2010.11.26
みなさま、こんにちは。博士1年の池尻良平です。
山内研究室にある、ちょっと意外で便利な道具や文化 をご紹介する【山内研の秘密】シリーズ!そろそろネタも尽き始めましたので(笑)、 第8回ではまさにこの「ブログシステム」についてご紹介しようと思います。
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●山内研のブログシステム
山内研のブログはあるテーマをもとに、週替わりで院生が1回ずつ担当していく形になっています。順番は、修士2年→修士1年→博士です。
ブログのテーマは、毎週行われているゼミの中で、「次は何にしよう?」と議論されて決まっていきます。ただ、年度始めは「院生の研究紹介」、年度終わりは「今年1年の振り返り」に関するテーマになることが多いです。他には、大学院志望者向けに教育や学びに関する理論を紹介したり、研究室周りのちょっとした面白いことを紹介したりしています。
それから、毎回テーマのところで【山内研の秘密】や【突撃!隣の研究者】といったタイトルが付けられていますが、これは修士2年の初めに担当する人がタイトル案をいくつかゼミで出して、みんなで採決を取る形を取っています。僕の1つ上の代の坂本さんや僕の場合は、テレビ番組になぞらえたテーマにする傾向があったのですが、今年の安斎くんは割とクールなタイトルになっています(笑)
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●山内研のブログを書くとこんなメリットがある!
これは僕が山内研のブログを3年間書いていて感じたことですが、このブログを書くシステムには大きく4つのメリットがあるように思います。
1. 良いリフレクションの機会になる
特に年度始めの自分の研究紹介や、年度終わりの振り返りの記事を書く時は、自分がもやもや考えていることを文字にするので、院生にとっては良質なリフレクションができる機会になります。ブログの記事を書いては考え直し、考え直しては書いているうちに5時間くらい経っていた経験もあります!
2. 情報の発信の仕方を学べる
山内研のブログは、学部生や教育や学習を専門としていない人が読むことを前提に書いています。なので、自分の研究内容や、例えば「正統的周辺参加」といった専門的な内容を、自分なりにわかりやすく噛み砕いて書く必要が出てきます。
僕もM1の頃はこれを意識して結構推敲に時間をかけたのですが、これが案外研究者に必要なスキルだったりもするので、ちょうど良い練習の機会になっているんじゃないかなと思っています。
3. 研究室にまとまりができる
山内研のブログシステムのところで書いたように、このブログはみんなで面白いテーマを考えたり、誰が何を書くかなどを普段の中で話し合う良い機会になっているので、ゆるーくではあるんですが研究室に一体感が生まれます(笑)
それと、他の院生の研究や興味・関心などを知ることができることも大きなメリットだと思います。例えば、新しく入ってきたM1の研究内容を読んだ後だったら、ゼミ後の飲み会で詳しく聞いてみたり、インタビューが必要なテーマの時はどんな話しが出て来たのかをみんなで一足先に聞いたりできるので、研究室内のまとまりにも一役買っています。
4. コミュニティが広がる
山内研のブログは、リアルタイムな研究を紹介しているので、同じ関心を持つ学部生や社会人の方が山内研に興味を持ってくれることにも役立っているかなと思います。
特に大学院進学を考えている学部生の方だと、ブログを読んでくれている率が高い印象があります。そうやって、色んなカラーの学生さんが研究室に入ってきてくれて、その知り合いの方とどんどんコミュニティが広がっていくというメリットもあります。
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最近だと、twitterでブログの更新をお知らせしているので、目には見えないけども、もっと色んなカラーの人が山内研とつながっていたら面白いなあと思っています。
[池尻 良平]
2010.11.24
本日、図書館総合展のフォーラムで「大学教育とラーニング・コモンズ -学習支援のあり方について-」という講演をしてまいりました。
(講演はUstreamで録画されており、こちらからご覧になれます。)
この数年、日本の大学図書館でラーニングコモンズの整備が急速に進んでいます。学生の学習区間が確保されるという意味で、そのこと自体は歓迎すべきことです。
ただ、日本のラーニングコモンズは、学習支援よりも空間の整備が先行しているのが現実であり、ラーニングコモンズのいわば「趣旨」である学習支援については十分とはいいがたい状況にあります。
そこでこの講演では、9月末に見学したTexas A&M大学 Student Learning Centerの事例や、全米ラーニングセンター協議会(NCLCA)の動向などから、ラーニングコモンズに導入可能な学習支援について検討しました。ラーニングセンターは、図書館が中心となっているラーニングコモンズの動きに先行してアメリカの多くの大学に設置されている学習支援組織です。
NCLCA前会長のAlan Claigによれば、現状ラーニングセンターの主要なサービスとして以下のようなものがあるそうです。
アカデミックなテスト・評価
学習スキル・学習ストラテジー
チュータリング (ドロップイン・予約)
チーム学習 (e.g. SI, SLA)
電子教材 (CAI)
リメディアル教育コース
教員向けサービス
広報
教材(紙・視聴覚)
スタッフやチューターのトレーニング
情報端末室
他の大学サービスへの接続
相談とカウンセリングのパートナー
障害を持つ学生向けサービス
キャンパス評価
プログラム評価
このリストのほとんどが日本のラーニングコモンズでは手つかずの状態になっています。空間の整備と同時に、ラーニングコモンズを真の意味で学びの拠点にするために、学習支援についても真剣に検討すべき時期にきているように思います。
[山内 祐平]
2010.11.20
みなさま、こんにちは。
修士1年の土居由布子と申します。
山内研究室にある、ちょっと意外で便利な道具や文化をご紹介する
【山内研の秘密】
シリーズの7回目をお送り致します!
