2016.07.03

【今年度の研究計画】大学での正課外活動におけるキャリアレジリエンスの獲得に関する調査

暑い日が続いていますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
博士課程1年の池田めぐみです。今回のテーマは今年度の研究計画ということなので、私の研究計画について紹介させていただきます。

 私は、ざっくり言うと、「環境の変化に適応し、ネガティブな仕事状況に対処する個人の能力」であるキャリアレジリエンスを、大学生は正課外活動*の中でいかにして学ぶのか、ということについて研究しています。*正課外活動とは、サークルや勉強会のような単位の出ない授業外の活動のことです。

 現在、日本では大学生が就職することがバブル崩壊以前よりも難しくなっています。また、働いていく中で、ストレスを感じる人の割合や、離・転職など働く上での大きな変化を経験する人も多い状況です。

 このような中で、「環境の変化に適応し、ネガティブな仕事状況に対処する個人の能力で」あるキャリアレジリエンスの重要性が主張されはじめています。キャリアレジリエンスは文部科学省の唱える「生きる力」とも互換的に用いられており、高等教育においても、この力を育むことが望まれていると言えます。キャリアレジリエンスの構成要素としては、問題解決に関する能力やチャレンジ精神、適応力、楽観性、自己効力感、ソーシャルスキル、自己理解力、新奇・多様性などがあげられています。

 キャリアレジリエンスをどのようにして育むかということについては、今までビジネスパーソンを中心に考えられてきました。そのため、大学生がどのようにしてキャリアレジリエンスを育むのかという視点の研究はあまりなされてきていません。一方で、レジリエンスを高める上で成功体験を積むことや、類似した困難な経験を乗り越えることの重要性が主張されており、環境の変化に適応し、ネガティブな仕事状況に対処するのに類似した経験を積むことが、大学生のキャリアレジリエンスを高めることにつながるのではないかと予想されます。

 それでは、大学生はどのような環境でこういった経験をすることが可能なのでしょうか。この問いについて考えると、自分の想定を超えた他者や事象に直面する場であり、教員からの指示があまり与えられない環境で、困難が生じても自身の力で乗り越えなければならない正課外という場が有効なのではないかと考えられます。

 実際に正課外活動に関する先行研究を見ていくと、キャリアレジリエンスという単語そのものは登場しないものの、問題解決能力や適応力など、大学生がキャリアレジリエンスの構成要素の一部を獲得していることが示されてきました。

 しかしながら、大学生が、正課外活動にどのように取り組むこと(例:運営に関わる、積極的に関与する)がキャリアレジリエンスに影響するのかについては明らかにされてきていませんでした。そこで、修士研究ではこのことを明らかにすることを目的に質問紙調査を実施し、他のメンバーと密にコミュニケーションをとりながら活動に参加すること、活動に質的にも量的にも多く関わること、また、活動で得たことや活動そのものについてしっかり振り返えることがキャリアレジリエンスを育む上で重要だというこことを明らかにしました。

 修士研究において、正課外活動とキャリアレジリエンスの関係性の一部は明らかにすることができたものの、学生がいかにキャリアレジリエンスを育んでいくかという視点に立った時に、まだまだ明らかにしなくてはいけないことが多いのが現状です。博士研究では、正課外活動において学生が直面する困難の大きさや、周りから得られるサポートなどに着目し、大学生がどうすればキャリアレジリエンスを高めていくことができるかについてより立体的に明らかにしていくことができればと考えています。
長いようできっと短い博士課程の3年間、しっかり頑張らないとですね!


池田めぐみ

2016.06.23

「Research Theme (2016)」 Specificity in Ambiguity

Theme: Meso-level Support for ICT for Education (ITC4Ed) in Rural Southern Philippines

Hola, chicos y chicas!

Is hasn't been long since I last wrote about my research theme. Back then, it had also been my first blog post. I had yet to read about related literature, and had little knowledge on the topic at hand. Wide-eyed and optimistic, I tried to fit a topic relevant to current events and the global trend. Although I am still quite far from a concrete and perfect research plan, I believe output has sharpened a bit to something more tangible, plausible, and empirical. From national level to a rather more specific level: I attempt to cover a large scope in terms of universality so it is not only exclusive to the case study, but can be applied to similar schools in dire need of similar reforms.

At the moment, we are looking at working with a school from a partially urban area in rural Philippines. This encompasses a case where a rather sub-urban school is transitioning from traditional to mixed methods pedagogy. Moreover, I would like to provide assistance and support for school administrators of similar backgrounds to help themselves in raising their game, especially when they already have a fair amount of resources. Fair in this case would probably be less than what is recommended, but nonetheless, we would like to acknowledge that the first step would probably take the most amounts of push and initiative. Displeasing learning curve would likely influence teacher motivation, especially to those of ripe age.

