2009.11.30
▼事業仕分けによって、社会における大学の役割をもう一度考え直す動きがでてきていますが、UTalkでもゲストとして、前情報学環長で濱田総長のブレーンでもいらっしゃる吉見俊哉さんをお招きして「大学の持つ可能性」について考えてみたいと思います。ぜひご参加ください。
【開催予告】UTalk: 大学ってなに?:メディア学者が考える知識の未来
UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、毎
月開催するイベントです。
カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、気軽にお茶をする感覚のまま、ゲ
ストとの会話をお楽しみいただける場となっています。
UTalkのコンセプトのひとつに、「大学と社会の架け橋」というアイデアがあり
ます。大学を広く社会に対して開いていく窓口になろうというものです。
しかし、では、「大学」というのはそもそも何なのでしょうか?
勉強をするところ、研究をするところ、いろいろ言い方はありそうですが、どう
も、「知識」に関わる場所であることは間違いなさそうです。
12月のUTalkでは、メディア研究者であり、UTalkを企画している大学院情報学環
の前学環長でもある、吉見俊哉さん(情報学環・教授)に、「知識」をキーワー
ドにして、大学とは何か、その誕生と変容、新たなコンセプトが模索されている
現在についてお話を伺います。
みなさまのご参加をお待ちしています。
■日時: 12月12日(土)午後2:00 - 3:00
■場所:UT Cafe BERTHOLLET Rouge(東京大学 本郷キャン パス 赤門横)
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html
■料金:500円(要予約)
■定員:15名
■申し込み方法: (1)お名前(2)ご所属(3)ご連絡可能なメールアドレス をご記
入の上、utalk2009@ylab.jp までご連絡ください。
※申し込みの締め切りは 12月6日(日)までとします。
なお、申し込み者多数の場合は抽選とさせていただく場合がございます。ご了承ください。
2009.11.27
みなさん、こんにちは。寒くなってきましたがお元気でしょうか?
今週からは、山内研がゼミの後によく行く本郷のお店を
紹介していく新シリーズ【山内研の食卓!】が始まります。
第1回は修士2年の池尻良平が担当させてもらいます。
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さて、最近めっぽう寒くなってきましたね。
山内研のゼミは夕方から20時まであるので、
この時期は終わった頃にはさらに冷えています。
「あー、おなか空いたね。今日はどこに行こうか。
寒いので何かあったかいものが食べたいね。」
そんな時に訪れるのがこちら、ちゃんこ浅瀬川。
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本郷の裏路地にある、真っ赤な提灯が目印のお店です。
中に入ると、相撲の写真が一杯あって、元気な女将さんが迎えてくれます。
入った瞬間から、「よーし、ちゃんこ食べるぞー」という気持ちになってきます。
早速ちゃんこ鍋を注文するのですが、
山内研ではちゃんこが来るまでに必ず注文する1品があります。
それがこの自家製のさつま揚げ。
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普通のさつま揚げは噛むとキチキチとして魚の味がしますが、
ここのさつ揚げは噛むと歯がビーズクッションに沈んでいくような、
もっっぢゅ〜〜とした食感で、とても甘い味がします。
なんと、ここのさつま揚げには山芋が練り込まれているのだそうです。
「いやー、やっぱりおいしいですね〜」と
お酒を飲みながら話しに花を咲かせていると、
本日の主役、塩ちゃんこ鍋がやってきました。
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ここの塩ちゃんこ鍋は、スープにしょうがとにんにくが入っていて、
一口飲むと冷えて疲れた五臓六腑にじわ〜と染み渡っていきます。
写真のように具もたっぷり入っていて、
ニコニコした女将さんが手際よくよそってくれます。
画像(リンク切れ)
シャキシャキしたごぼう、
スープの染み込んだ糸こんにゃく、
噛むとスープの風味が広がる油揚げ、
そして、旨味たっぷりの鶏肉。
食べ終わると女将さんが卵を入れて、雑炊まで作ってくれます。
あんなにお腹が空いて、寒い寒いと言っていたゼミのみんなも、
「お腹一杯。ぬくもりましたね〜」と満点の笑顔。
心まで温かくしてくれる素敵なお店です。
みなさんも本郷に来る機会があれば、ぜひ立ち寄ってみて下さい!
