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2010.09.30

【学びのキーワード】テキスト理解

みなさま、こんにちは。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!
第9回は博士1年の大城がお送り致します。
今回のキーワードは、「テキスト理解」です。

私の研究は、大学の講義理解の支援を対象にしていますが、講義理解を考える上で、テキスト理解に関する研究は大いに参考になります。テキストと講義とでは、自分のペースで読めるかどうか、テキストが目に見えるか、耳から聞こえるか、といった様々な違いがあります。しかし、互いに知見を活用できる部分は多いと思います。

実際、Kiewra(1991)はMayer(1984)のテキスト理解のモデルを講義理解のモデルにそのまま援用し、「選択」(文章から情報を選択し、作業記憶に加えること)、「内的関連づけ」(選択された情報を、作業記憶の中で結束した構造に体制化すること)、「外的関連づけ」(体制化された情報を、長期記憶の中に既にある、似たような他の知識と結び付けること)に整理しています。

テキスト理解に関する研究は多々ありますが、今回は、このMayerのテキスト理解のモデルではなく、Kintschのテキスト理解のモデルを簡単に紹介したいと思います。


■テキスト理解とは?

テキスト理解、と聞いてどんな「理解」を思い浮かべますか?Kintsch(1994)も「理解」(comprehension)という言葉の曖昧さを指摘していますが、大きく分けて、「テキストそのものを覚えること」(remembering a text)と「(読み手自身が持っている背景知識を活用して)テキストから学ぶこと」(leaning from a text)の2つに分かれると言えます。


■テキストベースの理解

テキストを覚えることは、テキストベースの構築による理解と呼ばれます。
例えば、次のような文を考えてみましょう。

When a baby has a septal defect, the blood cannot get rid of enough carbon dioxide through the lungs. Therefore, it looks purple.
(乳児に中隔欠損がある場合、血液が肺を通じて十分に二酸化炭素を取り除くことができない。ゆえに、血液は紫色に見える。)

テキストベースでは、テキストに明示されている単語のみを使って理解することを意味します。よって、HAVEとNOTGETRIDとPURPLEの3つの命題に分けて、それらの関連性を文の構造に沿って理解することになります。ただし、読み手によってテキストベースの構築の仕方は異なります。


■状況モデルの理解

これに対し、読み手自身が持っている背景知識を活用してテキストから学ぶことは、状況モデルの理解と呼ばれます。

上の文を例に、読み手が心臓の血液循環に関する背景知識を持っている場合を考えてみましょう。

「心臓は肺から酸素を含んだ血液を受け取り、それを全身に送り出している。」
「全身から心臓に二酸化炭素を含む血液が運ばれ、肺に送り出されている。」

といった循環に関する知識や、

「赤色の血液は酸素を運搬している。」
「紫色の血液は二酸化炭素を運搬している。」

といった血液の状態と色の関係に関する知識を使い、心臓の中隔欠損によって、二酸化炭素を多く含む血液と酸素を多く含む血液とが混じる、ということを理解することができます。ゆえに、テキストには直接示されていない知識を使ってテキストの内容を理解していることになります。この場合にも、読み手によって、状況モデルの構築の仕方は異なります。


■テキストの形式と読み手の背景知識の関係

どんな読み手にとっても万能なテキストの形式は存在しませんが、読み手の背景知識の差によって、状況モデルの構築に効果的なテキストの形式が異なることは示されています。

Kintsch(1994)のレビューのまとめによると、テキストの内容に対する背景知識が低い読み手の場合、結束性が高く、明示的なテキストの方が、問題解決型のテスト(状況モデルの構築に依存するタイプのテスト)の成績が良く、逆に背景知識が高い読み手の場合、結束性にギャップがあるテキストの方が成績が良いとされています。