Admittedly, it might be difficult to assess the situation especially because of the difference in background between (1.1) private, (1.2) special public institutions (from whence I had grown up in), and (2) the reasonably rural arena. The most challenging to append to the vast list of considerations in a heterogeneous population, is the individual circumstances of which school is merely a mid-level priority. A country whose populace would be deemed lucky just to even finish [primary schooling], regardless of ICT integration, would be extremely hard to coerce in utilization of new technology. That being said, should the school/s have menial problems such as power saving and budget constraints, understandably the use of personal computers would instead be looked down upon as troublesome.

In a consecutive turn of events, I will be in pursuit of evaluating the situation in various gazes, ideally based off learnings and work ethics I have picked up while dabbling with the social sciences. I do believe that by majoring in interdisciplinary studies, there is inclination that acquired knowledge is rather shallow compared to focused, compartmentalized studies. However, what really helped me over anything else is the outlook I honed in gaining appreciation for all disciplines and being flexible enough to be open-minded with both arts and sciences. Globalization intertwined with diversity is a beautiful phenomenon, and ultimately the successful proliferation of ICT use even in the most perverse areas is my goal.

Until next time,

Lian Sabella Castillo

2016.06.13

【今年度の研究計画】「学び方」のモデル形成のための支援

みなさま、初めまして。修士1年の根本紘志(ねもとひろし)と申します。
元々法学部で政治学を勉強していたのですが、大学院より専攻をガラッと変えることにしました。

まだ右も左もわからない状態ですが、今考えていることをご紹介したいと思います。

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■テーマ
「学び方」のモデル形成のための支援

■概要
「勉強の中身だけではなく勉強の仕方を教える/身に付けることが重要」
このようなフレーズとともに一時期勉強法がブームとなった。今でも勉強法・学習法を学ぶことに対するニーズは一定以上あるように見える。

実際、中学校学習指導要領の総合的な学習の目標に「学び方やものの考え方を身につけ」ることが記載されていたり、21世紀型スキルやEUによるキー・コンピテンシーでは「学び方の学習」が主要なスキル・コンピテンシーの一つとして紹介されていたりとこうした力の重要性・必要性は国家・世界レベルでも認識されている。

「学び方の学習」といっても「どんな『学び』なのか?」「その『学び』をどのように学習するのか?」「そもそも『学び』方を学習すると何が良いのか?」ということについて考える必要がある。日本でも以前より「学び方の学習」は行われているが、それらの多くは特定の先生方のコミュニティが行っているのみで、成果は実践例として紹介されているにとどまる。

現時点では、「学び方の学習」をした人が場面に応じて「この場面ではこんな学び方をしてみると良さそう」ということを自分で考え、その学び方にそって学習を進め、その方法が適切かどうかを振り返る...そうしたサイクルを回すことができるような支援方法を提案できたらと考えている。

本研究が進められている地域の一つとしてEU諸国が挙げられる。まずはそれらの研究成果を参照しながらどのような「学び方の学習」があり得るかをまとめている。

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大学院で専攻する内容を大きく変えたのには大きく2つの理由があります。
①講義の内容(勿論面白かったです)以上に、横で肩を並べて勉強していた法学部生の勉強の仕方が様々であることに関心を持ってしまったこと(実は、元々法学部を選んだ理由も教育行政に関心があったためなのですが...)
②学部生時代に行っていた教育関係のアルバイト・ボランティアを通じて高校生や大学生が「勉強の仕方を学ぶ」ことが大事なのではないかと思ったこと


このテーマを「現場で実践するのでは無く、研究として取り組む」とはどういうことなのか?そのために何をやらなければいけないのか?を先生・先輩方に教えていただきながら勉強する日々です。

【根本紘志】

2016.06.09

【今年度の研究計画】外国語学習の継続を支援する研究

みなさま、はじめまして。
修士課程1年生の林怡廷(リン イティーン)と申します。よろしくお願いいたします。
一見、名前が読みにくいと思うかもしれませんが、実は台湾の漢字の発音です。
台湾から日本に来て一年経て、日本語はまだまだですが、これからも頑張っていきたいと思います。
さて、今年度の研究計画を簡単に紹介させていただきたいと思います。

