2019.05.31
D3になります平野です。私は、美術館や学校教育で広がりを持ちつつある、美術史などの知識だけでなく、鑑賞者同士の対話から美術作品の鑑賞を深めていく手法としての「対話型鑑賞」について実践・研究しています。私の研究では、対話型鑑賞を協調学習の一場面として捉え、鑑賞者同士の学習支援と、ナビゲイター(ファシリテーター)による情報提供の両面から、よい鑑賞をつくるための活動のデザインについて検討しようとしています。研究フィールドとしては、京都造形芸術大学のACOP(アート・コミュニケーション・プロジェクト)にお世話になっています。
博士課程も3年めになり、最近とみに考えていることとしては、私の研究は「何学」に属するのか? ということです。美術という領域でやっているということで、私の研究を「美術科教育」として捉えようとすると、私自身は教員ではなく、研究としても正規の小中学校・高校の図画工作・美術科の授業をフィールドにしているわけではありません。あるいは、美術館で取り入れられる手法を研究しているということで「ミュージアム研究」として扱おうとすると、私は美術館の学芸員ではなく、美術館での実践を研究にしているわけではありません。山内研のメインである研究領域は「教育工学・学習科学」だと思いますが、教育工学・学習科学で美術領域での研究が多いかというと、全然そんなことはありません。ただ、協調学習というメガネで対話型鑑賞を研究することに意義があると信じて(?)、山内研に所属しているところはあります。
この、ある種の座り心地の不安定さは、対話型鑑賞自体がさまざまな学問や実践の「間」(美術と教育の間、学校と美術館の間、教授と学習の間)で起こっている事象であるということを示しているとも言えると思っています。山内研は学際情報学府という、東京大学の中でも学部を持たない独立した大学院組織に属しており、「学際」=学問の際(きわ)にあたる研究をしている人たちが集まる大学院ですので、そうなるのも自然かもしれません。
私は社会人院生で、現在はあいちトリエンナーレ2019のボランティア育成等に携わっており、研修講師のため毎月1回名古屋・豊田にお邪魔しています。8月から始まるガイドツアーでは、対話型鑑賞の考え方を取り入れたツアーが実施される予定です。今年は9月の日本教育工学会秋季大会が名古屋開催ですので、よろしければ現代アートの対話型鑑賞を体験しに、あいちトリエンナーレにぜひいらしてください。
(私の研究のねらいは、こうした機会にナビゲイターを務めるみなさんが困ったときの指針となる実践的知見を提供することだと思っています)
【平野智紀】
2019.05.27
博士課程の佐藤です。
私の研究ーテーマのキーワードは「物語・ナラティブ」です。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、ナラティブ研究では、物語っていく過程における「語り手」だけでなく「聞き手」の役割にも着目します。本ブログであれば、大学院入試説明会も近いこの時期、「読み手」は山内研究室の進学を検討されている方が多いのではないでしょうか?そんなことを想定しながらブログを執筆したいと思います。
私はD6!ということで、ブログ「研究計画」もうかなりの回数書いておりますが、毎年それなりに目標も知識も増強されていて、学びの螺旋を実感しています。
現在は、デジタル化、テクノロジー化の社会的な動きが、どのようにナラティブ環境を変え、どのような新たなナラティブ研究が登場しているかについて調べ直しをしています。グーテンベルクの活版印刷術が発明される以前、民衆のナラティブを伝える媒体は、口承でした。印刷技術の進歩により、多くの人に印刷物が普及し、カラーの書籍や芸術的な作品が子どもたちの手に渡るようになります。インターネットの普及により、誰でもWebにアクセスするようになり、現在はタブレットやスマホ等、乳幼児を取り巻く環境にデジタルメディアは溢れています。そんな中、ナラティブの表現媒体にデジタル機器を用いる実践研究も増えています。
「デジタル・ナラティブ」や「インタラクティブ・デジタル・ナラティブ」と呼ばれる活動においては、今まで表現しえなかった物語が展開され、大きな可能性を感じます。例えば、幼稚園において、ビデオ映像に取りながら物語を作成する共同制作では、映像を友達と確認しながら制作する中で気づきや発見があったり、作品を保護者に共有できることが利点として挙げらています。お絵かきソフトのスタンプ機能から、発話が促され、お話が膨らむ様子も報告されています。マルチメディアによる動機づけは大きく、これまでコミュニケーションを上手く取れなかった子どもの活動に保育者が驚くという展開も見られます。履歴を残すことが可能なデジタル環境では、アウトプットが最終作品ではなく、制作過程そのものがナラティブとして捉えられるのではないかとの議論もあり、物語の概念自体も改めて考えさせられます。
