2011.06.23
先日、PBSによるアメリカの教室でのICT活用状況調査がリリースされました。
それによると、前年に比べて順調に利用が伸びており、62%の教師は一週間に2回以上、24%の教師は毎日授業でデジタルメディアを使っているそうです。
日本では類似の調査として文部科学省の「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」があるのですが、この調査では教員のICT活用指導力(教えることができるかどうか)は聞いているのですが、実際にどれぐらい使われているかが項目に入っていないため比較することができません。項目の改善を望みたいところです。
直接比較できる調査はありませんが、仕事柄学校現場を見せていただく機会も多いので、日本の現状は理解しているつもりです。残念ながら、利用率についてはアメリカに大きく遅れをとっていると言わざるをえません。
日本の教室でICTが利用されない理由は複合的なものであり、一つの問題に還元することはできません。教員文化や授業方法の違いもありますし、教員をサポートする体制も違います。その上で、個人的に一番課題だと感じていることは、教員がウェブにあるオープンな教育的資源を教材として利用しようとしているかどうかという点です。
PBSの報告書にもあるように、アメリカの学校のICT活用はそれほど高度なものではありません。オンラインにあるビデオクリップを見せるような使い方が大半です。それでも、記事のクリップにあるように「使って便利だからますます使いたくなる」というポジティブフィードバックが生まれていることが重要だと思います。
ウェブ上にはたくさんの教育的資源がありますが、教員の有志が自分たちが授業で使って便利だったリンク集を作り、Twitterで共有することが日常的に行われています。このような教育関係者の草の根的な動きが、教室でのICT活用を支えています。
また、大学や公共機関をはじめ、民間企業のCSR活動などでも、学校で教材として使ってもらうことを意識したウェブサイトを多く展開しています。ウェブ上に教育的資源がたくさん用意され、教員がその中から授業に使いやすい物をピックアップできる情報の生態系ができているのです。
アメリカと日本では国の大きさも違いますし、英語と日本語のレベルで情報資源に差がありますので単純な比較はできませんが、日本でも同じようなポジティブフィードバックの仕組みができるのが望ましいのではないでしょうか。そのためには、教員をはじめ教育の情報化に関わる人の目が、デバイスではなく授業に向く必要があります。インフラの整備は大事ですが、それだけで子どもたちの授業がよくなるわけではありません。具体的に授業に役立つオープンな教育的資源(教材や人的ネットワーク)が増えるよう、努力していく必要があります。
【山内 祐平】
2011.06.18
【今年の研究計画】シリーズ,今回は博士課程2年の池尻良平が担当致します。
私の今年の研究計画は、「歴史的解決策を現代の問題の解決方法の生成に応用する
力を育成するゲーム学習のデザインと評価」です。
近年、海外の歴史学習研究では、歴史を日常生活に結びつけて学ぶことの重要性が指摘されており、同様のことは日本の高等学校学習指導要領にも見られます。実際、歴史哲学の分野でも歴史を学ぶ効果として、「未来に対してのオルタナティブをもたらす」ことが指摘されています。
ところが、このように歴史上の政策をアナロジーにして現代の問題解決のオルタナティブを生成させる効果的な歴史学習は研究されていません。そこで、世界史上で経済活性化の政策を行った人物を16人選定し、彼らと高校生が同じ目線で協調的に現代の日本の経済を活性化させる方法を考えていくというゲームをデザインしました。
このゲームでは、高校生を2人対2人に分け、それぞれ歴史上の人物カードを引いてその政策をアナロジーにして現代の日本の経済を活性化させる政策に作りかえることでポイントを獲得できます。相手のチームはその政策が現代の文脈に合っているかを確認し、改善策を言うことでポイントを獲得できます。
評価方法としては、このゲームを通して高校生が現代の日本の経済活性化の方法をより多様に思いつけるようになったかをテストします。予備実践の結果では、ゲーム使用前よりゲーム使用後の方が生成数が増加しただけでなく、文化的・社会的な政策の割合が向上していることがわかりました。また、このゲームという特殊な場において歴史の知識が現代の文脈に沿ってゆっくりと転移していったかどうかもゲーム中のプロトコルから検証する予定です。
