2007.09.24
恒例になっている、秋の教育工学会が終わりました。
今年は、シンポジウム1B 「実践研究をどのようにデザインし、論文にまとめるか」(論文はこちら) と、ポスターセッション「教養教育アクティブラーニングのためのIT支援型教室 -駒場アクティブラーニングスタジオのデザイン」(論文はこちら) で発表しました。会場に足を運んでいただいたみなさま、ありがとうございました。
司会の木原先生の名裁きで本質的な議論ができたシンポジウム1Bもおもしろかったのですが、教育工学会では初めて本格的に展開されたポスターセッションが印象に残りました。
私は、駒場キャンパスに開設された新しい教室「駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)」のデザインについて発表したのですが、来てくださった多くの方々から、「自分たちもちょうどこういう教室を作りたいと思っていたところだ」という話を聞きました。(えらい人たちをどうやって説得するかで悩んでいるという話が一番多かったです。)新しいムーブメントが起こるときにはこういう同時多発的な動きがたくさんでてきます。今後、KALSのような教室が日本各地にたくさん開設されると思いますが、この発表が少しでもその参考になればと思っています。
[山内 祐平]
2007.09.21
ワークショップの研究がしたくてここへ来た私のおすすめwebsiteです。
neomuseum
http://www.neomuseum.org/
ネオミュージアムは、先日のエントリーにもあった同志社女子大学の上田信行先生が吉野に作られたミュージアム。
ここで行われた"party"の様子や、"party"が作られていく過程が、ポップな色合いで記録されています。
ラーニングアート
http://www.learningart.net/
ラーニングアートは、「学びそのものがアートである」という認識を多くの人たちと共有するために創造されたアートプロジェクト。
上記のneomuseumや、ここで紹介されている「ラーニングアート2005」を見ていると、「学び」をとりまく環境というのはこんなにも、カラフルだったり、楽しかったり、きれいだったり、明るかったり暗かったり、おいしかったり…していいんだ!ということが、なんだかとても嬉しくなります。
そして、このラーニングアート2005が行われているのが、私たちが今年の夏合宿で見学させていただいた、 CAMP大川センター。
http://www.camp-k.com/
プレイフルな学びの場、人がコミュニケーションをしながら、自分を表現しながら、もちろん楽しみながら学ぶ「状況」を作り出す、贅沢な空間です。
[牧村真帆]
2007.09.14
SlideShare
http://www.slideshare.net/
Zoho Show
http://show.zoho.com/
ThinkFreeてがるオフィス
http://www.thinkfree.co.jp/
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研究の分野を文系っぽいところから理系っぽいところへ移した私にとって,変わったことはいろいろありますが,発表スタイルの変化は,いくらか苦い気持ちが伴っているものです。
つまり,プレゼンテーションソフトのスライドを利用した発表形式であることが多くなったのです。以前の私はハンドアウトをごりごり書くことを好んでいたので,この変化に危機感を禁じ得ません。ついに私もパワーポイントに屈したのです。ああ,唯一の救いはキーノートユーザーであるということだけ…(軽い冗談です)。
まぁ,近頃は落ち着いてハンドアウトを練り上げる時間もないのが現実。ぱっぱっぱっとスライド作成できるプレゼンテーションソフトは,時間的余裕のなくなってきた現代人にとっては有り難いツールであることも事実です。
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しかし,私がパワーポイント以上に許せないのは,スライドほど共有してもらいにくい代物はないということ。親切な発表者は,スライドの全ページを紙印刷して配布してくれますが,文字や図が見にくかったり,モノクロ印刷で色の判別が難しかったり,フォントの印刷がずれていたりと,エレガントさに欠ける印象が払拭されたことはありません。
海外の学会では,発表要旨CD-ROMを配布するなんて試みもありますが,当日使用するスライドの共有となると,各発表者任せであることには変わりがないようです。
お互い同じようにパソコンを持ち込んでいるにもかかわらず,発表者の投影したスライドを,聴衆がデジカメで撮影するという場面もよく見かけます。「なんで電子化されたファイルを画像ファイルにして取り込まねばならないのか!」とその様子の滑稽さに呆れかえるのですが,そんな自分が学会の場で,スライドをデジカメ撮影しているようになった今を悲しく思います。またしてもパワーポイントに屈したか,自分…。
