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2010.09.17

【学びのキーワード】映像におけるヴィジュアルリテラシー/映像リテラシー

【学びのキーワード】映像におけるヴィジュアルリテラシー/映像リテラシー

みなさま、こんにちは。修士1年の土居由布子です。

学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!

第7回のキーワードは映像における「ヴィジュアルリテラシー」です。

最近、特に夏休みはあちらこちらで「映像制作ワークショップ」が行われてきました。その中で培われるであろうものの一つが映像における「ヴィジュアルリテラシー」またの名を「映像リテラシー」です。

★ 映像における「ヴィジュアルリテラシー」とは

一言でいうと、「映像の理解能力」「映像における操作技能」つまり,映像を読み解き、また映像文法のある映像を作り出す能力です。ただしこれは「映像」におけるヴィジュアルリテラシーであって、映像に拘らない場合の本来のヴィジュアルリテラシーは「視覚的なメッセージを理解し作り出す能力」を指します。また国際ヴィジュアルリテラシー協会では「人間が見ることによって、そして他の感覚的な体験をするなかで同時にそれらを統合することによって発達させる視覚能力の集合」とされています。

the International Visual Literacy Association

http://www.ivla.org/organization/whatis.htm (参考)

★ 映像における「ビジュアルリテラシー」の重要性

映像文化が浸透する中、これまではただ「見るだけ」だったのが「撮る」「発信する・共有する」ことが簡単にできるようになりました。例えば、最近は一人一台は持っているデジタルカメラや携帯電話に大抵ムービー機能が付いていますよね。また「you-tube」、「mixi」「facebook」などのユーザーの方は自分が撮ったムービーをアップロードしたり、友達の映像を見た経験はありませんか。

このように技術の進歩によって、誰でも映像情報を作成、発信できる時代になりました。アマチュアとプロの境がどんどん小さくなっていく時代が到来したといっても過言ではありません。

しかしながら「you-tube」で共有されている一般人の映像の多くは「見る気がしない」という人もいるかもしれません。でもそれは何故でしょうか。

プロが撮った映像は一般人が撮ったものに比べるとやはり「見やすさ」ということがその差として一番にあるのではないでしょうか。

「見やすさ」というのは「映像文法」というのもまた重要なキーワードだと思います。それでは「映像文法」とは何でしょうか。英語や日本語などの言語に文法があるのと同じように、「映像」にも「文法」があるという認識を皆さんはされたことありますか。

「映像文法」を無視したわかりにくい表現とは?

例)運動会のビデオ映像

○カメラを固定し、場面全体が映るよう調整された後、ズームインなどの操作を行っていないもの。

⇒注目すべきところ/人物はどこなのかが分からない。

○ 被写体のみを追跡撮影しているもの

⇒どんな状況や流れの中にいるのか等全体が分からない。

○画面変化が大きく、動きの早いもの、傾いていたり、上下左右に動き過ぎ。

⇒落ち着いて映像内容を視聴できない。見ていて気分が悪くなる。

 あなたもビデオ撮影する際、または映像を見ていて、重要な部分を強調するために、編集でその特定のシーンだけ繰り返す、ズームアップしたものをと、全体が見えるものも組み込む等の工夫があったりしませんか。

 また映画等で会話しているシーンは大抵Aさんの後ろ姿(右肩もしくは左肩から頭部)を映しつつ、その向こうにBさんがAさんに向かって話している様子を撮るといった(ごく基本的な)技法が使われます。

このようにそれぞれのシーンで「意図」を持って撮影するとき、その工夫に文法という名のルールがあれば、誰かに見てもらう時に伝わりやすいのです。

映像におけるヴィジュアルリテラシーの原点として、まずは「映像にも文法がある」という認識/気づきをすることではないかと思います。

私もまだ勉強中ですが、以下の文献を読んでいるので、もしご興味がおありの方は参考にしてはいかがでしょうか。

「映像を生かした環境教育」「映像時代の教育」どちらも吉田貞介著。

「ヴィジュアルリテラシーを育成するための学習プログラムの開発」高野勝(上越教育大学)

