2011.06.11

【今年の研究計画】大学教育における学部ゼミナールの構造と学生の学習成果に果たす役割の検討


あいにくの雨が続きますが,いかがお過ごしでしょうか。
【今年の研究計画】,今回は博士課程1年の伏木田が担当いたします。

「教員と学生,学生と学生間で双方向の対話が行われる共同体的な学習空間」
大学におけるゼミナールをあえて操作的に定義するならば,それが一番しっくりくるように感じています。そうした学習空間を教員はどのように構築しているのか?この問題意識が,博士研究の出発点です。

これまでレビューをしてきたゼミナールの実践に関する事例報告や,欧州のゼミナールに関する研究などを踏まえ,学習成果の面から見た良いゼミナールの条件は以下の2つに絞ることができると考えています。
学生が専門的分野の学問探究を通じて,
   ・汎用的技能の成長を実感している
   ・高い充実感を得ている
もちろん,理解の深化や知識の習得など,他にもたくさんの教育効果をゼミナールが有していることは実感としてだれもが持っているかと思います。けれども,高等教育において学士力を始めとする多様な学習成果に注目が集まり,知識を活用しながら自分たちで物事を思案する力が求められる昨今では,基本的な読み書き能力や批判的思考力,問題解決力や対人関係力などを包含する汎用的技能に焦点化することは意義があると考えています。

修士研究では,ゼミナールにおいて学生の汎用的技能の成長実感や充実度に影響を与えているのは何か?問題意識から,ゼミナールでの課題に取り組む意欲や,実際に行われている活動および教員による指導,ゼミナールでの学習を通して育まれる共同体意識などに焦点を当て,それらと学習成果との関係性を検討しました。
その結果,私が想定した2つの学習成果が得られるゼミナールでは,
   ・学生が他の学生と関わりながら意欲的に学んでいる
   ・学生同士が互いにつながっているという共同体意識を持っている
という現状が見えてきました。そして,そうした状況を生み出しているのは,議論や発表,グループ作業を通じて行われる「教員による指導」だということが明らかになりました。
(詳細は,http://wakako-fushikida.net/masterthesis/top.htmlをご覧ください。)

そこで博士研究では,ゼミナールが教員個人の「技」に支えられ,多様性や密室性を理由にこれまで「技」の比較や一般化が行われてこなかった現状を背景に,複数の教員を対象に調査を行い,そうした「技」の共通点および相違点を見出すことを目的にしたいと考えています。
学生が意欲的に学び,互いにつながっているという共同体意識が育まれ,汎用的技能の成長実感が高まりつつ充実度の高いゼミナールをつくるために,学習環境の構築において何を意図し,どのような工夫をしているのか。
この点を明らかにすることができれば,ゼミナールのより良い教授方法の提案および,改善に向けての指針を示すことができるのではないかと期待しています。


伏木田稚子

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