2007.10.25
自分の研究テーマに関連した本を探すには,自分が望む条件をうまく検索することが必要となります.
今年の夏には,著作権の保護期限が切れた本の本文を検索することができる「グーグルブック検索(*1)」の日本語版サービスも開始し,慶応大学がグーグルブック検索への協力を表明して話題になりました.
さて,東京大学では大学の図書館にいかずともオンラインで書籍や論文等の電子的な学術情報を検索できるサービスが充実しています.そのゲートウェイとして「GACoS(Gateway to Academic Contents System) (*2)」が提供されています.
ここで利用できるデータベースの内,特に蔵書の検索ではOPACを利用することができます.
OPACとは,書誌情報や所在情報を電子化して検索することができるようにしたオンラインの蔵書目録です.
「東京大学OPAC(*3)」は,蔵書の検索ができるだけでなくブックコンテンツのデータベースとOPACが連動していますので,本によっては,本の目次や内容も得られることができるものもあります.
さらに,書籍探索システム「Littel Navigator(*4)」というサービスが2007-05-08に開始されました.Littel Navigator とは,Web 情報資源と図書館情報資源を統合的に探索できるナビゲーションシステムです.(GACos NEWSより).具体的には,単語に対して図書館資料分類法のカテゴリに加え,参考となる書籍やウェブサイトをを返してくれるというものです.
蔵書の検索だけでなく,OPACと色々なデータベースが連携したり,OPACを対象として検索しさらなる情報を返してくれるサービスが充実しています.これらのデータベースや検索エンジン等々の情報の提供者に感謝しつつ利用したいものですね.
(*1) グーグルブック検索 http://books.google.co.jp/
(*2) GACoS http://www.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/gacos/
(*3) 東京大学OPAC https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/
(*4) Littel Navigator http://u-tokyo.navi.littel.jp/
[寺脇由紀]
2007.10.23
教育学部の授業「学習環境のデザイン」は、今年学部横断型教育プログラム:メディアコンテンツのひとつとして、デジタル教材をレビューしています。今週は、フードフォース(Food Force)をとりあげました。
フードフォースは、国連の組織である世界食糧計画が作ったシリアスゲームで、インド洋に浮かぶ島であるシェイラン島で大規模な災害が起きたときに、緊急食料援助するために以下の6つのミッションをこなす必要があります。
1) 空からの偵察:上空から食糧援助を求めている人を把握する
2) 食糧の調合:栄養のあるバランスの取れた食糧を作る
3) 食糧投下:空中投下による食糧援助
4) 食糧の調達と搬出:食糧供給網を完成させる
5) 食糧の輸送:トラックで食糧を届ける
6) 復興支援:成長と開発のプログラムを行なう
それぞれのミッションは実際に行われた食料援助を参考にして作られており、食料援助が困難な仕事であることが理解できるようになっています。フードフォースは、コナミが日本語版を作っており、以下のアドレスからフリーでダウンロードできます。
http://www.foodforce.konami.jp/download.html
授業では、教材をデモしてもらった後で、ディスカッションをしましたが、多くの人が、ゲームとして成立させるために「世界を作り込んでいること」に危惧をもっているようでした。
ゲームに限らず、シミュレーション教材は、それが現実と対応しているのかどうかが常に問われます。フードフォースは実際の援助経験からモデルやアルゴリズムを引き出しているのだと思いますが、すべてのシリアスゲームがそうであるとは限りません。
シリアスゲームの傾向として、広報目的に使われるものが多いということがあります。(選挙運動に使われているものもあります)
シリアスゲームが教育的価値を持つことを主張するためには、その背景にあるモデルや情報をできるだけ公開し、説明責任を果たすことが必要な時代になってきているのではないかと感じました。パッケージ型の教材は中の動きが見えなくなります。ソースコードを公開したり、資料とモデルの対応を説明したサイトを用意することによって、ユーザーの懸念はかなり減らせるように思います。
[山内 祐平]
2007.10.18
研究に役立つWebサイトということですが、今回は特に「世の中の教育に関する動向をつかむ」ということでおすすめのサイトを紹介しようと思います。サイトというよりも活用法というかんじでしょうか。
教育工学という学問分野においては特に、「世の中の教育の動向を知ること」は非常に大切です。先日の教育工学会においても、よい論文を考える一つの基準として「世の中の要請にこたえているのか」ということが挙げられていました。つまり、常に社会でどんなことが求められているのかを知っておくことは研究活動に必須といえるのではないかと思います。
ではどんなサイトがあるか?というと、それこそ非常に多くあるでしょう。以前中原先生は数百のblogに目を通しているとおっしゃっていましたが、本気で情報を集めるためには多くのblogをRSSリーダーなどを利用して常に世の中の動向を押さえておくことが重要といえるかもしれません。
ただ、そこまでではなくても、もう少し手軽においしいところだけつかみたい!という人のために今回はその方法をご紹介しようと思います。「自分の関心ある領域で、人気のあるWebサイトを簡単にゲットしたい」という人のための方法です。
具体的には、
1.はてなブックマークの「注目のエントリー」をつかう
→Webで注目されているエントリーを探す
2.注目エントリーの中から好きなタグを設定して絞り込む
→自分の関心のある領域の中で、注目されている記事が一目で分かる!