「Teaching TV production in a Digital Workd 」Robert Kenny著

「A Primer of Visual Literacy」Donnis A. Dondis著

「作る映像リテラシ(output)映像•ビジュアルデザイン」森田健宏

以上で簡単に「Visual Literacy/ビジュアルリテラシー」の紹介をさせていただきました。このキーワードが国内外でよりいっそう認識が広がり、多くの方が学ばれ、一般の映像作成/発信文化が高まり、作品一つ一つが見やすいものとなり、より一層プロとアマチュアの差がなくなるような素晴らしい映像時代を期待しつつ、それを実現するべく「映像時代の教育の在り方」について自身の研究に勤しんで参りたいと思います。

【M1 土居由布子】

2010.09.16

【記事掲載】産経新聞にSoclaプロジェクトの取材記事

産経新聞・MSN産経ニュースにiPadとTwitterを使って高校生の学習を支援するSoclaプロジェクトの取材記事が掲載されました。研究室の大学院生もファシリテータとして活躍しました。

「紙よりiPad?! 簡単操作・多様性で教育現場に」 http://ow.ly/2EYUB

[山内祐平]

2010.09.11

【学びのキーワード】放課後学習

みなさま,こんにちは。修士1年の柴田アドリアーナと申します。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!
第6回のキーワードは「放課後学習」です。

 最近、学校の伝統的な学習の限界に応じて、学校外の様々な学習活動に注目しています。その活動の一つは放課後学習です。

 ◆「放課後学習」とは

 放課後学習を簡単に定義すると:授業が終わった後、教室でやり残した勉強や宿題などをして、補習を行うことです。つまり、通常クラスを終えてから行う学習活動、インフォーマル学習のことです。

 ◆「放課後学習」の重要性

 ・ 授業が終えてから親が仕事から帰ってくる時間までの間をカバーする。
   → 親に安心感を与えます。
 ・ 学習時間の延長。
   → 大人や他の子どもたちとの相互作用
 ・ 自信や自尊心の改善。
   → その他、表情、態度、行動にもポジティブな影響を与えます。
 ・ 教養や学業成績を高め、才能を伸ばす機会。
   → 子どもの発達に直接関連します。

 社会的な面

 社会的不公正が高い国々では放課後で行う活動はとても重要だと教育専門家や政策立案者の間に認識されています。それは特にマイノリティや低所得者の児童•生徒に対して、言語の習得や社会的一体性を支える環境になるからです。そして、さらに実行されている地域には、個人だけではなく、コミュニティにもポジティブな影響を与えているという報告があります。

 ◆「放課後学習」の事例と可能性

 ここで紹介したいのは「Fifth Dimension」というプロジェクトです。この放課後プロジェクトは米国で生まれ、現在、様々な国でも行われています。
 「Fifth Dimension」では子どもたちはコンピューターゲームを通して、放課後で大学生と共同的な学習をしています。では、このプログラムの目的を見て、「放課後学習」の対する幾つかの可能性を並べてみました。
 ・ 学業成績を高めるために、放課後の時間に豊な環境を提供する。
   → この環境は理論に基づいて作られました。このように年齢に応じて、子どもの発達を目指している設定を提供する事ができます。
 ・ コンピューターを使いながら、女性やマイノリティの間に起こるデジタルデバイドの問題を緩和する。
   → デジタルデバイスを通しながら、様々な体験をする可能性が広まります。
 ・ 違いを重視する構造を立てる。
   → 異年齢、異文化、異なる宗教、人種、経済的背景の方々と交流できる環境になります。この設定では異文化理解、言語の問題を通しながら学び合う機会の可能性を示します。
 ・ 大学教職員と大学生にもふさわしい学習環境を設定する。
   → 大学生は子どもと共に活動し、授業で学んだ事を実体験することができます。そして、子どもにもとって、勉強のために大きな動機付けになると思われます。
 ・ 持続可能なプログラムを開発。
   → 大学と地域のコミュニティの交流で進んで、自然に発達して独立して行くプロジェクトが可能になります。

 以上で、簡単に「放課後学習」について説明をさせていただきました。このテーマに関わる理論や研究はまだたくさんあります。可能性の広い分野なのでこれからの成果に期待しています。

 ◆ お勧めの書籍

Cole, M. (2006). The fifth Dimension: An After-School Program built on Diversity. Russell Sage Foundation.

