2010.10.06
この数ヶ月で相次いで紙の本を減らしたりなくしたりした大学図書館が開館されました。
2010年9月9日、米国テキサス大学サンアントニオ校(The University of Texas at San Antonio:UTSA)に、紙の本が全くない、応用工学・テクノロジー図書館(Applied Engineering and Technology Library)が開館しました。大学当局の発表によると、この図書館は紙の本を所蔵していない大学図書館としては、米国で初であるとのことです。メインキャンパスにあるジョン・ピース図書館の分館として位置づけられる同館には、80人が利用できるスペースがあり、今後は、所蔵する425,000冊の電子書籍と18,000タイトルの電子ジャーナルを、iPadやKindleなどの電子書籍リーダー等を通じて、学生に提供する予定とのことです。
スタンフォード大学が、本のほとんど無い、新しい工学図書館"Terman Engineering Library"を2010年8月2日に開館したと発表しています。本のほとんど無い図書館の計画は2010年5月に発表され、米国の多くのメディアで取り上げられるなど、話題になっていたものです。
-----
図書館の電子化は領域によってかなり進み方にばらつきがあります。今回のニュースが両方「工学」図書館であったのは偶然ではありません。理系は学術雑誌のほとんどが電子化されており、(アメリカでは)専門書や教科書の電子化も進んでいる一方で、文系は研究資料としての書籍が膨大に電子化されないまま残っており、電子化されている学術雑誌も限られています。
ただ、長期的には電子化と図書館の再編という大きな流れの中にいることは間違いありません。全ての本が電子化された時、大学図書館は必要なくなるのでしょうか。
個人的には、未来の大学図書館の方向性は2つあると考えています。1つ目はより積極的な学術情報ナビゲータとしての図書館です。現在のリファレンスデスクを拡張し、ウェブも含めて、膨大な情報の中から適切な学術情報を提供する機能を担います。この機能のためには、現在より専門的な領域知識を持った図書館職員が必要になるでしょう。
もう1つが、学習を支援する図書館です。ラーニングコモンズを中核として、学習に必要なリソースを推薦し、必要に応じてチュータリングなどの自学自習支援を行う機能が想定されます。全学の教育関連サービスと連携できる、教育に関する専門性を持った図書館職員が求められる時代になると考えています。
電子化の進展によって「大学図書館の再定義」が迫られているのは間違いありません。逆にいえば、大学図書館が新しい次元の存在として生まれ変わるチャンスともいえるでしょう。今後10年注目の領域になりそうです。
[山内 祐平]