2008.10.02
第7回の【突撃!隣の研究者】は、D2の佐藤朝美が担当いたします.
今回は立命館大学の八重樫先生についてご紹介します。
■八重樫文先生の概要:
現職は、立命館大学 経営学部 環境・デザイン・インスティテュート 准教授。
先日行われたBEATセミナーにご登壇下さいました。
http://beatiii.jp/seminar/035.html
「八重樫 文」は、「やえがし かざる」と読みます。
見た目はこんな感じです。
↓↓↓
■経歴:
何を隠そう、山内研出身です。それまでの経歴はざっとこんな感じです。
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業後、デザイン事務所勤務。
ちょっとして辞めてフリーターへ。
その後、武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科助手。
→ここへ私が学生として入学し出会います!
→この時も、かなり学生に慕われていました。
助手任期満了後、東京大学大学院学際情報学府修士課程・山内研へ。
同時に、フリーでデザイナー・Webディレクターとしても働きます。
修士取得後、福山大学人間文化学部人間文化学科専任講師。
2年勤めた後、立命館大学に異動。
そんな八重樫先生にいくつか質問をさせて頂きました。
■山内研とのお隣具合:
佐)
現在、山内研や福武ホール関連のお仕事はどのようなことをされていますか?
八)
山内先生のご研究・お仕事を、デザインの面からサポートさせていただいています。
共同研究、論文共著というかたちから、デザインが必要な案件のコンサル・ディレクションをしてきました。
たとえば、
・初期iii onlineのWebデザイン(現在は変更・更新されています)
・BEATのWebまわりのディレクション(一時は、メルマガ編集もしてました。
現在は、セミナーレポートの監修をしてます。)
・福武ホールのメディアデザイン(ロゴ、館内サイン、Webサイト、案内冊子、
コンセプト提示資料)に関するディレクション
などなどです。
佐)
情報学環・福武ホールは、2008年度グッドデザイン賞にノミネートされていましたね!!!
卒業後、そういった互恵関係が継続していく事はすごい&羨ましいです。
■研究について:
佐)
八重樫さんご自身はどんな方向性で研究をされていますか?
八)
デザインの知見を、まだあまりデザインの考え方が浸透していない分野に持ち込んでその有用性を示すこと、を目指しています。
現在は主に以下の2つの研究を進めています。
・デザイン教育の知見を汎PBL(Project Based Learning)に応用した、
PBL支援ツールの開発(ProBo: http://pb.nime.ac.jp/)
・若年看護師向け医療安全教育へのeラーニングの活用
佐)
PBLは、ブログでも紹介された望月先生との共同研究で、7月に行われたED-MEDIA で賞をとっていらっしゃいましたね!研究室の周辺でこのようなプロジェクトが活発に動いていることは大変励みになります。
■大学で行っている教育について:
佐)
前回のBEATセミナーで、「環境・デザイン実習」「プロジェクト研究」の授業の紹介をされていらっしゃいましたが、八重樫さんの授業、大変面白そうですね。
八)
the smithsという80年代のUKのバンドの歌詞の一節ですが、
授業の時にいつも意識しています。
So, if there's something you'd like to try,
Ask me
- I won't say "No"-
How could I ?
(the smiths, ask, 1987)
学生がやりたいことをできるようサポートしたいだけです。
佐)
理論ベースでしっかりしながらも、思わず参加したくなる要素が多々ある授業に感じるのは、学生自らという自主性を保証していることと、「デザイン教育」の知見をふんだんに取り入れるということもあるのですね。
■今後の展開・ビジョンについて:
佐)
美大からの華麗なる方向転換とともに、きちんと職業に就き、前向きに色々な事をこないしている姿は私の目標なのですが、八重樫さんがこれから目指しているところなどはありますか?