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3月の地震以来、個々人の経験則では将来が予測しにくい状態になっています。こういう時にこそ、歴史という人類の経験則を学び、よりマクロな観点から未来への指針を増やすことが必要になってくるのではないかと考えています。
6月下旬に高校生を対象に本実践を行う予定ですが、研究上の狙いとは別に、高校生が持っている暗記科目としての歴史のイメージを、未来に光を与えてくれる歴史のイメージに変え、彼らの未来に少しでも役に立つ実践をしてあげたいなと思っています。
[池尻 良平]
2011.06.16
ここ数年、ソーシャルメディアで人々がつながることによって起きる学習が "Social Learning" と呼ばれるようになっています。
この言葉を日本語でどう訳すかはなかなか難しい問題です。素直に訳せば「社会的学習」になりますが、この言葉はカナダの心理学者Albert Bandulaが提唱した、他者を観察・模倣することによって学習が起こるという「社会的学習理論」とかぶります。観察や模倣はソーシャルメディアによる学習の中でも見られる重要なプロセスですが、ソーシャルメディアによって今までつながらなかった人の間に関係ができるという意味が欠けています。
仕方がないので今まで「ソーシャルラーニング」と表記してきたのですが、先日ふと「社交的学習」であればこの語感が出せることに気づきました。ソーシャルメディアによって人のつながりを積極的に開拓し、他者の行為や発言から学ぶことが、これからの時代の学習スタイルなのかもしれません。
【山内 祐平】
2011.06.11
あいにくの雨が続きますが,いかがお過ごしでしょうか。
【今年の研究計画】,今回は博士課程1年の伏木田が担当いたします。
「教員と学生,学生と学生間で双方向の対話が行われる共同体的な学習空間」
大学におけるゼミナールをあえて操作的に定義するならば,それが一番しっくりくるように感じています。そうした学習空間を教員はどのように構築しているのか?この問題意識が,博士研究の出発点です。
これまでレビューをしてきたゼミナールの実践に関する事例報告や,欧州のゼミナールに関する研究などを踏まえ,学習成果の面から見た良いゼミナールの条件は以下の2つに絞ることができると考えています。
学生が専門的分野の学問探究を通じて,
・汎用的技能の成長を実感している
・高い充実感を得ている
もちろん,理解の深化や知識の習得など,他にもたくさんの教育効果をゼミナールが有していることは実感としてだれもが持っているかと思います。けれども,高等教育において学士力を始めとする多様な学習成果に注目が集まり,知識を活用しながら自分たちで物事を思案する力が求められる昨今では,基本的な読み書き能力や批判的思考力,問題解決力や対人関係力などを包含する汎用的技能に焦点化することは意義があると考えています。
修士研究では,ゼミナールにおいて学生の汎用的技能の成長実感や充実度に影響を与えているのは何か?問題意識から,ゼミナールでの課題に取り組む意欲や,実際に行われている活動および教員による指導,ゼミナールでの学習を通して育まれる共同体意識などに焦点を当て,それらと学習成果との関係性を検討しました。
その結果,私が想定した2つの学習成果が得られるゼミナールでは,
・学生が他の学生と関わりながら意欲的に学んでいる
・学生同士が互いにつながっているという共同体意識を持っている
という現状が見えてきました。そして,そうした状況を生み出しているのは,議論や発表,グループ作業を通じて行われる「教員による指導」だということが明らかになりました。
(詳細は,http://wakako-fushikida.net/masterthesis/top.htmlをご覧ください。)
そこで博士研究では,ゼミナールが教員個人の「技」に支えられ,多様性や密室性を理由にこれまで「技」の比較や一般化が行われてこなかった現状を背景に,複数の教員を対象に調査を行い,そうした「技」の共通点および相違点を見出すことを目的にしたいと考えています。
学生が意欲的に学び,互いにつながっているという共同体意識が育まれ,汎用的技能の成長実感が高まりつつ充実度の高いゼミナールをつくるために,学習環境の構築において何を意図し,どのような工夫をしているのか。