現在行っている博論執筆は、修士研究で行ったシステム制作(「物語行為を支援するソフトウェア」や「親子のオンラインコミュニティ」)をどのように意味づけ、まとめていくかという作業になります。社会人大学院生として、予想を超えてかなり長く在籍してしまいましたが(涙)、お蔭で多くの素敵な院生さんと出会うことができました。
次年度はどんな方が、どんな問題意識を持ち、どんなテーマの研究計画を持って入学されるのか・・・とても楽しみにしております。
【佐藤朝美】
2019.05.23
D3の杉山昂平です。
これまで,大人が趣味を続けるなかで新しいおもしろさに出会っていくこと[興味の深まり]に,趣味を通した人間関係[趣味縁]がいかに関与するのかを研究してきました。1つめの研究ではアマチュアオーケストラを事例に楽団という[実践共同体]の関与を,2つめの研究ではアマチュア写真を事例にSNSなどで見られるゆるやかな[実践ネットワーク]の関与を明らかにしています。
今年度は博士論文の執筆にむけて,2つの研究を統合する大きな枠組みを言語化していくことが研究の課題です。
いまのところ,大きな課題が2つあります。
1つめの課題が「社会的意義と学術的意義の接続」です。なぜ仕事ではなく趣味を研究するのか。「趣味程度」のまま自然に放っておけばいいと考えるのではなく,趣味が深まるような環境のあり方を研究することは,社会的にどんな意味があるのか。研究の前提や大きな目的を改めて考え直すことで,趣味を学術的に研究することに社会的な意義づけを与える作業です。
2つめの課題が「総合考察」です。実践共同体に注目したアマチュアオーケストラ団員の研究と,実践ネットワークに着目したアマチュア写真家の研究,両方を行ったことではじめて見えてくることはなにか。研究の大きな目的に対応するかたちで,博士論文全体としての答えを出す作業です。
いずれもとてもチャレンジングな課題です。しっかり時間をかけて考えようと思います。
ちなみに,総合考察について考えていることを小出しにしてみると,「いま一緒に趣味をしているわけではないが自分と近しい趣味を追求している人,がある程度近くにいること」が大事な気がしています。楽団を移籍して新しい面白さに出会ったり,写真家の界隈から刺激を受けたりすることは,直接関わりのない他者が別の場所で趣味を楽しんでいないと成り立ちません。そういう意味で,さまざまな趣味人が織りなす「生態系」の豊かさに鍵がありあそうです。
2019.05.07
こんにちは。山内研M1の渡辺拓実です。
昨年度に東京大学教育学部を卒業し、今年度からは山内研究室で学んでいます。
人の「やりたいこと」はどのように育まれていくのか?
ということについて関心があります。
「やりたいこと」と言われても、
それは、今この瞬間やりたいことなのか、それともこの先やってみたいことなのか、どれくらいやりたいのか
色々あるかとおもいます。
自分が具体的に興味を持っている「やりたいこと」は具体的には以下のようなものです。
1.いくつかの選択肢がある中で、それぞれの選択を吟味した上で決定している
2.自分の生活のほとんどの時間を割くようなもの、もしくは自分でそれほどの価値があると感じているもの
3.比較的長い時間取り組み続けたい、もしくは取り組んでいること
ここでいうやりたいことが学術的に何に当たるのか、自分でもまだ完全には見えていないのですが、「興味」というのが少し近いのかなという風に考えています。
興味には「深まる」という考え方があり、これは僕の言葉でいうと「やりたいことが明確になっていく」ということに近いなという風に解釈しています。
1例を紹介してみたいと思います。
Hidi & Renninger(2006)は興味の深化(develop)には4つの局面があると述べています。
1. 誘発された状況的興味/Triggered situational interest
環境や課題の特徴によって一時的に感情や認知プロセスに変化が引き起こされることによって生じる興味
2. 維持された状況的興味/Maintained situational interest
課題の意義を感じたり積極的参加を行うことを通じ,持続的に注意が向けられたり取り組んだりする状態のこと
3. 発現した個人的興味/Emerging individual interest
特定の内容に対し、繰り返し取り組みたいと長期的に望む初期の興味
ポジティブ感情、知識の蓄積、価値の認知を伴う
4. 深化した個人的興味/well-developed individual interest
より多くの知識や価値の認知を伴い,特定の内容のに対して,繰り返し取り組みたいとより長期的に望む興味
例えば、この4つの局面に合わせて、人の「やりたいこと」を段階別に分け、各段階で「やりたいこと」を育みやすい環境を考えることができるかもしれません。
そして、僕自身の実体験がベースでもあるのですが、この興味の深まりは、異なるバックグラウンドを持つ個人や異なる組織に所属する個人同士が、対話や実践を行う越境的な環境下で起こりやすいのではないかと考えています。
自分の知らない新しい場に出向くことや経験をすることで、自分の中で「これをやってみたい!」と感じた経験があるのではないでしょうか?
