワークショップ企画・実践
◦その他「学際情報学概論Ⅱ」などグループワーク

M2やDであれば
◦日本教育工学会全国大会で発表するための原稿・ポスター作成
◦研究のプレ実践,システム開発
◦実験参加者募集,実践先との交渉

が主なイベントでしょうか.

これに加え,研究室の学生は夏合宿で発表する学者についてまとめたり...,と「夏休み」という字面とは裏腹に,課題やミーティングであっという間に時間が過ぎ去り,Facebookにアップロードされた海や花火やバーベキューの写真を横目に,大学内で課題に忙殺されていたら10月...と,時の流れに精気が失われる大学院生も少なくありません.

さて,このように毎週定期的に行われていたゼミ発表がなくなり,様々な課題をこなす必要がある夏休みにおいては,どのように自分の研究を進めていくのか,すなわち停滞せずにいられるかが鍵となってきます.

特にM2の昨年や3年目になる今年度に関して言えば,JSETでの発表や修論を見据えた進捗が求められるため,密に研究のご相談をさせてもらっています.

僕はとてもスケジューリングが下手な学生で,生活にバッファが持てないために,何かイレギュラーな事が入ってしまうとすぐ頭がパンクしてしまい,方向性を見失いがちです.

しかし,そうも言ってられない時期ではあるので,なんとかバッファ不足によるパンクを防ぐために,現在ファシリテーターとして研究のアドバイスを頂いている池尻さんに,この夏休みに入ってからは週に1回の頻度で研究の相談をさせていただいております.このペースは通常月1-2回で研究の相談を行っている学期中と比べると倍近い回数です.

ロジックの微妙な軌道修正開発コンテンツの中身に関する本質的な議論であったり,プレ時にどのポイントを見て改善に繋げるか,など具体的で細やかなアドバイスを頂いているお陰もあり,千鳥足の牛歩ではあるのですが,何とか自分の方向性を道中見失わずに次のステップへと進むことが出来ていると感じています.

また,僕の場合は新しいデバイスを組み合わせて何かシステムを開発する,という技術ドリブンな側面もあるため,開発を進めていく中で様々な制約が生じる場合もあります.そのような場合に研究の方向性と照らしあわせつつ,ある種の最大公約数的な落としどころを見つけなくてはならないのですが,頻繁に議論を重ねることで,開発が停滞せずに済む,という利点はあると思います.

もちろん,頻繁な進捗報告や研究相談がどの人のどの場面においても良いことであるとは限りませんし,やみくもに研究の進捗を報告しても,新たな問題点が生じていない限りは,あまり建設的な議論になるとも思えません.

初期の先行文献レビューの時期や,フィールドワークやプレ実践などを実施している場合には,ある程度回数を重ねてそれなりにデータが集まり,分析できてから報告することが望ましいと思いますが,今回の僕のように新しいデバイスを用いつつ何かを開発するといった,未知数が多い場合にはこのような形がよいのかもしれません.

お忙しい中,毎回ご相談に応じてくださる池尻さんには本当に感謝しきりです.

しかし裏を返せばそれだけ僕の進捗が危機的状況であるということなので,研究以外のあれこれに気を取られずに,他の優秀な研究室のメンバーを見習って,早く開発を終わらせ,ある程度形にできればと思います.

次回はM2の青木くんです.一体どんな夏休みを過ごされたのでしょうか.お楽しみに.

吉川遼

2014.10.12

【学者紹介】Jerome S. Bruner

みなさま、こんにちは。修士2年の中村絵里です。

秋の夜長。
夜ごと庭から流れてくる虫の声が、このところの急な冷え込みのためか、元気がなくなってきたように感じます。
今年は台風の勢いがすさまじいですね。電車が動かず外に出られない日こそ、集中して研究に取り組みたいと思います(が、子ども達の小学校が休業になると、家の中の雑念もすさまじいです、、、)