この点を明らかにすることができれば,ゼミナールのより良い教授方法の提案および,改善に向けての指針を示すことができるのではないかと期待しています。
[伏木田稚子]
2011.06.08
▼お知り合いに高校2年生の方がいらっしゃれば、ぜひご紹介ください。
東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学講座では、2010 年度より(株)ベネッセコーポレーションと共同で、高校生がソーシャルメディアを活用し、高校生同士や大学生・社会人とのコミュニケーションのなかで学ぶことを支援するソーシャルラーニングプログラム「Socla(ソクラ)」を実施しています。
本プログラムでは、高校生・大学生・社会人をソーシャルメディアでつなぐことによって、高校生が学ぶ意味について体験的に理解し、高度に進展する情報化・国際化社会において、自らの学びを自ら切り開いて行けるような人材の育成を目指しています。
今年度は「この夏、東大でインターネットを使って進路について考えてみよう!」をキャッチフレー
ズにオンラインサマースクールを実施します。進路に関するテーマについて、主体となる高校生と、第一線で活躍している社会人、大学生などのサポーターとをFacebook で結び、調べ学習を主体としたプロジェクト学習を行います。
つきましては、本サマースクールに参加する高校生(2 年生)を募集しています。実施期間や応募要件は次の通りです。
日程:平成23 年7 月30 日(土)~8 月13 日(土)
内容:「大学生活」「就職と職業」「ライフプランニング」などをテーマに、自分たちが設定した問い
について、インターネットを使って調べ学習を行ったり、ソーシャルメディアを通してサポーターの大学生や社会人と交流したりしながら、問いに対する自分なりの答えを導き出していきます。最終的に自らの学びをレポートやポスターとしてまとめ、成果発表会で発表していただきます。学習にあたっては、Facebook やTwitter で公募した社会人や大学生、大学院生が、高校生の問いに先輩としてヒントを投げかけます。また、トレーニングを受けた大学院生が、ファシリテーターとして高校生の学習の支援を行います。
募集人数:高校2 年生100 名 文系・理系は問いません
参加要件:以下1~4 のすべての要件を満たす方
1.ご自身の携帯電話をお持ちで、携帯メールのできる方
2.サマースクールの期間中にインターネットに接続できるパソコンを使って学習を進められる方
3.7 月30 日(土)と8 月13 日(土)に東京大学(文京区本郷三丁目)まで起こしいただける方
4.保護者の方からサマースクール参加の同意が得られている方
開催場所:東京大学大学院情報学環福武ホール(赤門横)
都営大江戸線本郷三丁目駅徒歩7 分/東京メトロ丸ノ内線本郷三丁目駅徒歩8 分
東京メトロ千代田線湯島駅徒歩20 分/東京メトロ南北線東大前駅徒歩10 分
※実際にご来学いただくのは、以下の2 回の予定です。それ以外の期間は、ご自宅でインター
ネット接続を利用してプロジェクトを進めていただきます。
7 月30 日(土) 期間初日(オリエンテーション他)
8 月13 日(土) 最終発表会
※上記の日程すべてにご来学いただけることが条件です。
※最終発表会は貴校のご担当の先生方にも披露させていただきたいと存じます。
ご都合がつきましたらぜひお越しください。
費用等:参加費は無料です。
但し、大学までの交通費や学習に伴う通信料はご自身でご負担いただきます。
お申し込み方法:
個人でお申し込みいただく場合は、Facebook のBEAT のページから
(http://www.facebook.com/BEAT.Socla)必要事項を記入の上、お申し込みください。
2011.06.02
みなさま、こんにちは。
【今年の研究計画】シリーズ、今回はD1の安斎勇樹がお送りします。
安斎の研究目的は、一言で言えば「ワークショップにおいて"創発的コラボレーション"を促すための実践方法を提案すること」です。
近年、「新しい学びと創造のスタイル」として、ワークショップが注目されています。ワークショップ実践が行われる領域は多岐にわたりますが、大学生の「創造性」の育成の手段としても注目を集めており、グループでアイデアを考えたり、アート作品をつくったりするタイプのワークショップが多く実践されてきています。