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■テーマ
外国語学習の継続を支援する研究

■概要
大学教育において提供されている外国語授業は週に2、3コマしか行われていない場合が多く、その限られた時間で上達するのはかなり難しい。それに、一クラスの人数が多いから、学習者の発音や聞き取りの練習が授業で十分に確保されることは困難である。大人数で学ぶ環境であり、かつ授業時間が限られているため、「学習者一人ひとりが満足でき、学習意欲向上を促進できる授業」の実現が難しい状況である。ですから、外国語授業を1学期、2学期受けても使えるようになっていない人は多くいると言われている。さらに、授業の時間は限られているから、外国語を上達するには、課外の時間に外国語学習に取り組む姿勢が重要だと言える。
その問題を解決するため、ICTを使って外国語学習を支援する研究はかなり進んでいる。その中に、多くの研究はスキル面(listening, speaking, reading, writing)に焦点を当てる。一方、動機づけ・言語不安・自己効力感・コミュニケーションの意欲など心理的要因は言語学習における重要な役割を担うと示唆されているため、それらに対する支援は不可欠だと考える。そこで、本研究では外国語学習のスキル面だけではなく、心理的要因にも着目し、外国語学習の継続の支援方法を模索する。

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学部は台湾の心理学部出身で、今までは社会心理学、認知科学などを勉強してきました。教育と学習についてわからないことも多いですが、自分の外国語学習経験を活かして、日本語も勉強しながら研究に取り組みたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。

【林怡廷】

2016.06.03

【今年度の研究計画】 数学苦手者のための学習支援システムの開発

みなさま、はじめまして。
修士課程1年の花嶋陽(はなしま よう)と申します。よろしくお願いいたします。
今までサッカーばかりをやってきたので、研究活動はまだまだ未知の領域ですが、頑張っていきたいと思います。

さて、今回のブログテーマ 「今年度の研究」 ということなので、現状の所を簡単にご紹介させていただきたいと思います。
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・ 題目
数学苦手者のための学習支援システムの開発

・ 概要
現状の学校教育における数学教育の課題として、一方向・一斉授業という授業形態による「ついていけない生徒」への不十分な支援が挙げられる。さらに、一見「ついていけている」ようであっても、市川ら研究グループの調査によると、数学の基礎用語・概念の欠如や非効率的な計算手続の固着などの問題点が指摘されており、公式を当てはめるだけといった表面的な理解しかできていない生徒が多数存在する可能性を示唆している。
このような現状に対し、より双方向的な、教え合い、学び合いといった協調学習の形態を授業に取り入れることは一つの解決策であろう。一方で、学校での授業時間が限られていることを考えれば、自宅での学習や授業外での個別学習の質の向上について考えることは重要であろうし、人的・地理的制約を受けないITツールによってその支援をすることは価値があるものと思われる。また、学校現場における課題の一つとして教師の多忙が挙げられる。数学において「つまづいている」生徒に対して、時間を割きたくても中々そうできない
という課題に対して、教師と生徒を効率的につなぐようなシステムの考案も視野に入れている。
数学苦手者を対象とするという文脈の中で、動機付け要素・認知的要素・システム的要素の研究知見を組み合わせ、効果的な学習支援システムの開発に臨みたい。
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私は、教科学習が学生達からあまり好かれていないという現状に「悲しみ」を持っている人間です。初等中等教育で行われる教科学習も、実は学問の基礎としてとても神秘的な奥深さを持っており、学び方によってはその面白さに、感動することもきっとできると思います。
そのような想いも込めて、研究活動に励みたいと思います。

【花嶋陽】

2016.05.25

【今年度の研究計画】幼児向け教育・知育アプリケーションのデザインに関する研究

みなさま、はじめまして。
この4月から、修士課程1年生として本研究室でお世話になっております、江﨑 文武(えざき あやたけ)と申します。よろしくお願いいたします。

