2010.10.23
みなさま、こんにちは。修士2年の程琳と申します。
山内研究室にある、ちょっと意外で便利な道具や文化をご紹介する
【山内研の秘密】シリーズの三回目をお送り致します!
今回ご紹介するのは「裏にあるシステム・Twitter@Ylab」でございます。
■バックチャンネル
今の時代のことだから、おそらくほとんどの研究室には裏にあるバックチャンネルが動いているだろうと思います。その中で、個人的な理解で正しいかどうか分かりませんが、一定のメンバーのメールアドレスを登録するメーリングリストのほうが一番耳なじんでいます。また、私的な連絡のときは携帯電話などの方法も効くでしょう。
当然、山内研究室にもニュースや行事更新情報などを流している共有のメールアドレスがありますが、公的なイベントの開催や募集などに有効なのですが、いちいち騒がせると迷惑である上、場合には、公的と私的の間にあるようなお話しはどの規模までにするかも難しいことですね。
このときこそ、身内の人にかけやすいフォームがほしくなってきます。
■YlabにやってきたオープンフォームとしてのTwitter
私が初めてTwitterを耳にしたのは、2009年の夏でした。山内先生からの掛け声で、研究室のドクターとマスターと研究生がみなアカウントを作り、互いにフォローし、研究室まわりの情報を分け合い始めたのです。
基本的に、一回140文字のつぶやきの制限がありますが、マイクロブログのような雰囲気で、「今起きた、今日は朝ごはん何にしようか」のつぶやきもできますし、フォローしている知人宛に「@ABCD123 eLearningの研究は実践が多いですね」とチャットにしてもよいわけです。しかも、同時に複数の人に特定つぶやきも全然平気です。
■身内しか知らないスペシャルチャンネルのTwitterの役割
ところが、なんでもオープンにしたがるわけではないこともあります。そこで生まれてきたのがインターチャンネルとしてのTwitterの使い方がありました。
それは、研究室メンバー共有のメールアドレスとTwitterを結びつけたうちわの人にしか見られないセキュリティがかかる仕組みとなっています。
ええと、当時のメールの一部を公開してしまいます。。。
たとえば、私が今回の研究相談の内容をつぶやいてみますと...
メーリングリストと結ばれているので、しばらくしたら、メールでの知らせがまわってきます。これは自分がアップした情報だけではなく、メーリングリストに登録されたほかのメンバーが同じようにつぶやいた情報が全部メーリングリストと連動してメールで検索できるようになっています。
最近、ちょっと研究だけに限らないけど、大事なお知らせもこの@iiiylabを活用するケースがあります。
Twitterを使い始めてから、バージョンが数回アップデートしているうちに、その利便性にますます惹かれるようになってきました。私はどちらかというと引いてしまう性格ですが、Twitterのおかげで、いつでもどこでも、ネットにさえつながれば、身内の人の動きと彼らの関心持っていることを気楽に知ることができます。
このように、山内研究室の裏のシステムとして、Twitterは生活面から研究の進捗、それから、情報共有までバリエーション多様な役割を提供してくれています。
【程琳】
2010.10.20
大学院情報学環・学際情報学府創立10周年記念シンポジウム
「智慧の環・学びの府――情報知の熱帯雨林の10年――」
【来週からウェブで受付を開始します】
大学院情報学環・学際情報学府創立10周年記念シンポジウム from todai iii on Vimeo.
2000年からスタートした東京大学大学院情報学環・学際情報学府は、今年で創設10周年を迎えました。学環・学府では、これを記念して、来る11月12日(金)にシンポジウムを開催いたします。
長尾真氏(国立国会図書館館長/元・京都大学総長)、鷲田清一氏(大阪大学総長)、濱田純一氏(東京大学総長/情報学環初代学環長)という、日本における知の制度設計をリードする三者が一堂に会しての鼎談のほか、学環ゆかりの方々(同窓生、海外研究者、オブザーバー、非常勤講師、元教職員など)のメッセージなどを交えつつ、学環・学府の来し方行く末を描くプレゼンテーション、現役大学院生による研究室紹介のパネル展示など、盛りだくさんの内容を予定しています。
東大の全学を横断するネットワーク型組織「学環・学府」の10年のあゆみを振り返るとともに、情報知の「これから」を構想する、この貴重な機会に、ぜひご参加ください!