 [柴田 アドリアーナ]

2010.09.09

【記事掲載】マイコミジャーナルにBEATSeminar報告

マイコミジャーナルに、9月4日(土)に開催されたBEAT Seminar「外国語学習のソーシャルイノベーション」に関する記事が掲載されました。

http://journal.mycom.co.jp/column/bizenglish/043/

[山内 祐平]

2010.09.02

【学びのキーワード】自己効力感

みなさまこんにちは。修士1年の菊池裕史です。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズも、今回で5回目となりました。今週は、大学院の入試が行われるこの時期にぴったりな「自己効力感」というキーワードを紹介します。

・自己効力感とは

冒頭から話がそれてしまい申し訳ありませんが、ここ最近、メジャーリーグファンの間で「イチロー選手の10年連続200本安打が達成されるかどうか」という話題が度々もちあがります。9月2日現在、残り29試合で29安打が必要という状況で、僕たちイチローファンは、「たのむぞイチロー!がんばれ!」などと言いながら、日々応援を続けています。

ここで気になるのが、イチロー選手の心理状態です。まさかイチロー選手が「今年はもう200本安打は無理だ・・。」などと考えているとは思えませんが、果たしてどれほど「自分のもつ力を信じること」ができているのでしょうか。とても気になります。

この「自分のもつ力を信じること」の重要性を指摘した心理学者が、アルバート・バンデューラです。バンデューラは人間の働きのメカニズムのなかで、自分のもつ力を信じることほど重要で力強いものはないと言っており、この信念が人間の動機と達成に著しく寄与するということを述べています。この「自分のもつ力を信じること」が自己効力感です。では、この自己効力感はどのような体験・事柄によって育まれていくのでしょうか。

・自己効力感に影響を与える4つの事柄

自己効力感は、4つの主要な影響力によって育むことができると言われています。1つ目は「成功体験」です。忍耐強い努力によって障害に打ち勝ったという体験が、個人の自己効力感を高める最も効果的な方法であると言われています。2つ目は「代理体験」です。自分と似たような人が忍耐強く努力をして成功していくのを見ることが、それを観察している人に「自分たちも成功できるぞ!」という信念をわき上がらせます。3つ目は「社会的説得」です。ある行動を習得する能力があると言われてその行動を勧められた人は、たとえその行動のなかで問題が生じたとしても、多くの努力を投入し、成功の機会を高めると言われています。最後の4つ目は「生理的・感情的状態」です。これは感覚的にも分かりやすいことですが、たとえば肯定的な気分のときは自己効力感が高まり、落胆した気分のときは自己効力感が下がります。ストレスやネガティブな感情を減少させることも重要な点であると言われています。

・集団の自己効力感

先ほど述べた自己効力感に影響を与える4つの事柄については、いずれも個人をベースとして考えてみましたが、「集団の自己効力感」も非常に重要なポイントです。普段の生活のなかで、課題を解決するために人と共に働くということは多々あることかと思いますが、直面する課題に対して集団がもつ効力感は、その活動にどれだけの努力を注ぎ込むかということや、努力の結果がすぐに出なかったときの忍耐力に影響を与えると言われています。

・自己効力感を扱う研究の広がり

今回はとても簡単に自己効力感についての紹介をさせていただきましたが、この理論は様々なトピックと合わせて研究が行われています。たとえば、教育的発達、キャリア・ディベロップメント、健康、家族や親の影響、文化の影響などがその一部として挙げられます。今回の記事を読んで自己効力感に興味を持ってくださった方は、ぜひ自分の関心があるトピックと合わせて調べていただければと思います。