今回のブログのテーマは「今年度の研究計画」ということで、簡単ではありますが、現段階でのものをご紹介します。


●題目

幼児向け教育・知育アプリケーションのデザインに関する研究

●概要

ベネッセ教育総合研究所(2013)が、0歳6か月~6歳までの乳幼児をもつ母親を対象に行った「乳幼児をもつ親子のメディア活用についての調査」では、「母親がスマートフォンを使用している2歳児の2割超が、「ほとんど毎日」スマートフォンに接している」という結果が出ている。また、保護者は、子どもに学習アプリ・ソフトを使わせることに対して、「知識が豊かになる(81.5%)」「歌や踊りを楽しめる(77.1%)」「作る、描くなどの表現力を育む(68.7%)」などの可能性を感じている」と、新しいメディアに期待を寄せている結果も出ており、これからますます、幼児はタブレットPCやスマートフォンに触れていくことになると予想されている。アプリケーションをデザインする場合、大人向けにはすでに多くのデザインガイドラインが存在してるが、子どもを対象にする場合、その発達段階によって、形状、色彩、空間の認識能力が大きく異なるため、大人向けのデザインとは全く違った方法でデザインを進める必要があるが、子ども向けのアプリケーションデザインは、まだまだ未知の部分が多いのが現状である。そこで、幼児向け教育・知育アプリケーションのデザイン(ユーザーエクスペリエンス、ユーザーインターフェース、グラフィック、サウンド...)について、子どもの発達段階に合わせたアプリケーションのデザインはどうあるべきなのかということを、ピアジェの認知発達理論などをベースに検討し、発達段階別にそのデザインの方法論を明らかにすることで、幼児向け教育・知育アプリケーションの様々な可能性を拓きたいと考える。



私は、学部では作曲を専攻し、映画音楽やアニメーション音楽を制作していたほか、音楽以外の分野では、各種グラフィックデザイン(ポスター、名刺、パッケージなどの紙モノ)やアプリケーションのインターフェースデザインを手がけていました。また、世界中の大学生と共に高校生向けにサマーキャンプを開くプロジェクトに設立当初から関わっており、その中で各教材のデザインや、サマーキャンプのテーマ音楽の作曲などを行うにつれて、次第に、教育とそれにまつわる各種クリエイティブの関係性に興味が湧いてきました。

これまでは、ただひたすらモノを作り続けて何かを好きなように表現するという土壌で生活してきましたので、先行研究をレビューし、リサーチクエスチョンを探し...という研究生活に慣れるまではまだまだ時間がかかりそうですが、日々努力してまいります。これから、どうぞよろしくお願いいたします。

【江﨑 文武】

2016.05.22

【今年度の研究計画】プログラミングの概念理解を促すTinkeringを支援するシステムの開発

みなさま、こんにちは.
修士2年の原田悠我です.

今回のブログのテーマは1年ぶりに【今年度の研究計画】です.
朝に書いたものを夕方には変更している状況ですが,
今考えている計画を紹介したいと思います.
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■ テーマ
プログラミングにおける概念の理解を促すTinkering(ティンカリング)を支援するシステムの開発
■ 背景
 コンピューターやインターネットといった情報技術の発展は,社会を変化させ仕事や私生活に大きな影響を与えている.このような変化に対応するため,21世紀型スキルと呼ばれる新しい能力の重要性が指摘されている(Griffin et al., 2012) .その中には問題解決といった,すべての人がある程度は訓練なしに持っている「ソフト」スキルが含まれている.「ソフト」スキルと訓練なしには知り得ない「ハード」スキル(例 連立方程式を解く)の両方をいかに育成し評価していくかが今後の課題となっている.
 こうした問題解決のスキルとしてComputational Thinking(計算論的思考 以下CT)が注目されている.CTは2006年にWingよってすべての人にとって必要な技術として主張されたものである(Wing 2006).CTの範囲や本質について議論がなされ(NRC 2010,NRC 2011),CTは抽象化とパターンの一般化などの要素から構成されていると広く認められている(Grover and Pea 2013).
 このようなCTを育成するためにプログラミングの重要性が指摘されている.確かに,CTではプログラミングができる以上のことを目指している(Wing 2006).しかしWolzやResnickが主張しているように表現する形式としてプログラミングを学ぶことはCTにとって重要である(NRC 2010).つまり,プログラミング教育はコンピューターサイエンスの専門家育成のためだけでなく,CTを育成するためにすべての人への教育として注目されていると言える.
■ プログラミング教育
 しかし,プログラミングを教えることは容易ではない.なぜならば,プログラミングには高度な認知能力が求められるからである.1980年代初頭より研究が進められ,熟達者と初学者の違いについて様々なことが明らかになってきた(Sonnetag 2006).また教育方法も検討され,プログラムを生成するためには,新しい機能を教えるだけでなく,それらの機能の使い方や組み合わせ方,特に一般的なプログラムのデザインの問題の根本にあるものを教えなくてはならないことが明らかになっている(Soloway and Spohrer 1989, Robins et al.. 2003) しかし,プログラミング教育研究の多くがシンタックスや言語の特徴に注力しがちであるという問題がある(Pears et al. 2007).
■ End-User向けプログラミング環境
 このように高度な認知能力が求められるプログラミングを教えるために言語やプログラミング環境が検討されてきた.そのなかでEnd-User向けのプログラミング環境が注目されている.End-User向けプログラミング環境とは熟達したプログラマーでなくても特定の目的のために開発ができる環境である(Ko et al. 2011).例えばResnickらは13歳の女の子がScratchを利用しながらアニメーションを作っている様子を報告している(Resnick et al. 2009).またAliceを利用した研究ではアニメーションやゲームを作りながらJavaについて学ぶことで,成績・自己効力感・継続率が高まるという報告がある(Daly 2013).すなわち,学習者はゲームやアニメーションの作成を通じて探求することでプログラミングを楽しみながら学んでいるのである.
■ Tinkering
 このような学習者自身の探究活動はTinkering(いじくり回す)と呼ばれている.Tinkeringは試行錯誤・just-in-timeのプランニングなどを含んだ遊び心に満ちた活動であり,構造化プログラミングと対比される.構造化プログラミングとはルール駆動でトップダウンの計画に頼るもので明確に計画を立ててからプログラムを書き始めるやり方なのに対し,Tinkeringはボトムアップに素材とのnegotiationや再編集を好むやり方である(Papert 1980, Turkle and Papert 1992 ,Turkle 1995).BearlandらはTinkeringは初学者および熟達者の両者においてプログラミングおよびプログラムを学ぶ真正なプロセスであり実践と主張している (Bearland et al. 2013)
 しかしながら,何も支援を与えず学習者任せにTinkeringさせても,学習者は上手く学ぶことが出来ないという問題が指摘されている(Mayer 2004).例えば,Kurland and Pea は学習者任せに50時間のプログラミングの授業を実施したが,再帰のプログラムを理解することができなかったと報告している(Kurland and Pea 1985).また,プランニングのスキル(Pea and Kurland 1984) や論理的思考(Dalbery and Linn 1985)についても実証的な研究は少なくさらなる研究が必要である
 このことは,Tinkeringによるプログラミングが学習を引き起こさないというわけではない.Littlefieldらは,訓練を行った状況 ・プログラミングの熟達 ・転移を測定する方法の定義が必要であると主張している(Littlefield et al.. 1989).同様にPalumboは教授方法や訓練の時間・強度などが影響をあたえるとしている(Palumbo 1990).このようにプログラミングの概念理解を促すためには学習者任せのTinkeringではなく適切な学習環境をデザインする必要がある.
■ 目的
そこで本研究ではTinkeringに着目した支援方法の検討を行なう.