(下のリンク先で、キーワードをいれます)
はてなブックマーク - タグ一覧
http://b.hatena.ne.jp/t
3.そのキーワードごとのRSSを登録をする
→毎日、自分の関心ある領域で話題になっているblogのタイトルを自動で配信してくれる!
というわけです。
はてなブックマークでは、「注目のエントリー」というのがあって、みんながブックマークしている記事の一覧を閲覧することができます。つまり、みんなが関心を持っている記事がなにか?というのがわかるということです。その中から、自分の好きなキーワードを設定することもできます。例えば、ストレートに「教育」と入れることも可能ですし、「ワークショップ」などもいいかもしれません。
さらに、はてなブックマークが良いところは、そのキーワードの検索結果というのをRSSで登録できる点なんですよね。つまり、一度
「教育」というタグが含まれる注目のエントリー
http://b.hatena.ne.jp/t/%E6%95%99%E8%82%B2
はてなブックマーク - タグ ワークショップ
http://b.hatena.ne.jp/t/%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%83%97?sort=hot
のRSSを登録してしまえば、毎日新鮮な情報を自動で送ってきてくれるということになります。ちなみに私はSafariやFirefoxにこれを登録しておき、毎日タイトルをぱーっと眺めたり、興味がある記事があれば読むということをしています。
最近はウェブ上にある大量の情報を効率よく集める方法がたくさんあります。こうしたツールを使いこなしていくことも研究者に求められているスキルのひとつなのかもしれませんね。
[舘野泰一]
2007.10.16
後期の授業が始まりました。大学院の基礎科目「文化・人間情報学基礎III」では、同僚の水越さんと一緒に毎年数名の「知の巨人」の思想の変遷を追う授業を行っています。
今年、私が選んだのは、マリア・モンテッソーリとグレゴリー・ベイトソンです。モンテッソーリは幼児教育、ベイトソンはダブルバインドなど精神分析領域の業績が有名ですが、今回は、モンテッソーリを「史上初の学習環境デザイナー」、ベイトソンを「学習を教育から解放した巨人」として位置づけています。
ベイトソンの学習論として有名なのが、学習とコミュニケーションの階型論です。これは、学習をゼロ学習から学習IVまでにレベル分けするもので、非常にユニークな考え方です。
「ゼロ学習の特徴は、反応がひとつに定まっている点にある。その特定された反応は、正しかろうと間違っていようと、動かすことができないものである。
学習Iとは、反応がひとつに定まる定まり方の変化、すなわちはじめの反応に変わる反応が、所定の選択肢群の中から選び取られる変化である。
学習IIとは、学習Iの進行過程上の変化である。選択肢群そのものが修正される変化や、経験の連続体が区切られる、その区切り方の変化がこれにあたる。
学習IIIとは、学習IIの進行過程上の変化である。代替可能な選択肢群がなすシステムそのものが修正されるたぐいの変化である。(のちに見ていくように、このレベルの変化を強いられる人間やある種の哺乳動物は、時として病的な症状を来たす。)
学習IVとは、学習IIIに生じる変化ということになろうが、地球上に生きる(成体の)有機体が、このレベルの変化に行き着くことはないと思われる。ただ、進化の過程は、個体発生のなかでIIIのレベルに到達するような有機体を生み出しているわけであるから、そのような個体発生上の変化を変化させる系統発生上の変化は、事実IVのレベルに踏み込んでいるといえる。」
(精神の生態学, 1972)
この時代の学習観の主流である行動主義的学習観をカバーしながら、コミュニケーション論と進化論まで統合してみせる切れ味には脱帽するしかありません。