■タイムテーブル:
15:00~15:30 主催者・来賓者あいさつ
15:30~16:30 学環・学府プレゼンテーション「もう10年、そしてこれから」
(休憩)
16:45~18:00「学環的なるものの未来:情報知の21世紀を俯瞰する」
長尾真鷲田清一濱田純一
※当日は、Ustream中継、ツイッター連動なども予定しています。
2010.10.14
みなさま、こんにちは。修士2年の帯刀菜奈と申します。
山内研究室にある、ちょっと意外で便利な道具や文化
をご紹介する【山内研の秘密】シリーズ。
第2回のヒミツは「文字起こしの救世主・USB足踏みスイッチ」をご紹介します。
■研究室にやってきたUSB足踏みスイッチの威力
山内研に導入されて2週間ほどしかたっていない新入りは、一見
地味。
ともすると迷子になってしまいます。
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しかし文字起こしをしようという時、威力を発揮するのです。
USBでPCに接続できるフットペダルだから「USB足踏みスイッチ」。
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録音した音声ファイルを自身のPCで再生しながら
足元のスイッチ3つで再生,巻戻し,ショートカットキーの操作を出来るのが特徴です。
■実際使ってみた
そもそもなんで購入にいたったのかといえば。
山内研の修士・博士研究、そして学生の関わるプロジェクトでは、
インタビューや実践の様子をICレコーダーで録音し、
分析のために書き起こす機会がたくさんあるからです。
これがなかなか骨折り作業です。
私の場合、足踏みスイッチが来る以前の文字起こしフローはこんな感じでした。
1.ちょっと聴いてはマウスで一時停止
2.キーボードに手を戻して忘れないうちに文字を打つ
3.マウスで再生して、またクリックして止めて
4.キーボードに戻して文字を打...とうと思ったら
あれ、ENTERキー押しちゃって止めたはずの音声が流れてくる
5.あわてて一時停止、また巻き戻す(1に戻る)
腱鞘炎になりそうでしょ。
そこでUSB足踏みスイッチを使ってみたところ、
なかなかの作業効率アップ!
マウスとキーボードの行き来がなくなったことで
手首の負担と、混乱が減り、
音声を聴きながら文字を打つということが楽になりました。
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劇的に変わった!!とまで言えないのは、
実は私、まだ使いこなせていないんです。
うっかり力が入って踏み込んで、他の画面に切り替わってしまったり、
つい癖でマウス操作しようとしてしまったり...
いずれはUSBの差込口からこの足踏みスイッチをいくつも並べ、
触れ込み通りの「山内研コックピット」をつくろう♪と、こっそり目論みちゅう。
「文字起こし大変だよね」とコミュニティーでお話しのあなた。試してみては。
■そのほか秘密の活用例
・足踏みスイッチの踏み込みを普段より3センチ高く上げ下げして、足首の血流改善を図る
・複数ペダルを右足だけ使い、車のアクセルブレーキ練習 (笑)
【帯刀菜奈】
2010.10.12
社会的ネットワーク分析ワークショップ~ソーシャルメディアの教育利用を評価する~を開催します。
最近、TwitterやSNSといった利用者のつながりを広げていくソーシャルメディアの利用が注目を浴びています。教育においても授業外の学習支援の1つのツールとして利用され始め、ソーシャルメディアの教育利用においては学習者のつながりがどのように学習活動、しいては学習成果にむすびついているかが重要な評価項目の1つとなるでしょう。その評価法の1つとして社会的ネットワーク分析があります。社会的ネットワーク分析は人などのオブジェクトのつながりをネットワークとして捉え、オブジェクト間の関係性やその強さ、方向などを可視化することで、関係の特徴を分析する手法です。しかし、教育関係の研究ではまだ使用され始めたばかりで、研究者の中でも広まっていない状況にあり、その理解も不十分だと思われます。今後、ソーシャルメディアの教育利用、それに関する研究が注目され、増えていく中、社会的ネットワーク分析は大変有用なツールになることでしょう。
今回はSNSやTwitterなどのソーシャルメディアを教育利用している研究者や実践家で社会的ネットワーク分析に興味がある方や評価法でいろいろ検討されている方でも社会的ネットワーク分析のことがよくわからない方や使ったことがない方など初心者を対象に社会的ネットワーク分析に関するワークショップを開催し、社会的ネットワーク分析の使用に関する基本的な知識を学習し、実際の研究事例について紹介を行います。そして、今後の教育・学習研究における社会的ネットワーク分析の利用について議論を行いたいと思います。