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開発するシステムのアイディアはまだ定まっておらず,現在は調査のためにプログラミングのワークショップを初心者の高校生や大学生を対象に実施しています.一方で,プログラミング教育の流れ(特に日本の研究や実践)についてはもまだまだレビューできていない状況です.

研究や実践についてレビューしつつ,実際に学習者がプログラミングをどのように学んでいるかということを軸足に,現状の問題点を見極め支援システムの開発を行いたいと思います.

今年度もよろしくお願いいたします.

原田 悠我

2016.05.09

【今年度の研究計画】不登校の児童生徒における家庭学習の実態調査

みなさま、こんにちは。M2の長野香織です。
GWは久しぶりに岡山の実家に帰り、中学校に行って先生とお話したり、友達と飲みに行ったり、フリースクールを訪問させていただいたり...バタバタしながらも、充実した時間を過ごしました。楽しい時間は本当にあっという間ですね...少しさみしい気もしますが、しっかりとリフレッシュできたので、またぼちぼち研究の方を頑張っていこうかな〜と思います。

さて、今回のブログのテーマは「今年度の研究計画」です。まだ固まっていないところもありますが、4月にあった研究構想発表会で発表したものを紹介させていただきます。

■テーマ
不登校の児童生徒における家庭学習の実態調査

■背景
1. 社会的背景
 不登校の児童生徒の増加が社会的な問題となっている。文部科学省の平成26年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」によると、平成26年度の不登校の児童生徒数は、小学生が25,866名、中学生が97,036名、高校生が53,154名となっており、その数は全体で176,056名に上ると報告されている。また不登校状態になったきっかけとしては、小学生から高校生まで「不安などの情緒的混乱」や「無気力」といった心理的な要因に関するものが約6割を占めている。 
 それでは、不登校の児童生徒の支援を考える際に、心理的な支援のみに着目していて良いのだろうか。文部科学省の「不登校に関する実態調査」(平成18年度不登校生徒追跡調査報告書)では、「学校以外の場所なら勉強を続けたいと思っていましたか?」という質問に対し、学習の継続意思を持っていた不登校の児童生徒はは回答者の約半数(42.9%)という結果であった。さらに、勉強を続けやすい方法としては「通信手段を用いて助言をもらいながら家庭で勉強する」の項目が31.1%、「家庭訪問」が16.6%となっており、自宅で学習できる機会を持つことを望んでいる児童生徒が少なからず存在するということが明らかになっている。また現在不登校の児童生徒の学習権を保障するために、国会でも新たな法案が検討されており、社会全体として不登校の児童生徒の多様な学びを保障しようとする動きが活発しているのである。