八)
特に取り立てて「今後の展開・ビジョン」を考えていません。
将来とは今やってることの延長でしかないと思ってます。
「デザインの知見を、まだあまりデザインの考え方が浸透していない
分野に持ち込んでその有用性を示すこと」
がこれまでの僕のテーマで、現在のテーマで、今後のテーマです。
まあ、何かやってれば、いろんな人と出会い、
その出会いがまた新しい世界を開くでしょう。
これまでそうでした。
OK,何の問題もない。
佐)
なるほど!先が見えずに翻弄している現在の私にとって、心に染みるお言葉です。
「OK,何の問題もない!」は、私も師事した武蔵美の大平先生のお言葉を引き継いでるとのことでしたが、今後わたしもチョクチョク使わせていただきたく思います。
今回のブログ内容は「OK,何の問題もない!」でしょうか!?
八重樫先生、ありがとうございました。今後のご活躍も楽しみにしております。
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八重樫先生のページ:http://kazaru.jp/
八重樫先生のブログ:http://kazaru.sblo.jp/
[佐藤 朝美]
2008.09.25
第6回の【突撃!隣の研究者】は、M1の岡本絵莉が担当いたします.
今回は,同じ東京大学大学院情報学環・学際情報学府の教授である佐倉統先生を,ご紹介いたします.
●佐倉先生のご紹介:
====ご経歴====
東京大学文学部心理学科では,「サルの動物行動学」を専攻.
サルの生態学の研究を続けるため,京都大学理学研究科の大学院に進学.
研究のためアフリカに一緒に行った先生に「向いてない」と言われ,悩んだ末に科学史に転進.
三菱化成の生命科学研究所でポスドク研究員として勤務後,環境倫理に関するテーマに取り組む.
横浜国立大学経営学部で助教授として勤務,2000年の情報学環設立と同時に,東大へ移籍.
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改めて,佐倉先生は本当に幅広い研究分野を経験してこられたのだなと思いました.
私が受講している授業のひとつで,佐倉先生に,ご自身の経験をもとに(学際)研究の悩みや心得をお話しいただいたことがあります.
それはたとえば,
「2つの分野をマスターすることは無理.2つの分野の間の,1つの分野をマスターすることはできる」
「やりたいことをやらずに後悔するのではなく,やってから後悔する」
「他流試合のチャンスを逃さず,利用しよう.むしろ,自分で積極的に作ること」
といったことです.
ちょうど大学院生活が本格的に始まってから1ヶ月がすぎた頃の授業で,気持ちが新たになったことを覚えています.
●佐倉先生はこんな方:
先生ご自身は,科学コミュニケーション,ミーム論や非生命体進化を中心に科学史,科学技術論と幅広い研究をなさっています.
情報学環を受験するにあたって先生に相談に行った際には,真剣に,でも気さくにお話ししてくださったことが印象的でした.
私は先生の著作も大好きです.たとえば,
『進化論の挑戦』
『進化論という考え方』
などは,私が読んで「こんな先生がいる学環に行きたい!」という思いを確認した思い出の本のひとつです.
●山内研と佐倉先生:
佐倉先生の研究室は,山内研究室と同じく,福武ホール(http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/)の2階にあります.
研究室の前を通ると,本を読んでいたり,パソコンに向かっていらっしゃる先生の姿が見えます.
また,東京大学本郷キャンパス内では,自転車に乗って爽やかに移動されている佐倉先生をお見かけすることもしばしばです.
「こんにちは」と挨拶すると,いつも気さくに返してくださいます.
また,佐倉先生には,私の研究の副指導をお願いしています.
個人的に佐倉研究室の院生との交流もあり,とても身近に感じる学環の先生です.
最近,佐倉先生は私と同じ獅子座のA型ということを知り,ますます親近感を感じてしまいました.
●佐倉先生に,山内研の印象をお聞きしてみました:
「山内先生のお人柄を反映しているのか,子だくさんの明るい家族という印象です.
また,福武ホールが完成する前の仮研究室のときから,山内研の部屋のきれいさには感心していました.
『佐倉研と山内研は同じ広さですよ』と人に言っても信じてもらえなかったという笑い話があるくらいです.」
とのことでした.
福武ホールでは建物の構造上,外から内が見えるので,お部屋に先生ごとの個性を感じられて楽しいです.
佐倉先生,いつもありがとうございます.
そしてこれからも,どうぞよろしくお願いいたします.