2010.08.31

【お知らせ】子どもがワクワクする遊びの環境をデザインする

第3回保育環境デザイン研究会「子どもがワクワクする遊びの環境をデザインする」のご案内

人間形成における重要な時期に、子どもが長時間過ごす保育園。どのような保育環境を提供することが質の確保につながるのでしょうか。生活の場としての役割が大切な保育空間に、学びという視点をどう取り入れていけばよいのでしょうか。

この研究会では、これらの問題について、保育[Child Care]、子どもの発達[Child Development]、子どもの遊び[Children's Play]、学習環境[Learning Environments]、空間デザイン[Architectural Design]という多様な視点(CDPLA)を切り口に、保育・幼児教育関係者、建築関係者、研究者等多様なバックグラウンドの皆さまとともに考えていきたいと思います。

第3回は桑原淳司先生をお招きし、子どもの遊び環境や遊具開発にまつわる研究、さらに先生が長年取り組まれている遊具デザインの授業について紹介して頂きます。

下記に詳細をご案内申し上げます。
皆さまのご参加をお待ちしております

-----------------------【第3回研究会】-----------------------
■日 時:9月16日(木)16:00-18:00

■場 所:東京大学本郷キャンパス
 東京大学 情報学環・福武ホール B2F ラーニングスタジオ1
 http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html

 都営大江戸線 本郷三丁目駅 (徒歩7分)
 東京メトロ丸ノ内線 本郷三丁目駅 (徒歩8分)
 東京メトロ千代田線 湯島駅 (徒歩20分)
 東京メトロ南北線 東大前駅 (徒歩10分)

■定 員:20名

■テーマ:子どもがワクワクする遊びの環境をデザインする

■講 師:桑原淳司 (日本大学芸術学部デザイン学科 教授)

■参加費:無料

■参加方法:
ccd.pla【アットマーク】gmail.com までメールにてご連絡ください。
(お手数ですが【アットマーク】を@に変換お願いいたします。)

〆ココカラ============================================
参加申し込みフォーム
9月12日(日)までにお申し込み下さい。
人数が多数の場合は先着順とさせていただきます。

第3回保育環境デザイン研究会 に申し込みます。
氏名:
フリガナ:
所属:
メールアドレス:
この情報をお知りになったきっかけ:
(                         )
ご興味をもたれた理由などありましたらお願いします
(                         )
〆ココマデ============================================

■主催:東京大学 情報学環・福武ホール アフィリエイトプログラム
■共催:(株)ミサワホーム
■企画担当:佐藤朝美(東京大学大学院 情報学環 助教)

2010.08.28

【学びのキーワード】ディスカッション・議論


みなさまこんにちは,修士2年の伏木田稚子です。
猛暑を通り越して酷暑にうだる日々,涼しげな朝顔に和みますね。

学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】,第4回は<ディスカッション・議論>を取り上げたいと思います。


■ディスカッション・議論が表すこと

ディスカッションと議論,ともに誰もが馴染みのある言葉ですね。
語源を辿ってみると,discussusというラテン語は,dis-(分離)と-cus(ゆさぶる)が合わさってできた言葉とされています。
「言葉をゆさぶって粉々にする」という本来の意味が,後に,「話しあう」「議論する」という意味に発展したようです。
議論という日本語は,「互いに自分の説を述べあい,論じ合うこと,意見を戦わせること」と定義されており,暗黙のうちに,自分以外の他者が必要な存在として想定されています。
一般的には,ディスカッションの訳語として議論が用いられています。