今回は「ゼミ合宿」をご紹介!
山内研は春と夏の年2回、中原研と一緒にゼミ合宿をします。今回は特に夏合宿を紹介したいと思います。
夏のゼミ合宿は、普段クラスや研究で忙しい院生が「教育の古典から学ぶ」ことが主旨となっています。
レクリエーションや親睦会もあります。
山内研と中原研の修士一年生が協力して準備から当日の学習プログラムの進行までを担当します。
それぞれの担当の割り振りはその代によって多少変わりますが、大体は以下のような担当があります。
●しおり係:決まったこと、合宿のプログラムやスケジュールなどの詳細を記載し、全員に配布・送信する。
●宿係:合宿先について全員に希望を取ったり、宿先への連絡、プログラム後の懇親会の幹事、会計報告等。
●学習プログラム係:3日間の学習プログラムを先生方、先輩方から意見をもらいつつ、デザイン、準備し当日はプログラムの司会進行もする。
2010年の夏は、群馬県の伊香保で2泊3日の合宿に行ってまいりました。
私は学習プログラムを担当しました。
夏合宿の学習プログラムの内容は大きく2つに分かれます。(学習プログラムは毎年検討され、変更されることがあります)
一つは古典的教育論の学者についての「ポスターセッション」、二つ目は発表された全学者(今回は9名)の教育論についての関係性をまとめた「マップ」づくりとその発表です。
ポスターセッションは、まず合宿の数ヶ月前にくじ引きで、二人一組で古典的教育学の学者一人を担当するように割り振り、各ペアはその学者の教育論について文献を読んでA1サイズのポスターに(合宿までに)まとめます。合宿ではそのポスターを用いて発表しあいます。(学者:デューイ、レイヴ、エンゲストローム、レヴィン、ブラウン、ヴィゴツキー、ピアジェ、スキナー、など)
<<<1日目>>>
合宿1日目の午後からさっそく発表です。宿泊先の会議室で二手に分かれて二者が同時に発表するのを他の院生が聞きに行くというスタイルでやりました。同じ学者を担当したペアは同じポスター(合宿前に事前に作っておいたもの)を使いますが、同時に発表するのではなく、別々にやります。二手にわかれるものの、全員が9名の学者の発表を全部聞けるよう発表は自分が発表するのをあわせて9回あります。1回の発表は質問時間等をあわせて20~30分ですが、9回分を一気に一日でやるわけではありません。初日の午後は4人の学者の発表だけです。
各発表後の質問時間とは別に、学者4名分の発表が終わるごとに「なりきりタイム」があります。
そこでは、各発表者4名がファシリテーターとなり、他の院生は自分が聞いた発表者(ファシリテーター)のもとに集まり、4グループに分かれます。
各グループのメンバーが一人ずつ5~6枚の「質問カード」(学習プログラムが事前に準備)をひいてその学者になりきって、答えます。
例えば、「今だったらどのような教育をしたいですか」や、「自分の考えにそぐわない学者は誰ですか」などの質問に対し(ピアジェグループであれば)ピアジェになりきって答えるというのを一人ずつ回していくといった感じです。
各発表、そしてなりきりタイムでは各学者の写真のお面を発表者が頭にかぶることになっています。なりきりグッズです。少しでもなりきってもらうためのちょっとした仕掛けです。
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▲9学者のお面たちです
<<<2日目>>>
午前のポスターセッションが終わったあと、レクリエーションを挟んで夕方に「マップづくり」をしました。
個人制作のマップづくりでは、各学者の小さな顔写真を貼り付けながら、聞いた発表と配布資料をもとに、独自の観念や、自分の研究の立ち位置も踏まえつつ、各学者間の関係図を書いてもらいます。
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▲個人で制作したマップ例
<<<3日目>>>
書き終わったものは三日目の朝に会議室で展示されるので、そこで他の人が描いたマップを閲覧します。
そのあと、グループ分けがあり、大体4~6人で1グループになってもらいます。
そのグループ内で自分が描いたマップについて説明しあってもらったあと、グループでオリジナルのマップを作ってもらい、発表です。
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▲グループでマップを作成している様子。
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▲グループで制作したマップの一つ「ヴィゴツ木ー」
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▲グループのマップを発表している様子。演劇風に各学者になりきりながら説明してくれました。
これで学習プログラム終了となります。
合宿中間にあたる二日目の昼ごろ、伊香保のグリーン牧場に合宿メンバー全員で訪れ、バーベキューを思う存分食べたあと、動物たちと触れ合いました。
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▲伊香保グリーン牧場