先生の研究室のウェブページはこちらです:
「佐倉統研究室」
http://sakuralab.jp/
[岡本 絵莉]
2008.09.23
BEAT客員教授でいらっしゃる飯吉先生が精魂込めて編集された、オープンエデュケーションに関する書籍「Opening Up Education」が9月20日にMITプレスから出版されました。
オープンエデュケーションに関して、幅広い観点から、しかし教育という筋を通しながら構成されたすばらしい本です。英語版ですが、文章は平易なので、読みやすいと思います。
アマゾンではまだ予約販売になっているようですが、米国で出版されたのでもうすぐ手に入ると思います。
中身もすばらしいのですが、この本のもうひとつの特徴は、全文をクリエイティブコモンズとしてオンラインで公開していることです。さすがオープンエデュケーションの本だと思いますが、こういう知行合一はなかなかできるようでできません。編者である飯吉さんと出版社のMITプレスに敬意を表したいと思います。
http://mitpress.mit.edu/opening_up_education/
[山内 祐平]
2008.09.18
第5回の【突撃!隣の研究者】は、M1大城が担当致します。
今回は、専修大学ネットワーク情報学部で講師をなさっている望月俊男先生をご紹介させていただきます。
日々、たくさんのプロジェクトでお忙しい中、いつも親身になって相談に乗ってくださる、気さくで優しい先生です。そんな望月先生に6個の質問をさせていただきました!
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■どんな研究をなさっていますか?
先生は、主に協調学習の支援システムの研究に取り組まれてきました。プロジェクトの例としては、高等教育のグループウェアの研究(※1)や、文章読解の支援システム(※2)等が挙げられます。
※1「ProBo」
…プロジェクト学習を支援するWebグループウェア
http://pb.nime.ac.jp/
※2「eJournalPlus」
…批判的読解力を育成するためのTablet PCソフトウェア
http://utmeet.jp/projects/ejournalplus.html
■東大ではどんなお仕事をなさっていますか?
東京大学では、大学総合教育研究センターのマイクロソフト先進教育環境寄附研究部門(※3)に所属されています。昨年度までは運営全般に取り組まれていましたが、今年度からは非常勤として週1回勤務され、プロジェクト研究を進められています。
そこでは、上記の「eJournalPlus」のほか、プレゼンテーションの支援システムや「MEET Video Explorer」(※4)の研究をなさっています。
※3マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門(MEET)
http://www.utmeet.jp/index.html
※4「MEET Video Explorer」
…番組映像クリップを探索する活動を支援するためのソフトウェア
http://utmeet.jp/projects/index.html
■山内先生との出会いは?初めて共同でお仕事をなさったのは?
慶應義塾大学に在籍されていた頃、プロジェクトでご一緒した田口真奈先生(現・京都大学准教授)のご紹介で中原淳先生(現・東京大学准教授)と知り合い、その中原先生のご紹介で山内先生と出会ったということです。
山内先生と初めて共同でお仕事をなさったのは、再び中原先生のご紹介で、「iii online」(※5)の評価研究に携わった時でした。今や学際情報学府の院生にとって、あるのが当たり前の「iii online」ですが、当時はその試みが始まったばかり。先生らの研究を基に改善が重ねられた結果、今の「iii online」があるのだということを感じました。
※5「iii online」
…学際情報学府の講義をインターネット上で受講できるサイト
http://iiionline.iii.u-tokyo.ac.jp/index.php
■研究者になろうと思ったきっかけは?
「うーん」と悩んだ後、「大きなきっかけはない」とお答えになった先生。
もう少し細かく考えてみると、大学院への進学を考えたきっかけは、就職活動をしながら違和感を持ったことだそうです。当時は不景気だったこともあり、説明会などに行っても、働く側のキャリアよりも会社の業績アップが前面に押し出されていたとのこと。そんな中、先生としては、もっと勉強・研究して自分を高めたい、という思いが強かったそうです。
また、そのような気持ちを抱いたのも、先生が研究室文化の中で育ったことが大きいようです。もともと、純粋に新しいものを知ることや分析することが好きだったという望月先生。学部生時代には、苗村憲司先生(慶應義塾大学)のゼミに在籍されていました。そこでは、ゼミの先輩を手伝う機会がたくさんあり、それを通して研究とは何か、どうやって行うものなのかを直に学ぶことができたといいます。
大学院では別の研究室に進学された先生ですが、では進学と同時に研究者を目指すことを決めたかというと、そうではありませんでした。修士課程に入った時には、博士課程に行くつもりは全くなかったそうです。
とある方に「博士課程に行くことは棺桶に半分足を突っ込むこと。30までに就職できなければやめなさい」とも言われたそうです。
しかし、博士課程への進学を決め、今や研究者となった先生。「どんな相手に読まれても納得させる」論文を目指したというご自身の努力だけでなく、院生生活の中で出会った様々な人々に支えられてこそ今がある、と振り返っていらっしゃいました。
■研究をしていてよかったと思うことは?