[池尻 良平]
2009.11.24
最近、Connectivist系統の人たちが"Personal Learning Network"という言葉を使っています。
RT @yuuhey @Twitter_Tips How to turn Twitter into a great personal learning network: http://j.mp/7ZM8VV
Personal Learning Network(以下PLN)は学術用語というよりFacebookやTwitterによって生まれた学習ネットワークを指す自然発生的な言葉ですが、ここではSocial Mediaによって接続された相互に学習資源になりうる人的ネットワークと操作的に定義しておきたいと思います。
PLNは、従来オンライン上の学習の分析でよく使われてきたWengerの「実践共同体 (COP:Communities of Practice)」の概念ではとらえられない事象を指し示しています。実践共同体には「領域・実践・共同体」という3つの次元がありますが、PLNはその枠ではおさまらないからです。
例えば、理系の大学生が子どもたちを集めてサイエンスクラブを作ったとしましょう。放課後にワークショップを行って、家に帰ってから実験の結果についてオンラインでディスカッションする場合、領域は科学、実践は実験、共同体はクラブメンバーという定式化ができます。この場合、共同体への参画の中でアイデンティティや知識がどう変容するかをCOPの枠組みで考えることができます。
ところが、Twitterでつながっている人々は、単一の関心領域によって強固につながっているわけではなく、さまざまな関心によって織物のように構成されています。またRetweetや返信は行われても、大規模な共同プロジェクトを実践として展開することはほとんどありません。共同体のメンバーについては、フォローしている人・フォローされている人々が違いますので、個人によって異なっています。
PLNにおける学習は返信による直接対話型の知識交換よりも、観察・比較・内省によって生起する「見ることによる学び」の方が多いように感じています。PLNが学習の全ての要素を包含する訳ではありませんが、COPと連結させることによって、学習をより豊かにするための仕組みとして利用することは十分可能だと考えています。
[山内 祐平]
2009.11.21
最近、学習や教育に関心を持つ方の中で、熟達化という言葉はよく聞かれるものではないかと思います。
でも、あらためて「熟達化とは何でしょう?」と問われると、大変答えにくいものではないでしょうか。
今回は、「熟達化」をどう捉えてきたのかという研究系譜を概観しつつ、創造的技能領域という概念(大浦 2000)について触れてみたいと思います。
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もとはと言えば、熟達化研究の始まりはチェスのエキスパートに関する研究でした。
de Grootによる先駆的なチェスの研究に始まった熟達の研究は、Simonらの一連の研究によって引き継がれ、現在に至るまで急速な発展を遂げてきました。そして、この知見は人工知能研究と深く結びついていきました。
これまでの研究の多くは熟達者(expert)と初心者(novice)の遂行を比較する形で行われ、知的課題(特に記憶課題)での成績の分析がなされました。行われた領域は、チェスの駒の配置、碁のパタン、コンピュータのプログラム、バレエのステップ、バスケットボール及びフィールドホッケーでの選手の位置などなど、多岐に渡ります。しかしながらこれらの知見に共通していたのは、熟達者は初心者よりも速く正確に記憶できるといったような内容でした。
その後、熟達者の有能さの本質に迫るべく、実際の場面に近い課題状況をつくり問題解決を求めた研究も報告されました。これらのデータの蓄積により熟達者の遂行の特徴が明らかにされるにつれ、熟達のなされる領域によって熟達の様相は必ずしも一致しないということがはっきりしてきました。
そこで大浦容子(新潟大学)が提案したのが、「創造的技能領域」という概念です。
大浦は課題領域の特性によって創造性と技能性という2つの次元を設定し、熟達を4領域に分けています。
・創造的技能領域(楽曲演奏、スポーツにおける対人競技、絵画制作、外科手術など)
・創造的非技能領域
・非創造的技能領域
・非創造的非技能領域
創造的技能領域には、楽曲の演奏、スポーツにおける対人競技、絵画制作、外科手術などが含まれるとされます。すなわち、適切な表象形成が必要と同時におもわぬハプニングや柔軟なプラン変更が必要になる部分もあるものがここにカテゴライズされています。
大浦は音楽演奏に関して丁寧な実証研究をまとめていらっしゃるので、興味のある方は是非、読んでみてください。
※大浦容子(2000)創造的技能領域における熟達化の認知心理学的研究
