2010.09.30

【学びのキーワード】テキスト理解

みなさま、こんにちは。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!
第9回は博士1年の大城がお送り致します。
今回のキーワードは、「テキスト理解」です。

私の研究は、大学の講義理解の支援を対象にしていますが、講義理解を考える上で、テキスト理解に関する研究は大いに参考になります。テキストと講義とでは、自分のペースで読めるかどうか、テキストが目に見えるか、耳から聞こえるか、といった様々な違いがあります。しかし、互いに知見を活用できる部分は多いと思います。

実際、Kiewra(1991)はMayer(1984)のテキスト理解のモデルを講義理解のモデルにそのまま援用し、「選択」(文章から情報を選択し、作業記憶に加えること)、「内的関連づけ」(選択された情報を、作業記憶の中で結束した構造に体制化すること)、「外的関連づけ」(体制化された情報を、長期記憶の中に既にある、似たような他の知識と結び付けること)に整理しています。

テキスト理解に関する研究は多々ありますが、今回は、このMayerのテキスト理解のモデルではなく、Kintschのテキスト理解のモデルを簡単に紹介したいと思います。


■テキスト理解とは?

テキスト理解、と聞いてどんな「理解」を思い浮かべますか?Kintsch(1994)も「理解」(comprehension)という言葉の曖昧さを指摘していますが、大きく分けて、「テキストそのものを覚えること」(remembering a text)と「(読み手自身が持っている背景知識を活用して)テキストから学ぶこと」(leaning from a text)の2つに分かれると言えます。


■テキストベースの理解

テキストを覚えることは、テキストベースの構築による理解と呼ばれます。
例えば、次のような文を考えてみましょう。

When a baby has a septal defect, the blood cannot get rid of enough carbon dioxide through the lungs. Therefore, it looks purple.
(乳児に中隔欠損がある場合、血液が肺を通じて十分に二酸化炭素を取り除くことができない。ゆえに、血液は紫色に見える。)

テキストベースでは、テキストに明示されている単語のみを使って理解することを意味します。よって、HAVEとNOTGETRIDとPURPLEの3つの命題に分けて、それらの関連性を文の構造に沿って理解することになります。ただし、読み手によってテキストベースの構築の仕方は異なります。


■状況モデルの理解

これに対し、読み手自身が持っている背景知識を活用してテキストから学ぶことは、状況モデルの理解と呼ばれます。

上の文を例に、読み手が心臓の血液循環に関する背景知識を持っている場合を考えてみましょう。

「心臓は肺から酸素を含んだ血液を受け取り、それを全身に送り出している。」
「全身から心臓に二酸化炭素を含む血液が運ばれ、肺に送り出されている。」

といった循環に関する知識や、

「赤色の血液は酸素を運搬している。」
「紫色の血液は二酸化炭素を運搬している。」

といった血液の状態と色の関係に関する知識を使い、心臓の中隔欠損によって、二酸化炭素を多く含む血液と酸素を多く含む血液とが混じる、ということを理解することができます。ゆえに、テキストには直接示されていない知識を使ってテキストの内容を理解していることになります。この場合にも、読み手によって、状況モデルの構築の仕方は異なります。


■テキストの形式と読み手の背景知識の関係

どんな読み手にとっても万能なテキストの形式は存在しませんが、読み手の背景知識の差によって、状況モデルの構築に効果的なテキストの形式が異なることは示されています。

Kintsch(1994)のレビューのまとめによると、テキストの内容に対する背景知識が低い読み手の場合、結束性が高く、明示的なテキストの方が、問題解決型のテスト(状況モデルの構築に依存するタイプのテスト)の成績が良く、逆に背景知識が高い読み手の場合、結束性にギャップがあるテキストの方が成績が良いとされています。

前者はともかく、後者については疑問が残ります。なぜ、背景知識が高い読み手にとって、結束性が高く、明示的なテキストが有効にならないのでしょうか?これについて、Kintsch(1994)は、読み手がテキストを簡単なものだとみなし、テキストベースで理解できているつもりになることで、状況モデルの構築が不完全になる可能性を指摘しています。つまり、ある程度「読み解きがいのある」形式の文章でなければ、読み手がすぐに分かったつもりになってしまう恐れがあるということです。


講義理解についても全く同じことが言えるかどうかは分かりませんが、テキスト理解に関する知見は、何かを見たり、何かを聞いたりして学ぶという行為について多くの示唆を与えてくれるものだと考えられます。


■参考文献

Kiewra, K. A. (1991) Aids to Lecture Learning. Educational Psychologist, 26(1): 37-53
Kintsch, W. (1994) Text comprehension, memory, and learning. American Psychologist, 49(4): 294-303
Mayer, R. E. (1984) Aids to Text Comprehension. Educational Psychologist, 19(1): 30-42


[大城 明緒]

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