2024.02.20
皆さまこんにちは、M1の松谷です。
本記事では前回までのブログシリーズに続き、これまでの1年を共に伴走してくださったファシリテーター、増田悠紀子さんを紹介します。修士課程1年を終えようとしている今、山内研究室に入ってから定期的に相談にのっていただきながら過ごした日々を振り返りつつ書いてみようと思います。
増田悠紀子さんは山内研の現在博士課程3年生に所属しています。増田さんは「デザイン系産学連携プロジェクトの学習環境に関する研究」をテーマにされています。産学連携というと、研究成果や技術を持つ大学などの教育機関と企業が連携し、新たな製品などの開発を行うといった取り組みですが、その中でも、増田さんは武蔵野美術大学でのデザイン系産学連携を対象に研究をされています。
デザイン産学連携は「企業とデザイン系大学によって、製品化やさまざまなデザイン開発の可能性を探求することを目的として取り組まれる産学連携」(菅野、2010)で、学生が主になって制作活動を行う実践的教育機会とされています(増田、2023)。増田さんは、デザイン産学連携プロジェクトにおける参加学生の経験と彼らのクリエイティブ・コンピテンシー(OC)などの能力の獲得に関する研究をされています。
増田悠紀子、伏木田稚子、池田めぐみ、山内祐平:デザイン産学連携プロジェクトにおける学生の経験とクリエイティブ・コンピテンシーの獲得実感に関する研究─グループ、教員、連携先との関わりに着目して、デザイン学研究、69(3)、31–40、2023
増田悠紀子、伏木田稚子、山内祐平:デザイン産学連携プロジェクトでのタイプ別の経験と能力獲得実感との関係、日本デザイン学会研究発表大会概要集、70: 358、2023
まだまだ全ての研究を把握しきることはできていませんが、増田さんのこれまでの研究は、産学連携プロジェクトの実践調査で得たデータをもとに、クリエイティブ・コンピテンシーなどの能力獲得とそれに影響する因子を明らかにするという内容なのではないかと認識しています。
私は高校生がイノベーションワークショップ(グループでアイデア生成をするような)に参加した前後での心理的な変化や、効果に関して、修士研究で行おうとしています。増田さんの産学連携とは、対象や手法は異なるものの、プログラムの内容や目指すものは共通しているところがあるかと思います。共通するところがあるからこそ、産学連携とは異なる点はどこなのかなどといったように、対象とするプログラムならではの特徴を意識するきっかけとなったように感じています。
増田さんからも、研究相談をする際や発表後のフィードバックをいただく際に、そうした視点でのコメントを頂いています。自分が関わってきたプログラムを中心に考えてしまうと、他のプログラムとの差異や、あるいは実は共通しているという点が見えにくくなってしまいます。特に私は対象とするイノベーションワークショップに高校時代から関わっていたために、かなりバイアスが掛かってしまっているのではないかということに、山内研に入ってから気づくことができたように思います。近い領域だからこそ得られる違った視点もあるのだなと感じました。
また、増田さんとの定期的な研究相談では、近い分野でどのような実践や研究がなされているかといったお話を伺う機会もあり、研究としてどのように行っていくのかということを知ることにもつながっているように思います。1人で進めていたら迷って前に進めない場面においても、自身のこれまでの経験を踏まえて、研究を前に進めるための方針や、やるべきことに対するアドバイスを頂けることは、とても力になります。
まだまだ修士の研究では迷うことばかりで、どのような方針で進めていけばいいのか立ち止まってしまうことも多いですが、ファシリテーターとの相談から少しでも多くのことを学んで行きたいと思います。まだまだ山内研には様々なバックグラウンドを持ったファシリテーターがいますので、以降のブログもお楽しみにしてください!
Reference
菅野洋介:中小企業によるデザイン系大学との連携 : 新潟県長岡地域を事例として , デザイン学研究 , 56(6), 93–10 2, 2010
増田悠紀子, 伏木田稚子, 山内祐平:デザイン産学連携プロジェクトでのタイプ別の経験と能力獲得実感との関係,日本デザイン学会研究発表大会概要集,70: 358,2023
2024.02.04
皆さまこんにちは、M2の田中です。
本記事では前回までのブログシリーズに続き、田中の修士課程2年間を共に伴走してくださったファシリテーター、池田めぐみさんについて紹介します。
修士課程の大半を終えた今(修論審査の結果はまだ出ていませんが…)、修士課程の間定期的に相談にのっていただいた日々を振り返りつつ書いてみようと思います。
池田めぐみさんは山内研OGで、現在は東京大学 社会科学研究所に所属されています。
現在の池田さんの研究は、主に働く人のレジリエンスや学びに関するものです。
「レジリエンス」とは、「環境の変化に適応し、ネガティブな仕事状況に対処する個人の能力(NOE et al. 1990)」とのことで、このレジリエンスが及ぼす効果や要因を研究されています。
池田さんが山内研にいらっしゃった際は、修論では大学生のクラブ・サークル活動、博論では大学生の正課外プロジェクトを対象に、それぞれの活動における学生の取り組みがキャリアレジリエンスの獲得実感に与える影響について検討するという研究をされていました。
- 池田めぐみ, 伏木田稚子, & 山内祐平. (2018). 大学生のクラブ・サークル活動への取り組みがキャリアレジリエンスに与える影響. 日本教育工学会論文誌, 42(1), 1-14.