前者はともかく、後者については疑問が残ります。なぜ、背景知識が高い読み手にとって、結束性が高く、明示的なテキストが有効にならないのでしょうか?これについて、Kintsch(1994)は、読み手がテキストを簡単なものだとみなし、テキストベースで理解できているつもりになることで、状況モデルの構築が不完全になる可能性を指摘しています。つまり、ある程度「読み解きがいのある」形式の文章でなければ、読み手がすぐに分かったつもりになってしまう恐れがあるということです。


講義理解についても全く同じことが言えるかどうかは分かりませんが、テキスト理解に関する知見は、何かを見たり、何かを聞いたりして学ぶという行為について多くの示唆を与えてくれるものだと考えられます。


■参考文献

Kiewra, K. A. (1991) Aids to Lecture Learning. Educational Psychologist, 26(1): 37-53
Kintsch, W. (1994) Text comprehension, memory, and learning. American Psychologist, 49(4): 294-303
Mayer, R. E. (1984) Aids to Text Comprehension. Educational Psychologist, 19(1): 30-42


[大城 明緒]

2010.09.28

【お知らせ】大学生向け勉強会「FLEDGE」

山内が代表理事を務めているNPO Educe Technologiesで、学びの場づくりを考え実践する大学生向け勉強会「FLEDGE」を開催しています。
ワークショップの企画・デザインについて実践的に学ぶことができますので、ご関心のある方はぜひお申し込みください。

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学びの場づくりを考え実践する大学生向け勉強会『FLEDGE』では、3期メンバーを募集いたします!!

FLEDGEとは「これからの社会のために、よりよい学びとは何かを考え、学びの場を自ら創りだし、増やしていく」というコンセプトのもと、理論と実践を行き来しながら進む大学生向けの勉強会です。第3期では、ワークショップのデザインについての理論を学ぶとともに、実践現場の観察や実践者へのヒアリングなどを行います。その上で、最終的にはメンバー自身でワークショップを企画し、実践する予定です。

[参加資格]
大学生(大学院生は除く。)
下記に挙げた活動日に全て参加できる方。
定員10名程度

[実施概要]
10月から3月の半期で終了します。
勉強会は毎月1回程度開催されます。
活動時間は18時~20時 です。
勉強会への参加は無料です。(※実費が発生する場合を除く)

[内容]

第1回

10月18日(月)

ガイダンス
/ワークショップ体験

第2回

11月15日(月)

ワークショップ調査発表(1 )
/ワークショップ企画MTG(1)

第3回

12月20日(月)

ワークショップ実践(1)

第4回

1月17日(月)

ワークショップ調査発表(2)
/ワークショップ企画MTG(2)

第5回

2月21日(月)

ワークショップ実践(1)

第6回

3月21日(月)

活動報告会

[活動場所]
東京大学本郷キャンパス福武ホール 地下2階スタジオ1
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/

[主催]
NPO法人EduceTechnologies http://www.educetech.org/

[3期ディレクター]
山田小百合(日本女子大学4年)
渡邉貴大(早稲田大学4年)

[責任者]
山内祐平(NPO法人EduceTechnologies代表理事/東京大学大学院情報学環准教授)
森玲奈(NPO法人EduceTechnologies理事/東京大学大学院情報学環特任助教)

[連絡先] educe.fledge[atmark]gmail.com

■参加したい!という方、興味があるという方は・・・

下記URLから必要事項をお書き込みいただき、【課題】にもお答え下さい。
申し込みフォームは、10月10日(日)までにお申し込み下さい。
応募人数が多数の場合、先着者より選考させていただく可能性がございます。ご了解ください。

募集フォームURL http://ow.ly/2Jbsw

「FLEDGE(フレッジ)」名称の由来
FLEDGE=Future Learning Environment Design Generation
"未来の学びの場をデザインする若き世代"というような意味です。
また、"fledge"には、ひなを巣立ちまで「育てる」という意味と、
自ら「巣立つ」という2つの意味があります。
新しい学びの場を社会にアウトプットしていきながら、
我々自身も学び「学びの実践者」として社会へ巣立っていく
勉強会にしたい!という願いを込め、この名前に致しました。

2010.09.24

【学びのキーワード】シリアスゲーム

みなさま、こんにちは。

学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!
第8回は博士1年の池尻 良平がお送り致します。

今回のキーワードは、最近話題になってきた「シリアスゲーム」です!