2. 先行研究
 では、実際に不登校の児童生徒の学習環境としてはどのような場所が考えられるであろうか。不登校と一言で言ってもそれぞれの生活の仕方によって学習環境は異なる。以下では、それぞれの環境での学習支援について、学校内と学校外に分けて研究動向を概観する。

2.1 学校内での支援
 不登校の段階には様々な段階があるが、別室登校ができる生徒に対する学習支援方法としては、教室にいる時と同じように授業が受けられるようなシステム開発の研究がなされている。これらのシステムによって、教室に入ることができなくても周りの生徒と同じように授業が受けられる機会を持てる一方で、広田(2012)でも指摘されているように、学校内のネットワークの問題やセキュリティの問題、さらには別室の生徒をサポートする人材の不足などが課題として挙げられている。別室登校の児童生徒については、学校には来られる状態であり、授業や進路指導など学校の教育サービスを受けられる状態にはある。しかし、不登校の児童生徒の中には学校に来られない生徒もおり、学校内だけでは対応しきれないのが現状である。

2.2 学校外での支援
 まず挙げられるのが適応指導教室やフリースクールなどの施設である。それらの場所には統一されたカリキュラムはなく、施設によって支援方法や支援目標が大きく異なっている。それゆえ、学校の代わりとして学習支援を中心にしている施設もあれば、あくまでもソーシャルスキルの育成を目標とし、心理的な支援を中心にしている施設もある。また、保護者や児童生徒による施設の捉え方やニーズについてもそれぞれ異なっていることが明らかになっている。これらの施設の良さとして、人と接することができるという点や学校にいる時と同じように(またはそれ以上に)社会的な体験をすることができるという点がある。しかし、学習・進学支援がどれだけ充実しているかということについては施設に依存しており、特に進学を意識する生徒はその施設の方針に合わせて学習方法を変えていかなければならないところが難点である。
 また、適応指導教室やフリースクールの他にも民間の塾や学習教室なども学習環境としては重要である。それらの場所ではカウンセラーなどの専門のスタッフが勤務しているとは限らないため直接心理的な介入はせず、学習支援を主な目的としているところに特徴がある。さらに集団の施設に比べて敷居が低く、個人に寄り添った学習支援をすることができるため、個々のつまずきに対応しやすいといえる。

■問題の所在と目的
 これまで学校内、学校外の学習環境についての先行研究を概観してきた。しかしながら、不登校の児童生徒はこれらの場所で過ごす以上に多くの時間を家庭で過ごしている。さらに、上述したように不登校の児童生徒は学習を継続しやすい場所として「家庭」を挙げており、今後不登校の児童生徒の学習環境を考えるときに非常に重要な場所となる。しかしながら不登校の児童生徒の家庭学習の実態を明らかにした研究はない。そこで本研究では、不登校の児童生徒が家庭学習として、何を用いて何を学んでいるのかを明らかにすることを目的として調査を行う。この研究で得られた結果から、今後の家庭学習の支援につなげていくことができると考えている。

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以上、現時点での研究計画を紹介しました。現在はこの研究計画に沿って調査方法を検討しているところです。どれだけ学習支援と言っても、人の心にも関わってくる研究なので倫理的な問題も含め、慎重に検討していく必要があると考えています。

私の研究生活も残り1年となりました。限られた時間をできるだけ有意義に過ごせるよう日々努力して参ります。どうぞ今年度もよろしくお願いします。
【長野香織】

2016.04.28

【今年度の研究計画】アマチュア音楽活動における関心の深まり方の類型化

M2の杉山です.私の今年度の研究計画をご紹介します.研究の意義を説明する難しさに直面する日々です.世の中では,新規性,新規性,などと言うこともありますが,むしろ新しいもの中から「価値のあること」を見つけ出すことの方が重要で困難な作業です.目下,計画を修正中なので,以下のまま修士論文にはならないと思いますが,ご紹介します.