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ここまで、熟達化研究の流れを私の独断ではありますが駆け足で見てきました。
でも、今まで挙げてきた研究は「熟達者はいかに熟達者であるのか」という視点に立つもので、「なぜ熟達者は熟達者になりえたのか?」ではなかったのです。すなわち、この視点のを介在させることによって、熟達化研究と育成支援研究には接点が生まれてくるのだろう、と私は考えています。
現在では、岡田猛(東京大学)による芸術家の作品創造にまつわる一連の過程や松尾睦(神戸大学)のようにビジネスの環境の中で人が経験から学んでいく過程といった長期的な変容を「熟達化研究」という視点で捉えるようなものもあります。
こういった複雑な様相を明らかにしていくためには、多角的な視点で研究をする必要があります。どのような組み合わせが良いかは調査によって様々です(このように多様な「観測の線」を使うことは、「トライアンギュレーション」と呼ばれることが多いです)。
熟達化研究にとって、万能な1手法というのはないのだと思います。
いかに、様相に光をあてるのか。
それを考える研究の在り方そのものも、適切な表象形成と柔軟なプラン変更の両側面を必要とするものだと思います。研究するということもまた、創造的技能領域なのでしょう。
(山内研博士課程3年 森玲奈)
2009.11.19
▼科学研究費若手枠縮減について、以下の意見を文部科学省宛に提出しました。
文部科学副大臣 中川 正春様 担当政務官 後藤 斎 様
行政刷新会議事業仕分け対象事業のうち、科学研究費補助金若手研究枠の縮減について意見を提出します。
今回の行政刷新会議仕分けについては様々な課題が指摘されておりますが、特に科学研究費若手研究枠の予算縮減については、その決定プロセスに致命的な問題があったといわざるをえません。
インターネット中継により審議を聞きましたが、短い審議時間のほとんどはポスドク問題の現状認識に関する議論に費やされています。科学研究費若手研究枠(A)(B)は申請に研究組織が付与する研究者番号が必要であり、基本的にはポストを得た若手研究者向けの制度のはずです。論点等説明シートに記載されている内容も、成果検証や対象年齢、一般枠との重複であり、ポスドク問題は入っていません。審議時間が短いためポスドク問題と混同されてしまい、「実質的に無審議のまま」縮減案が決定されたとしか見えません。
国家予算の状況が厳しい中、研究資金だけが聖域であるとは思いません。しかしながら、縮減が必要であれば、研究に関する国家ビジョンをはっきりさせた上で、研究費の優先順位や配分に関する改善案を専門家も含めた会議で時間をかけて検討して決めるべきです。若手枠の機械的縮減は、研究の世界における弱者の切り捨てに他なりません。昨今の研究の多くの領域では、高価な機材や大量のデータ確保のための資金が必要であり、資金力があり業績をあげた高年齢の研究者が研究費を総取りしてしまう傾向が見られます。若手に対する研究費支援は、そのような問題を補正し、研究の世界の生態系を保つ重要な意味を持っています。予算決定の際に、この点をぜひご配慮いただきたく、お願い申し上げます。
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山内祐平(東京大学・准教授)
2009.11.13
みなさま、こんにちは。
さまざまな学習概念を分かりやすく紹介していくシリーズ【学びの大事典!】
第7回は、修士1年の伏木田稚子が担当いたします。
今回ご紹介する学習概念は「学習スタイル」です!
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■はじめに
学習スタイルと聞いて何を思い浮かべますか?
そもそも学習に関係のあるスタイルとは何を指すのでしょうか?
アメリカの心理学者 Robert Sternbergは,
スタイルは「どのようにしたいか」であり,能力は「どれだけ上手にできるか」である,
と両者を区別して定義をした上で,
学習スタイルとは「人がどのようにして学ぶことを好むか」であると述べています。
■例えば・・・
今ここに,3人の学生がいたとします。
Aくん:与えられた課題を決められた形式に沿ってこなすことが好き
Bくん:物事を批判的に捉えて改善を模索することが好き
Cくん:制約のない条件下で自分のやり方を貫き通すことが好き
彼らは最初の3年間,同じくらいの成績を修めていたとします。
ところが,4年生で卒業研究に取り組むことになり,事情が変わってきます。
何をすべきか教員が指示をしない状況で,研究を自分なりに組み立てることが求められると,
Aくん:自分で研究を構成することが苦しいと感じ,結果にもそれが現れた
Bくん:作品批評という形でこつこつと論文を書き上げた
Cくん:自分のやりたいことに没頭し,全エネルギーを注いで成果を残した
といったように,3者3様の結果が生じたのです。
なぜこのようなことが起きたのでしょうか?