■シリアスゲームとは?
 藤本(2007)ではシリアスゲームをこう定義しています。

「教育をはじめとする社会の諸領域の問題解決のために利用されるデジタルゲーム」

 ポイントは、通常のゲームと違い教育の意図があることと、学校教育、企業内研修、公共政策、軍事、政治、医療・福祉など諸領域の「問題解決」がゲームのベースになっているという点です。


 あれこれと説明する前に、「百聞は一見に如かず」ということでまずは実際にシリアスゲームをやってみましょう。以下に無料で体験できるシリアスゲームの代表的なものを紹介しますので、試しに興味のあるものをやってみて下さい。


(1)フードフォース(http://www.foodforce.konami.jp/about.html
国連の世界食料計画(WFP)が開発した、人道支援が目的のシミュレーションゲームです。内容は、インド洋に浮かぶ仮想の島で多くの難民に食料を供給するゲームです。公開6週間で100万ダウンロードを記録した世界的ヒット作です。Windowsなら日本語版でも遊べます。時間もさほどかからずクリアできるので、初心者におすすめです。(Macの方は、英語版をダウンロードして下さい。(http://www.wfp.org/how-to-help/individuals/food-force


(2)Virtual U(http://www.virtual-u.org/downloads/
 こちらもシリアスゲームが注目されるようになったきっかけのゲームで、大学経営を学習するシミュレーションゲームです。プレイヤーは学長になって、限られた予算を使いながら教員を雇ったり、学内の学習環境を整備したりして、他の大学よりも優秀な成果を出すのがゴールです。英語版なのでやや難しいですが、かなり細かい変数が用意されていて、本格的に学習できるゲームです。


(3)America's Army(http://www.americasarmy.com/
 これもシリアスゲームの有名な作品で、米陸軍が新兵募集のためのマーケティングツールとして開発したゲームです。実際の射撃や作戦行動の訓練過程を精密に再現しており、登場する施設や武器や服装などは実際のもので構成されています。基本は一人称視点で描写されるシューティングゲームですが、現在はオンラインで他のプレイヤーと共同でミッションをこなすモードも作られています。一般で売られているゲームにも引けを取らないできだと評価されています。Windows推奨です。


(4)Stop Disaster!(http://www.stopdisastersgame.org/en/home.html
 これは、津波、山火事、洪水、ハリケーン、地震の五つの災害被害をできるだけ減らすというゲームです。非常にシンプルな作りで、学校や病院など必要な施設を建てつつ、ゲームの最後に必ず襲う災害からその建物を守れればクリアとなっています。難易度も選べるので初心者でも楽しめます。*音量が出るので注意して下さい。


■シリアスゲームを教育に利用するメリット
 さて、やってみた印象はどうですか?すごい!と思う方もいれば、別にわざわざゲームで教育しなくても教科書で勉強したり、体験学習で事足りるのでは?と思われた方もいると思います。

 では、シリアスゲームをもつメリットは何なのでしょうか?藤本(2007)はそのメリットとして以下の5つを挙げています。

①モチベーションの喚起・維持
 これは最も基本的なメリットで、ゲームを利用することで生じる「新奇性」、「インタラクティブ性」などいくつかの要因が働いていると言われています。


②全体像の把握や活動プロセスの理解
 ゲームは世界のメカニズムが描写されたり、動的な動きの再現が行われたりするので、全体を俯瞰した形でプレイヤーの意思決定や行動の結果が視覚的に確認できます。ゲームでは現実の時間より何倍も早く時間を進めることもできるので、特に都市開発や経営方法を扱うゲームでは非常に役立ちます。
 上で挙げた大学経営をするゲーム「Virtual U」や、自分で都市開発をするゲーム「シムシティ」、自分で文明を構築していくシミュレーションゲーム「シヴィライゼーション」などが良い例です。


