2010.08.22

【学びのキーワード】目標設定理論

みなさま,こんにちは。修士2年の程琳と申します。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!
第三回目のキーワードは「目標設定理論」です。

■目標設定理論
目標設定理論とは、目標という要因に着目して、モチベーションに及ぼす効果を探ることを目指した理論のことを言います。1968年にアメリカの心理学者ロックが提唱したのです。目標設定理論では、モチベーションの違いは目標設定の違いによってもたらされると考えられ、そして、本人が納得している目標については、曖昧な目標より、明確な目標のほうが、また難易度の低い目標より、難易度の高い目標のほうが、結果としての業績は高い、ということが確認されています。

■目標とはなにか?立てられる目標が行動への影響は?
さて、研究の源をさかのぼれば、英語文献のなかでgoal(目的/目標)とobjective(目標/対象)と分けて訳されることもありますが、ロックの目標設定理論(goal-setting theory)を論じるとき、この二つの言葉を区別しないことにしましょう。
ところで、目標の対応する英語ではなく、その定義とは何でしょうか。
目標は、人の価値が状況に特化した形態であるとロックが定義しました。
ある状況における人の行動を予測するには、その人が価値をどのように特定の目標に転化するかを知ることが必要です。このように、目標は、行動の直前の先行要因となります。目標が行動に与える影響には三通りあります。
第一に、目標は、人が働きかける事実に影響を与えます。注意と行動を、価値と目標に関連する行動に集中させ、目標と関連のない行動を排除することによって、働きかける方向性を調整します。
第二に、価値と目標は、その人にとっての目標の重要度によって決まる行動の強さと、それに付随する情緒に影響を与えます。価値の高い目標が難しいほど、それを達成するための努力は強度を増します。
第三に、価値の高い目標は持続性に影響を与えます。
さらに、ロック(2000)は、二十世紀の目標設定理論の文献展望を行った結果、すべての目標効果は、必須課題を遂行するための知識と能力に仲介されると結論をつけました。


■ロックが目標設定理論への貢献
ロックの博士論文は、ライアンによる意図の効果の仮説を検証する一連の実験室実験に基づいていました。この実験のすばらしい成果は、1990年に発表される目標設定理論の土台となる三つの仮説に結びつきました。
1.具体的で困難な目標があると、目標がない場合や、あったとしても「ベストを尽くせ」をいう抽象的な目標の場合より、高い業績が得られる。
2.目標にコミットメントがあると、その目標が高いほど高い業績が得られる。
3.金銭的インセンティブ、意思決定への参加、フィードバック、またはその結果の把握といった変数は、具体的で困難な目標の設定そのコミットメントにつながる場合にのみ、業績に影響を及ぼす。
要するに、目標は、その達成に向けて関心と行動を方向づけ(選択)、活力をかきたて(努力)、努力する時間を引き延ばし(持続)、適切な戦略を立てるよう個人を動機付けする(認知)ことに効果があるのだ。【ロック・ショウー・サーリ・レイサム1987】

■学習における目標設定の意義
学習活動にロックの目標設定理論を導いてくると、適切な方法に従って学習目標を立てることにより、学習効果の向上も期待できます。
1)困難な目標の効果
目標の困難度は個人のパフォーマンス水準と比例します。
実現する上で多くの工夫と努力を要する、あるいは短時間で達成しなくてはならない、という意味で困難度の高い目標を追求する個人ほど、より高いパフォーマンスを上げる(したがって当然、学習意欲も高い)ということになります。
2)明確な目標の効果
明確で具体性を持った目標は、曖昧な目標よりも高いモチベーション(動機づけ)効果を持ちます。
何のために学習をするのか、そして、勉強の最終受益者はだれなのか、その意味はなんなのか、これらの疑問を明確にした場合と、何も知らされずにただ言われた通りに勉強を遂行させられた場合と、明らかに意味を明確した学習者のほうは高いモチベーションを持つことができます。更に、「精一杯がんばれ」「できるだけよい出来具合を見せ」というような抽象的で曖昧な目標よりも、具体的に「次回のテストで10点アップさせよう」「今日は二時間英会話をしよう」などのはっきりした目標を設定して初めて、それを目指す個人の意欲と行動が喚起されます。
3)フィードバックの効果
目標設定にフィードバックが組み合わされた場合には、モチベーション効果はより高くなります。
達成された成果は、通常フィードバックされ目標達成に向けてのサポートが行われることによって、目標設定の効果を高めます。また、目標達成に向けての進捗度合いの遅いものに対して、特にパフォーマンス改善効果が高いです。フィードバックはその回数よりも、早い時期にフィードバックを与えられる方が、遅い時期にフィードバックを与えられる場合に比べて最終的な学習効果は向上します。

■学習活動における学習目標設定のステップ
具体的な学習活動において、いかにして適切な統合した学習目標を立てられるかが問われやすいです。参考として、以下のステップを踏まえたほうがよいかもしれません。
1)自己分析を行う。
このステップは自分の学習に対するモチベーションをはっきりさせる第一歩でもある。
2)長期的な大きな目標を立てる。
たとえば、大学生が卒業時自分のなりたい姿を入学時に試しに描いてみるとか。そして、その際に関わるコミュニティ、キャンパス資源、自分の位置づけなども全体像から把握するとよいであろう。
3)学期レベルの中期的目標を立てる。
大学生の場合は各学期、独学を行う学習者の場合は、一つ一つの小段階自分のなすべき進捗を予測する。そこにある価値を今の自分の目で一度見出し、そして、まもなく到来する将来の各時点でまた振り返りと見直しを行う。
4)具体化してきた目標の達成要素を考える。
だんだん具現化してくる学習目標に必要なスキルと、能力、資源はなにかを今度考えなければならない。基本的に、それらの必用要素を如何にして身につけられるかも課題となるであろう。
5)障害物はあるのか?
課題があれば、そこには解決しなければならない障害物があると考えられる。そのバリアーをクリアするには、どのようなストラテジーが運用できるのか。
6)学習ストラテジーを発達させる。
鎖のチェーンのように、とうとう道具が見えてきた。すなわち、ゴール⇔バリアー⇔ストラテジーの連鎖関連である。ここまでたどれば、力を入れる押さえどころが自然と分かろう。
7)統合させよう。
学習に限り話ではないないが、どの目標も定められては再度調整を要する。そこで、最初からのステップを統合し、学習活動を進めつつ、達成度に対する自己評価と今度の学習目標の再修正も大切である。

以上で、目標設定に関して、ご一報させていただきます。

[程 琳]

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