「難しい質問ですねぇ~」と、この質問を最後にパスされた望月先生。最後に改めてうかがってみると、「新しいものを知ったり考えたりすること」という回答をいただきました。
「新しいものを考える」ということは、製品企画のためのマーケティング等、もちろん会社でもできるはずのことではあるが、研究というのは、海外や最新の動向もきちんと押さえてやるので、様々な知見を学ぶことができる、と話されていました。
そんな中で、「自分が考えたものができてきたり、上手くいったりすると、『キター!』って思う」と表現された先生。それだけ嬉しく、やりがいのある活動だということが伝わってきました。
■現在の夢や目標を教えていただけますか?
近いうちに一度留学して海外でしっかり勉強したいという気持ちがあります。東大で仕事したご縁で、スタンフォード大Pea先生や飯吉先生ほか、いろんな先生とお知り合いになれたので、ぜひうかがいたいということです。
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Eメールが発達した世の中とは言え、自分の修論を書き終えるまでは、まだまだ日本で直に相談に乗っていただきたいなぁ、と自分勝手なことを考えつつ…これからの先生の益々のご活躍をお祈りしたいと思います。
望月先生、お忙しい中、快くインタビューに応じてくださり、どうもありがとうございました!
先生の個人Webサイトはこちら:
「望月研究室」
http://www.mochi-lab.net/
[大城 明緒]
2008.09.16
デューイは、あまり知られていませんが、体系的に学習空間の機能について検討したはじめての教育研究者です。主著のひとつである「学校と社会」には、次のような図があります。
http://www.brocku.ca/MeadProject/Dewey/Dewey_1907/Dewey_1907c.html
より引用(日本語版は岩波文庫で出版されている)
この図は、デューイが考えた学校が持つべき学習空間を模式的にあらわしたものです。中央に図書室があり、工作室・裁縫室・食堂・厨房がそれにつながっています。この構成は、社会で行われている労働と学習活動を切り離さないためのものです。工作室で大工仕事をしながら、構造に関する物理的な問題について考えるために図書室で調べるということが想定されています。社会とのつながりが強調された図ですが、本文中では子どもの表現や内省に関してもふれられており、社会と内面のバランスが重要だと述べられています。
この本が出版されたのは1907年であり、複雑化した現代社会ではこのモデルをそのまま適用することはできないでしょう。しかしながら、学習空間デザインの原理を考えるための素材という観点で読めば、何回読み直しても発見がある古典的作品だと思います。
[山内 祐平]
2008.09.12
第四回目の【突撃!隣の研究者】は、M1の池尻が担当致します。
今回ご紹介する方は、東京大学の情報学環と史料編纂所で准教授をなさっている本郷和人先生です。
■経歴
本郷先生は、1988年に東京大学の東京大学大学院人文科学研究科博士課程を経た後、同年東京大学の史料編纂所で助手をされ、『大日本史料』の第5編の編纂をされました。その後、史料編纂所で助教授になり、2007年には東京大学大学院情報学環の准教授をされています。
専門は日本中世史で、主に政治史や古文書学の分野でご活躍されています。ちなみに奥様の本郷恵子さんも史料編纂所准教授をされており、ご夫婦揃って日本の歴史学を担っています。同じく歴史学を専攻している私としては、何とも羨ましい環境です。
■お人柄
歴史学の先生というと、物静かで小難しい顔をしていると思っている方もいらっしゃると思いますが、本郷先生は、ホームページを見ていただいたらわかるように、とても明るくユーモアに富んだ方です。