主催:日本教育工学会企画委員会
共催:外国語教育メディア学会
協賛:東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学講座
開催日:2010年11月20日(土曜日)
時間:14時00分から17時00分まで
場所:東京大学 情報学環・福武ホール 地下2階 福武ラーニングスタジオ
定員:30名(先着)
対象:社会的ネットワーク分析について初心者の方を対象としています。
例えば、電子掲示板、SNS、Twitterなどのソーシャルメディアの教育利用をされていて、分析方法に迷われている方や、社会的ネットワーク分析の名前は知っている、興味はあるが使ったことがない方など。
参加費:無料
プログラム
14時:趣旨説明
14時10分~14時50分:講師:林一雅 氏(東京大学 東京大学教養学部附属教養教育高度化機構)
社会的ネットワーク分析の基本的知識・方法について
15時~15時40分:講師:住政二郎 氏(流通科学大学 商学部 講師)
研究事例:アクセス解析とネットワーク分析を利用した外国語教育研究
15時50分~16時20分:グループ議論(グループに分かれて、応用的な利用について議論を行い、発表する)
16時20分~16時50分:発表(5人1グループ 6グループ 1グループ5分)
16時50分~17時00分:閉会挨拶:日本教育工学会企画委員会 委員長 木原俊行(大阪教育大学)
企画提案者: 山田政寛(金沢大学) 松河秀哉(大阪大学) 住政二郎(流通科学大学)
参加ご希望の方は
・ お名前
・ ご所属、職位
・ メールアドレス
・ 緊急連絡先
・ 社会的ネットワーク分析をどれほど知っているか
(「かなり知っている」、「ある程度知っている」、「名前は聞いたことがある」、「全く知らない」から
お選びください)
を山田(masanori-y [atmark] el.kanazawa-u.ac.jp)までお送り下さい。
先着になっておりますので、お申し込みなられた方はご出席の程、宜しくお願い致します。
お問い合わせ先
金沢大学 山田政寛
masanori-y [atmark] el.kanazawa-u.ac.jp
2010.10.08
みなさま、こんにちは。修士2年の安斎勇樹と申します。
今週から、山内研究室にある、ちょっと意外で便利な道具や文化
をご紹介する新シリーズ【山内研の秘密】をお送り致します!
第1回のヒミツは「青いバケツ」です。
山内研究室には、書籍・PC・コピー機などなど、
研究をする上で必要になる基本的な道具・備品がそろっています。
その中でも、特に目を引くのが、このLEGOの「青いバケツ」です。
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しかも、沢山あります。並べてみると、こんな感じ。
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LEGOは、ワークショップの素材として非常に使い勝手がよく、安斎の修士研究用のワークショップでもこれらのLEGOブロックに大変お世話になっています。
また、学生の研究や実践以外でも、山内先生が授業等で使うこともあるようです。
この青いバケツは、レゴの「基本セット」といって、これを1箱買えば基本的なパーツは一通りそろいます。
取っ手がついているので運びやすく、またこのバケツ自体がLEGOブロックのように積み重ねることが出来るので、収納にも便利です。
ただ、パーツの量が少ないため、ワークショップなどで大量に使う場合は買い足す必要があるでしょう。山内研では、「青いコンテナ」や「基本ブロック」などを別途買い足し、中身を青バケツに追加して利用しています。
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ちなみに、LEGOが研究室にあると、こんな使い方も出来ます。これは、M1の菊池くんに「修士1年の半年間」をテーマにLEGOで作品をつくってもらっているところです。
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忙しくて普段なかなか振り返りをする時間がなくても、こうしてLEGOを使って楽しくリフレクションが出来ますね(笑)
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カラフルなブロックや、ブルーのバケツが研究室に置いてあるだけでも、なんとなく童心に帰れますね!