③安全な環境での体験学習
 これはシリアスゲームを使うかなり重要なメリットです。ゲーム内の世界は現実に直接影響しないコントロールされた環境なので、直接的な体験学習では行えない体験が可能になります。
 上で挙げたアーミーがこれに当たります。飛行機や車の操縦、手術などの医療活動など、学習内容にリスクが伴うものほど、恩恵は大きくなります。


④重要な学習項目を強調した学習体験
 現実世界では関係する変数の数が多すぎたり、構造が複雑になりすぎて何を学習すべきかよくわからなくなってしまうことが多々ありますが、ゲームでは特に学習させたいポイントだけ強調し、残りの部分は単純化させることができます。


⑤行為・失敗を通した学習
 これはゲームを通した学習で特に強調されるメリットです。ゲームというのは、何かを「プレイ」することになるので、必然的に行為を通した学習(Learning by Doing)と相性が良くなります。さらに、ゲームではコンティニューが可能なので、何度失敗しても大丈夫だというメリットがあります。
 失敗を通した学習の価値はロジャー・シャンクなどをはじめ、多くの学習理論研究者達が認めており、試行錯誤の中で失敗しつつフライトや手術の技能、経営方法や国の政策などを学べるシリアスゲームは、ロジャー・シャンクの言う「失敗を通した学習」に最適だと言えます。(これは従来の教育とは大きく異なるポイントだと思います)


 これ以外にも、シリアスゲームはとても多くの学習テクニックと相性が良く、プレンスキー(2009)は「練習とフィードバック」「ゴール志向型学習」「探索学習、ガイド付き探索学習」「課題に基づいた学習」「質問先導型学習」「状況的学習」「ロールプレイ」「コーチング」「構成主義的学習」「(多感的な)加速学習」「学習オブジェクトの選択」「インテリジェントチューター」などの学習上のメリットを挙げています。


■シリアスゲームの導入は徐々に現実的に
(1)コンテンツの充実
 シリアスゲームに対する注目は2000年以降世界的に高まり、アメリカをはじめヨーロッパでも様々なセッションが開かれ、多くの研究グループが形成されています。また、世界中で多くのシリアスゲームが開発され、多様な場面で利用できるコンテンツも揃ってきています。(詳しくは参考文献の「デジタルゲーム学習」をご覧下さい。企業向けのものだけでも40以上のシリアスゲームがあります。)


(2)デジタルネイティブの登場
 同時に、教育の対象である子どもたちもいわゆるデジタルネイティブの世代になり、「単線処理→並行処理」「従来のスピード→トゥイッチスピード」「順序に沿った思考→ランダムアクセス」「テキスト先行→グラフィック先行」「スタンドアローン→ネットワーク」「受動的→能動的」「ワーク→プレイ」「我慢→報酬」というように、従来とは異なる認知スタイルに変化していることがプレンスキー(2009)によって指摘されています。彼は、デジタルネイティブの世代はシリアスゲームによる学習と相性が良いとも主張しています。


(3)ゲーム環境の発達・整備
 一方、テクノロジーの発達・導入も進んでいます。例えば近年では、インターネットの成長により、大規模多人数参加型オンラインゲーム(Massively Multiplayer Online game、通称"MMO")も可能になり、複数のプレイヤーと一緒にシリアスゲームをプレイし、プレイヤー同士で協調学習を行ったり、学び合うことも可能になっています。
 さらに、日本の学校ではICT導入が進み、シリアスゲームに必要な環境も着々と揃っています。近年騒がれている電子教科書もそうですが、日本に限って言えば、シリアスゲームを用いるのに十分な環境が整備されつつあります。

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 近代の学校教育では、教科書を読み、先生の話しを聞き、紙に書くというのが主流でした。それが最近の学校教育では、話しを聞くだけでなく、視聴覚教材によってより豊かにイメージを膨らませたり、グループで協調学習をして生徒達が自分たちで能動的に考え合うという新しい活動がプラスされるようになりました。
 そして今、環境・生徒の認知的スタイル・シリアスゲーム研究の蓄積によって、「実際に学んだことを試してみる」という新しい活動がプラスできるようになりました。