良いリフレッシュになったと思います。このように夏合宿ではレクリエーションも取り入れています。
学習プログラムについては合宿後様々な課題が浮かび上がってきました。
より良い学習プログラムを合宿で行っていくため、今後改善していきたいと思います。
2010.11.16
ハーバード大学のRaj Chetty教授が、ベテランの幼稚園教諭が少人数学級で教えた場合、大人になってから年収があがるという研究を発表して注目を集めています。
Calculating the Importance of a Good Teacher
Kindergarten Matters
この研究は、1980年中盤に行われたProject Starというテネシー州の幼稚園児12000人をランダムに15人のクラスと24人のクラスに割り当てて教育効果を見たプロジェクトの追加分析になります。
1980年代当時でも、少人数学級の効果は明らかになっていましたが、その影響は中学生になると消えることが確認されていました。この研究のユニークなところは、いったん消えた影響が、大人になってから復活しているように見えるところです。
Chetty教授は、学習規律などの非認知的スキルの影響の可能性を指摘していますが、大人になってからの測定尺度が年収であることを考えると、社会性のような教科内容に依存しないタイプのスキルが影響している可能性もありそうです。
学校の教育内容として明記されていない能力やスキルが、良質の幼稚園教育によって培われ、いったん消えた上で大人になってから現れるという現象は興味深いものです。教育に関わる評価は、多面的かつ長期のスパンで考えるべきだということを示している研究であるといえるでしょう。
[山内 祐平]
2010.11.12
みなさま、こんにちは。 修士1年の柴田アドリアナと申します。
山内研究室にある、ちょっと意外で便利な道具や文化をご紹介する
【山内研の秘密】
シリーズの6回目をお送り致します!
今回は「ゼミ形式」をご紹介します。
山内研のゼミは毎週木曜日の午後4時半から開かれます。時間になると山内研のメンバーは全員、福武ホールの地下2階にあるラーニングスタジオに移ります。普段に使われているラーニングスタジオはこの形になっています:
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しかし、山内研のゼミの時には輪になります:
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実は、この机の並び方は山内研の一つの特徴です。
発表中には発表者のポートフォリオやレジュメ、参考になった文献などを回します。前回、菊池さんが紹介してくれた通り、ポートフォリオをみながら発表者の研究の流れを確認することができます。
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そして、メンバー同士のコミュニケーションをアフォードしています。その場で他の院生や助教の方からコメントをいただくことができます。伏木田さんが以前説明してくれたように、ゼミでの研究発表は月に1度ありますので、このようなコミュニケーションの機会はとても重要です。
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山内研のゼミに参加している方は現在21人です。山内先生と院生だけではなく、助教の方も来年から進学してくるM0の方も冬学期から一緒に参加しています。
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このようにさまざまなバックグラウンドの方々が集まって、知識の輪を広げている最高の学習環境です。
[柴田アドリアナ]
2010.11.09
▼12月4日(土)BEAT Seminar「書く力を育てる大学教育」を開催します。ソーシャルメディア時代にますます重要になっている書く力の育成について、ライティングセンター、授業、教育システムの観点から議論します。
皆様のご参加をお待ちしております。
■日時
2010年12月4日(土) 14:00~17:00
■場所
東京大学 本郷キャンパス
情報学環・福武ホール(赤門横)福武ラーニングシアター(B2F)
アクセスマップ>>http://www.beatiii.jp/seminar/seminar-map44.pdf
■内容
1.講演1 14:05-14:45
「テクニカルライティングとライティング教育」
冨永敦子(早稲田大学)
2.講演2 14:50-15:30
「読みを支援して書くことに繋げるライティング支援」
望月俊男(専修大学)
3.参加者によるグループディスカッション 15:40-16:00
4.パネルディスカッション 16:00-17:00
「書く力を育てる大学教育」
司 会:北村智・椿本弥生・高橋薫(東京大学)
パネラー:
冨永敦子(早稲田大学)
望月俊男(専修大学)
山内祐平(東京大学)
■定員
180名(お早めにお申し込みください)