■ポイント
異なる学習スタイルを持つ人は,異なるやり方で自分の能力を使うことを好みます。
つまり,自分の学習スタイルに合った環境,方法で課題をこなすことが,その人にとって最高の結果につながる可能性があるということです。
このことは,個々人のニーズ・能力・嗜好・スタイルに合った学習環境の提案を軸とする,学習者中心の教育(student-centered learning)という考え方とも関連します。
■学習スタイルの研究
学習スタイルの研究は,欧米を中心に過去30年にわたって盛んに行われています。
教育・心理学・経営等の研究者たちが,様々な理論(モデル)や測定方法を打ち出しています。
今回はその中でも,1970年代にDavid Kolbが開発した4つの学習スタイルモデルを取り上げたいと思います。
Kolbは,学習スタイルの違いを理解することによって,人はより効果的にチームワークに従じることができ,仕事場や家庭でより効果的にコミュニケートすることができると述べています。
1. 収束型:問題解決,意思決定,アイディアの実践に優れ,技術的問題に取り組むことを好む
2. 発散型:状況を様々な角度から観察し,価値や意義について考え,人との関わりを好む
3. 同化型:帰納的に考え,抽象概念や理論的モデルを構築することを好む
4. 適応型:新しいことに着手し,直感的な試行錯誤によって問題解決することを好む
Kolbによると,学習スタイルとは,「外界との接触の仕方の好み」であるが,それは時と状況に応じて変化するものとされています。
行動・性格,専門領域,キャリア,現職,適応力の少なくとも5つの領域において大変重要な役割をなすものであり,長期間にわたって一定に保たれるとも述べられています。
■まとめ
今回ご紹介したSternbergやKolb以外にも,学習スタイルは生来の本質に基づくとするGregoricやDunn&Dunnや,認知構造に基づくとするWitkinやRidingなど,学習スタイル理論は数多くあります。
けれども,それらの理論は全て欧米で開発されたものであり,日本の学習者にそのまま当てはめられるのかは,しっかりと考えていく必要があるでしょう。
学習スタイル研究を広く行う青木久美子は,「日本の教育において,学習スタイルという個人差に目を向けることは非常に重要である」と述べています。
私自身の研究においても,学習者にレッテルを貼るためではなく,どうしたら効果的な学習を実現できるのかという観点から,学習スタイルの概念を利用できればと考えています。
■参考文献
青木久美子(2005) 学習スタイルの概念と理論-欧米の研究から学ぶ メディア教育研究 2, 197-212.
アルベルト・オリヴェリオ(著) 川本英明(訳) (2005) メタ認知的アプローチによる学ぶ技術 創元社
R.J.スターンバーグ(著) 松村暢隆・比留間太白(訳) (2000) 思考スタイル能力を生かすもの新曜社
[伏木田稚子]
2009.11.11
▼11月27日にKDDI研究所との共同研究「テレコミュニケーションの文化とリテラシーに関する質的、デザイン論的研究」主催のシンポジウムがあります。阪大CSCDの平川さん(科学技術論)をお迎えし、山内はパネルディスカッションのコーディネートをします。ぜひご参加ください。
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シンポジウム開催のお知らせ
「ケータイの未来モード:文化と技術の新たな関係性を求めて」
Future mode of the keitai
--toward a new relationship between culture and technology--
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■日時:2009年11月27日(金)18時~20時
■会場:東京大学 本郷キャンパス 大学院情報学環・福武ホール(赤門左脇)
福武ラーニングシアター(B2F)
地下鉄丸の内線・大江戸線[本郷三丁目駅]から徒歩6分
地下鉄南北線[東大前駅]から徒歩8分
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/map01_02_j.html
■主催:「テレコミュニケーションの文化とリテラシーに関する質的、デザイン論的研究」(KDDI研究所&東京大学)
■定員:180名(お早めにお申し込みください)
■参加方法:【未来モード参加】というタイトルをつけた電子メールに、お名前、ご所属、連絡先、パーティ出欠をご記入のうえ、<symposium-fmode@cnpl.kddilabs.jp>までお送りください。締切は11月21日(土)。
■参加費:無料(ただし懇親パーティは3,000円いただきます)
■概要
ケータイというメディアの社会的なありようが引き裂かれています。一方ではこれからの次世代ICT産業を担う旗手として礼賛され、他方では青少年の害悪のように語られる。そしてグローバル化と「ガラパゴス化」のはざまにあって、日本のケータイはさまざまな意味で難局に直面しているといえるでしょう。