学習を支援する応用的研究をしていると、単純な学習には行動主義、社会的学習には社会的構成主義と使い分けたくなる誘惑にかられることがありますが、本来新しい理論体系は、古い理論が対象としているものも整合的に説明できる必要があります。
そういう意味では、行動主義と構成主義の関係は、パラダイムシフトとよべるものではないのかもしれません。ベイトソンの階型論は理論と呼ぶには荒すぎるスケッチですが、統合理論の方向性を指し示しているように思います。
[山内 祐平]
2007.10.12
科学研究費補助金採択課題・成果概要データベース
http://seika.nii.ac.jp/
日本で行われている多くの研究が科学研究費補助金によって支えられています。どのような研究に科学研究費補助金が交付されたのかを調べるために役立つのが、「科学研究費補助金採択課題・成果概要データベース」です。
このデータベースでは、研究概要が書かれているためどのような研究が行われたのかを把握できるだけでなく、研究成果としての発表文献についても記載されているため、文献検索の一手段としても使えます。特に、発表文献には日本語論文だけでなく、欧文誌に掲載された論文や国際会議での発表なども書かれているため、CiNiiやGoogle Scholar、ERICとは違った使い方ができます。
先行研究検索のためのウェブサイトとしてはマイナーかもしれませんが、意外と役に立つことのあるサイトです。
[森 玲奈]
2007.10.09
情報学環・福武ホールの建築が急ピッチで進んでいます。
地下部分の基本構造はできあがり、ついに地上部分があらわれました。
2008年2月末に竣工し、3月にオープンする予定です。
この建築に関われたことで、いろいろおもしろい経験ができました。
建築は、ものを作る学問である「工学」のルートメタファー的なところがあります。ソフトウェア業界の人は「アーキテクチャ」という言葉を無意識に使っていますが、もともとは「建築様式」から来ています。教材やワークショップの開発にも転用できそうなアイデアがたくさんありました。
建築のこわさは、その耐用年数にあります。情報学環・福武ホールの耐用年数は「100年」です。私がたとえ定年まで勤めたとしてもあと25年、耐用年数の4分の1しかありません。
いまから100年前と言えば1907年です。この100年のめまぐるしい変化を考えれば、今後100年間の予測はほとんど不可能に近いといわざるをえません。
100年耐えられるコンセプトを作れたかどうか自信はありませんが、シアター・スタジオ・コモンズ・カフェといった構成は、それを意識して作っています。
「時間に耐えられるコンセプトを作ることの難しさ」ーこれが今回の建築から学んだ一番大きなことだったかもしれません。
[山内 祐平]
2007.10.04
若かりし頃、全く勉強しなかったなぁ・・・なんて後悔の声、周囲で良く聞きませんか?何を隠そう私もその一人、後悔を始めればきりがありません。
でも、学びたい時が適齢期!?そんな理想の実現をサポートしてくれる環境が、東京大学にこんなにあるのです。
◆東大オープンコースウェア
東京大学の講義資料を無償で公開するWebサイト
http://ocw.u-tokyo.ac.jp/
◆TREEプロジェクトのTODAI TV
東京大学の公開講座、講演などの映像・音声を配信
http://todaitv.ep.u-tokyo.ac.jp/
◆iii online
東京大学大学院 学際情報学府の授業配信
http://iiionline.iii.u-tokyo.ac.jp/
例えば、「知」の大きな体系や構造を見たかったり、自らが現在学ぼうとしていることの意義や位置付けを確認したい場合、東大オープンコースウェアの「学術俯瞰講義」がお勧めです。学部1、2年生向けのこの講義では、学術分野において世界的に著名な先生方が惜しげもなく講義を披露してくれています。