■テーマ
アマチュア音楽活動における関心の深まり方の類型化

■背景
 人が自己実現をするやり方は仕事の中だけにあるのではない.ある人の生涯に意味を与えるものの一つに,余暇活動がある.余暇活動には「気晴らし」と「真剣な余暇」があると言われ,アマチュアでありながらも長期間関与を続け,その領域においてキャリアを積んでいく真剣な余暇において,人は自己実現・自己表現を果たすという(Stebbins 1992) .こうした余暇活動の可能性は,文化政策や生涯学習,高齢者福祉などの領域で注目を集めており,人々が充実した生を送る一つのあり方として,余暇活動を支援・振興していくという動きが見られる.
 こうした政策領域における一つの大きな問題が,参加 particitpaiton と関与 engagement のあいだの隔たりである.これまでの政策領域では,「全く活動をしていない人」がいかに参加できるようになるか,という問題に焦点を当て,施設の整備やアウトリーチプログラムの実施などによって,活動への「アクセス」を拡大してきた.しかし,それによって「参加」の機会が増えることと,継続的な「関与」が発生することは別の問題として存在している.文化消費の事例ではあるが,イギリスの文化振興政策では「1度でも参加する人」の数を増加させることができたが,「定期的に参加する人」は全体の1割程度のまま,変わらなかったという.
 それゆえ,人々がある活動に熱中し,関与し続けることはなぜなのか,そうした関与を生み出すきっかけが存在し,支援は可能な対象なのか,という問題は,解かれるべき意義のある問いである.本研究では,年齢を問わず多くの人々が参加・関与しているアマチュア音楽活動を余暇活動の事例として,この問いに取り組む.

■先行研究
 アマチュア音楽活動への参加・関与の問題を主に扱っている領域は,音楽教育(生涯音楽学習)である.先行研究では,アマチュア音楽活動へ参加する成人は,中・上流階級の大学を卒業した専門職従事者が多いとされている.さらに,個々人にとっての参加の理由は,「新しい友人に出会う」というような社会的動機づけから,「音楽を愛しているから」というような音楽的動機づけ,「自己表現のため」という個人的動機づけに分かれるという(Coffman 2002).
 このように先行研究は,参加の理由のパターンについては明らかにしているものの,どのような属性をもつ人がそのような理由づけをするのか・どのようにしてそのような理由づけが生まれてくるのかについて検討していない.その点が明らかになれば,なぜ関与が生まれるのかについて有効な知見になるだろう.
 そこで参考になるのが,教育心理学における「関心の発達(深まり)」に関する研究である.教育の分野では,理科などの科目において,生徒がただその領域的な思考をするだけでなく.その領域に関心をもち,主体的に実践に取り組んでほしいという観点のもと,関心の分類と発展のモデル化を行っている(Hidi and Renninger 2006).それによれば,関心は単純に活動を続けていくだけで深まるのではなく,その領域での熟達やそのほかの経験が関連しあいながら,深まっていくものである.
 それゆえ,関心の発達に関する一般手的なモデルは存在しても,学習者が実際に何を経験するのかは,当該領域によって異なる.そこで「アマチュア音楽活動に関与していく中でいかに関心が変遷してきたのか・またそれはどのようなきっかけによるものだったのか」を本研究の問いとして設定する.

■方法
アマチュア音楽活動を5~10年続けている成人に対し,自らの音楽活動に関して回顧的インタビューを行う.それによって,活動に関与していく中でいかに関心が変遷してきたのか・またそれはどのようなきっかけによるものだったのかを探索的に明らかにし,類型化を試みる.

【杉山昂平】

2016.04.12

【今年度の研究計画】学校外のテクノロジークラブにおけるエスノグラフィ

春一番も吹き、本格的に春がやってきましたね。
みなさま季節の変わり目、いかがお過ごしでしょうか。
M2の青木です。

さて、新年度はじめは、毎回「今年度の研究計画」というテーマでブログをお送りしております。
昨年は、参与観察を中心に研究生活を送っていましたが、今年度はいよいよ修論執筆です。
悔いのないよう、日々を丁寧に送っていければと思っています。

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■テーマ
学校外のテクノロジークラブにおけるエスノグラフィ

■背景
●求められる学習の変化
現代はあらゆる情報がデジタル化された高度情報化社会・知識基盤社会とよばれる。このような社会変化から、教育・経済・職場などの多様な文脈でデジタルメディア実践への注目が集まっているMills 2010)。このような時代を生きていく現代の子どもたちに求められるデジタルメディア実践に関する学習については、情報技術に関する流暢さ(Being Fluent with Information Technology)(NRC1999)など様々な定義が行われてきた。また近年では、これらを包括・発展させた、21世紀に求められる学習として、21世紀型スキルや、デジタルメディアリテラシーなどが提唱されている。これらの定義から、これから求められるデジタルメディア実践での学習は、技術を理解し身に付けるのみならず、その技術を活用し、他者と協力しながら新しい表現・創造活動を生み出し、主体的に学び続ける姿勢であるといえよう。