 この先、「シリアスゲーム」というキーワードが学びの世界で重要なインパクトを与えることは間違いなさそうです。


*参考文献

藤本徹(2007)シリアスゲーム. 東京電機大学出版会.
マーク・プレンスキー(2009)デジタルゲーム学習. 東京電機大学出版会.
山内祐平(2010)デジタル教材の教育学. 東京大学出版会.


[池尻 良平]

2010.09.22

【エッセイ】教育実践を論文にする壁

9月18日、19日、20日と日本教育工学会全国大会に出席してきました。教育工学会は、教育/学習において生じる問題に対して、理論と実践を踏まえて問題解決に関する情報を提供することを指向しており、毎年多くの教育実践研究が発表されています。
この学会で常に問題になっているのが、教育実践研究を学術論文にすることの難しさです。今年のシンポジウム2「教育工学を問い直す」でもこのことが話題になり、意見を求められました。この時の発言を備忘録的にまとめておきます。

私は編集担当理事として教育工学会誌に投稿される論文の査読プロセスを管理する仕事をしていますが、一般的に教育実践に関わる論文が受理できないと判断されるケースには以下の3つのパターンがあるようです。

1) 新規性に関わる問題

教育実践は長い歴史を持っていますので、今まで見たことがないような教育実践を新しく作ることは困難です。また、教育実践に関するデータベースなどが整備されていないので、今までにないことを試みていることを主張するのも難しいのが現状です。このため、論文に要求される新規性を確保しずらい状態にありました。教育工学会に関していえば、この点に配慮した新しいカテゴリー「教育実践研究論文」を新設し、「研究手法や道具の開発、要因の分析、実践の改善や学習環境つくり、教師の教育実践力について、新たな点があるもの」も新規性として認めることになりましたので、今後この問題は緩和されると考えています。

2) 妥当性に関わる問題

教育実践は様々な要因が織りなされて起こる複雑な事象であるため、介入やデザインのパターンがポジティブな影響を与えたということを主張したい場合、意図した介入やデザインが原因で起きたことを立証するのに困難が伴います。
シンポジウムの際に早稲田大学の向後先生がおっしゃっていたように、実験室研究であれば要因の統制もできますが、実際の授業やワークショップのような現実の教育の場では、文脈を壊すようなこのような研究計画は非現実的です。
そのことを考慮し、教育実践に関わる研究は、事例研究や事前事後比較でも受理されています。ただし、それでも研究の目的に対応した確実なデータ収集と信頼性の高い分析方法を使用する必要があります。このような学習に関わるデータ収集と分析の方法に関わる情報が十分流通していないため、この点の不備によって受理できないと判断されるケースもかなりあります。
この課題に関しては、教育工学会25周年を記念して発刊される教育工学選書の中で、必要な書籍が刊行されると思いますので、これを待ちたいと思います。

3) 研究の筋立てに関わる問題

教育実践研究が採録されにくい理由として新規性と妥当性の問題がクローズアップされることが多いのですが、私の感覚では、採録されにくい最大の原因は、研究の「問題・目的・方法・結果」が対応していないという研究の筋立ての不備です。本格的な研究構成法は、大学院の教育内容であり、教育実践研究への参入者が増えるにつれて、大学院でこの種の教育を受けていない方の投稿が増えているのかもしれません。
この問題のもっともよい解決法は大学院に行って学ぶことだと思いますが、現状ではハードルが高いのも事実です。しばらくは、学会やその他のコミュニティがその役割を果たすことが現実的かもしれません。

[山内祐平]

2010.09.17

【学びのキーワード】映像におけるヴィジュアルリテラシー/映像リテラシー

【学びのキーワード】映像におけるヴィジュアルリテラシー/映像リテラシー

みなさま、こんにちは。修士1年の土居由布子です。

学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!