楽しくて創造的な研究ライフのためにも、是非みなさんの研究室にも青いバケツを置いてみてはいかがでしょうか。
[安斎 勇樹]
2010.10.06
この数ヶ月で相次いで紙の本を減らしたりなくしたりした大学図書館が開館されました。
2010年9月9日、米国テキサス大学サンアントニオ校(The University of Texas at San Antonio:UTSA)に、紙の本が全くない、応用工学・テクノロジー図書館(Applied Engineering and Technology Library)が開館しました。大学当局の発表によると、この図書館は紙の本を所蔵していない大学図書館としては、米国で初であるとのことです。メインキャンパスにあるジョン・ピース図書館の分館として位置づけられる同館には、80人が利用できるスペースがあり、今後は、所蔵する425,000冊の電子書籍と18,000タイトルの電子ジャーナルを、iPadやKindleなどの電子書籍リーダー等を通じて、学生に提供する予定とのことです。
スタンフォード大学が、本のほとんど無い、新しい工学図書館"Terman Engineering Library"を2010年8月2日に開館したと発表しています。本のほとんど無い図書館の計画は2010年5月に発表され、米国の多くのメディアで取り上げられるなど、話題になっていたものです。
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図書館の電子化は領域によってかなり進み方にばらつきがあります。今回のニュースが両方「工学」図書館であったのは偶然ではありません。理系は学術雑誌のほとんどが電子化されており、(アメリカでは)専門書や教科書の電子化も進んでいる一方で、文系は研究資料としての書籍が膨大に電子化されないまま残っており、電子化されている学術雑誌も限られています。
ただ、長期的には電子化と図書館の再編という大きな流れの中にいることは間違いありません。全ての本が電子化された時、大学図書館は必要なくなるのでしょうか。
個人的には、未来の大学図書館の方向性は2つあると考えています。1つ目はより積極的な学術情報ナビゲータとしての図書館です。現在のリファレンスデスクを拡張し、ウェブも含めて、膨大な情報の中から適切な学術情報を提供する機能を担います。この機能のためには、現在より専門的な領域知識を持った図書館職員が必要になるでしょう。
もう1つが、学習を支援する図書館です。ラーニングコモンズを中核として、学習に必要なリソースを推薦し、必要に応じてチュータリングなどの自学自習支援を行う機能が想定されます。全学の教育関連サービスと連携できる、教育に関する専門性を持った図書館職員が求められる時代になると考えています。
電子化の進展によって「大学図書館の再定義」が迫られているのは間違いありません。逆にいえば、大学図書館が新しい次元の存在として生まれ変わるチャンスともいえるでしょう。今後10年注目の領域になりそうです。
[山内 祐平]
2010.09.30
みなさま、こんにちは。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!
第9回は博士1年の大城がお送り致します。
今回のキーワードは、「テキスト理解」です。
私の研究は、大学の講義理解の支援を対象にしていますが、講義理解を考える上で、テキスト理解に関する研究は大いに参考になります。テキストと講義とでは、自分のペースで読めるかどうか、テキストが目に見えるか、耳から聞こえるか、といった様々な違いがあります。しかし、互いに知見を活用できる部分は多いと思います。
実際、Kiewra(1991)はMayer(1984)のテキスト理解のモデルを講義理解のモデルにそのまま援用し、「選択」(文章から情報を選択し、作業記憶に加えること)、「内的関連づけ」(選択された情報を、作業記憶の中で結束した構造に体制化すること)、「外的関連づけ」(体制化された情報を、長期記憶の中に既にある、似たような他の知識と結び付けること)に整理しています。
テキスト理解に関する研究は多々ありますが、今回は、このMayerのテキスト理解のモデルではなく、Kintschのテキスト理解のモデルを簡単に紹介したいと思います。
■テキスト理解とは?
テキスト理解、と聞いてどんな「理解」を思い浮かべますか?Kintsch(1994)も「理解」(comprehension)という言葉の曖昧さを指摘していますが、大きく分けて、「テキストそのものを覚えること」(remembering a text)と「(読み手自身が持っている背景知識を活用して)テキストから学ぶこと」(leaning from a text)の2つに分かれると言えます。
■テキストベースの理解
テキストを覚えることは、テキストベースの構築による理解と呼ばれます。
例えば、次のような文を考えてみましょう。
When a baby has a septal defect, the blood cannot get rid of enough carbon dioxide through the lungs. Therefore, it looks purple.