■自分と他者の相互作用が鍵

あたり前のように感じるかもしれませんが,ディスカッションを1人で行うことはできません。
自分の意見を述べたところで,それに誰かが応答してくれなければ,論じ合うことは成り立たないでしょう。
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ディスカッション場面とは,協同構成による創造的な問題解決場面である(丸野・生田・掘 2001)
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"人は他者と相互作用する中で自らの考えや知識を新たに構成していく"という知の生成過程を浮き彫りにする状況のひとつとして,ディスカッション場面を捉えることができるという考えが述べられています。


■ディスカッション・議論を支える質疑応答

論じ合う場面に欠かせない要素のひとつに,質問とそれに対する応答があります。
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質疑応答の場合は,議論の噛み合いを強く意識する必要がある(福澤 2002)
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質問する側は,相手の考えを引きだす努力をする必要があり,応答する側は,相手の質問意図を的確に捉える必要があるという,議論の流れに注意を払う重要性が述べられています。

では具体的に,どのようなスキルが求められるのでしょうか?
質疑応答を中心とする議論について,福澤(2002)は5つのポイントを指摘しています。
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①発言者の主張が明示されているか
②発言者の主張がなぜ主張として成り立つかを示す根拠なり証拠なりを提示しているか
③隠された根拠に関する言及があるか
④主張への飛躍のしすぎはないか(論証が正しく行われているか)
⑤質疑応答において,聞かれていることに答えているか
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■ディスカッション・議論を促進する質問

先にあげた5つのポイントに沿って,あなたが質問をする場面を思い浮かべてください。
どのような質問をすれば,相手はより的確に答えることができ,論じ合うことが盛り上がるでしょうか?

単純な質問から考える必要のある質問まで,種類はさまざまですが,質疑応答を中心とする議論を促進するのは,バランスのとれた質問だと言われています。
最後に,よりよいディスカッション・議論を進める際に役立つであろう,質問の類型と役割を紹介します。
それぞれのパターンにどのような質問が該当するのか,気になる方はぜひ『授業の道具箱』をお読みになってみてください。

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調査的質問:事実や基本的な知識を調べる
挑戦的な質問:仮説,結論,解釈を検証する
関係的質問:主題,考え方,問題の比較を求める
診断的質問:動機や原因を検証する
行動的質問:結論や行動を引き出す
因果関係的質問:複数の考え方,行動や事象の間の因果関係を問う
拡張的質問:議論を広げる
仮説的質問:事実や問題に変化を与える
優先を問う質問:最も重要な問題を探求する
総括を問う質問:まとめを引きだす
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■参考文献
福澤一吉(2002) 議論のレッスン 日本放送出版協会
丸野俊一・生田淳一・掘憲一郎(2001) 目標の違いによって,ディスカッションの過程や内容がいかに異なるか 九州大学心理学研究; 2, 11-13.
バーバラ・グロス・デイビス(著) 香取草之助(監訳)(2002) 授業の道具箱 東海大学出版会


[伏木田稚子]

2010.08.25

【エッセイ】講義と宿題が逆転する

The Chronicle for Higher Educationの記事「Killing the Lecture With Technology, Part II」に講義と宿題を逆転させた授業の事例が紹介されていました。以下に記事の該当部分を訳します。

"ウィスコンシン大学マディソン校のグレゴリー・モーセ教授は、コンピュータ科学の授業で「講義ー宿題パラダイム」を逆転させる試みを行っている。講義を見た後で宿題をするというやり方の代わりに、学生は授業外の時間でオンラインで講義を視聴し、授業は教員の監督下において学生が問題解決を行う「研究室」として位置づけている。"

オープンコースウェアに始まったOpen Educationl Resourcesのムーブメントは、様々な形で展開されています。Appleの8月24日のプレスリリースによれば、「iTunes Uのダウンロードが3億回を超え、世界中の800もの大学がiTunes Uにサイトを開設している」そうです。

従来、講義の公開は、大学外の学習に寄与するものとして考えられてきました。モーセ教授の試みは、オンライン講義のアーカイブを大学の授業に戻す形態の1つとしてとらえることができるでしょう。

