2008.05.28

【福武ホールの歩き方】福武ホールのすき間から

皆様こんにちは。
福武ホールのちょっと気になるところをご紹介する「福武ホールの歩き方」第5回です。

今回は福武ホールの“内”を歩きながら“外”を感じる、
ふとした瞬間をご紹介します。


一見すると無機質な印象を与える福武ホールかもしれませんが、
驚くほどに緑や光を感じられる建物になっています。


私のお気に入りは、階段の途中にある壁のすき間です。



こちらは1階から2階に上がるところ。

昇り降りする度に、本郷通りに面したクスノキが目に入ってきます。
透けるような緑がきれいで、階段を使うたびにほわわんとした気分になります。



こちらは1階から地下1階に下がるところ。

本郷通りの足元が見えますね。


今までご紹介した写真は、ホールの端にある階段ですが、
こちらは中央にある階段。

今度は上を見上げると、天井部分にすき間が。
こちらも立派なクスノキが繁っています。


建設の際、東京大学と本郷通りとの間にあるクスノキは残され、
また建物自体も、クスノキを越えない、地上2階の高さに抑えられています。
このことで本郷通りの緑の景観が守られたと言えるでしょう。

しかし、守られたのは景観だけなのでしょうか?
福武ホールのすき間から外を覗くたびに、
むしろ建物の方が、生い繁るクスノキに守られているような、
そんな感覚を覚えるのです。

[大城 明緒]

2008.05.27

【エッセイ】「気前のよさ」をささえる文化というシステム

5月10日に、情報学環・福武ホールオープニングシンポジウム「世界の一元化に抗して文化に何ができるか」が開催され、好評のうちに終了いたしました。お手伝いいただいたみなさん、参加していただいた方々にお礼申し上げます。シンポジウムの様子は5月24日の朝日新聞に掲載されたほか、7月上旬でNHK BSフォーラムで放映される予定です。またお知らせします。

このシンポジウムではいろいろ面白いことがあったのですが、個人的には大阪大学総長の鷲田先生が最後のまとめで発言されていたことが心に残りました。(以下のまとめは私なりの解釈も入っています)

「アーティストの強さは、彼らがリベラルであることから来る。ここでいうリベラルは、自由というよりも、英語でもう一つの意味である”気前のよさ”という意味である。彼らは普通だとありえない時間や労力をかけて、表現活動をおこなっている。自分のもてるものをおしげもなく最大にふるまう、その気前のよさこそが、創造的なエネルギーの源泉になっている。」

自分のもてるものをおしげもなくふるまう「気前のよさ」をささえる、文化というシステムがなければ、創造的活動は生まれないのでしょう。

それはすぐ役に立つのか、いくらの金銭的価値になるのか、という問いは、この世に生きている以上、逃げることはできません。しかし、この呪縛からいくばくか逃れられる場を用意していかないと、新しいことを生み出すエネルギーは失われていくのだと思います。

[山内 祐平]

2008.05.23

【福武ホールの歩き方】コンシェルジュの原田さん

みなさま、こんにちは。福武ホールのちょっと気になるところを紹介する「福武ホールの歩き方」第四回目です!

今回は、福武ホールの学環コモンズを管理していただいている原田さんを紹介したいと思います。

簡単な紹介はパンフレットなどでもされていますが、今回はもっと詳しくお話を伺うべく、突撃インタビューを行ってきました!では、その様子をどうぞ。

原田さん「こんにちは。」

(原田さんは学環コモンズに入ると必ず優しく挨拶をしてくれます。)
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池尻「こんにちは!今日は色々とお話を聞かせてもらいたいと思います。よろしくお願いします。早速ですが、コンシェルジュってどんなお仕事をされているんですか?」

原田さん「なんか恥ずかしいですね(笑)仕事としては、福武ラーニングシアターや福武ラーニングスタジオの予約の申し込みを受け付けたりしています。後は、そこのドリンクシステムを管理したり、使ってる学生さんの相談があれば乗っています。」

(ここでちょうど予約の電話が入りました。今まではにこやかでしたが、仕事の時はきっちりと応対していて、かっこよかったです。)
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池尻「そういえばいつも挨拶をしてくれますが、あれは決まりなんですか?後、一人で管理されているようですが、同期がいないと寂しいなあって思いませんか?」

原田さん「挨拶は自主的です(笑)人と関わるのが好きなんです。お仕事は一人で少し寂しいですが、スタッフの方やここに来る学生さんと話をしているんで、そんなに寂しくはないですよ。」