【学者紹介】シリーズ最終回となる今回は、Jerome S. Bruner (1915年~)についてご紹介します。

ジェローム S. ブルーナーは、米国の心理学者で、認知心理学、教育心理学、教育哲学などに多大な貢献をしています。ブルーナーの自伝『心を探して』によると、彼の子ども時代は、将来心理学者になる道とは、まるでつながっていなかったとあります。生まれながらに視覚障害があり、2歳を過ぎてから手術を受けるまでほとんど盲目だった彼は、その後、視覚を得てからも眼鏡の視野の狭さを補完するために、頭を動かさなくてはならず、その様子がいかにも用心深く見られたのではないか、と述べています。少年時代を利発で快活だったと回顧するものの10代以前の学業成績には、将来学者になることを予想させるようなことは何もなかったそうです。これは、後に彼に多大な影響を与えることになる、早熟で非凡な才能を発揮していたピアジェやヴィゴツキーとは対照的です。

ブルーナーは心理学者の道に「たまたま出くわした」と述べており、デューク大学からハーバード大学大学院へと進学する過程で、心理学の世界に傾倒していったことが窺えます。
デューク大の心理学科では、「学習とは受動的かつ漸次的なもので、同じものを映し出していくようなものなのか、もしくは、段階的で不連続で、仮説によって進むものなのか」という議論がおこりました。ブルーナーは、前者の意見に反対し、学習を受動的で個別的な行為とはみなさず、学習者を社会的に位置づけられている存在だとみなしました。彼は、知覚を一種の思考ないしは問題解決として研究し続け、心は文化への参加を通じてのみ最大限の可能性に達することができると考えました。

ブルーナーは教育に対する「心理-文化的アプローチ」として、次の原則を挙げています。
1 見通しの原則
2 制約の原則
3 構成主義の原則
4 相互作用の原則
5 外在化の原則
6 道具主義
7 制度の原則
8 アイデンティティと自尊心の原則
9 物語の原則

このうち、相互作用の原則(interactional tenet)については、ヴィゴツキーの最近接発達領域(Zone of Proximal Development)から多大な示唆を得て、幼児の学びをサポートする上で、経験あるtutoringによる介助が重要な役割を果たすことを示しました。このプロセスをブルーナーは足場がけ(scaffolding)と定義し、David Wood、Gail Rossと共にThe Role of Tutoring in Problem Solving(1976)を発表し、3、4、5歳児がブロックをピラミッド型に積み上げる際におとなが介入する段階を分析しています。これによって、彼はデューク大で巻きおこっていた議論の答え、すなわち「学習が段階的なもので、他者との社会的・文化的文脈から醸成されていくものだ」ということを、導き出していたともいえます。

ブルーナーの乳幼児期の発達に関する研究は、米国の教育プログラムにも影響を与えています。貧困層やマイノリティの子ども達が、初等教育の初年次を脱落することなくスムーズにスタートできるようにするために取り組まれたヘッド・スタート・プログラムは、ブルーナーの研究に起因しています。このプログラムは、イギリスで女性が労働力として駆り出された社会背景の中、手ごろな価格の保育を保障するために導入されたシュア・スタート・プログラムを参考として、1960年代半ばに、米国でジョンソン大統領が開始したものです。この政策では、貧困層の家族への包括的サービスを提供し、子どもの就学前の読書や基礎的な計算などに焦点をあてた発達支援を行っています。同プログラムには、一定の効果(例えば、プログラム参加者の犯罪率減、退学率減、社会福祉給付の受給減等)が見られましたが、ブルーナーは、対象となる子どもの欠損を補償するという概念に懸念を示していました。しかしながら、研究の重要な知見が得られたことも確かです。プログラムでは、親やおとなが、子ども達と一緒に遊び、彼らと対話し、時には子ども達に主導権を渡すことが、その後の学校教育で成功するのに役立つと考えられました。つまり、相互作用と自己主導性を通して、子どもの学習や心の発達を促すことが重要だとされたのです。

1960年代に「ジョン・デューイ以来の教育における最も大きな影響をもつ人」として、既に認められていたJ.S.ブルーナー。関心領域は、実験心理学(動物実験)、社会心理学、認知心理学、教育論、教授論、発達心理学、幼児教育論と幅広く、このブログではその一端しかご紹介できていません。人間の心と思考の研究を続け、それらの教育との関わりについて多くの業績を残しているブルーナーについて、さらに知りたい方は、以下の参考文献を読んでみてはいかがでしょうか。