一方で歴史学には熱く、「何とか普通の人にも歴史に興味を持ってもらいたい」「引いては歴史を好きになってもらい」という考えの下、研究に精を出されているそうです。現在は、歴史に興味を示してくれない女性の学生に対して、どう興味を持ってもらおうかという点に苦悩しているそうで、少女マンガを読みつつ女性の感性を勉強しているそうです。
■研究活動
中世の政治史を中心に、朝廷における訴訟の研究や、中世の王権についての研究等、幅広く業績をあげています。歴史学の本というのは元々あまり売れないのですが、本郷先生の『吾妻鏡』は通例の20倍近く売れています。これも一般の人を意識している本郷先生ゆえの結果なのだろうと思います。ただ本郷先生は、「なんとか売れる本を書いてみたいと念願しているが、いまのところ実現のめどはたっていません」と笑っていました。
また、最近は人物を中心にして日本中世史を再構成するという新しい試みもされています。今年の4月には、福武ホールで開催しているUTalkで、豊臣秀吉と織田信長の女性関係から、当時の身分の違いを明らかにするというお話もしていただきました。学校の歴史科と違い、人間味あふれる歴史の見方を展開していて非常に面白く聞かせてもらいました。
■今後やっていきたい活動は?
本郷先生は、現在『吾妻鏡』全16巻の現代語訳をされているのですが、ゆくゆくは英語訳や中国語訳も行い、世界に日本の歴史を広めていきたいと思っているそうです。そして、『吾妻鏡』をもとに一般の読者を集い、カフェのような形で、みんなで歴史を語り合う。そんな活動をしていきたいと思っているそうです。
僕も歴史教育を志す者として、本郷先生のように一般の人々の視点を忘れないようにしつつ、歴史の面白みを現代に伝えていきたいと思います。今後も色々とお世話になると思いますが、よろしくお願いします。
[池尻良平]
関連リンク
本郷先生のホームページ
http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/personal/kazuto/index.html
UTカフェでの本郷先生の様子
http://online.iii.u-tokyo.ac.jp/fukutake/2008/04/
著書
『人物を読む日本中世史―頼朝から信長へ』講談社選書メチエ、2006
『新・中世王権論―武門の覇者の系譜』新人物往来社、2004
『武士から王へ―お上の物語』ちくま新書、2007
2008.09.09
日曜日から火曜日まで、偉大な業績をあげた研究者についてレビューする毎年恒例の夏合宿でした。今年の人選は、Skinner, Piaget, Vygotsky, Dewey, Ann Brownです。
Ann Brownは今年はじめてとりあげました。この方は、AERA (American Educational Research Association)の会長もつとめた有名な教育心理学者ですが、教育業界以外にはあまり知られていないかもしれません。幅広く学際的な活躍をしたDeweyやBrunerに比べ、教育を変えるビジョンのような大きな主張をしなかったからでしょうか。
しかしながら、業績を追うと、たくさんの実践的な知見をベースにした学習方法の提案をしています。有名なものとしては、相互教授法やジグソーメソッドなどがあります。
経験・探索・発見を基盤にした学習の重要性は、多くの研究者が指摘しています。しかしながら、それを安定して実現するための方法の確立は、いまだ道半ばです。
惜しいことに1999年に56歳の若さで亡くなりましたが、大きな言説で方向性を示すよりも、再現性のある有用な学習方法の確立を目指したAnn Brownの業績の数々に、職人のような静かな情熱が見えました。
[山内 祐平]
2008.09.04
山内研に近しい研究者の先生方をご紹介する【突撃!隣の研究者】の第3回。
いつもの3番手,林向達がお送りいたします。今回は,メディア教育開発センター教授である中川一史先生をご紹介します。
■どんなことをされてる先生?