第7回のキーワードは映像における「ヴィジュアルリテラシー」です。

最近、特に夏休みはあちらこちらで「映像制作ワークショップ」が行われてきました。その中で培われるであろうものの一つが映像における「ヴィジュアルリテラシー」またの名を「映像リテラシー」です。

★ 映像における「ヴィジュアルリテラシー」とは

一言でいうと、「映像の理解能力」「映像における操作技能」つまり,映像を読み解き、また映像文法のある映像を作り出す能力です。ただしこれは「映像」におけるヴィジュアルリテラシーであって、映像に拘らない場合の本来のヴィジュアルリテラシーは「視覚的なメッセージを理解し作り出す能力」を指します。また国際ヴィジュアルリテラシー協会では「人間が見ることによって、そして他の感覚的な体験をするなかで同時にそれらを統合することによって発達させる視覚能力の集合」とされています。

the International Visual Literacy Association

http://www.ivla.org/organization/whatis.htm (参考)

★ 映像における「ビジュアルリテラシー」の重要性

映像文化が浸透する中、これまではただ「見るだけ」だったのが「撮る」「発信する・共有する」ことが簡単にできるようになりました。例えば、最近は一人一台は持っているデジタルカメラや携帯電話に大抵ムービー機能が付いていますよね。また「you-tube」、「mixi」「facebook」などのユーザーの方は自分が撮ったムービーをアップロードしたり、友達の映像を見た経験はありませんか。

このように技術の進歩によって、誰でも映像情報を作成、発信できる時代になりました。アマチュアとプロの境がどんどん小さくなっていく時代が到来したといっても過言ではありません。

しかしながら「you-tube」で共有されている一般人の映像の多くは「見る気がしない」という人もいるかもしれません。でもそれは何故でしょうか。

プロが撮った映像は一般人が撮ったものに比べるとやはり「見やすさ」ということがその差として一番にあるのではないでしょうか。

「見やすさ」というのは「映像文法」というのもまた重要なキーワードだと思います。それでは「映像文法」とは何でしょうか。英語や日本語などの言語に文法があるのと同じように、「映像」にも「文法」があるという認識を皆さんはされたことありますか。

「映像文法」を無視したわかりにくい表現とは?

例)運動会のビデオ映像

○カメラを固定し、場面全体が映るよう調整された後、ズームインなどの操作を行っていないもの。

⇒注目すべきところ/人物はどこなのかが分からない。

○ 被写体のみを追跡撮影しているもの

⇒どんな状況や流れの中にいるのか等全体が分からない。

○画面変化が大きく、動きの早いもの、傾いていたり、上下左右に動き過ぎ。

⇒落ち着いて映像内容を視聴できない。見ていて気分が悪くなる。

 あなたもビデオ撮影する際、または映像を見ていて、重要な部分を強調するために、編集でその特定のシーンだけ繰り返す、ズームアップしたものをと、全体が見えるものも組み込む等の工夫があったりしませんか。

 また映画等で会話しているシーンは大抵Aさんの後ろ姿(右肩もしくは左肩から頭部)を映しつつ、その向こうにBさんがAさんに向かって話している様子を撮るといった(ごく基本的な)技法が使われます。

このようにそれぞれのシーンで「意図」を持って撮影するとき、その工夫に文法という名のルールがあれば、誰かに見てもらう時に伝わりやすいのです。

映像におけるヴィジュアルリテラシーの原点として、まずは「映像にも文法がある」という認識/気づきをすることではないかと思います。

私もまだ勉強中ですが、以下の文献を読んでいるので、もしご興味がおありの方は参考にしてはいかがでしょうか。

「映像を生かした環境教育」「映像時代の教育」どちらも吉田貞介著。

「ヴィジュアルリテラシーを育成するための学習プログラムの開発」高野勝(上越教育大学)