秋の夜長の読書、おすすめです。


<参考文献>
ジェローム・ブルーナー著, 田中一彦訳(1993)心を探して ブルーナー自伝.みすず書房, 東京
ジェローム・ブルーナー著,田中一彦訳(1998)可能世界の心理.みすず書房,東京
J.S.ブルーナー著,鈴木祥蔵・佐藤三郎訳(1963)教育の過程. 岩波書店,東京
サンドラ・シュミット著,野村和訳(2014)幼児教育入門―ブルーナーに学ぶ.明石書店,東京
佐藤三郎編著(1968)ブルーナー入門.明治図書新書,東京

【中村絵里】

2014.10.03

【学者紹介】Jean Piaget

みなさま、こんにちは。
M1の松山です。
冬学期のゼミがスタートしました。
入学から半年が経ちましたが、まだまだ知識不足を感じることが多い毎日です。
読書の秋ということもあり、本や論文を読む時間を増やしていきたいと思います。

さて、第6回の【学者紹介】では、ジャン・ピアジェについて紹介いたします。
ピアジェはスイスの発達心理学者で、発生的認識論を提唱したことなどで知られています。
今回はピアジェの生涯と提唱した理論についてまとめていきたいと思います。

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Jean Piaget (1896~1980)

■ピアジェの研究人生
ピアジェの研究分野は、生物学→哲学→心理学という流れで変化していきます。
スイスのニューシャテルに生まれたピアジェは、生きものに興味をもつ少年でした。
わずか10歳のときに白スズメの観察記が博物館雑誌に掲載され、その後、博物館で館長の助手として軟体動物学の研究をするようになります。
17歳のとき、神父からベルクソンの「創造的進化」の話を聞いたことをきっかけに、今度は哲学の世界にのめり込みます。
しかし、科学実験で説明できない哲学に対して疑問も感じていました。
成人後、子どもの知能テストのフランス版をつくるアルバイトを経て、子どもの精神分析について考えるようになったピアジェは、ルソー研究所の研究主任に就任し児童心理学の研究を始めます。
3人の子どもに恵まれてからは、自身の子どもの行動を観察して認知発達研究を行いました。
ピアジェの発達心理学の研究は、他の領域の学問に触れながら確立されていったと言えます。

■構造主義
ピアジェは構造を、知性の発達に従って別の構造に再構成されるものとして捉えました。
人間の心や認識を一種の構造体としたとき、その構造体がゼロの状態から書き込まれていくのではなく、構造の変化によって発達するという考え方を「構造主義」と呼びます。

■構成主義
構造から次の構造へ変化するプロセスは主体と環境との相互作用によって成り立つ、とピアジェは考えました。
対象に変化を加えて自分の中に取り入れること(=同化)と自分自身を変化させて対象に適応させること(=調節)の相互作用プロセスを経て、新たな認識を構成するという理論を「構成主義」と呼びます。
また、ピアジェは認識の道具として「シェマ」という概念を提唱しました。
シェマは「叩く」や「吸う」などのような、物事を考えたり、見たり、行動するときに繰り返される1つの活動単位を意味します。
同化は、言い換えると、シェマを外界の対象に当てはめて既存のシェマに統合することであり、調節は、外界に合わせて自分のシェマを組み替えることであると言えます。
さらに、同化と調節のバランスをとりながらシェマを構成していくことを「均衡化」と言います。
「シェマ」「同化」「調節」「均衡化」の4つがピアジェの提唱した認知発達においての基本的概念です。

■認知発達段階
ピアジェの理論では、認知は次々に新しい構造をたどる中で発達していくと考えられますが、認知発達には段階があるということも彼によって論じられました。
ピアジェの提唱した認知発達段階の段階ごとの特徴を以下にまとめます。
感覚運動知能期(0歳~2歳)
・感覚と運動によって対象を認識する
・言語取得を準備するまでの段階
前操作期(2歳~7歳)
・イメージ(表象)が生じ、言語を取得する
・「自己中心性」に特徴づけられる段階
具体的操作期(7歳~12歳)
・数、量などの科学的な基礎概念を獲得する
・他者と相互作用できるようになる
形式的操作期(12歳~)
・目に見えないものから推論できるようになる
・他者の視点から思考できるようになる

■自己中心性
発達認知段階の前操作期の特徴である「自己中心性」とは、この時期の子どもが、自分と対象の間の相互関係を捉えることや他人の視点に立つことが難しく、自分の視点や経験に中心化してものごとを捉えている状態のことです。
自己中心性から脱出することを「脱中心化」と呼びます。