もともと小学校現場の教諭であった先生は,当時はまだ珍しかった教室へのパソコン導入を先駆け,とても魅力的な実践を展開されました。教室にやってきたパソコンは,アップル社のマッキントッシュ。教室で子ども達がマックと過ごす日々の実践は,先駆的なメディア実践として,パソコン雑誌等の連載にもなり有名となりました。
その後も,「メディア」という視点はぶれることなく,実践と研究を積み重ね,教育委員会の職を経て,1999年には金沢大学教育学部の助教授に就任されます。
金沢大学着任後も,その勢いは留まるところを知らず,地域の現職の先生方を巻き込んで様々な研究会やプロジェクトを推進し,常に現場志向の取り組みを重視してきたのは,ご承知の通りです。
現在はメディア教育開発センター教授として所属を移され,いわば全国区でメディア教育を盛り立てていく役目を担われています。ちなみに,メディア教育開発センターには,第1回で登場した堀田先生もいらっしゃり,日本の初等中等教育における情報・メディア教育の取り組みを強力に後押しています。
■どんな先生?
たくさんのプロジェクト,たくさんの教育現場との関わりからもわかるように,バイタリティに溢れ,周りの人々のチャレンジ精神を鼓舞して場を作っていける先生です。当然,周りからの信頼も厚く,大変親しみやすい関係を築いてくださいます。
最近,お腹がポニョみたいになったことを(金沢大学の)教え子からからかわれても,ちっとも怒らないので,とてもお腹…じゃなかった…器の大きい先生だと再確認しました。
飲みに行くのもお好きです。特にワインはお気に入りのようで,ワインバーにお誘いいただいたことが何度かあります。山内研究室のお隣の研究者の先生方は,みんなグルメかお酒大好きな先生が多いです。
そして,先生は古くからのマックユーザーです。ホームページにも「こよなくリンゴを愛スル。」と宣言されております。この部分は私も同じです。
■「お隣」具合
メディアや情報に関する教育を研究するという側面で,山内先生ともお仕事をご一緒されることがあります。実際,私が初めてナマ中川先生やナマ山内先生を見たのも,ご一緒にパネルディスカッションをされたときでした。そのとき,中川先生のご著書を持っていたので,ミーハーな私は先生のサインをもらったことがあります。
サインをもらったときには想像もしませんでしたが,中川先生にお声掛けいただき,いまでは一緒に学校現場への助言活動などのお仕事をさせていただいたり,プロジェクトをお手伝いさせてもらうようになりました。また,私の修士論文の調査について,ご助言いただいたりしています。本当にいろいろとお世話になっています。
■関連リンク
Hitoshiの部屋
http://www.hitorin.com/
中川先生のひとりごと
http://www.hitorin.com/column/
メディア教育開発センター
http://www.nime.ac.jp/
というわけで,第3回はメディア教育開発センターの中川一史先生でした。中川先生,また美味しいもの食べに行きましょうね。
[林 向達]
p.s. 受験生の皆様,お疲れ様でした。それぞれの結果はあったかも知れませんが,今後も頑張っていきましょう!
2008.08.28
第二回目の【突撃!隣の研究者】は、M2牧村が担当致します。
国立歴史民俗博物館で助教を、情報学環で特任助教をなさっている佐藤優香さんをご紹介させていただきます。
いつお会いしても柔らかい雰囲気の素敵な佐藤優香さんに10個の質問をさせていただきました。
■どんなお仕事をなさっていますか?
■小さい頃の夢は何でしたか?
小さい頃は小学校の先生と絵本作家が夢だったという優香さん。
現在の博物館のお仕事は、その両方を味わえる仕事だそうです。博物館では、共同研究のコーディネートや、学校の先生と一緒に博物館教育のプログラムデザインをされたり、教員研修や博物館実習などで「博物館における学び」についてワークショップスタイルで講義をされたり雑誌の編集をされたりと、多岐に渡っています。
■どんな研究をなさっていますか?
「博物館の学び」について、「歴史」と「実践」の二側面から取り組んでこられました。
研究のスタイルは、「研究者」と聞いて想像するようなものとは少し違うかもしれません。博物館で実際に教育プログラムづくりをされながら、実践的に研究をなさっています。
現在の関心は、博物館におけるコミュニケーションや、研究を社会にひらくことだそうです。その言葉通り、東大では研究と社会をつなぐUTalkと呼ばれるカフェトークのコーディネートをされています。
■東大ではどんなお仕事をなさっていますか?