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ソニーが無線LAN機能付きの携帯ハードディスクを発売したとき,「おお,これで発表スライドをその場で共有すればいいじゃん,学会発表する研究者にとっての必携ツールになるぞ」と期待したものでした。
しかし,当の商品は需要が無くディス・コンティニュー。いまだ学会発表の会場で「いま,私の無線LANをオープンにしましたので,共有フォルダからファイルを持っていってください」というセリフに出会ったことはありません。いつの日にか,私がそれを皆さんの前でやりたいと思いますが,そのまえに発表できる成果をあげないといけませんな,ああ…。
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さて,長いフリはここまでにして,ネット上でプレゼンテーションソフトのスライドを共有するにはどうすればよいのでしょうか。
メールで直接送ることもできなくはありませんが,特定少数に送る場合ならいざ知らず,特定多数や,まして不特定多数となれば,メールでの共有は困難です。
どこかネット上にある共有フォルダに置いておくという方法もあります。昨今では,ネット上のディスクスペース・サービスがありますので,広告を我慢して無料で利用できるものや,会員になって利用できるものを使う手もあります。ただし,無料で利用できるものには転送制限を設けているものが多く,多数への配布には向きません。
そこで,「スライドを共有する」という特定目的のサービスをご紹介することにしましょう。
文字情報にはDiggが,写真共有にはFlickrが,ビデオ共有にはYouTubeが,音楽情報共有にはmidomiがあるとすれば,スライド共有に使えるものとして,SlideShareがあげられます。
このSlideShareの特徴は,アップロードしたパワーポイントやPDFファイルを,YouTubeみたいに他のWebページに貼り付け出来ることです。音声付きのスライドファイルも登録できるため,貼り付けたスペースでミニ・プレゼンが可能ということになります。
現在のところ,不特定の人々に公開する機能しか実装されておらず,特定グループ内だけでパスワードを設定して共有することはできません。現在,クローズドな共有機能は開発中とのことです。
SlideShareはスライド共有がメインですが,ネット上のツールでプレゼンテーションのスライド作成からサポートするものもあり,いろいろな競合サービスがやり合っています。
その一つがZoho Showというサービスです。ワープロや表計算ソフトを始めとした本当に様々なツールを提供しています。これを使えば,スライド作成から表示,そして共有まで可能です。
もしもあなたがパワーポイントに近いものを欲しているとするなら,ThinkFreeてがるオフィスは,お馴染みのソフト達と大変よく似たインターフェイスで操作が可能です。もちろんファイルを共有することもできます。
ご存知Googleも,これからスライド作成ソフトのサービスを提供すべく,サービスを鋭意開発中とききます。
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というわけで,今回は研究の発表につきものの,スライドについて,その共有に便利そうなサイトをいくつかご紹介してみました。
本来ならば研究の「中身」に役立つサイトをご紹介すべきなんですが,どうも力及びませんでした。とりあえず,私のブックマークでお茶を濁して,残りは次回までの宿題にさせてください。
[林 向達]
2007.09.11
先週金曜日から、ALT@UT夏合宿で京都を訪問しました。
1日目に、同志社女子大学の上田信行先生がデザインされたワークショップスタジオでPiagetとPapertに関する合同セッションをさせていただきました。研究室のみなさん、すばらしい「おもてなし」本当にありがとうございました。
このワークショップスタジオは、2008年3月オープン予定の情報学環・福武ホールにできる福武ラーニングスタジオのモデルのひとつですが、ひとつ大きく違うところがあります。同志社にはロフトがあるのです。
これによって、俯瞰的に学習の様子をリフレクションできるようになります。
本当は福武ラーニングスタジオにもこのようなしかけがほしいのですが、ロフトは固定すると動かせないので、今回は見送りました。上田先生には、「だったら脚立がいいよ」といわれています。工事現場にあるような脚立だともうひとつなので、少しかっこいい脚立を作って、「KYATATSU for Learning」として売り出そうかという話をしてもりあがりました。
[山内 祐平]
2007.09.06