■発生的認識論
ピアジェは認識論を科学として説明することに拘り続けました。
学問が科学であることの条件として、(1)研究対象を十分に限定すること、(2)限定された領域内で問題の解決を可能にする固有の研究方法を持つこと、この二つをピアジェは挙げています。
ピアジェ以前に認識論を語ってきた学問である哲学の場合どうでしょうか。
(1)は、研究対象を限定しないため該当しません。
限定するどころか、哲学は実在の全体を扱おうとする学問です。
(2)に関しても、反省的方法という、どの学問にも共有する研究方法しかない哲学は当てはまりません。
そこで、認識論を科学にするために提唱されたのが発生的認識論です。
発生的認識論は、(1)研究対象を諸認識の拡大のメカニズムに限定し、(2)形式的分析と発生的方法という固有の研究方法を生み出しました。
- - -

研究対象を小中学生としている私にとって、ピアジェの発達心理研究は参考になることが多くありました。
特に具体的操作期から形式的操作期への変移についてもっと深く学びたいと思います。

さて、次回で今テーマ【学者紹介】は最終回になります。
最後までお楽しみに!


【松山彩香】

- - - 参考文献 - - -
波多野完治(1986)『ピアジェ入門』, 国土社
波多野完治(1982)『ピアジェ双書1ピアジェの発生的心理学』, 国土社
波多野完治(1983)『ピアジェ双書4ピアジェの発生的認識論』, 国土社
波多野完治(1983)『ピアジェ双書6ピアジェ理論と自我心理学』, 国土社
白井桂一(2005)『ジャン・ピアジェ 21世紀への知』, 西田書店

2014.09.25

【学者紹介】John Dewey

こんにちは。

夏休みの終わりが刻一刻と近づいており、戦々恐々とした日々を過ごしております、
修士1年の逆瀬川です。

さて、1ヶ月前より、お送りしています【学者紹介】ですが、今回は、経験学習の生みの親であります、ジョン・デューイについて紹介したいと思います。

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ジョン・デューイは、アメリカを代表する哲学者であり、教育思想家です。
生徒が受け身の姿勢で学ぶ伝統的教育を、個性の表現と育成を阻止するものだと強く批判し、進歩主義教育運動を展開しました。
今回は代表的なデューイの思想を紹介したいと思います。

◆知性道具主義
全ての観念というものは、実践的に役にたたなければ意味がないとする「プラグマティズム」という19世紀後半から20世紀にかけて主にアメリカで発生した思想を発展させ、デューイは、自己の経験を推し進める過程において、だんだんに知性を発達させ、さらにその知性を道具としてあたらしい経験にたちむかう知性道具主義を確立しました。

◆経験主義
「学習者個人の成長」と「よりよい社会をつくる」という社会との目的を、達成するための教育は、経験によって基礎付けられなければならないという経験主義を提唱しました。
ここでは2つの代表的な原理が存在します。
①連続制
ある経験が、その後の経験に影響をおよぼし、その後の経験の質も変化するというものです。
②相互作用
正常な経験は、周囲の環境に代表される客観的条件と自己の変化という内的条件の相互作用によってなされるものということです。
この2つの原理は、互いに独立している訳ではなく2つセットとなっている経験こそ真の経験であるとデューイは説きます。


◆社会における学校の必要性
人間は、きまった期間しか生きることができないため、集団はその特異性を保つためには、未成熟な成員に、成熟した成員の関心や、知識、技術を教えなければなりません。
また、人は無関心な状態で生まれてくるため、積極的な関心を抱かせる必要があります。
人々が共同体、つまり社会を形成するために共通にもっていなければならないものは、目標、信仰、抱負、知識といったことへの共通理解でなのですが、文明が進歩するにつれて、子どもたちの能力と大人たちの仕事の間のギャップは拡大し、大人たちの仕事に直接参加することによる学習は難しくります。 
つまり、社会の伝統が非常に複雑になり、その社会的蓄積の大きな部分が文書として書き留められ、文字記号によって伝達されるようになるとき、フォーマルな学校の必要性がでてくるとデューイは説明します。