(原田さんの気さくな性格からか、周りに学生がいる風景は良く見かけます。)
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池尻「福武ホールで勤めているってことは、お昼ごはんはやっぱりUTカフェですか?」

原田さん「そうですね、あ、でも意外と学食に行ったりもしますよ(笑)でも一人で食べに行くことが多いので、たまには学生さんとかと一緒に食べに行きたいですね。あ、そうそう食べ物といえば、コモンズのドリンクシステムで、ハワイの水が飲めるようになったんです。」

池尻「え?ハワイからわざわざ仕入れているんですか?」

原田さん「そうなんです!しかも無料なんで、是非みなさん飲みに来てください(笑)」

(僕も飲んでみましたが、本当におしかったです。名所になること間違いなしだと思います。)
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池尻「原田さんはどういった経緯でここの仕事に就くことになったんですか?後、お仕事はどうですか?」

原田さん「実は私の前に決まっている人がいたんですよ。でもたまたまその方のご主人が転勤することになったらしくて、席が空いたらしいんですね。で、たまたまこの仕事を見つけた私が就いちゃったということなんです。そういう意味では、こことご縁があったんだなあと思っています。お仕事ですが、私はもともと人と関わる仕事が好きなので、留学生を含め、色々な人と話せるこのお仕事はとても気に入っています。楽しいですよ。」

池尻「では最後に、今後の抱負をお願いします!」

原田さん「早くコモンズの看板娘になりたいです!(笑)後、居やすい空間を維持していきたいと思いますので、いつでも遊びに来てください。相談事受け付けます!」
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今回は突撃インタビューにも関わらず、快くお話をして下さってありがとうございました。実のところ、ほぼ初対面だったのですが、とても楽しい時間が過ごせました。気さくに話せる明るいお姉さん、という印象でした。学環コモンズに入る機会がれば、是非一度「コモンズの看板娘」こと原田さんに話しかけてみてください。きっと楽しい時間になると思いますよ。

[池尻良平]

2008.05.15

【福武ホールの歩き方】幸せのフライドポテト

 皆様こんにちは。東京大学本郷キャンパスにこの春新しくオープンした福武ホールを利用する私たちが,福武ホールのちょっと気になるところをご紹介する「福武ホールの歩き方」第3回です。

 本当はですね,福武ホールの七不思議とか,知られざる秘密部屋とか,そういう話をすると面白いんですが,今回はシンプルに福武ホール・グルメ情報をお届けします。

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 東京大学には,教職員・学生がキャンパス内で支障なく研究活動を継続できる環境を提供するため,生協を始めとした様々な店舗が営業しています。キャンパス内には某コンビニもありますし,某コーヒーチェーンや某サンドイッチチェーンもあります。印刷屋さんも旅行代理店も,そして理髪店もあります。

 福武ホールにもカフェが入りました。「UT Cafe BERTHOLLET Rouge(UTカフェ ベルトレルージュ)」です。といっても今回はUT Cafeのご紹介ではありませんので詳しくは書きません。表参道にあるCafeが東大にやってきたという風な程度で留めたいと思います。

UT Cafe BERTHOLLET Rouge
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/facilities_inside-ut_cafe.html


 それにしても「カフェ」であります。この洒落た空間で味わうことのできる品々は,これまで大学で提供されていたものと明らかに異なります。そして私たちは思い出すのです。知的な社交場には,それにふさわしい料理も用意されなければならないということを...。


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 そして,今回是非オススメしたいのが,ここの「ポムフリ」です。

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 え?フライドポテトじゃないかって?そうです。フライドポテトです。ポムフリといいます。

 しかし皆さん,ただのフライドポテトだと侮ってはなりません。ここのポムフリは絶品です。フライドポテト愛好家の私が言うんだから,間違いありません。

 ご覧ください,この香ばしいポムフリの姿を。写真は二人前(1,000円)です。

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 揚げ立てのポムフリは,カリッとした食感と,厳選されたソルトをまぶしてキリッとした塩味を効かせています。一口食べれば,思わず次の手が出てしまう美味しさ。女性陣も「これならいくらでも食べられそう」と申しております。そして,普通なら冷めてしまうと食べられたものではないですが,このポムフリは冷めても美味しい!