院試も一段落し,今回から,「受験生にすすめる一冊」に代わって,「研究に役立つウェブサイト」を紹介することとなりました。
今回紹介するのは,小学館から出ている教育用語の辞典とも言える『最新教育基本用語』のweb版です。
http://www.ed.shogakukan.co.jp/yougo
「2003年度版 最新教育基本用語」(教育技術.com,小学館)
文献検索サイト,OCWのポータルサイトなど色々と悩んだのですが,基礎固めや調べ物に手軽に使えるサイトを選びました。
web版は最新年度ではないのですが,把握すべき基本的な用語はかなりの量がおさめられており,検索機能もついていて,気軽に調べられるので助かっています。
「学力論」「学級経営」といったカテゴリで章立てされ,それぞれ“基礎・基本用語”と”話題の用語”に分類されています。
また,ブックマーク機能がついているので,一度調べた用語を保存ができ,書籍と同じ感覚で利用できます。
もちろん,最新の辞典を買うのがベストなのですが(書籍はA5判で定価も1,980円とお手頃です),ちょこっと調べたくなったときに,お気に入りに入れておくと便利だと思います。
[坂本篤郎]
関連ウェブサイト
「教育技術.com」 小学館
http://www.ed.shogakukan.co.jp/
『2007年版 最新教育基本用語』 小学館 s-book.com
http://www.s-book.com/plsql/com2_magcode?sha=1&sho=0300205107&keitai=80
2007.09.04
最近、医学教育の世界でTeam-Based Learningがはやりはじめているそうです。
一般的な高等教育の文脈ではあまり聞かない言葉なので、調べてみました。
Team-Based Learningは、 当時オクラホマ大学で教鞭をとっていたDr. Larry K. Michaelsenが開発したグループ学習の方法です。もともと経営系の授業で行われていましたが、現在は医学教育において広く活用されています。
個人で学習した後、6-8名の小集団に分かれ、最後にクラスで共有するというスタイルで、大講義室でも行いやすいというメリットがあります。下の映像を見ていただくと、様子がわかると思います。
・医学教育におけるTBL(映像)
http://www.bcm.edu/fac-ed/realvideo_public/TLPromo042302.ram
基本的には、協調学習やアクティブラーニングの一種だと考えることができますが、チームで学習や作業ができること自体を評価に加えるなど、グループでパフォーマンスを発揮すること自体を教育目的に加えているところがユニークな点です。KALSのような協調学習教室を整備する前に、協調的活動の重要性を理解してもらうための方法としても使えるかもしれません。
・Team-Based Learning Collaborative
http://www.tlcollaborative.org/Index.htm
2007.08.30
吉見俊哉『カルチュラル・スタディーズ』、岩波書店、2000年
2007/8/23に,平野さんが文末で薦められていた,吉見俊哉『カルチュラル・スタディーズ』をご紹介したいと思います.
2004年,学環の入試要項を手に取った私の目に「カルチュラル・スタディーズ」という言葉が飛び込んできました.その言葉をはじめて見た私は(工学部出身),ズバリ「カルチュラル・スタディーズ」というタイトルのこの本を院試の準備として読んだというわけです.今回は,当時,読みながらとったメモを読み返しながらご紹介したいと思います.
まず,吉見先生は1章の「問題としての文化」で,「文化をすでにそこにあり,固有の内容を含んだものとしてみなすところから出発するのではない.」とし,以下のようなことを仰っています.
- 権力が作動し,経済と結びつき,言説の重層的なせめぎあいの中で絶えず再構成されているものとして問題化していくこと
- カルチュラル・スタディーズは,歴史理解の不可欠の次元として文化に注目するというだけではない.
- 文化という次元自体の存立規制,それが,一定の言説と権力のマテリアルなインフォメーションとして成立し,再生産されていることに瞠目し,問題化する.
つまり,カルチュラル・スタディーズは,単なる学際的なアプローチではなく既知のシステムそのものをを考え直す,ひいては学問をするということ自体をも考え直していくものなのだと仰っています.
本書は,「メディア」「サブカルチャー」「人種・エスニシティ」「ジェンダーとセクシュアリティ」「歴史の政治学」の6つのテーマがどのように研究されてきたのか,またそのテーマを代表する研究者をコンパクトに紹介してくれていることから,私のようにカルチュラル・スタディーズにはじめて触れる方におすすめです.また入学後,ここで紹介された研究者に講義やゼミの中で再会するのではないでしょうか.