(乳児に中隔欠損がある場合、血液が肺を通じて十分に二酸化炭素を取り除くことができない。ゆえに、血液は紫色に見える。)
テキストベースでは、テキストに明示されている単語のみを使って理解することを意味します。よって、HAVEとNOTGETRIDとPURPLEの3つの命題に分けて、それらの関連性を文の構造に沿って理解することになります。ただし、読み手によってテキストベースの構築の仕方は異なります。
■状況モデルの理解
これに対し、読み手自身が持っている背景知識を活用してテキストから学ぶことは、状況モデルの理解と呼ばれます。
上の文を例に、読み手が心臓の血液循環に関する背景知識を持っている場合を考えてみましょう。
「心臓は肺から酸素を含んだ血液を受け取り、それを全身に送り出している。」
「全身から心臓に二酸化炭素を含む血液が運ばれ、肺に送り出されている。」
といった循環に関する知識や、
「赤色の血液は酸素を運搬している。」
「紫色の血液は二酸化炭素を運搬している。」
といった血液の状態と色の関係に関する知識を使い、心臓の中隔欠損によって、二酸化炭素を多く含む血液と酸素を多く含む血液とが混じる、ということを理解することができます。ゆえに、テキストには直接示されていない知識を使ってテキストの内容を理解していることになります。この場合にも、読み手によって、状況モデルの構築の仕方は異なります。
■テキストの形式と読み手の背景知識の関係
どんな読み手にとっても万能なテキストの形式は存在しませんが、読み手の背景知識の差によって、状況モデルの構築に効果的なテキストの形式が異なることは示されています。
Kintsch(1994)のレビューのまとめによると、テキストの内容に対する背景知識が低い読み手の場合、結束性が高く、明示的なテキストの方が、問題解決型のテスト(状況モデルの構築に依存するタイプのテスト)の成績が良く、逆に背景知識が高い読み手の場合、結束性にギャップがあるテキストの方が成績が良いとされています。
前者はともかく、後者については疑問が残ります。なぜ、背景知識が高い読み手にとって、結束性が高く、明示的なテキストが有効にならないのでしょうか?これについて、Kintsch(1994)は、読み手がテキストを簡単なものだとみなし、テキストベースで理解できているつもりになることで、状況モデルの構築が不完全になる可能性を指摘しています。つまり、ある程度「読み解きがいのある」形式の文章でなければ、読み手がすぐに分かったつもりになってしまう恐れがあるということです。
講義理解についても全く同じことが言えるかどうかは分かりませんが、テキスト理解に関する知見は、何かを見たり、何かを聞いたりして学ぶという行為について多くの示唆を与えてくれるものだと考えられます。
■参考文献
Kiewra, K. A. (1991) Aids to Lecture Learning. Educational Psychologist, 26(1): 37-53
Kintsch, W. (1994) Text comprehension, memory, and learning. American Psychologist, 49(4): 294-303
Mayer, R. E. (1984) Aids to Text Comprehension. Educational Psychologist, 19(1): 30-42
[大城 明緒]
2010.09.28
山内が代表理事を務めているNPO Educe Technologiesで、学びの場づくりを考え実践する大学生向け勉強会「FLEDGE」を開催しています。
ワークショップの企画・デザインについて実践的に学ぶことができますので、ご関心のある方はぜひお申し込みください。
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学びの場づくりを考え実践する大学生向け勉強会『FLEDGE』では、3期メンバーを募集いたします!!