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 かつてファーストフード業界におけるフライドポテト戦争は熾烈でありました。確かにフライドポテトはサイドメニュー。主役のハンバーガーの陰に隠れて,あまり目立ってはいませんでしたが,そこには各社の試行錯誤の歴史があったのです。

 ハンバーガーチェーンといえばマクドナルドかロッテリアと考えられていた頃,フライドポテトの王者は「マックフライポテト」であったことにそれほど異論はないでしょう。その後,ロッテリアはフライドポテト試行錯誤時代を迎えます。太さを変えたり,味を変えてみたり。そこから生まれたのは「ふるポテ」であり,商業的なヒットとなったわけですが,いわば飛び道具を使うその攻め方に,ピュア・フライドポテト派の評価は厳しかったわけです。

 しかし,王者「マックフライポテト」も安泰ではありませんでした。牛肉ショックとヘルシー時代の到来です。マックフライドポテトのうまさの秘密は,動物性油を使った調理法にありました。しかし,世間を騒がせた牛肉問題と健康問題への関心の高まりのダブルパンチを受け,植物性油へと切り替えることにしたのです。


 こんな歴史を経て,いまではフライドポテトも主役級の商品として単独のCMが製作されるようになっています。もっとも,こうしたファーストフードで食べられるフライドポテトの多くはイモを粉状にしてから出来上がったもの。調理による誤差は激しく,最良の状態のものを得るのは一種のくじ引きのようなところもあります(マニアはどういう条件で注文すると揚げ立てを獲得できるか研究しているようです)。

 フライドポテト。それは小さな幸運と不運が同居する不思議な食べ物なのです。

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 しかし,もし皆さんが,幸せのフライドポテトを確実に味わいたいとお考えなら,行き先の一つは東京大学福武ホールのUT Cafeでしょう。これからの夏。UT Cafeのポムフリをつまみに一杯やりたいと,本気で思います。なにしろこのポムフリを味わう度,幸せな笑みをこぼしてしまいそうになりますから。


 福武ホールにお越しの際は,是非ともポムフリをご堪能ください。ちなみにテイクアウトもできますし,山内研ではポムフリの差し入れを常時受け付けております。

[林 向達]

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2008.05.09

【福武ホールの歩き方】人。

【福武ホールの歩き方】第二回目です。

【福武ホールの歩き方】…どこかで聞いたような気もしませんか?
旅行と言えば!の『地球の歩き方』を思い出した方も多いのではないでしょうか。
旅行先で「どんな時間を過ごすか」を想像して、計画を立てる時に使うと思います。

オススメしたい場所はたくさんあるので何を書くかすごく悩みましたが、今回は、【福武ホールの歩き方】ということで、私のオススメの福武ホールでの「時間の過ごし方」をご紹介したいと思います。

人間観察が趣味の私は、福武ホールに「居る人」を見ていると、とても癒されます。
実はこれが、すごく楽しいのです。

前回は安藤先生特製ベンチについてでした。
確かに私も、あの大きなベンチのあちこちに座ってみたり、寝転んでみたりと、あのベンチの周りだけでも、時によって色々な過ごし方をしています。

長い長い考える壁の内側(時には外側でも!)では、本当に思い思いに、人が過ごしているのです。

こんな風に、上にも下にも、奥にも手前にも、そして壁の向こう側にも、人がいるって、なんだかうきうきしませんか?
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カフェでゆっくりしたり、ミーティングをしたり。
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通りがかりに学環コモンズを覗いたり、思わずコンクリートに触ったり。
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私も学環コモンズを覗いてみると、ガラス越しに、一人で勉強している人、赤いソファでゆったり本を読んでいる人、二人でおしゃべりしている人、ランチを食べている人、二人で、大人数で、打ち合わせをしている人…。
色々な姿が見られます。
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思わず覗き込んでしまう人も。
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これは研究室に来ていただいた方しか体験できないおまけですが、上から人がどんな風に過ごしているのかを眺める、というのが、実は私は結構好きです。
壁の向こう側からこちらを見ている人を発見したりすると、ちょっと嬉しくなります。
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福武ホールに居る人の、そんな姿を観察してみる、というのが私のオススメの福武ホールでの過ごし方です。
あぁ、この場所ってこんな過ごし方ができるのか!という発見や、この人ったら、ついこんなことしちゃってる!というおもしろさがあります。
少し私の研究と関係するのですが、こんな風に人の過ごし方を見ることは、結局のところ、その空間を見るということなのではないかなと思います。
まさに、その瞬間、その状況でしか起こらない、人と空間の出会いですね。
私はある空間に人が居る風景が、大好きなのです。

福武ホールにいらした際は、人間観察をして時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
そんな姿を、私に観察されているかもしれませんが。

[牧村真帆]