情報学環・福武ホールにあるUT caf BERTHOLLET Rougeで月に一度行われるUTalk。東大の研究者と参加者の方々が、カフェでお茶をする感覚で気軽に会話できる場です。優香さんは、このUTalkの企画と当日のモデレーターをなさっています。
このお仕事は山内先生と一緒にされているということで、「隣の研究者」とお呼びしていいのではないでしょうか。
■山内先生との出会いは?
学部4年生の頃、学会での山内先生の発表と、シンポジウムでの質問を聞いたのが最初の出会いなのだそうです。話をされるようになったのは、その後少し時間が経ってから。山内研究室で、ワークショップにおけるスタッフの動きと情報の共有についてプレゼンテーションをされてからだということです。
未来の「隣の研究者」になる人に、学生時代に出会っていたのですね。
■経歴について
では、学生時代から現在に至るまで、どんな道筋をたどっていらしたのでしょうか。
学部卒業後3年間働いた後、「博物館の学び」を研究するため大学院に戻られました。まずは博物館について徹底的に研究しなさい、という先生の助言に従い、修士課程、博士課程を通じて日本の博物館教育史について研究されました。
同時に、修士1年の頃から国立民族学博物館でのアルバイトを通して実践に関わっていらっしゃいました。その後国立民族学博物館で機関研究員をされていた3年間は、ワークショップのデザインやアウトリーチキットの開発、学校連携を担当されました。そして、国立歴史民俗博物館に就職され、館内の教育サービスに関する業務に携わっていらっしゃいます。
■研究者になろうと思ったきっかけは?
修士1年の頃からアルバイトをされていた国立民族学博物館で、たくさんの研究者に囲まれていた優香さんは、自然と研究者になりたいという思いを持つようになったそうです。それに加え、周りの研究者の方々と仕事をしていく上で、対等に議論する必要性を感じ、その力をつけ、博士の学位を取得しようと考えられたそうです。
学部の頃から「どうすれば楽しい学びが可能になるのか」ということに関心があった優香さんにとって、研究者という立ち位置が、最も自分が好きなことができるものだと感じたそうです。
■研究をしていてよかったと思うことは?
では、実際はどうだったのでしょうか。
研究をしていてよかったなぁ、と思う瞬間がどんな時か、伺ってみました。
いい実践ができたとき、ちゃんと文章でまとめられたとき、研究していたことを背景に自分の思いを人に伝えられたとき、という3つのお答えをいただきました。
実践的に研究をされ、研究を社会にひらくことに関心を持たれている優香さんならではのお答えをいただいたように感じました。
■実践と研究のつながりについて
では、優香さんにとって、実践と研究はどのような関わりを持っているのでしょうか。
ワークショップをデザインする際には、現場で参加者から発信される言葉や雰囲気から、瞬時の判断で場を作りあげていきます。その緊張感が実践の楽しさであると同時に、自分を成長させてくれるものでもあるのだそうです。
優香さんにとって実践とは、理論を確かめるための仮説検証の場というよりも、理論や仮説を生み出すための場としての性質を持っているそうです。実践を通して得られる参加者の反応が、優香さんの研究へとつながっていくのです。
■どこに行けば会えますか?
そんな佐藤優香さんには、毎月第二土曜日、東京大学 情報学環・福武ホールのUT caf BERTHOLLET Rougeで行われているUTalkで、普段は国立歴史民俗博物館で、会うことができます!
[牧村真帆]
2008.08.25
情報学環・福武ホールがグッドデザイン賞にノミネートされているため、8月22日、23日、24日と、グッドデザインエキスポ2008に出展しました。
犬を散歩させている人までいるリアルな100分の1模型も展示しました。
うれしいことに、森田昌嗣氏に、2008年度賞審査委員「私の選んだ一品」に選んでいただけました。2009年3月出版の私の選んだ一品・グッドデザイン賞審査委員コメント集8に掲載されます。ありがたいことです。
他のデザインも見て回りましたが、とにかくすごい数とバリエーションでした。デザインの力を感じるとともに、ここまで広がると、「デザインとは何か」ということについての議論は避けられないだろうと思いました。これについては、考えがまとまったら何か書いてみたいと考えています。
[山内 祐平]