- 池田めぐみ, 伏木田稚子, & 山内祐平. (2019). 大学生の準正課活動への取り組みがキャリアレジリエンスに与える影響 他者からの支援や学生の関与を手掛かりに. 日本教育工学会論文誌, 43(1), 1-11.
博士号取得後から現在にかけては、レジリエンスを引き続き主な対象としつつ、対象は職場における若年労働者の能力向上を扱う研究などを行われているようです。
- 池田めぐみ, 池尻良平, 鈴木智之, 城戸楓, 土屋裕介, 今井良, & 山内祐平. (2020). 若年労働者のジョブ・クラフティングと職場における能力向上. 日本教育工学会論文誌, 44(2), 203-212.
- 池田めぐみ, 田中聡, 池尻良平, 城戸楓, 鈴木智之, 土屋裕介, ... & 山内祐平. (2022). チャレンジストレッサーとヒンドランスストレッサーが 若年労働者の業務能力向上と情緒的消耗感に与える影響: レジリエンスの媒介効果に着目して. 経営行動科学, 33(3), 143-156.
田中が概観する限り、池田さんのこれまでの研究は、調査で得たデータをもとに、着目する能力の獲得・向上に影響する因子を明らかにするというスタイルのものが多いかと思われます。
対して田中が修士課程で行った研究は、大学生のライティングを支援するシステム開発研究です。
なので、池田さんと私は、広い意味での人間の学習を扱うという基底は共通しているとはいえ、研究の対象も手法も、結構違うタイプと言えるのではないかなと思います。
山内研のファシリテーターと院生の組み合わせのバリエーションはいろいろあると思いますが、研究内容的に近しい人同士になるケースもあれば、こういうケースもあります。
今振り返ると、私の場合はこの組み合わせが大変ありがたかったと感じています。
池田さんは分野が遠いからこそ、研究の中身や詳細に入り込みすぎずに、「どういう研究として仕上げるのか」というメタい視点からいつもコメントをしてくださいました。
というのも、私がレビューや開発をしていると、今していることに入り込みがちな性分であったので、池田さんとの相談の度に、「そういえば私、2年で修士論文としてまとめないといけないんでした」「そういえば私、開発研究をやりたいんでした」みたいな気づきをたくさんいただきました。
私のやりたいことは尊重しつつも、研究として成り立たなさそうだったり、無謀だったりするようなことを私が言い出したときはちゃんと諭してくださる池田さんがファシリテーターだったおかげで、修士課程は安心感を持って精一杯研究に打ち込めたと思います。
また、池田さんとの定期的な研究相談のおかげで、「分野は違うけど一番自分の研究の話を聞いてもらっているこの人に、面白さや意義が伝わるよう研究を説明できないといけない」という力が、常に自分にやんわりと作用していたように思います。
もちろん、他の山内研メンバーも基本的に研究分野はまちまちなので、山内研にいる以上、常にそういう力場の中に身を置くことになる運命なのですが、
他のゼミメンバー以上に継続して自分の研究の話を聞いてくださるファシリテーターがいてくださることで、「まずは一番研究の話を聞いてくれているこの人に伝えられなきゃ」と、説明の努力を絶やさないよういられたように思います。
一人で入り込んで悩む時間も大事にしたいと思う私ですが、こういう期間はのばそうと思えばいくらでものばせてしまうので、2週間〜1ヶ月おきくらいにファシリテーターとの相談やゼミ発表という強制自己開示イベントが発生する山内研の制度は、研究初心者の自分が〆切までに修士論文を書く上でありがたいものだったなと思います。
他の山内研メンバーのファシリテーターや関わり方については、以降のブログシリーズでも明らかになると思います。お楽しみに!
NOE, R.A. and NOE, A.W. and BACHHUBER, J.A. (1990) An investigation of the correlates of career motivation. Journal of Vocational Behavior, 37(3):340–356