2008.05.07

【エッセイ】コルビュジエとスキナー

ル・コルビュジェ DVD-BOXを見ました。
ル・コルビュジェは、近代建築の三大巨匠のひとりで、コンクリートを用いた建築で有名です。
この映像は、本人が50年代にラジオ用に録音したインタビューテープを元に構成されています。彼が語っているヴィジョンに既視感を持ちつつ、いったいなんだろうと考えながら見ていたのですが、マルセイユの集合住宅 ユニテ・ダビタシオンの説明の時に気がつきました。
コルビュジエは、科学技術を活用し、住宅を高層化することによって、人間に幸せな住環境をもたらすことができると信じていました。高層化することで、緑地を確保でき、職住近接が実現できると考えていたからです。「住宅は住むための機械である」というのは彼の有名な言葉です。
ほぼ同じ時代に、教育の世界では、B.F. スキナーが、従来の経験主義的な教育方法にかわり、学習者一人一人のニーズにあった、夢の「科学的方法」としてプログラム学習とティーチングマシンを提案していました。
このふたりが特に似ているというよりも、今から50年ぐらい前には、科学技術がユートピア的文脈で語られることがあったという方が正しいかもしれません。
近代の所産である集合住宅とティーチングマシンの子孫たちは、現代の日常風景の中に点在しています。我々は今も彼らの祝福と呪縛の中にいるのかもしれません。

[山内 祐平]

2008.05.01

【福武ホールの歩き方】安藤先生特製ベンチ(B2F)

シリーズ「今年の研究計画」も先週で一回りし、今週から新たなシリーズが始まります。
題して、【福武ホールの歩き方】!

福武ホールが完成して、学環コモンズ福武ラーニングシアター福武ラーニングスタジオUTcafeなどはたくさんメディアにも取り上げられていますが、実はこの福武ホール、もっと違ったところにもちょっとしたおもしろさが隠れていたりします。

そこで、今度のシリーズでは、中に住んでいる学生の僕らが見た、福武ホールのおすすめスポットや不思議なこと、裏話など、雑誌には載っていない(?)情報をお伝えしていこうと思います。


そんな第1回目は、「安藤先生特製ベンチ」です。
地下2階・福武ラーニングシアターの隣のホワイエに、木製のベンチが置いてあります。
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実はこれ、福武ホールを設計した安藤先生こだわりの、集積材を利用して作られた特製のベンチなのです。
ホワイエに椅子や机を置くという話はもともとあったらしいのですが、安藤先生が竣工の直前までデザインを考え抜いて、作っていったのだそうです。

なんとこのベンチ、重さが2トンあるらしいです。
押してみましたけどびくともしませんでした。

しかし、驚くのはこれからです。
ベンチを配置したホワイエとシアター(大講義室)の図面を見てみると、ベンチの大きさや角度、場所がしっかりと計算されて配置されていることが分かります。
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(日経アーキテクチュア 4月28日号より)

シアターに向かって左側(図面下側)のベンチは、シアターの壁の延長線上に配置されています。
シアターに向かって右側(図目上側)のベンチは、シアター後部の倉庫の相似形になっています。
つまり、2つのベンチとシアター内の壁は、ちょうど平行線の関係になっているのですね。
こればっかりは図面を見ないと分かりません。

この観点から、シアターのドアを開けた状態で、ホワイエの入り口側からシアターに視線を向けると、壁とベンチがきれいにつながって見えるのです。
安藤先生のちょっとしたこだわりが見えてきますね。

このベンチ、おもしろい形をしているので、場所によっては普通に座るだけでなく、寝転がったり、斜めによりかかったりして楽しむこともできます。
シンポジウムやワークショップなどで、地下2階に足を運ぶことがあったら、ぜひこのベンチにも注目してみてはいかがでしょうか。

[坂本篤郎]

2008.04.29

【エッセイ】なぜ先行研究を調べるのか

4月になり、新しいメンバーが研究室に加わりました。どの研究室もそうだと思いますが、最初は関心のあるテーマに関して先行研究を調べることから始まります。
最近は、データベースもずいぶんよくなったので、以前よりも情報検索は楽になりました。(昨年のブログに、情報検索のポイントが載っています。)
研究計画を立てるときの先行研究調査は、レポートのための文献調査と決定的に違っている点があります。レポートが「答え」を探すために先行研究を調べているのに対し、研究計画は「問い」を探すために先行研究を調べているということです。
調べれば答えが見つかるようなテーマであれば、時間をかけて新しく研究をする必要はありません。いままでその領域で行われてきたことを丁寧にマッピングし、「重要でありながら、いままで行われていないこと」を発見することが、先行研究調査の目的になります。
研究では、答えは自分自身で見つけなければいけません。小さな一歩であっても、今までに行われていたことから、「前に」踏み出すことが大事なのです。

[山内 祐平]

2008.04.23

【今年の研究計画】ワークショップのデザインの熟達化における変容の契機に関する研究

 こんにちは。今週の担当、山内研究室 博士課程2年の 森玲奈 です。
 山内研究室に入って早4年目。様々なバックグラウンドの仲間たちに刺激を受けつつ、日々楽しい研究生活を送っています。
 では、私自身はどのような研究をしているのか。簡単にご紹介したいと思います。


■ワークショップってなに?
 皆さんは、どこかで「ワークショップ」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?
 ご存知の方は、どんなイメージを持たれているでしょうか?