[寺脇由紀]
2007.08.28
8月25日(土)に、BEAT Seminar "「オープンエデュケーションが切り開く未来~ Education 2.0:OCWの次にくるもの」が開催されました。
パネラーとして、MIT上級副学部長のVijay Kumarさん、カーネギー財団の飯吉透さん (飯吉さんはBEATの客員教授でもいらっしゃいます。)をお迎えし、学習管理システムや教育コンテンツを中心に進んできた教育のオープン化の流れが、今後どのような方向に進んでいくかという情報提供をしてもらいました。ここでは、お二人の話の中で印象に残ったプロジェクトを簡単にご紹介します。
iLab Project (MIT)
http://icampus.mit.edu/ilabs/
iLabは、実験環境をオンラインでコントロールできるようにするための基盤であり、遠隔実験や実験データの共有などが可能になります。ソフトウェアは自由にダウンロードできます。
Connexions (Rice University)
http://cnx.org/
Connexionsは、教員がオープンコンテンツを自由に組み合わせて自分なりの教材を作ることができるサイトです。オンデマンド出版でテキストにすることも可能です。
KEEP Toolkit (Carnegie Foundation)
http://gallery.carnegiefoundation.org/gallery_of_tl/keep_toolkit.html
KEEP Toolkit は、教員が自分の授業を設計したり改良したりするプロセスを共有し、よりよい授業構築のために知識を交換するための仕組みです。
これらの事例から見えてくるのは、教育に関するオープン化が、LMSなどの教育システムや授業映像などのコンテンツから、授業プロセスそのものに達しつつあるという動向です。
まだ日本では類似例はほとんどありませんが、大学の柱である授業プロセスそのものが開かれることになれば、社会的に大きな影響力を持つことになるでしょう。
[山内 祐平]
2007.08.23
広田照幸(2004)『教育(思考のフロンティア)』岩波書店
半年間ブログ上で連載してきた「受験生に薦める一冊」シリーズですが、とうとう昨日、筆記試験が終わりましたね。私たちも、来年度どのような方が入学されるか、楽しみにしているところです。さて今回は、来週の面接試験までに読めるような小さな本、しかし考えさせられる一冊を紹介したいと思います。
僕は学部時代には教育社会学を学んでいたのですが、当時お世話になっていた広田照幸先生の本を紹介します。広田先生は、歴史の中でしつけや教育がどのように語られてきたかを分析しながら現在の教育を論じている歴史社会学者です。著書に『日本人のしつけは衰退したか』(1999)、『教育には何ができないか』(2003)など。2006年からは日本大学文理学部に移られています。
この本では、教育を語る言説を〈社会化〉と〈配分〉という観点から捉えなおし、現在の教育を問題化する語り方をいくつかに分類・整理した上で、「個人化」と「グローバル化(新自由主義)」の時代における、未来のための教育を形作るための一つの提案を行っています。100ページ程度の分量ですが決して教科書的な記述にならず、最新の研究に基づいて、示唆に富む内容をめいっぱい詰め込んだ、意欲的な本です。巻末の参考文献案内も充実しています。
教育工学の分野はおもに「現在行われている教育をテクノロジを用いてどう良くするか」を考えており、教育社会学的な視点からすると、〈配分〉やそれに伴う〈階層化〉(苅谷剛彦先生の専門分野ですね)に関する議論が欠けてしまっていることが多いです。教育工学的な研究でモノを作る際にも、現在の教育があくまで歴史の中の一形態に過ぎないこと、そして、そのような教育はさまざまな権力の網の目の中で行われている営みであることを認識しておかなければならないでしょう。その上で、未来を形作る教育を実現していくべきだと思います。
この『教育』に限らず、「思考のフロンティア」シリーズには、「フロンティア」という名前どおり、その分野の第一人者による意欲的な作品が数多く見られ、その分野を研究するための基本的な視座を手に入れることができます。たとえば、社会の中の営みとしての教育を考えるために、斎藤純一『公共性』、市野川容孝『社会』、それに吉見俊哉『カルチュラル・スタディーズ』などを併せて読んでみてもいいかもしれません。
[平野智紀]
2007.08.21
BEATで開発してきたMonogatariシステムの実験運用が神奈川県立生命の星地球博物館で始まりました。学環研究員の久松さん、BEAT助教の北村さん、大学院生の平野さんと私の4名で動かしているプロジェクトです。
Monogatariは、持ち方によってモノが語りを変えるというシステムです。三葉虫の化石レプリカにRFIDを埋め込み、指輪型アンテナを用いて化石レプリカの持ち方を判定し,持ち方に対応した映像コンテンツを提示します。
8月16日に、生命の星地球博物館で一般のお客様に使っていただくことができました。待ち行列ができるほど人気があったので、少し安心しました。
実際のユーザーに触ってもらって改良するというプロセスは、形成的評価 (Formative Evaluation) とよばれ、非常に重要です。この日も人によってセンサーの感度にばらつきがあったり、箱が塗料のにおいでくさい(笑)など、いろいろなフィードバックがありました。
システムを改良して、9月には第2弾の評価を行う予定です。
[山内 祐平]