こうした状況のなかで、私たちは、当たり前のようにとらえているケータイとのかかわり方をいったん離れ、新たなケータイのありようを模索してみる必要があるのではないでしょうか。ケータイの専門家だけではなく、ユーザーである市民が参画するかたちで、未来のモバイル・メディア社会をデザインしていくべきではないでしょうか。
このシンポジウムは、ワークショップを用いた研究教育活動を中心として進められているKDDI研究所と東京大学大学院情報学環の共同研究を踏まえつつ、参加者のみなさんとともにこうした課題について議論を深めていきたいと思います。
お誘い合わせの上、お越しください。
■スケジュール
17時30分:開場、受付開始
18時00分~18時05分:開会のあいさつ
18時05分~18時30分:ケータイをめぐる文化とリテラシー研究の概要
・水越伸(東京大学)&山内祐平(東京大学)
18時30分~18時45分:指定討論
・平川秀幸(大阪大学)
18時45分~20時:参加型パネルディスカッション
・登壇者
平川秀幸(大阪大学)
新井田統(KDDI研究所)
水越 伸
・コーディネーター:
山内祐平
■懇親パーティ
20時過ぎから福武ホール1階「ベルトレ・ルージュ(http://www.reims.co.jp/UTcafe/index.html)」にて
会費:3,000円
2009.11.06
みなさん、こんにちは。
さまざまな学習理論を分かりやすく紹介していくシリーズ【学びの大事典!】、
第6回は、修士1年の程が担当させていただきます。
今回ご紹介させていただく学習理論は「協調学習」(collaborative learning)です!
■協調的学習とはなに?
協調的学習とはなにかという問いに答えを出す前に、まずいくつか簡単な概念を確認しましょう。
◆教育現場でメインのあり方である一斉教授と一斉学習
一斉教授とは名のとおり、「学年と学級を定め、一人の教師が多数の生徒を対象に同一の教材を同時に教える」かたちです。
そこで行われる学びはいわゆる「知識伝達型」の一斉学習です。
つまり、まず教育専門家がカリキュラムを決め、今度は教師が、パッケージに詰め込まれた教育的栄養を学習者にあたえ、学習者には知的摂取のプロセスが期待されている一方向的な流れです。
こういう一斉授業は19世紀半ばから欧米よりスタート、しいて今や世界的にもっとも普遍的な教育のあり方となっていますが、能率がよいという利点に対して、19世紀末以来、一斉授業では子供の個人差や個性に応じきれない、子供の自発性を抑圧する、子供を受身にしがちだなどの批判の声が高まる一方です。
◆学びのあり方
上のような学習と教育をとえら直そうという思潮にのり、学習のあり方及びあるべき姿を追及しようとする研究も台頭してきています。
簡単に、学習の規模から
<個人学習> <グループ学習> <一斉学習>
という風に分けることができます。
協調学習は個人学習と一斉学習の真ん中のグループ学習の形をよく取っていますが、ただグループを組めばよいとも言えません。
◆いったい何が協調的(collaborative)学習と?(グループ学習と協同学習との比較から)
いよいよ協調学習の定義となりますが、やはり実際は色々説があり、これが絶対よいという定論にはなっていない状態です。しかも、たとえ同じcollaborative learningでも、協働と協調の二つの訳が両方とも多用されています。
・・・
Olsen & Kagan(1992:3)
協調学習=協同学習=cooperative learning:数人の小グループごとに作業を行うことによって学習を促進し学力の増進を図る教育的方法論の総称である。
森・池田・萩原・嵯峨・上原・喜多(2008)
協調学習:同じもしくは異なるレベルの知識や経験を持った複数の人が一つの目標に向かって協調作業し、それぞれが新しい知識を獲得する過程を目指す。
坂本・村上・菅原(2008):
「協働学習」とは、多様な学習者が、お互いの個性を認め合い、違いを乗り越えて新しい価値を追求する学習である。
・・・
さらに、協同(cooperation)という概念もよく混同されやすいので、ややこしいですが、区別をつけましょう。
同じくグループを組んで作業するにしても、協同(cooperative)学習の場合は、パートナーは課題を分割し、分割した課題をそれぞれ個別に解決し、それら部分的解決を組み合わせて最終的なアウトプットをします。
一方、協働/協調(collaborative)学習の場合は、パートナーの一人一人による手近の問題解決に関係する交渉や意図の共有過程で、調整されて同期的な活動であるため、パートナーはこの過程において「一緒に」作業を行うのが特徴です。
以上をまとめると、「学習者がグループ活動の中で互いの学習を助け合い、一人一人の学習に対する責任を果たすことで、グループとしての目標を達成していく、協調的な相互依存学習」と理解してよいでしょう。
■協調学習を支える理論
協調学習が有効であると証明できる裏づけの理論も前からあります。