創造性については、これまで数多くの研究がなされてきました。かつては、創造性は「個人」が発揮するものだと考えられてきましたが、近年では「コラボレーション」の重要性への認識が高まり、創造性を育成する上でもコラボレーション体験が重視され始めています。たとえば心理学者のキース・ソーヤーは、創造性を育成するためには学習者同士が即興的にアイデアを連鎖させながら新しいアイデアを生み出すような、いわば「創発的コラボレーション」の体験が必要であることを指摘しています。
自由で創造的なスタイルであるワークショップは、こうした「創発的コラボレーション」の体験の場として有効であると考えられます。しかしながら、その方法論に関する実証的な研究はいまだ少なく、具体的に「どのようにワークショップを実践すれば、創発的コラボレーションが起こせるのか」については明らかになっていません。
そこで、本研究の目的は、創発的コラボレーションを促すためのワークショップの実践方法を提案することです。修士研究では、ワークショップの実践方法の中でも「プログラムデザイン」に焦点を当てて研究を行いました。具体的には、創発の源泉としての「矛盾」の効果に着目し、ワークショップの課題設定に矛盾のある条件を設定することが、創発的コラボレーションを促すことを実践と質的分析によって明らかにしました。
博士研究では、プログラムデザインに限らずファシリテーションにも焦点を当てて、創発的コラボレーションを促すための方法論を探っていきたいと思っています。特に、10年以上ワークショップ実践を続けているエキスパートの「技」が炙り出すような研究ができれば、と考えています。
[安斎 勇樹]
2011.05.29
みなさまはじめまして!
4月から修士課程に入学しました、山田小百合と申します。
【今年の研究計画】シリーズ、今回は、M1の山田がお送りします。
まだ漠然としていることが多いのですが、修士課程で何をしていきたいのかを書いてみようと思います。
*研究テーマ*
学校外における障害児と健常児の交流・共同学習を支援する 学習プログラムの開発
●研究について簡単に言い表してみると
私がしたい研究を簡単に言い表してみると
インクルーシブ教育での試みを学校の授業だけでなく、学校外でも楽しく行える学習プログラムを実施してみたい!
というものです。
ちなみに今回の研究テーマにある「障害児」は主に知的障害・自閉症を対象に考えています。
少し細かい話を次にしていきます。
●ところで「インクルーシブ教育」とは...?
ところでみなさんは、「インクルーシブ教育(Inclusive Education)」という言葉をご存知ですか?簡単に説明すると、人種や国籍、障害の有無など、様々な違いをもった子どもたちが、同じ空間で学ぶ教育のことをいいます。1994(平成6)年6月に、サラマンカ宣言というものが提唱されたことが、「インクルーシブ教育」という言葉を広めるキッカケだと言われています。そしてこの「インクルーシブ教育」は、いわゆる「特別支援教育」の文脈で現在は多く使われるようになりました。
●関心をもつ経緯と研究の背景
*関心経緯
みなさんは特別支援学校(学級)の児童・生徒が自分たちのクラスに時々やってくる「交流学習」の経験はあるでしょうか。ちなみに私の経験を話すと、兄と弟が知的障害者かつ自閉症で、特別支援学校に通っていたので、普通学校(学級)で行われる交流学習を数カ月に1度のペースで行っていましたし、私自身も交流学習を行うクラスにいたこともあります。
その後私は、その交流学習は、「障害児と健常児双方にとって、本来の意味をなしているのか?いい時間を過ごせているのか?良い学びは本当に起こっているのか?」などと考えるようになりました。デザインの仕方によっては、障害児にとってもむしろあまり学びのない経験になるかもしれないし、ストレスがたまってしまうかもしれない。反対に、健常児にとっても、逆に障害者への偏見のキッカケを与えてしまうかもしれません。(ここでは「障害児」「健常児」という表記をさせていただきます。)
*研究背景
特別支援教育に関する研究は、これまで多くされてきました。しかしこうして障害の有無を超えた「インクルード」していく学びの機会に関する研究は特に少ないようです。また、そのような学習プログラムを実施することは、知的障害児・自閉症児を対象とした場合より困難が生じるため、研究事例も数少なくなります。さらに言うと、学校内での授業などの実例は多々あっても、学校外での実施例は格段に少なくなります。それはおそらく、「学校の先生」がいないとそのような場はなりたたないという認識が、どこかであるからなのでは、と仮定しています。