FLEDGEとは「これからの社会のために、よりよい学びとは何かを考え、学びの場を自ら創りだし、増やしていく」というコンセプトのもと、理論と実践を行き来しながら進む大学生向けの勉強会です。第3期では、ワークショップのデザインについての理論を学ぶとともに、実践現場の観察や実践者へのヒアリングなどを行います。その上で、最終的にはメンバー自身でワークショップを企画し、実践する予定です。
[参加資格]
大学生(大学院生は除く。)
下記に挙げた活動日に全て参加できる方。
定員10名程度
[実施概要]
10月から3月の半期で終了します。
勉強会は毎月1回程度開催されます。
活動時間は18時~20時 です。
勉強会への参加は無料です。(※実費が発生する場合を除く)
[内容]
第1回
10月18日(月)
ガイダンス
/ワークショップ体験
第2回
11月15日(月)
ワークショップ調査発表(1 )
/ワークショップ企画MTG(1)
第3回
12月20日(月)
ワークショップ実践(1)
第4回
1月17日(月)
ワークショップ調査発表(2)
/ワークショップ企画MTG(2)
第5回
2月21日(月)
ワークショップ実践(1)
第6回
3月21日(月)
活動報告会
[活動場所]
東京大学本郷キャンパス福武ホール 地下2階スタジオ1
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/
[主催]
NPO法人EduceTechnologies http://www.educetech.org/
[3期ディレクター]
山田小百合(日本女子大学4年)
渡邉貴大(早稲田大学4年)
[責任者]
山内祐平(NPO法人EduceTechnologies代表理事/東京大学大学院情報学環准教授)
森玲奈(NPO法人EduceTechnologies理事/東京大学大学院情報学環特任助教)
[連絡先] educe.fledge[atmark]gmail.com
■参加したい!という方、興味があるという方は・・・
下記URLから必要事項をお書き込みいただき、【課題】にもお答え下さい。
申し込みフォームは、10月10日(日)までにお申し込み下さい。
応募人数が多数の場合、先着者より選考させていただく可能性がございます。ご了解ください。
募集フォームURL http://ow.ly/2Jbsw
「FLEDGE(フレッジ)」名称の由来
FLEDGE=Future Learning Environment Design Generation
"未来の学びの場をデザインする若き世代"というような意味です。
また、"fledge"には、ひなを巣立ちまで「育てる」という意味と、
自ら「巣立つ」という2つの意味があります。
新しい学びの場を社会にアウトプットしていきながら、
我々自身も学び「学びの実践者」として社会へ巣立っていく
勉強会にしたい!という願いを込め、この名前に致しました。
2010.09.24
みなさま、こんにちは。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!
第8回は博士1年の池尻 良平がお送り致します。
今回のキーワードは、最近話題になってきた「シリアスゲーム」です!
■シリアスゲームとは?
藤本(2007)ではシリアスゲームをこう定義しています。
「教育をはじめとする社会の諸領域の問題解決のために利用されるデジタルゲーム」
ポイントは、通常のゲームと違い教育の意図があることと、学校教育、企業内研修、公共政策、軍事、政治、医療・福祉など諸領域の「問題解決」がゲームのベースになっているという点です。
あれこれと説明する前に、「百聞は一見に如かず」ということでまずは実際にシリアスゲームをやってみましょう。以下に無料で体験できるシリアスゲームの代表的なものを紹介しますので、試しに興味のあるものをやってみて下さい。
(1)フードフォース(http://www.foodforce.konami.jp/about.html)
国連の世界食料計画(WFP)が開発した、人道支援が目的のシミュレーションゲームです。内容は、インド洋に浮かぶ仮想の島で多くの難民に食料を供給するゲームです。公開6週間で100万ダウンロードを記録した世界的ヒット作です。Windowsなら日本語版でも遊べます。時間もさほどかからずクリアできるので、初心者におすすめです。(Macの方は、英語版をダウンロードして下さい。(http://www.wfp.org/how-to-help/individuals/food-force)
(2)Virtual U(http://www.virtual-u.org/downloads/)
こちらもシリアスゲームが注目されるようになったきっかけのゲームで、大学経営を学習するシミュレーションゲームです。プレイヤーは学長になって、限られた予算を使いながら教員を雇ったり、学内の学習環境を整備したりして、他の大学よりも優秀な成果を出すのがゴールです。英語版なのでやや難しいですが、かなり細かい変数が用意されていて、本格的に学習できるゲームです。
(3)America's Army(http://www.americasarmy.com/)
これもシリアスゲームの有名な作品で、米陸軍が新兵募集のためのマーケティングツールとして開発したゲームです。実際の射撃や作戦行動の訓練過程を精密に再現しており、登場する施設や武器や服装などは実際のもので構成されています。基本は一人称視点で描写されるシューティングゲームですが、現在はオンラインで他のプレイヤーと共同でミッションをこなすモードも作られています。一般で売られているゲームにも引けを取らないできだと評価されています。Windows推奨です。
(4)Stop Disaster!(http://www.stopdisastersgame.org/en/home.html)
