2010.11.04

【エッセイ】ピアジェとパパート

コンピュータを利用した学習環境研究の源流として位置づけられるシーモア・パパートは、1950年代後半から1960年代前半にかけて、認識の発達に関する偉大な研究者であるジャン・ピアジェと共同研究を行っていました。パパートは、ピアジェの発生的認識論の考え方に大きな影響を受けて、LOGO言語を開発したといわれています。
ピアジェは、学習者が環境との相互作用の中で主体的に知識を構成するという考え方から、「構成主義 (Constructivism) 」として位置づけられています。一方、パパートは「構築主義 (Constructionism)」という考え方を提唱し、学習者が知識を外化した人工物を構築することが学習にとって重要であることを主張しています。
パパートが構成主義ではなく構築主義という新しい言葉を作ったのはなぜなのでしょうか。
そのヒントになる論考が、Edith Ackermannによって書かれています。
Ackermannは"Piaget's Constructivism, Papert's Constructionism: What's the difference?" の中で、パパートをピアジェと比較して以下の点が特徴的であると述べています。

1) 学習を媒介する人工物に注目している
2) 学習を規定する社会的状況を意識している
3) 発達段階のような安定した構造ではなく、動的な変化に関心がある

これらの指摘はその通りだと思いますが、個人的には、これらの特徴は研究者としての立ち位置の差から生まれたものだと考えています。
認識が発生し発達していくプロセスを生物学をメタファーとして一般理論化したかったピアジェと、よりよい学習のためにコンピュータを用いて新しい環境を構築して介入しようとしたパパートでは、研究の指向性が違ったということでしょう。
パパートが対象としたかったのは、誤解を恐れずにいれば、「学習を加速する方法」だと思います。そういう意味では、「構築主義 (Constructionism)」を、学習環境デザインにおけるデザイン原則に近いものとしてとらえなおすことができるかもしれません。

[山内 祐平]

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