また、障害児は学校と家以外の活動の場所がどうしても限られます。例えば小学生だと、児童館や学童保育などに障害を持つお子さんを預けるなんて、親御さんにとってはハードルの高いことであり、かつ、施設側も受け入れ態勢が整っていない現状があります。中学校だと、普通学級の生徒のほとんどは学校の授業の後、部活動を行っていますよね。しかし特別支援学校(学級)の生徒のほとんどは家に帰るしかない現状があります。社会的経験をつむ場所が、どうしても限られてくると感じるのです。もし学校外での場所でも何かプログラムが実施できるとなると、そのハードルも少しは下がるキッカケになるのでは...と考えています。
●研究の目的
おそらくこの交流学習はインクルーシブ教育の要素があるものだと思います。しかし、学校内ではインクルーシブ教育のような交流学習が行われているにもかかわらず、学校外ではそのような学びをデザインできる場がないのでは、と考えました。
そして欲を言えば、それは障害児だけのための機会でなく、健常児にとっても「おもしろかった!楽しかった!しかも学んだことがあった!」と思える学びの場のデザインだったら、とても素敵なんじゃないかと思ったのです。
つまり...
「障害がある人と、実は思った以上に楽しく一緒に学べるんだ」そして「障害があろうとなかろうと、どんな場所でも学びの機会はあるんだ」と多くの人が感じられる学習環境デザインを生み出してみたい!と思っています。
もちろん、障害児にとってもメリットがあって
健常児にとってもメリットがあって...
そんな学びの場が生まれるきっかけになるような研究ができたら、と思っています。
まだまだ勉強不足ではありますが、有意義な研究になるようがんばります!
[山田小百合]
2011.05.25
日本とアメリカの教育システムの違いの一つに、英才教育(Gifted and Talented Education)があります。特別な才能を持っている子どもを早い段階で見いだし特別なカリキュラムを与えて成長を促すプログラムで、アメリカでは多くの州で公教育として展開されています。
先日、アメリカ教育省がノースキャロライナ州で行った、英才教育プログラムを一般の子どもたちに展開するプロジェクトの研究成果が公開され、話題になっています。
Treating Students as Gifted Yields Impressive Academic Results, Study Finds
この研究では、多重知能理論・高度な課題解決・テクノロジーの利用などを特徴としたProject Bright Ideaという英才教育の方法を、一般の幼稚園児・小学校1年生・2年生10,000人に5年間展開してきました。
小学校3年時の英才児の割合をBright Ideaクラスと通常のクラスで比較したところ、通常のクラスの割合が10%であったのに対し、Bright Ideaクラスでは15%から46%と大幅に増加していることが明らかになりました。
裏返すと、のびしろを持っている多くの子どもたちが、適切な教育方法がとられていないために可能性を発揮できていないことが判明したともいえます。
この研究はアメリカの学校を対象としたものですので、単純に日本に適用することはできません。ただ、どうすればひとりひとりの持っている可能性を最大限に引き出すことができるのか、教育者に内省を求める研究結果であることは間違いないでしょう。
【山内 祐平】
2011.05.21
みなさまはじめまして。
この4月から山内研で学ばせて頂いております、早川克美と申します。
社会人院生として研究と仕事の2足のわらじを必死に履きこなし、
ワクワクする研究成果を実現したいとの大望をいだいております。
まだ現時点では研究計画としての輪郭が不鮮明な状態のため、
今回は、研究で自分がやっていきたいことの大づかみなイメージと、
今後に向けての課題についてお伝えしたいと思います。
●関心の根っこ
「実務者は多様に実装して問題解決にあたるが、何が機能したのか?についてはわからないままだ。研究は、その何故?の問いに答えをみつけていくことであり、実務と研究は大きく異なる」というゼミでの山内先生のお言葉がありました。まさにその通りで、自分自身が今までデザイナーとして活動してきた中で、その時々の仮説を仮説のまま論に展開しないできたことに、疑問を疑問のままにしたくない!という思いが年々高まり、進学を決意するに至った理由です。
では、どのようなことを解明していきたいのか?