◆教育実践
1896年、シカゴ大学の附属小学校として「デューイ・スクール」を開講し、発達や学習についての心理学的原理と社会生活を通じての仲間づくりの原理とを、結びつけた実験ができる学校がほしいという願いを実現しました。
学校の課業の中に、技術・家庭を取り入れ、従来の社会において個人の創意工夫によって行われてきた作業に従事させるだけでなく、これらの作業が、人間社会に対してもっている本質的な意義を、現代において生かそうと考えました。


◆デューイへの批判
現代にいたるまで、教育界に大きな影響を与えているデューイの思想ですが、多大な貢献をしている一方で、批判も生じています。その中から代表的な2つを紹介したいと思います。
①這い回る経験主義
生活経験を重視するあまり、伝統的な学問体系の教授が軽視され、断片的な学習に終わって知識の積み重ねが不十分であったり、また、活動という手段が目的化された活動主義に陥りがちなどの批判が起きています。
②学校への過度の期待
教育を、社会の最高の機能と考え、複雑な民主的社会の成立を教育によって保障をするという考え方は楽観的であるとの批判もあります。

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 デューイが残した研究蓄積は、もちろん素晴らしいのですが、彼の生き様そのものも魅力的であり、知的好奇心にあふれたデューイは、教育にとどまらず、政治学、論理学、倫理学に至る、幅広い著作を晩年まで書き続けます。
私の研究関心である、協同学習の源流にもデューイの思想が息づいているように思います。
古典学者であるデューイの思想を深く学んでいく作業は、自らの研究だけに留まらず、意思とは何か、自由とは何か、という自分の人生に架かる思慮になったと感じています。

【学者紹介】も、残すところあと2回となりましたが、私もこのブログを通して、研究者の思想について学んでいきたいと思います。

【逆瀬川愛貴子】

デューイ著, 宮原誠一 訳 (1935) 「学校と社会」, 岩波文庫
デューイ著, 市村尚久 訳 (1938) 「経験と教育」, 講談社学術文庫
デューイ著, 松野安男 訳 (1975) 「民主主義と教育」, 岩波文庫
山田英世 (1966) 「J. デューイ」, 清水書院
笠原克博(1972) デューイの思想形成過程 : ヘーゲルとの関係を中心に, 九州工業大学研究報告. 人文・社会科学20, pp,1-19
光成研一郎(2000) デューイの探求(反省的思考)の教育的意義について思考力要請の観点から, 人文論究50(1):44-55

2014.09.24

【学者紹介】ヴィゴツキー L.S.Vygotsky


みなさま、こんにちは。M1の青木翔子です。
去る9月19〜21日に、日本教育工学会に行って参りました。
諸先生方、先輩方の研究発表や、実践の発表などに大変刺激を受ける毎日でした。
合宿や学会など盛りだくさんの夏休みもそろそろ終わりですが、ブログ【学者紹介】はりきって参りたいと思います。

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ヴィゴツキー L.S.Vygotsky

私が今年の夏合宿で担当しましたのは、旧ソヴィエトの心理学者 L.S.Vygotsky(1896-1934)です。
彼は、心理学の学問の方法論から問い直し、発達心理学や教育心理学などに多大な影響を与えた学者です。

彼の心理学を、3つの観点からみていこうと思います。
① 心理的道具
② 心的機能の社会的起源
③ 発達の方向性

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① 心理的道具

ヴィゴツキーは、マルクス・エンゲルスの人間と生産を媒介する道具に関する考えを、人間の精神機能の発達に応用させました。
つまり、人間と社会の間には、道具の媒介があると考えたのです。
人間は、心理的記号の助けをかりて、外からの働きかけから脳に新しい結合をつくり出すと考えました。
高次の精神活動は、言語や、社会文化などの記号によって媒介された人間と社会の関係から生じるのです。
スクリーンショット 2014-09-24 08.59.44.png
また、このようなA-B間を媒介するXを含めた3者の関係を、人間活動の最小単位として彼は考えました。
この3角形は、彼の理論を理解する上で根本となるもので、以下の②〜③にも繋がります。