また、自身の研究はどこに向かっているのか?学問の体系から外れてしまいそうな興味を研究としてどう成立させていけばいいのか?そんな悩みや疑問を感じたとき、iii onlineの「学際情報学概論」がお勧めです。情報学環という文理融合型の特性を生かし、先生方の研究分野を幅広く横断的に把握することが出来ます。様々なアプローチからヒントを得ることで、不安も解消できるのではないかと思います。
学部時代のぽっかり抜けてしまった学問の基礎体力を補強しつつ、研究の面白さを感じたら、自身の興味・好奇心の芽をさらに育みたい、そんな衝動に駆られるのではないでしょうか。TODAI TV では、公開講座「ロボット新世紀」と題し、十数名の先生方が講義をしています。私自身、幼児を対象に研究を行っているのですが、教育学研究科の多賀先生の「脳と身体の動的発達とロボット」や 総合文化研究科の開先生の「赤ちゃんはロボットをどう認知するか?」 は、知的好奇心を揺さぶる起爆剤の宝庫です。
研究に直結!というわけではないのですが、これらの環境は羅針盤を持たずに学問航海に出発してしまった私にとっての貴重な情報源であり、また、長期にわたり研究を続けていこうと考えたとき、知の自己内核融合を継続していくための貴重なリソースになるのではないかと思います。
秋の夜長、時にはワインを片手に、あるいは襟を正して真剣に、学問の大海を漂ってはいかがでしょうか。
[佐藤朝美]
2007.10.02
さる9月21日に、柏の葉アーバンデザインセンター (UDCK)で開かれているKサロンにうかがってきました。
Kサロンは、UDCKが提供しているまちづくりの交流の場です。市民や専門家,そして,マスコミやNPO,行政,企業,大学などの関係者が,ワインを片手にまちづくりを語り合う会になっています。Kサロンはとても居心地のよいサロンで、大学の人、企業の人、商店街の人、アーティストなどさまざまな人たちが集まってきます。
当日は、博士課程の森さんのプレゼンテーションと飛び入りで私から福武ホールのお話をさせていただきました。この企画を中心になって運営していらっしゃる新領域創成科学研究科の北沢先生と研究室のみなさんに大変お世話になりました。ありがとうございました。北沢研のブログに当日の模様があがっていますので、ぜひご覧ください。
http://kitalabo.exblog.jp/i11/
最近、このようなサロンやカフェを大学や街の中に作ろうという動きが同時多発的に起こっています。北大や東北大のサイエンスカフェ、阪大のオレンジカフェ、慶応大の三田の家、群馬大の人茶カフェなどです。サロンやカフェは、大学が社会と関係性を持ちながら新しい動きを生み出していく場として期待されているのだと思います。私自身も、福武ホールの中にこのようなカフェスペースを作りたいと思い、現在各方面と調整を進めているところです。
ただ、カフェやサロンは、ワークショップのようなはっきりとした活動のデザインがあるわけではありません。その中で、新しいことを生み出していくにはどうしたらよいのだろうと、いろいろ考えていました。
Kサロンで気がついたのは、サロンやカフェにおける共同体の重要性です。Kサロンがうまくいっているのは、北沢先生を中心としたコミュニティが母体となって、活動が創発的に生まれていることが大きいと思いました。
今まで、共同体の概念フレームワークとして、WengerのCommunities of Practiceを使うことが多かったのですが、サロンやカフェの共同体はもう少しゆるやかなつながりのような気がします。実践を共有しているというよりは、何か起こりそうという「期待」を共有している感じでしょうか。
サロンやカフェで起こる心の動きは、ハードな意味での「学習」ではないかもしれません。しかし、そこには学びや創造的活動を起動する気づきや新しい出会いが隠されていると考えています。
[山内 祐平]