読まなければならない先行研究や理論などは山積みです。
自分の妄想に、少しづつ現実味を持たせることに、悩み、楽しみながら一歩づつ取り組んでいければと思います。
渡辺拓実
2019.05.07
6月8日(土)に、山内研究室が所属する東京大学大学院学際情報学府・文化人間情報学コースの入試説明会が開催されます。
高度情報化社会にふさわしい学習環境の革新に関心のある方のご来場をお待ちしています。コース説明会では山内が、学府の説明会では山内と大学院生が対応します。
ブース展示の際に研究室訪問もできますので、受験をお考えの方はぜひお越しください。
▶︎午前:文化人間情報学コース夏季入試説明会
下記の要領で文人コース(文化・人間情報学コース)の夏季入試説明会を開催します。
ふるってご参加下さい。事前登録、参加費はいずれも不要です。
In the morning of Saturday June 8th, there will be the explanation seminar of the entrance examination for the Cultural and Human Information Studies Course. RSVP and entry fee are not needed. Join us!
ごあいさつ
情報学環?
学際情報学府??
文化・人間情報学コース???
「おもしろそうだけれど、ちょっとよくわからない。」
「試験科目は別みたいだけれど、他のコースとどうちがうのか。」
「やってみたい研究があるんだけど、受け入れてくれるのか知りたい。」
私たちは、こういった声にこたえるために、文人コース独自の説明会を開催します。
文人コースの教員が次のような話をします。
・自分の研究室ではどんな研究ができるのか。
・自分の研究室にどんな学生がいてどのような研究をしているのか。
・どんな学生に来てほしいと思っているのか。
そのあと、教員とみなさんが直接質疑応答、懇談する場を設けます。
文人コースは「人間・環境」「歴史・文化」「メディア・コミュニケーション」をカバーエリアとし、人文社会系、アート・デザイン系、理工系が入り交じった、淡水と海水が出会う汽水域のようなところ。
6月8日(土)午前10時に、福武ホールでみなさんをお待ちしています。
文化・人間情報学コース 教員一同
Date:
2019年6月8日(土)10:00-12:00
10:00-12:00, Saturday June 8th, 2019
Venue:
本郷キャンパス 情報学環・福武ホール 地下2階 福武ラーニング・シアター
Fukutake Learning Theater, B2F, III Fukutake Hall, Hongo Campus
Program:
10:00-10:15 文人コースとはどんなところか Overview of the Cultural and Human Information Studies Course
10:15-11:00 参加教員全員のミニトーク Short presentations by faculty members
11:00-12:00 参加スタッフとの質疑応答、懇談 Discussion meeting
午後の学府入試説明会との関係
午後に開催される大学院学際情報学府の説明会では全てのコースに関わる説明をします。その中で文人コースの概要も触れますが、詳細まではカバーできません。夕方からの研究室紹介では、研究室でやっていることがポスター展示され、質疑応答できますが、どのような学生に来てほしいか、どういうテーマだと受け入れられるか(もちろん合格したらの話ですが)といったことがらを説明する時間がありません。
文人コースとしての説明会では文人コースの詳細を知り教員としっかり話せます。受験をお考えの方はぜひお越しください。
Faculty members(あいうえお順):
筧 康明、佐倉 統、藤本 徹、水越 伸、武藤 香織、山内 祐平、横山 広美、渡邉 英徳 他
▶︎午後:大学院学際情報学府入試説明会
日時:2019年6月8日(土)13:30 – 16:30
場所:東京大学本郷キャンパス・情報学環福武ホール地下2階ラーニングシアター
申込:不要、入場無料
主催:東京大学大学院情報学環
東京大学大学院学際情報学府は、情報・メディア・コミュニケーションに関する高度で総合的な教育を行う新しいタイプの大学院です。研究組織である情報学環と密接に連携しながら、文理の垣根を越えて情報学のフロンティアを切り拓く先端的研究者・表現者の育成を行っています。
本説明会ではその全体像を教員、事務職員、現役院生が一緒になって説明します。アクチュアルな問題意識を持ち、未来を切り開きたいと考えている大学生の皆さん、実務経験を見つめ直し、深く学んでみたいという社会人の方々を始め、多くの方々に是非ご参加いただければと思います。ご来場をお待ちしています。
プログラム:
13:00 開場
13:30-13:50 学際情報学府・情報学環 全体説明
(学環・学府長、専攻長より)
学環・学府全体の教育研究方針を、学府長、専攻長から説明します。
13:50-14:30 学環・学府 各コース紹介
(各コース長より)
今回の説明会の対象となる、社会情報学、文化・人間情報学、先端表現情報学、総合分析情報学、生物統計情報学の5コースの研究教育内容を紹介します。どんな人に来てもらいたいかなど、それぞれのコースから説明します。
14:30-14:50 大学院生のプロフィール&就職・進学情報
(学務チームより)
どんな学科や大学から学生が集まり、いかに学び、どこへ就職し、進学しているか。データを使って説明します。在学生による紹介ビデオの上映も行います。
14:50-15:10 2020年度入試説明
(教員、学務チームより)
入試手続きを説明します。
15:10-15:30 休憩
15:30-16:30 各研究室のブース展示と研究紹介
(教職員、現役大学院学生)
各研究室に分かれての展示説明。教員、スタッフや院生と直接ディスカッションできる時間です。