申込ページ:http://www.beatiii.jp/seminar/index.html
■参加費
無料
■懇親会
セミナー終了後1F UTCafeにて
参加希望者(¥3,000)
2010.11.05
みなさま、こんにちは。
修士1年の菊池裕史と申します。
山内研究室にある、ちょっと意外で便利な道具や文化をご紹介するシリーズ【山内研の秘密】、第5回は「ポートフォリオ」をご紹介します。ここでいうポートフォリオとは、山内研メンバーの学習記録・活動記録のことを指しています。
山内研では、月に1度のペースで研究の進捗状況を報告する機会が与えられます。この研究発表の際に配布するレジュメをアーカイブしたものが個人のポートフォリオとなります。例えば僕のポートフォリオはこれです。
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中には研究発表の際に配布したレジュメと、その時に頂いた質問のリストが入っています。
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また、前回伏木田さんがご紹介した「ファシリテーター」の方との研究相談のやりとりもアーカイブしています。
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ポートフォリオの使い方は学生自身に委ねられており、実験や実践のデータを保存している人や、外部で発表した際の資料を保存している人もいます。
このような個人のポートフォリオが、1カ所にまとめられています。
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このポートフォリオは、自分の研究を振り返る際に役立つだけでなく、研究の今後を予想する際にも非常に有用なものとなります。例えば、博士課程の池尻さんのポートフォリオには、僕のポートフォリオの何倍もの内容が詰め込まれています。
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僕はよく先輩方のポートフォリオを覗いては、先輩方が過去に発表した内容を参考にしたり、これから自分がやらなくてはならないことを確認しています。
また、研究室には学生のポートフォリオだけでなく、過去に山内先生が担当された授業のレジュメや、合宿での資料、過去に読んだ文献のデータ、卒業された先輩方の学位論文なども保存されています。
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山内研の学生は、このような過去から現在にわたって積み上げられてきた資料に囲まれながら、日々研究を進めています。研究に関連する情報を提供してくださる先輩方、OB、OGの方々に感謝しつつ、自分も山内研のメンバーに役立つ資料を提供できるように、一歩一歩着実に研究を進めていきたいと思います。
2010.11.04
コンピュータを利用した学習環境研究の源流として位置づけられるシーモア・パパートは、1950年代後半から1960年代前半にかけて、認識の発達に関する偉大な研究者であるジャン・ピアジェと共同研究を行っていました。パパートは、ピアジェの発生的認識論の考え方に大きな影響を受けて、LOGO言語を開発したといわれています。
ピアジェは、学習者が環境との相互作用の中で主体的に知識を構成するという考え方から、「構成主義 (Constructivism) 」として位置づけられています。一方、パパートは「構築主義 (Constructionism)」という考え方を提唱し、学習者が知識を外化した人工物を構築することが学習にとって重要であることを主張しています。
パパートが構成主義ではなく構築主義という新しい言葉を作ったのはなぜなのでしょうか。
そのヒントになる論考が、Edith Ackermannによって書かれています。
Ackermannは"Piaget's Constructivism, Papert's Constructionism: What's the difference?" の中で、パパートをピアジェと比較して以下の点が特徴的であると述べています。
1) 学習を媒介する人工物に注目している
2) 学習を規定する社会的状況を意識している
3) 発達段階のような安定した構造ではなく、動的な変化に関心がある
これらの指摘はその通りだと思いますが、個人的には、これらの特徴は研究者としての立ち位置の差から生まれたものだと考えています。
認識が発生し発達していくプロセスを生物学をメタファーとして一般理論化したかったピアジェと、よりよい学習のためにコンピュータを用いて新しい環境を構築して介入しようとしたパパートでは、研究の指向性が違ったということでしょう。
パパートが対象としたかったのは、誤解を恐れずにいれば、「学習を加速する方法」だと思います。そういう意味では、「構築主義 (Constructionism)」を、学習環境デザインにおけるデザイン原則に近いものとしてとらえなおすことができるかもしれません。
[山内 祐平]