2016.10.10

【山内研っぽい1冊】『インターネットの子どもたち』

こんにちは!修士1年の林です。
10月に入って、天気もどんどん涼しくなってきましたね。キャンパスの中にも銀杏の匂いが漂っていて、秋の到来を感じました。
日本では、読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋......色々ありますね。みなさんは、どんな秋を過ごしていきますか?(ちなみに私は食欲の秋が一番好きです。)

さて、今回のブログのテーマは【山内研っぽい一冊】ということです。
このシリーズでは鞄の中に入っていたら「もしかして山内研の人ですか?」と言われてしまいそうな1冊を紹介するシリーズです。今回私が紹介したいのは『インターネットの子どもたち』という本です。

著者は認知科学者の三宅なほみさんです。他にも、『学習科学とテクノロジ』、原田先輩が紹介した『教室にマイコンをもちこむ前に』など、学習とテクノロジに関する本を編著していました。
本書は1997に出版されました。私はまだ保育園に通っていて、インターネットの普及が始まった時代です。子どもたちの学びや遊び、コミュニケーションなどがインターネットの普及によって、変化し始めました。そんな現状を報告しつつ、どうしたら子どもたちがコンピュータを自己表現のための創造的メディアとして使いこなせるようになるかを考えるのが本書です。


本書の7つの章で構成されています。読んで特に興味深い感じる章を紹介していきたいと思います。

第2章「インターネットで学びが変わる」は、認知科学の観点から、インターネットが学ぶことにもたらす変化について議論しています。
「人が持っている知というものも、一人の頭の中に何がどれだけ詰め込まれているかでその質が決まるのではなくて、どんな時にどれだけ引き出せるか、引き出して結果がどれだけ他の人の知と相互作用を起こしてよりよく変われるか、というような側面が大事だということになってきつつあります。(p.40)」
このような「知のネットワーク」という見方は、今の私たちに対しては当たり前のことではないでしょうか。協調学習における知識共有、知識構築などの過程は、インターネットのおかげでより簡単にできるようになってきます。
したがって、このような情報化時代に求められる能力も変わりつつあります。情報を覚えることよりも、情報をいかに手に入れ、活用し、さらに他人と伝え合うかの能力が大事になってきます。

第5章「インターネットで英語を学べるか」は、英語教育のあり方とその真実性(authenticity)について議論しています。自分の研究テーマにも関係ありますので、興味深く読みました。
ネットで英語教育といえば、書いた英文文章を送ると添削してくれる「文法教室」のようなものはネット上にたくさんありますが、それより、実際のコミュニケーションが生まれることが期待されています。
「英語教育に真実性を持たせるためにインターネットの役割が期待されています。......インターネットが利用できれば、本物のコミュニケーションのための英語が教室に居ながらにして学べるではありませんか。(p.123)」
そして、著者は英語教育に「足場かけ」という考え方を持ち込むと、英語教育観はまた変わると述べました。インターネットを利用し、自分が興味を持っているテーマのプロと英語でコミュニケーションを取ることになったとしましょう。その場合は、自分の英語がちょっとおかしくても、おそらく向こうがプロだからわかってくれるでしょう。それで情報交換ができるのです。このようなプロセスを繰り返すことによって、その領域に関する用語には強くなるでしょう。「これは、この教育実践の場が、先に問題にした真実性を大事にしていればなおさらそうなるはずです。......教育の場の真実性は増し、豊富で質の高い手助けを大量に与えられて、学習者はどんどん英語でのコミュニケーションが得意になっていくはずです。(p.128)」
私自身の経験から言うと、日本に来る前に日本語は喋れますが、教育工学に関する専門用語はまったく知りませんでした。そして、日本に来てから、ゼミに参加して、研究室のメンバーたちと教育について議論する中で、自分の語彙量が増えたと強く感じています。インターネットの環境で、海外に行かなくても世界中の専門家と話すことができるから、真実性のあるコミュニケーションが取れるのではないでしょうか。

この本はおよそ20年前の本ですが、その中の考え方は今日読んでもすごく心に響きました。まさに予言みたいに、本の中に書かれたように、インターネットで私たちの学びは大きく変わりました。MOOC、SNS、アプリなど、たくさんの学習メディアが溢れているこの時代、これから学びはどう変わっていくのを楽しみにしています。


【林怡廷】

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