●学校外のデジタルメディア実践への着目
では、上述したような21世紀に求められるデジタルメディア実践での学習は、どのようにして学ばれるのか。
現在日本では、プログラミングに関する教育の場としては、公教育と公教育以外の場があるが、高等学校では履修率が約2割であり(文科省 平成28年)、1.1で述べたような技術の活用や新しい表現・創造活動、主体的に学びつづける姿勢に関する学習が行われているとは言いがたい。
また、山内(2003)は、学校での学習はデジタル社会における技術・表現形式の変化の速さに追いつけない可能性が高く、さらに学校知として現実の社会とそぐわない形で教授される可能性があることを指摘している。その上で、デジタル社会のリテラシーは、表現と受容を循環しながら学ばれ、さらに継続的に活動するためには社会的実践に参加していく必要があるとしている。つまり、学校内だけではなく学校外でもデジタル社会のリテラシーの学習をしていく必要がある。

実際に、学校や学校外を往来しながらデジタルメディア実践に関して学習している青年の様子の研究も行われている。Barron(2006)は、青年たちが自分自身の関心に従って、学校や学校外、家庭を行き来しながら、学習機会を受容したり創造したりしながら技術的流暢さを獲得していく様子が明らかにした。この研究に対して、Collins(2006)は、イリイチ(1970)のOpportunity Webとの関連を指摘し、Barron(2006)で示されるように自身の関心を追い求めて学習するような、主体的な自己主導型の学習者は、21世紀の経済社会において勝者であろうと述べている。このように、現代の子どもたちに求められる学習を考える上では、学校のみならず、学校外も視野に入れ、子どもたちの周りに広がる学習のエコロジーを考慮していく必要があるといえよう。

では、学校外のデジタルメディア実践としてはどのような研究が行われているのか。たとえば、オンライン学習(SNSやゲーム)(e.g.Greenhow2009)や、ワークショップやプロジェクト単位のもの(山内2003)などがある。本研究では、近年、学習効果が実証されてきた「テクノロジークラブ」を対象とする。

●テクノロジークラブに関する先行研究
近年アメリカでは、テクノロジークラブの実践と研究が広がっており、効果も認められてきている。テクノロジークラブを対象とした先行研究では、状況的学習論をベースにしたエコロジーの観点からエスノグラフィを行い、テクノロジーを活用した関心主導型の学習(Barron et al., 2014)やデジタルリテラシー(Vickery2014)、アイデンティティ(e.g. Levinson et al.,2014)が獲得されることが明らかになっている。このように、学校外のクラブ施設では、メンターとの関わりや試行錯誤をしながら友人と自由に活動することによって、デジタルリテラシーや青年の関心やキャリアの促進が行われている(Ito et al., 2013)。

しかし、先行研究ではアメリカのテクノロジークラブが対象になっているが、アメリカにおけるテクノロジークラブは貧困や格差縮小を目指し、行政・企業・大学らが協力して実施している公共施設である。さらに、学校との連携を行ってプログラムが展開されているものもある。つまり、学校の延長としての放課後プログラムの特性がつよい。一方で、日本ではテクノロジークラブ自体は2013年ごろから増え始めたものの、民間の団体や企業が運営しており、小規模であり、アメリカと同じような運営をすることはできない。日本では生徒の社会化やメディア制作を通した社会活動などを目指すアメリカの実践と異なり、プログラミングに関する教育の提供、子どもの教育や子育てを目的としたNPO・組織、もしくは企業のCSR活動や大学の公開講座等の地域・社会貢献の一貫としての活動が行われている(総務省 平成27年)。日本でのこのような実践の歴史は浅く、規模や教育内容もばらばらであり、手探りで行われているといっても過言ではないだろう。
では、どのような学習環境であれば、より中高生は積極的に参加し、学習していくのだろうか。

■目的
本研究では、日本におけるインフォーマル学習環境のテクノロジークラブにおいて、どのような学習がどのようにして生起しているかを参与観察とインタビューから明らかにし、どのような学習環境をデザインすればよいかの知見を導出することを目的とする。

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まだ、推敲中なのですが、おおまかにはこのような方向性で研究を行う予定です。

今年度もどうぞよろしくお願いいたします。

【青木翔子】

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