これは、津波、山火事、洪水、ハリケーン、地震の五つの災害被害をできるだけ減らすというゲームです。非常にシンプルな作りで、学校や病院など必要な施設を建てつつ、ゲームの最後に必ず襲う災害からその建物を守れればクリアとなっています。難易度も選べるので初心者でも楽しめます。*音量が出るので注意して下さい。
■シリアスゲームを教育に利用するメリット
さて、やってみた印象はどうですか?すごい!と思う方もいれば、別にわざわざゲームで教育しなくても教科書で勉強したり、体験学習で事足りるのでは?と思われた方もいると思います。
では、シリアスゲームをもつメリットは何なのでしょうか?藤本(2007)はそのメリットとして以下の5つを挙げています。
①モチベーションの喚起・維持
これは最も基本的なメリットで、ゲームを利用することで生じる「新奇性」、「インタラクティブ性」などいくつかの要因が働いていると言われています。
②全体像の把握や活動プロセスの理解
ゲームは世界のメカニズムが描写されたり、動的な動きの再現が行われたりするので、全体を俯瞰した形でプレイヤーの意思決定や行動の結果が視覚的に確認できます。ゲームでは現実の時間より何倍も早く時間を進めることもできるので、特に都市開発や経営方法を扱うゲームでは非常に役立ちます。
上で挙げた大学経営をするゲーム「Virtual U」や、自分で都市開発をするゲーム「シムシティ」、自分で文明を構築していくシミュレーションゲーム「シヴィライゼーション」などが良い例です。
③安全な環境での体験学習
これはシリアスゲームを使うかなり重要なメリットです。ゲーム内の世界は現実に直接影響しないコントロールされた環境なので、直接的な体験学習では行えない体験が可能になります。
上で挙げたアーミーがこれに当たります。飛行機や車の操縦、手術などの医療活動など、学習内容にリスクが伴うものほど、恩恵は大きくなります。
④重要な学習項目を強調した学習体験
現実世界では関係する変数の数が多すぎたり、構造が複雑になりすぎて何を学習すべきかよくわからなくなってしまうことが多々ありますが、ゲームでは特に学習させたいポイントだけ強調し、残りの部分は単純化させることができます。
⑤行為・失敗を通した学習
これはゲームを通した学習で特に強調されるメリットです。ゲームというのは、何かを「プレイ」することになるので、必然的に行為を通した学習(Learning by Doing)と相性が良くなります。さらに、ゲームではコンティニューが可能なので、何度失敗しても大丈夫だというメリットがあります。
失敗を通した学習の価値はロジャー・シャンクなどをはじめ、多くの学習理論研究者達が認めており、試行錯誤の中で失敗しつつフライトや手術の技能、経営方法や国の政策などを学べるシリアスゲームは、ロジャー・シャンクの言う「失敗を通した学習」に最適だと言えます。(これは従来の教育とは大きく異なるポイントだと思います)
これ以外にも、シリアスゲームはとても多くの学習テクニックと相性が良く、プレンスキー(2009)は「練習とフィードバック」「ゴール志向型学習」「探索学習、ガイド付き探索学習」「課題に基づいた学習」「質問先導型学習」「状況的学習」「ロールプレイ」「コーチング」「構成主義的学習」「(多感的な)加速学習」「学習オブジェクトの選択」「インテリジェントチューター」などの学習上のメリットを挙げています。
■シリアスゲームの導入は徐々に現実的に
(1)コンテンツの充実
シリアスゲームに対する注目は2000年以降世界的に高まり、アメリカをはじめヨーロッパでも様々なセッションが開かれ、多くの研究グループが形成されています。また、世界中で多くのシリアスゲームが開発され、多様な場面で利用できるコンテンツも揃ってきています。(詳しくは参考文献の「デジタルゲーム学習」をご覧下さい。企業向けのものだけでも40以上のシリアスゲームがあります。)
(2)デジタルネイティブの登場
同時に、教育の対象である子どもたちもいわゆるデジタルネイティブの世代になり、「単線処理→並行処理」「従来のスピード→トゥイッチスピード」「順序に沿った思考→ランダムアクセス」「テキスト先行→グラフィック先行」「スタンドアローン→ネットワーク」「受動的→能動的」「ワーク→プレイ」「我慢→報酬」というように、従来とは異なる認知スタイルに変化していることがプレンスキー(2009)によって指摘されています。彼は、デジタルネイティブの世代はシリアスゲームによる学習と相性が良いとも主張しています。
(3)ゲーム環境の発達・整備
一方、テクノロジーの発達・導入も進んでいます。例えば近年では、インターネットの成長により、大規模多人数参加型オンラインゲーム(Massively Multiplayer Online game、通称"MMO")も可能になり、複数のプレイヤーと一緒にシリアスゲームをプレイし、プレイヤー同士で協調学習を行ったり、学び合うことも可能になっています。
さらに、日本の学校ではICT導入が進み、シリアスゲームに必要な環境も着々と揃っています。近年騒がれている電子教科書もそうですが、日本に限って言えば、シリアスゲームを用いるのに十分な環境が整備されつつあります。
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近代の学校教育では、教科書を読み、先生の話しを聞き、紙に書くというのが主流でした。それが最近の学校教育では、話しを聞くだけでなく、視聴覚教材によってより豊かにイメージを膨らませたり、グループで協調学習をして生徒達が自分たちで能動的に考え合うという新しい活動がプラスされるようになりました。
そして今、環境・生徒の認知的スタイル・シリアスゲーム研究の蓄積によって、「実際に学んだことを試してみる」という新しい活動がプラスできるようになりました。
この先、「シリアスゲーム」というキーワードが学びの世界で重要なインパクトを与えることは間違いなさそうです。
*参考文献
藤本徹(2007)シリアスゲーム. 東京電機大学出版会.