 ワークショップとは、もともと「作業場」を意味する英語でしたが、ここ数十年の間に、学びのための新しい方法として実践が行われるようになりました。
 ワークショップに関してはいくつか本が出されていますが、入手が簡単なものに、中野民夫さんの書かれた「ワークショップ」(岩波新書)があります。そこでは、ワークショップは「先生や講師から一方的に話を聞くのではなく、参加者が主体的に議論に参加したり、言葉だけでなくからだやこころを使って体験したり、相互に刺激しあい学びあう、グループによる学びと創造の方法」と定義されています。この手法の使われる領域は現在多岐に渡っており、非常に注目されています。
 実践のニーズが高まっているということは、そのような人材を育成することも考えていかなくてはならないということ。しかしながら、人材育成に関する研究がなされていないという現状が、私はとても気になりました。


■ワークショップを実践する「ひと」
 人材育成について考えるためには、まず、ワークショップ実践を行う人(以下、実践家と呼びます)が他の人とどのようなところが違うのかを知る必要があります。この違いこそが、実践家の「専門性」だと考えられるからです。
 ワークショップ実践を行う人には(1)企画を立てる(2)コーディネートする(3)当日の運営をする、という3つの役割があると言われています。私はこの役割の中でも、そもそものスタートである、「企画を立てる」(以下、ワークショップのデザインと呼びます)に注目することにしました。
 ベテラン実践家はどんなふうにワークショップの企画を立てているのか?この問いにアプローチしたのが修士研究(『学習を目的としたワークショップのデザイン過程に関する研究』日本教育工学会論文誌 第31巻 第4号 (2008) に掲載されています)でした。
 しかしながら、ベテランのとっているデザイン方略がわかっただけでは、実践家育成には十分ではありません。なぜならば、ベテランの持つ専門性が、いかにして獲得されたのかが、解明されていないからです。そこで、標題に掲げた新しい研究がスタートしたわけです。


■実践家はどうやって今に至ったのか
 ワークショップ実践家はどのようにしてベテランになっていくのか、すなわち熟達過程に関して調べるために、今回の研究では経験5年を越える方から経験20年以上の方まで、19名の方にご自身のキャリアに関するインタビューをさせていただきました。
 インタビューをする際、要として考えたのは、「デザインの仕方の変容」です。ご自身が自覚されている変容の時期をご指摘いただいた上で、その前後にどのようなことがあったのか、エピソードを語っていただきました。なお、インタビューの前に、実践家の方に、ご自身のキャリアヒストリーを年表にしていただくという作業を挟むことで、記憶の再生を促しました。


■インタビューを通じて「研究者としての私」のこれから
 対象者へのインタビューは終了しました。現在、取得したインタビューデータを文字化し、試行錯誤しながら分析しているところです。データ間の比較を行うことで今までわからなかったことへの仮説が浮かび上がってくるので、少し作業は大変ですが充実した時間を過ごしています。
 インタビューという手法は、研究者だけではなく、様々な方が使っている、非常に素朴な方法です。必要な機材はICレコーダーだけです(笑)。でも、研究として行うからには、インタビュー対象者ご自身が普段意識せずにいたようなことが少しでも明らかにできたら、と思っています。そして、人材育成環境をデザインする上で有用な提案ができたら、と思っています。

 これからも未熟ながら、地道に研究を進めていきたいと思っておりますので、あたたかく見守っていただければ幸いです。
 拙い記事に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


 

[森 玲奈]

2008.04.16

【エッセイ】ヘンリーくん

福武ホールの共有スペース「学環コモンズ」は、みなさんからよく「すてきですね」と言われる空間ですが、この空間の監修は、ワークショップやミュージアムのプランニングで有名な大月ヒロ子さんにお願いしています。

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大月さんから新しいグッズを紹介していただきました。掃除機「ヘンリーくん」です。

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掃除するのが楽しくなりそうですが、母国イギリスでは、ミュージアムなどで大活躍しているそうです。東大での利用ははじめてだと思います。これでみんながあらそってコモンズをきれいにしてくれるのではないかと、ひそかに期待しています。

[山内 祐平]

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