「Teaching TV production in a Digital Workd 」Robert Kenny著

「A Primer of Visual Literacy」Donnis A. Dondis著

「作る映像リテラシ(output)映像•ビジュアルデザイン」森田健宏

以上で簡単に「Visual Literacy/ビジュアルリテラシー」の紹介をさせていただきました。このキーワードが国内外でよりいっそう認識が広がり、多くの方が学ばれ、一般の映像作成/発信文化が高まり、作品一つ一つが見やすいものとなり、より一層プロとアマチュアの差がなくなるような素晴らしい映像時代を期待しつつ、それを実現するべく「映像時代の教育の在り方」について自身の研究に勤しんで参りたいと思います。

【M1 土居由布子】

2010.09.16

【記事掲載】産経新聞にSoclaプロジェクトの取材記事

産経新聞・MSN産経ニュースにiPadとTwitterを使って高校生の学習を支援するSoclaプロジェクトの取材記事が掲載されました。研究室の大学院生もファシリテータとして活躍しました。

「紙よりiPad?! 簡単操作・多様性で教育現場に」 http://ow.ly/2EYUB

[山内祐平]

2010.09.11

【学びのキーワード】放課後学習

みなさま,こんにちは。修士1年の柴田アドリアーナと申します。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズ!
第6回のキーワードは「放課後学習」です。

 最近、学校の伝統的な学習の限界に応じて、学校外の様々な学習活動に注目しています。その活動の一つは放課後学習です。

 ◆「放課後学習」とは

 放課後学習を簡単に定義すると:授業が終わった後、教室でやり残した勉強や宿題などをして、補習を行うことです。つまり、通常クラスを終えてから行う学習活動、インフォーマル学習のことです。

 ◆「放課後学習」の重要性

 ・ 授業が終えてから親が仕事から帰ってくる時間までの間をカバーする。
   → 親に安心感を与えます。
 ・ 学習時間の延長。
   → 大人や他の子どもたちとの相互作用
 ・ 自信や自尊心の改善。
   → その他、表情、態度、行動にもポジティブな影響を与えます。
 ・ 教養や学業成績を高め、才能を伸ばす機会。
   → 子どもの発達に直接関連します。

 社会的な面

 社会的不公正が高い国々では放課後で行う活動はとても重要だと教育専門家や政策立案者の間に認識されています。それは特にマイノリティや低所得者の児童•生徒に対して、言語の習得や社会的一体性を支える環境になるからです。そして、さらに実行されている地域には、個人だけではなく、コミュニティにもポジティブな影響を与えているという報告があります。

 ◆「放課後学習」の事例と可能性

 ここで紹介したいのは「Fifth Dimension」というプロジェクトです。この放課後プロジェクトは米国で生まれ、現在、様々な国でも行われています。
 「Fifth Dimension」では子どもたちはコンピューターゲームを通して、放課後で大学生と共同的な学習をしています。では、このプログラムの目的を見て、「放課後学習」の対する幾つかの可能性を並べてみました。
 ・ 学業成績を高めるために、放課後の時間に豊な環境を提供する。
   → この環境は理論に基づいて作られました。このように年齢に応じて、子どもの発達を目指している設定を提供する事ができます。
 ・ コンピューターを使いながら、女性やマイノリティの間に起こるデジタルデバイドの問題を緩和する。
   → デジタルデバイスを通しながら、様々な体験をする可能性が広まります。
 ・ 違いを重視する構造を立てる。
   → 異年齢、異文化、異なる宗教、人種、経済的背景の方々と交流できる環境になります。この設定では異文化理解、言語の問題を通しながら学び合う機会の可能性を示します。
 ・ 大学教職員と大学生にもふさわしい学習環境を設定する。
   → 大学生は子どもと共に活動し、授業で学んだ事を実体験することができます。そして、子どもにもとって、勉強のために大きな動機付けになると思われます。
 ・ 持続可能なプログラムを開発。
   → 大学と地域のコミュニティの交流で進んで、自然に発達して独立して行くプロジェクトが可能になります。

 以上で、簡単に「放課後学習」について説明をさせていただきました。このテーマに関わる理論や研究はまだたくさんあります。可能性の広い分野なのでこれからの成果に期待しています。

 ◆ お勧めの書籍

Cole, M. (2006). The fifth Dimension: An After-School Program built on Diversity. Russell Sage Foundation.