マーク・プレンスキー(2009)デジタルゲーム学習. 東京電機大学出版会.
山内祐平(2010)デジタル教材の教育学. 東京大学出版会.
[池尻 良平]
2010.09.22
9月18日、19日、20日と日本教育工学会全国大会に出席してきました。教育工学会は、教育/学習において生じる問題に対して、理論と実践を踏まえて問題解決に関する情報を提供することを指向しており、毎年多くの教育実践研究が発表されています。
この学会で常に問題になっているのが、教育実践研究を学術論文にすることの難しさです。今年のシンポジウム2「教育工学を問い直す」でもこのことが話題になり、意見を求められました。この時の発言を備忘録的にまとめておきます。
私は編集担当理事として教育工学会誌に投稿される論文の査読プロセスを管理する仕事をしていますが、一般的に教育実践に関わる論文が受理できないと判断されるケースには以下の3つのパターンがあるようです。
1) 新規性に関わる問題
教育実践は長い歴史を持っていますので、今まで見たことがないような教育実践を新しく作ることは困難です。また、教育実践に関するデータベースなどが整備されていないので、今までにないことを試みていることを主張するのも難しいのが現状です。このため、論文に要求される新規性を確保しずらい状態にありました。教育工学会に関していえば、この点に配慮した新しいカテゴリー「教育実践研究論文」を新設し、「研究手法や道具の開発、要因の分析、実践の改善や学習環境つくり、教師の教育実践力について、新たな点があるもの」も新規性として認めることになりましたので、今後この問題は緩和されると考えています。
2) 妥当性に関わる問題
教育実践は様々な要因が織りなされて起こる複雑な事象であるため、介入やデザインのパターンがポジティブな影響を与えたということを主張したい場合、意図した介入やデザインが原因で起きたことを立証するのに困難が伴います。
シンポジウムの際に早稲田大学の向後先生がおっしゃっていたように、実験室研究であれば要因の統制もできますが、実際の授業やワークショップのような現実の教育の場では、文脈を壊すようなこのような研究計画は非現実的です。
そのことを考慮し、教育実践に関わる研究は、事例研究や事前事後比較でも受理されています。ただし、それでも研究の目的に対応した確実なデータ収集と信頼性の高い分析方法を使用する必要があります。このような学習に関わるデータ収集と分析の方法に関わる情報が十分流通していないため、この点の不備によって受理できないと判断されるケースもかなりあります。
この課題に関しては、教育工学会25周年を記念して発刊される教育工学選書の中で、必要な書籍が刊行されると思いますので、これを待ちたいと思います。
3) 研究の筋立てに関わる問題
教育実践研究が採録されにくい理由として新規性と妥当性の問題がクローズアップされることが多いのですが、私の感覚では、採録されにくい最大の原因は、研究の「問題・目的・方法・結果」が対応していないという研究の筋立ての不備です。本格的な研究構成法は、大学院の教育内容であり、教育実践研究への参入者が増えるにつれて、大学院でこの種の教育を受けていない方の投稿が増えているのかもしれません。
この問題のもっともよい解決法は大学院に行って学ぶことだと思いますが、現状ではハードルが高いのも事実です。しばらくは、学会やその他のコミュニティがその役割を果たすことが現実的かもしれません。
[山内祐平]