「学びが起こる環境」「行為と空間の関係」「探し発見する活動とは」「場の意味性」
人間が人間であることの根源的な営みとして「学び」という行為が起きるのだと考えています。その「学び」の空間を舞台に、人間ととりまく環境の本質と特質を探っていきたい、ということが私の研究に際しての関心の根っこです。
●ふたつの学びの空間
学びの空間には大きく2つ、そのありかたが異なるものが存在していると考えています。
ひとつは、教室・図書館・ラウンジという人間が実際に滞在する物理的環境、
もうひとつは、e-leaningに代表されるオンライン上の非物理的環境です。
どちらも学びの空間ですが、それぞれ異なるルートで研究が行われています。
そしてこのふたつの環境を語られる際、
文献ではそれぞれに「space」という空間を表す言葉が扱われていることがあります。
この「space」を教育メディアとして再定義して捉えると、学びの契機、学びの経験、学びの継続といった学びの行為を支える要素として比較検証し、相互に有用な知見が導き出せるのではないか?と考えています。
●知りたいこと
関心の根っこを少し具体的に整理すると次のようになります。
「学生が学びの空間を理解し活用していくプロセスが知りたい」
↓
「思考と人工物・情報・空間の相互作用を見つめたい」
↓
「状況〜経験〜価値づけの意識の流れを見つめて、学びの状況の可能性を知りたい」
↓
「学びの空間パターン原則を導き出したい」
●今後に向けての課題
前項までをご覧頂いておわかりのように、まだ興味・関心のレベルであり、すべてが曖昧です。研究というひとつの「問い」に精製する過程をこれから粛々と進める必要があります。そのためには先行レビューを徹底的に行い、私が歩む道筋について可能性を消しつつ、可能性を見つけていかねばなりません。
また、長きにわたった社会人経験で、問題解決とその効果について拙速に出そうとするクセが身についており、問いをよりシンプルに、よりシャープにすることへの難しさに直面しています。ただ、これは先行レビューの徹底によって克服できることなのかもしれません。
人生の折り返し地点をまわったところからの研究活動、
遅すぎるデビューならではの味わいを醸し出したいものです。
生きているといろんなことがありますが(笑)、
山内研という最高の学びの環境を得られた幸運に感謝し大切にしていきたいです。
素晴らしい先達に囲まれながら
より良い研究ができるよう精進してまいりたいと思っております。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
拙い記事におつきあいいただきありがとうございます。
【早川克美】
2011.05.17
6月11日(土)12時30分から17時30分まで、情報学環・福武ホールにて東京大学大学院学際情報学府の入試説明会が開催されます。大学院で情報化社会における学習の問題を研究することに関心をお持ちの方のご来場をお待ちしております。
山内研究室は午後4時ぐらいから始まる「学環・学府めぐり」にてポスター展示を行います。山内と大学院生がおりますのでお気軽にお声掛けください。またこの日のご都合が悪い場合、研究室訪問はいつでも歓迎しております。contact[atmark]ylab.jp宛にご連絡ください。
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