② 心的機能の社会的起源
人間と社会が、心理的記号によって媒介されているとして、それはいかにして精神機能を発達させていくのでしょうか。

彼は、高次精神機能は、精神間(interpsychic)から精神内(intrapsychic)へ転化するとしました。
つまり、子どもは、母親との会話や社会的な状況としての精神間機能を、内化させ、自分自身への問いかけや指示だしなどの精神内機能へ転化させることで、高次精神機能としての思考などを行うようになると考えました。

これをより理解する際のキーワードとして、「内言」というものがあります。
「内言」とは、思考を行うような(意味処理が優位であり、音声を伴わない)心のなかの発話のことを指します。
その反対に、コミュニケーションなどを行うような(伝達機能が優位であり、音声を伴う)発話を「外言」と呼びます。
彼は、社会的な外言は、内化され内言となり、それによって思考などの高次精神機能は発達すると考えました。
子どもは、話しことばの発達から、書き言葉への発達へ移行しますし、子どもの書き言葉の水準と話言葉の水準にへだたりがあることを考えると理解できるのではないでしょうか。


③ 発達の方向性
③−1生活的概念と科学的概念
②をふまえると、発達は、心理的道具を媒介とし社会的なものを内化させながら、一方向へのびていくように考えられます。
しかし、ヴィゴツキーは、発達には二方向あると考えました。
ひとつは、生活的概念の発達の方向であり、具体性と経験の領域から発達していきます。
もう一方は、科学的概念の発達であり、こちらは自覚性と随意性の領域から発達していきます。
子どもの科学的概念の発達は、(ある一定水準まで生活的概念が発達していることが前提となりますが)生活的概念の発達が辿ったすじ道とは反対にすすむものとして、ヴィゴツキーは定義しました。

具体的な例を考えてみます。
「水」という概念を、子どもたちは、学校で習う以前の生活で、雨やお風呂、飲み物など様々な体験から経験的に学習しています。
そして、その後、液体でありH2Oである「水」を科学的な概念として、経験とは違う方向から再び学びます。
このような例を考えると、2方向の発達について理解できるのではないでしょうか。


③−2 最近接発達の領域 Zone of Proximal Development
以上までで、人は社会との関係のなかで、心理的道具を媒介としながら、社会を内化しながら発達し、さらにその発達は生活的概念と科学的概念の2方向から伸びていくものだということがわかりました。
では、そのような発達はどのような進み方をするのでしょうか。
また、それは自動的に行われるものでしょうか、それとも教育によって行われているのでしょうか。

この問いにこたえる上で重要になるのが、彼の有名な最近接発達の領域の理論です。

彼は、発達過程と教授ー学習過程の関係を考えるうえで、
ピアジェらの"発達が教授ー学習に先行する"という考えや、ジェームズらの"発達は教授ー学習と平行である"という考えを否定しています。
彼は、教授ー学習という社会的な文脈は発達過程に多大な影響を与えている一方で、子どもたちは内言や随意性などを自身で獲得していると考えました。

そこで、ある実験を行います。
ある発達水準を測定するテストで、7歳と診断された子どもが2人(AとBとします)います。
つぎに、2人に、援助ありでテストを継続していきます。
すると、Aは、援助ありだと9歳の問題まで解くことができる一方で、Bは、援助ありでも7歳半の問題までしか解くことができませんでした。
スクリーンショット 2014-09-24 09.40.03.png

このような援助によって可能になる知的水準の差異についての理論が、最近接発達の領域です。
最近接発達の領域とは、「自主的に解決される問題によって規定される子どもの現在の発達水準と、おとなに指導されたり自分よりも知的な仲間と共同したりして子どもが解く問題によって規定される可能的発達水準とのあいだのへだたり」のことを指します。

この最近接発達の領域は、模倣の重要性や教育はいかにあるべきかということを示唆してくれます。
実際にヴィゴツキーは、「子どもがすでに何を学んだのかではなく、むしろ何を学ぶことができるのか」について考え、指導するべきであると述べています。


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他にも、彼は、芸術について、情動についてなど多くのことについて言及しています。
彼は、最終的には、人間の「意識」の問題を扱う心理学を、社会、人格などとの関係から解き明かそうとしていたと言われています。
しかし、残念ながら彼は38歳という若さでこの世を去ってしまいました。
ヴィゴツキーの残した、発達から考える教育、学習についての理論は、私たちが学習を研究する上でたくさんの示唆を与えてくれます。
そんな彼に出会えた夏に感謝しながら、今回のブログはこの辺りで失礼いたします。