協調学習を支える理論は主に情意的理論と認知的理論の二つの面からです。
情意的理論のほうでは、協調学習では、学習者個人の能力を向上させる機会とそれに対する報酬が保障されるので、学習に対する動機づけを高めることができ、また学習 者が学習自体に対する肯定的な意識を共有することも予想されます。グループ内では「協調」が強調され、グループ間ではまた適度な「競争」により外的動機付けが考えられます。
認知的理論のほうでは、Vygotsky(1978)が唱えた「最近接発達領域」(zone of proximal development)の考え方に基づく認知発達理論と社会構成主義的な認知構造の再構築の考えがあげられます。
ヴィゴツキーの最近接発達領域の説とは、一人ではできないことを、一度他人の協力によりできたら、その後自分の力でもできるようになると簡単に言い替えてよいでしょう。
認知構造の再構築理論は、学習した情報を自らの認知構造に結びつけるように再構築することにより、長期的な記憶は可能になるという諸理論(Ausubel, 1968; Brown 1994a)に基づくものです。
■協調学習の効用
上で述べた理論原理に基づき、協調学習が期待できる効用は
1.競争と協調作業により、学習の動機付けが強まる
2.協調作業を通じ、個人の実践的能力がレベルアップする
3.説明や過ちなおし、ディスカッションなどの外化により、理解の深化、メタ認知の養成、コミュニケーション能力の養成ができる
4.評価はグループの代表の誰かまでではなく、グループのすべての学習者が目標の学習を達成することを評価に反映できる
5.グループ作業が成功できるように、学習者個人の責任が大いに果たされる
などがあります。
また、コンピューター端末やネットワークをはじめとする「いつ、どこでも、誰とでも」学習できる情報インフラの整備が進んでいることから、この協調学習の文化の創出と関連産業の新展開の基礎としての役割を情報技術が担うことが期待されています。
日本では、協調学習支援技術の標準化がISO/IEC JTC1/ SC36において認められました。現在も「協調学習ワークスペース」と「学習者間インタラクションスキーム」の標準化項目に関する提案活動が進んでいます。
実際の活用現場では、知識工学の立場から開発されている教育支援の枠組みとして、コンピュータ支援による協調学習CSCL(computer supported collaborative learning)がここ数年研究者の注目を集めているところです。
例えば、オーストラリアのMacquarie大学により開発された協調学習のためのe-LearningシステムのLAMS(Learning Activity Management System)もオープンソースのソフトウェアとして、80カ国以上の国にわたり、フリーに使われています。
参考文献
「協調学習における学習プロセス設計及び学習環境提供技術の開発」古賀明彦など
『学習科学ハンドブック』R.キース・ソーヤー培風館
『JF日本語教育スタンダード 試行版』国際国流基金
[程 琳]
2009.11.03
Currikiは、小/中/高等学校の教員が、カリキュラムや教材を共有するためのコミュニティサイトです。
Currikiには多くの授業案や授業素材が登録されており、アメリカを中心とした世界各国の教員が授業を登録したり利用したりしています。オープンソースなので、自分の好きな部分を組み合わせて使うこともできます。
Curriki以外にも様々な団体が類似サイトを運営していますが、Currikiのユニークな点は、レビューシステムを備えている点です。
Currikiに投稿されたカリキュラムや教材は、技術・内容・教育の観点から熟練教師とインストラクショナルデザイナーによって評価され、4段階に分類されます。
3 Exemplary
A complete and highly polished resource of publishable quality.
2 Good
A resource that will be immediately useful to teachers but has gaps or lacks polish.
1 Basic
A resource that requires a significant amount of cleanup or expansion to be used in a classroom.
- Not Rateable
A resource of small scope that is part of a larger resource, or is otherwise too small to be rated by itself
Currikiのような集積型のサイトは、成功すればするほど登録が増え、自分が探したい情報にたどり着くのが難しくなります。Currikiのようなピアレビューシステムは、集合知を利用するWeb 2.0型の教育サイトにおいて、今後重要な役割を果たしていくでしょう。
[山内 祐平]