5年前はオンライン学習は対面学習と対立するものとしてとらえられていましたが、今では多くの授業でインターネット上の学習資源を使うことが常態化しており、ブレンド学習とよばれるオンラインと対面の組み合わせ学習のパターンや割合の差としてとらえる方が現実的になってきています。

本日づけで、東京大学の講義と公開講座がiTunesUで公開されています。従来通り、UTOCWおよびTodai.TVでもご覧いただけます。

これらの教育リソースが、宿題などの形で大学の学びでも活用されることを期待しています。

[山内 祐平]

2010.08.22

【学びのキーワード】目標設定理論

みなさま,こんにちは。修士2年の程琳と申します。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!
第三回目のキーワードは「目標設定理論」です。

■目標設定理論
目標設定理論とは、目標という要因に着目して、モチベーションに及ぼす効果を探ることを目指した理論のことを言います。1968年にアメリカの心理学者ロックが提唱したのです。目標設定理論では、モチベーションの違いは目標設定の違いによってもたらされると考えられ、そして、本人が納得している目標については、曖昧な目標より、明確な目標のほうが、また難易度の低い目標より、難易度の高い目標のほうが、結果としての業績は高い、ということが確認されています。

■目標とはなにか?立てられる目標が行動への影響は?
さて、研究の源をさかのぼれば、英語文献のなかでgoal(目的/目標)とobjective(目標/対象)と分けて訳されることもありますが、ロックの目標設定理論(goal-setting theory)を論じるとき、この二つの言葉を区別しないことにしましょう。
ところで、目標の対応する英語ではなく、その定義とは何でしょうか。
目標は、人の価値が状況に特化した形態であるとロックが定義しました。
ある状況における人の行動を予測するには、その人が価値をどのように特定の目標に転化するかを知ることが必要です。このように、目標は、行動の直前の先行要因となります。目標が行動に与える影響には三通りあります。
第一に、目標は、人が働きかける事実に影響を与えます。注意と行動を、価値と目標に関連する行動に集中させ、目標と関連のない行動を排除することによって、働きかける方向性を調整します。
第二に、価値と目標は、その人にとっての目標の重要度によって決まる行動の強さと、それに付随する情緒に影響を与えます。価値の高い目標が難しいほど、それを達成するための努力は強度を増します。
第三に、価値の高い目標は持続性に影響を与えます。
さらに、ロック(2000)は、二十世紀の目標設定理論の文献展望を行った結果、すべての目標効果は、必須課題を遂行するための知識と能力に仲介されると結論をつけました。


■ロックが目標設定理論への貢献
ロックの博士論文は、ライアンによる意図の効果の仮説を検証する一連の実験室実験に基づいていました。この実験のすばらしい成果は、1990年に発表される目標設定理論の土台となる三つの仮説に結びつきました。
1.具体的で困難な目標があると、目標がない場合や、あったとしても「ベストを尽くせ」をいう抽象的な目標の場合より、高い業績が得られる。
2.目標にコミットメントがあると、その目標が高いほど高い業績が得られる。
3.金銭的インセンティブ、意思決定への参加、フィードバック、またはその結果の把握といった変数は、具体的で困難な目標の設定そのコミットメントにつながる場合にのみ、業績に影響を及ぼす。
要するに、目標は、その達成に向けて関心と行動を方向づけ(選択)、活力をかきたて(努力)、努力する時間を引き延ばし(持続)、適切な戦略を立てるよう個人を動機付けする(認知)ことに効果があるのだ。【ロック・ショウー・サーリ・レイサム1987】