青木翔子


◆参考文献
ヴィゴツキー著, 柴田義松訳(1962)『思考と言語 上』明治図書出版
ヴィゴツキー著, 柴田義松監訳(2005)『文化ー歴史的精神発達の理論』学文社
ヴィゴツキー著, 土井捷三・神谷栄司訳(2003)『「発達の最近接領域」の理論』三学出版
柴田義松(2006)『ヴィゴツキー入門』寺子屋新書
神谷栄司(2005)「ヴィゴツキー理論の発展とその時期区分について(Ⅰ)」 社会福祉学部論集
神谷栄司(2006)「ヴィゴツキー理論の発展とその時期区分について(Ⅱ)」 社会福祉学部論集

2014.09.14

【夏の特別編】山内研夏合宿レポート

みなさま、こんにちは。
9月となり急に涼しくなってきましたね。

さて、現在【学者紹介】のテーマでお送りしている山内研ブログですが、
今回は夏の特別編ということで、9月1日〜3日に行われた山内研の夏合宿の様子をレポートさせていただきます。

今年は島根県隠岐郡の海士町に行ってまいりました。
近年、まちおこしの取り組みで一躍有名になった海士町。
一体どんな発見があるのか、わくわくしながら合宿当日を迎えました。

1日目

早朝の飛行機で出発し、フェリーに乗っていざ海士町へ。
到着して早々、きれいな海とおいしいご飯を堪能して気分が高まります。

一日目は、現地で活動されている方々に海士町を紹介していただきました。
島の暮らし、産業、学習環境など、興味深いお話が盛りだくさん。
みなさまの海士町に対する熱い思いが伝わってきます。

そして夜は、そんな海士町のみなさまと山内研メンバーとの懇親会がありました。
島根県と東京都の距離を考えると、こういった面々で交流できるなんて夢のような機会です。
それぞれの活動についてお話を伺ったり、山内研の研究の話をしたりして盛り上がり、とても楽しい時間となりました!

2日目

翌日は、山内研合宿に欠かせない「学習プログラム」を行いました。

まずは恒例の学者レビューの発表から!
現在のブログテーマでも紹介していますが、山内研の夏合宿では、代表的な学者の人生や理論について学生が調べて発表するのが定番なのです。

今年は各自レビューする中で生じた疑問点を投げかけ、ディスカッションする時間も設けました。

お昼は豪華にお寿司!
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満腹になったところで、続いて学習プログラムその2を行います。
2つ目の学習プログラムでは、海士町をフィールドにした研究計画を立てるグループワークを行いました。
調査グループ、実践グループ、開発グループに分かれ、真剣に研究案を考える山内研メンバー。
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発表の際には、隠岐國学習センターの豊田さんがゲストに来てくださり、研究計画に対しコメントをいただくことができました。
豊田さんのコメントから、研究として成り立つことと現場で役に立つことが必ずしも一致しないことに気がつき、大変勉強になりました。

そして夜は、隠岐國学習センターを訪問し、高校生との交流プログラムに参加しました。
学びの質を高める方法について、高校生の中に山内研メンバーも混じってディスカッションします。
自らの学びについて深く考え積極的に発言できる高校生たちに驚き、スタッフのみなさまの熱意が生徒にも伝わっていることを感じました。

そしてここでサプライズが・・・!
我らが青木さん(M2)が、ご自身の研究領域である「自己調整学習」と現在開発中のシステムについて説明することに。
学習の計画と実行を支援する青木さんのシステムに、高校生たちから「使いたい!」との声がたくさんあがっていました。
青木さん、大活躍でした!
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3日目

最終日は、隠岐の景色を堪能すべくハイキングに行きました。
崖を登る最中に、たくさんの馬や牛に遭遇!
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山内先生も楽しそうです。

高所からでも海の底が見え、隠岐の海の美しさを再認識しました。
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そしてお昼は有名なサザエ丼とサザエカレーを食べ、再びフェリーに乗って帰路へ。

海士町の方々のご善意、ご協力により、本当に有意義な合宿になりました。
ありがとうございました!

次回のブログは、ふたたび【学者紹介】に戻ります。
引き続きお楽しみに!

【M1一同】

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