2009.11.13

【学びの大事典!】「学習スタイル」

みなさま、こんにちは。
さまざまな学習概念を分かりやすく紹介していくシリーズ【学びの大事典!】
第7回は、修士1年の伏木田稚子が担当いたします。

今回ご紹介する学習概念は「学習スタイル」です!

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■はじめに

学習スタイルと聞いて何を思い浮かべますか?
そもそも学習に関係のあるスタイルとは何を指すのでしょうか?

アメリカの心理学者 Robert Sternbergは,
スタイルは「どのようにしたいか」であり,能力は「どれだけ上手にできるか」である,
と両者を区別して定義をした上で,
学習スタイルとは「人がどのようにして学ぶことを好むか」であると述べています。


■例えば・・・

今ここに,3人の学生がいたとします。

Aくん:与えられた課題を決められた形式に沿ってこなすことが好き
Bくん:物事を批判的に捉えて改善を模索することが好き
Cくん:制約のない条件下で自分のやり方を貫き通すことが好き

彼らは最初の3年間,同じくらいの成績を修めていたとします。
ところが,4年生で卒業研究に取り組むことになり,事情が変わってきます。
何をすべきか教員が指示をしない状況で,研究を自分なりに組み立てることが求められると,

Aくん:自分で研究を構成することが苦しいと感じ,結果にもそれが現れた
Bくん:作品批評という形でこつこつと論文を書き上げた
Cくん:自分のやりたいことに没頭し,全エネルギーを注いで成果を残した

といったように,3者3様の結果が生じたのです。
なぜこのようなことが起きたのでしょうか?


■ポイント

異なる学習スタイルを持つ人は,異なるやり方で自分の能力を使うことを好みます。
つまり,自分の学習スタイルに合った環境,方法で課題をこなすことが,その人にとって最高の結果につながる可能性があるということです。
このことは,個々人のニーズ・能力・嗜好・スタイルに合った学習環境の提案を軸とする,学習者中心の教育(student-centered learning)という考え方とも関連します。


■学習スタイルの研究

学習スタイルの研究は,欧米を中心に過去30年にわたって盛んに行われています。
教育・心理学・経営等の研究者たちが,様々な理論(モデル)や測定方法を打ち出しています。
今回はその中でも,1970年代にDavid Kolbが開発した4つの学習スタイルモデルを取り上げたいと思います。
Kolbは,学習スタイルの違いを理解することによって,人はより効果的にチームワークに従じることができ,仕事場や家庭でより効果的にコミュニケートすることができると述べています。

Kolbの4つの学習モデル【図】

1. 収束型:問題解決,意思決定,アイディアの実践に優れ,技術的問題に取り組むことを好む
2. 発散型:状況を様々な角度から観察し,価値や意義について考え,人との関わりを好む
3. 同化型:帰納的に考え,抽象概念や理論的モデルを構築することを好む
4. 適応型:新しいことに着手し,直感的な試行錯誤によって問題解決することを好む

Kolbによると,学習スタイルとは,「外界との接触の仕方の好み」であるが,それは時と状況に応じて変化するものとされています。
行動・性格,専門領域,キャリア,現職,適応力の少なくとも5つの領域において大変重要な役割をなすものであり,長期間にわたって一定に保たれるとも述べられています。


■まとめ

今回ご紹介したSternbergやKolb以外にも,学習スタイルは生来の本質に基づくとするGregoricやDunn&Dunnや,認知構造に基づくとするWitkinやRidingなど,学習スタイル理論は数多くあります。
けれども,それらの理論は全て欧米で開発されたものであり,日本の学習者にそのまま当てはめられるのかは,しっかりと考えていく必要があるでしょう。
学習スタイル研究を広く行う青木久美子は,「日本の教育において,学習スタイルという個人差に目を向けることは非常に重要である」と述べています。
私自身の研究においても,学習者にレッテルを貼るためではなく,どうしたら効果的な学習を実現できるのかという観点から,学習スタイルの概念を利用できればと考えています。


■参考文献

青木久美子(2005) 学習スタイルの概念と理論-欧米の研究から学ぶ メディア教育研究 2, 197-212.
アルベルト・オリヴェリオ(著) 川本英明(訳) (2005) メタ認知的アプローチによる学ぶ技術 創元社
R.J.スターンバーグ(著) 松村暢隆・比留間太白(訳) (2000) 思考スタイル能力を生かすもの新曜社


[伏木田稚子]

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