■学習における目標設定の意義
学習活動にロックの目標設定理論を導いてくると、適切な方法に従って学習目標を立てることにより、学習効果の向上も期待できます。
1)困難な目標の効果
目標の困難度は個人のパフォーマンス水準と比例します。
実現する上で多くの工夫と努力を要する、あるいは短時間で達成しなくてはならない、という意味で困難度の高い目標を追求する個人ほど、より高いパフォーマンスを上げる(したがって当然、学習意欲も高い)ということになります。
2)明確な目標の効果
明確で具体性を持った目標は、曖昧な目標よりも高いモチベーション(動機づけ)効果を持ちます。
何のために学習をするのか、そして、勉強の最終受益者はだれなのか、その意味はなんなのか、これらの疑問を明確にした場合と、何も知らされずにただ言われた通りに勉強を遂行させられた場合と、明らかに意味を明確した学習者のほうは高いモチベーションを持つことができます。更に、「精一杯がんばれ」「できるだけよい出来具合を見せ」というような抽象的で曖昧な目標よりも、具体的に「次回のテストで10点アップさせよう」「今日は二時間英会話をしよう」などのはっきりした目標を設定して初めて、それを目指す個人の意欲と行動が喚起されます。
3)フィードバックの効果
目標設定にフィードバックが組み合わされた場合には、モチベーション効果はより高くなります。
達成された成果は、通常フィードバックされ目標達成に向けてのサポートが行われることによって、目標設定の効果を高めます。また、目標達成に向けての進捗度合いの遅いものに対して、特にパフォーマンス改善効果が高いです。フィードバックはその回数よりも、早い時期にフィードバックを与えられる方が、遅い時期にフィードバックを与えられる場合に比べて最終的な学習効果は向上します。

■学習活動における学習目標設定のステップ
具体的な学習活動において、いかにして適切な統合した学習目標を立てられるかが問われやすいです。参考として、以下のステップを踏まえたほうがよいかもしれません。
1)自己分析を行う。
このステップは自分の学習に対するモチベーションをはっきりさせる第一歩でもある。
2)長期的な大きな目標を立てる。
たとえば、大学生が卒業時自分のなりたい姿を入学時に試しに描いてみるとか。そして、その際に関わるコミュニティ、キャンパス資源、自分の位置づけなども全体像から把握するとよいであろう。
3)学期レベルの中期的目標を立てる。
大学生の場合は各学期、独学を行う学習者の場合は、一つ一つの小段階自分のなすべき進捗を予測する。そこにある価値を今の自分の目で一度見出し、そして、まもなく到来する将来の各時点でまた振り返りと見直しを行う。
4)具体化してきた目標の達成要素を考える。
だんだん具現化してくる学習目標に必要なスキルと、能力、資源はなにかを今度考えなければならない。基本的に、それらの必用要素を如何にして身につけられるかも課題となるであろう。
5)障害物はあるのか?
課題があれば、そこには解決しなければならない障害物があると考えられる。そのバリアーをクリアするには、どのようなストラテジーが運用できるのか。
6)学習ストラテジーを発達させる。
鎖のチェーンのように、とうとう道具が見えてきた。すなわち、ゴール⇔バリアー⇔ストラテジーの連鎖関連である。ここまでたどれば、力を入れる押さえどころが自然と分かろう。
7)統合させよう。
学習に限り話ではないないが、どの目標も定められては再度調整を要する。そこで、最初からのステップを統合し、学習活動を進めつつ、達成度に対する自己評価と今度の学習目標の再修正も大切である。

以上で、目標設定に関して、ご一報させていただきます。

[程 琳]

2010.08.17

【お知らせ】東京FM「Timeline」に出演します

高校生と大学生・社会人をTwitterでつなぐ、Soclaプロジェクトは、進路や就職について調べる一般プログラムを無事終了し、大学や企業のプロジェクトマネージャーの鞄持ちをしながら、働くことについて考えレポートをまとめる特別プログラムに進んでいます。

このSoclaプロジェクトについて、8月18日(水)19:10分から、東京FMの「Timeline」というコーナーで10分ほど報告させていただくことになりました。高校生の学びの実際について、カフェグローブ代表取締役の矢野貴久子さんとお話しさせていただきます。よろしければぜひお聞きください。

首都圏の方は、インターネットでradiko.jp経由でもお楽しみいただけます。

[山内 祐平]

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