 [柴田 アドリアーナ]

2010.09.09

【記事掲載】マイコミジャーナルにBEATSeminar報告

マイコミジャーナルに、9月4日(土)に開催されたBEAT Seminar「外国語学習のソーシャルイノベーション」に関する記事が掲載されました。

http://journal.mycom.co.jp/column/bizenglish/043/

[山内 祐平]

2010.09.02

【学びのキーワード】自己効力感

みなさまこんにちは。修士1年の菊池裕史です。
学習や教育に関連するキーワードを解説する【学びのキーワード】シリーズも、今回で5回目となりました。今週は、大学院の入試が行われるこの時期にぴったりな「自己効力感」というキーワードを紹介します。

・自己効力感とは

冒頭から話がそれてしまい申し訳ありませんが、ここ最近、メジャーリーグファンの間で「イチロー選手の10年連続200本安打が達成されるかどうか」という話題が度々もちあがります。9月2日現在、残り29試合で29安打が必要という状況で、僕たちイチローファンは、「たのむぞイチロー!がんばれ!」などと言いながら、日々応援を続けています。

ここで気になるのが、イチロー選手の心理状態です。まさかイチロー選手が「今年はもう200本安打は無理だ・・。」などと考えているとは思えませんが、果たしてどれほど「自分のもつ力を信じること」ができているのでしょうか。とても気になります。

この「自分のもつ力を信じること」の重要性を指摘した心理学者が、アルバート・バンデューラです。バンデューラは人間の働きのメカニズムのなかで、自分のもつ力を信じることほど重要で力強いものはないと言っており、この信念が人間の動機と達成に著しく寄与するということを述べています。この「自分のもつ力を信じること」が自己効力感です。では、この自己効力感はどのような体験・事柄によって育まれていくのでしょうか。

・自己効力感に影響を与える4つの事柄

自己効力感は、4つの主要な影響力によって育むことができると言われています。1つ目は「成功体験」です。忍耐強い努力によって障害に打ち勝ったという体験が、個人の自己効力感を高める最も効果的な方法であると言われています。2つ目は「代理体験」です。自分と似たような人が忍耐強く努力をして成功していくのを見ることが、それを観察している人に「自分たちも成功できるぞ!」という信念をわき上がらせます。3つ目は「社会的説得」です。ある行動を習得する能力があると言われてその行動を勧められた人は、たとえその行動のなかで問題が生じたとしても、多くの努力を投入し、成功の機会を高めると言われています。最後の4つ目は「生理的・感情的状態」です。これは感覚的にも分かりやすいことですが、たとえば肯定的な気分のときは自己効力感が高まり、落胆した気分のときは自己効力感が下がります。ストレスやネガティブな感情を減少させることも重要な点であると言われています。

・集団の自己効力感

先ほど述べた自己効力感に影響を与える4つの事柄については、いずれも個人をベースとして考えてみましたが、「集団の自己効力感」も非常に重要なポイントです。普段の生活のなかで、課題を解決するために人と共に働くということは多々あることかと思いますが、直面する課題に対して集団がもつ効力感は、その活動にどれだけの努力を注ぎ込むかということや、努力の結果がすぐに出なかったときの忍耐力に影響を与えると言われています。

・自己効力感を扱う研究の広がり

今回はとても簡単に自己効力感についての紹介をさせていただきましたが、この理論は様々なトピックと合わせて研究が行われています。たとえば、教育的発達、キャリア・ディベロップメント、健康、家族や親の影響、文化の影響などがその一部として挙げられます。今回の記事を読んで自己効力感に興味を持ってくださった方は、ぜひ自分の関心があるトピックと合わせて調べていただければと思います。

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