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2020.07.08

【エッセイ】オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド学習

新型コロナウィルスに関してはまだまだ注意が必要な状況ですが、緊急事態宣言が解除されてから、大学では秋に向けて対面授業の再開方法が話題になっています。
文部科学省の調査によると、5月時点で9割の大学が遠隔で授業を行なっており、今後対面授業を再開するとしても、対面での社会的距離の確保の観点からオンライン学習と対面学習を組み合わせる形態が検討されると思われます。
オンライン学習と対面学習を組み合わせることは、「ブレンド型学習(Blended Learning)」として1990年代から広く行われてきています。当初は対面と電子掲示板を組み合わせる形態が主流でしたが、ここ数年で「反転学習 (Flipped Learning)」という講義を映像化して宿題として見てきてもらい、教室では対面で応用問題を解くスタイルが増えています。

今回のコロナ禍におけるオンラインと対面の併用に関しても、今まで展開されてきたブレンド型学習や反転学習の知見を生かすことができると考えられます。ただし、これらの研究が行われた時期と前提条件が少し異なっていることにも注意が必要です。
1) 対面授業の制約
社会的距離を1mから2mとる場合、教室定員は2分の1から3分の1程度に低下します。教室数は限られているため、対面授業の規模や回数に制約がかかります。
2) 同期型遠隔システムの充実
数年前に比べると、Zoom, Webex, Google Meet, Microsoft Teamsなど、同期型で遠隔授業ができる環境が急速に充実しています。特にZoomはブレイクアウトセッションというグループワークができる機能を備えており、アクティブラーニングもある程度遠隔でできるようになっています。

このような状況の中で、教室での対面学習と非同期・同期型オンライン学習を組み合わせた学習形態について、ここでは「ハイブリッド学習 (Hybrid Learning)」と呼ぶことにします。
そもそもハイブリッド学習を導入する意義はどこにあるのでしょうか。今回のコロナ禍によって大学の9割でオンライン授業が行われたことにより、制約はあるもののオンラインでも授業できることは多くの教員が実感を持って受け止めていると思います。大講義ではむしろチャットで質問がたくさん来るようになったという事例も報告されており、必ずしも対面があらゆる状況で優れているとはいえません。
その一方で、いわゆる「Zoom疲れ」など長時間の遠隔授業での疲労を訴える声や、新入生が人間関係を作りにくいという声が学生から上がっているのも事実です。対面授業の方が「快適に」授業に参加でき、学習者が共同体をつくるのに向いているということも否定できないでしょう。さらに、Zoomによるブレイクアウトセッションは質疑応答程度のアクティブラーニングに対応することはできますが、実験・実習・フィールドワークや創造的なアイデアを出したりするようなインテンシブなセッションになると、対面に比べて十分な環境とはいえません。

私はアクティブラーニングを3つのレベルにわけて考えています。

アクティブラーニングの方法に関する3レベル

この図でいえばレベル1からレベル2の一部(獲得した知識の共有から簡単なグループワークまで)は、オンライン学習でも対応可能であると思います。一方でレベル2からレベル3(ジグソー法などの協調学習・問題基盤型学習・プロジェクト学習については、対面学習の方が、深い学習を実現しやすいでしょう。

これらのことから、いわゆる知識習得型の大講義については、現時点で急いでハイブリッド学習化する必要はないと考えています。非同期型のオンライン学習と同期型のオンライン学習を組み合わせ、例えば授業の1回目はYouTubeで教員の説明映像を見た後LMSで理解度確認テストを行い、2回目に問題演習をSlackとZoomを組み合わせて実施した上で、20名程度のグループごとにTAをつけてわからないことを質問してもらうなどの形式が考えられます。この方式は完全習得型の反転学習に似ていますが、授業内で完結している点が異なっています。現在多くの教員が評価の一環としてレポート課題を出しており、学生からは時間が足りないという意見がでているので、宿題には一定の配慮が必要であると思われます。
ハイブリッド化するメリットがありそうなのは、ゼミなどいわゆる演習形式の授業です。10名から50名程度まで参加者に幅がありますが、アクティブラーニングのレベル2から3を取り扱っているものが多く、深い学習の実現や、学習共同体の構築を考えると、対面とオンラインを組み合わせるコストを払う意味があるでしょう。ここでは私が考えた3つのパターンを紹介します。

1)対面・同期型オンライン併用型
まず、対面とZoomなどの同期型オンライン環境を併用し、シームレスに半数程度の参加者を対面・残り半数をオンライン参加というやり方が考えられます。
学習者が対面・オンライン参加を決められる場合、ハイフレックス(Hybrid-Flex)と呼ばれることもあります。
現在私は研究室ゼミをこのやり方でおこなっています。14名の参加者のうち8名が対面、残り6名がオンラインで参加します。対面参加者は発表者3名とスタッフ5名で、発表する学生が順番に教室に来ることになります。全員がノートPCを持ちZoomセッションに参加していますが、音声は教室中央に置かれたスピーカーマイクのみでやりとりしています。(各自のノートPCのマイクはミュート、音量はゼロにします)グループワークの時には、対面・Zoom混合の2グループに別れて、小グループ用のスピーカーマイク2台を使って議論します。Zoomのみの運用に比べると議論が活性化すると同時に、休憩時間の雑談も活発になるので、学習共同体の構築という観点から一定の効果があると考えています。

2) 非同期型オンライン−対面型
活用すべき知識を習得した上で、思考力などの高度な能力を育成する場合は、高次能力型反転学習に近い形のハイブリッド学習が考えられます。例えば授業の1回目はYouTubeで教員の説明映像を見た後LMSで理解度確認テストを行い、2回目に協調学習や問題基盤学習を対面で行う形式が考えられます。この方法は2014年にMOOCと対面学習を組み合わせて歴史的思考力を向上させる研究プロジェクトにおいて効果が確認されています。

3) 対面−非同期型オンライン−対面型
プロジェクト学習的な内容の場合、基本的な学習活動はオンライン上で行い、最初と最後に対面活動を入れるというやり方も考えられます。プロジェクト学習において一番難しい課題設定の部分を対面で行い、最後の発表会は学習共同体構築の観点から対面で行うという選択です。真ん中の部分はSlackなどで学習の進捗を管理し、コメントによって学習を支援します。このやり方は2012年から2013年に研究として行なった高校生・大学生・社会人をつないだキャリア教育プロジェクト「Socla」で行なって成功しています。

今回はハイブリッド学習について3つの方法をご紹介しましたが、今後バリエーションはもっと増えてくると考えられます。今後ワクチンの開発などでコロナ禍が収束するとしても、ハイブリッド学習は大学の学習基盤として残り続けるのではないでしょうか。個人的には大講義室の利用率が下がり、ラーニングコモンズやアクティブラーニングスタジオへの転換が進むのではないかと予測しています。引き続き、関連する研究活動を進めてまいります。

【山内 祐平】

2020.07.03

【文献内容とグループディスカッション紹介】

 修士課程2年の小野寺萌美です。
 本研究室のゼミの特徴のひとつである「文献発表とグループディスカッション」についてご紹介いたします。

 文献発表とグループディスカッションの概要を簡単にご説明します。文献発表では教育工学や学習科学、その他周辺領域の学問のメインストリームを体系的に理解することを目的としています。毎年2冊の英語文献を輪読しています。週ごとに担当者が担当する章の(1)文献の要約資料を作成、(2)担当章の理解を深める参考文献の紹介をゼミ生に共有することで全員の理解を促進します。その後、ゼミ生を複数のグループに分け、実践的な課題を元にグループディスカッションを行うことで実際の課題としての理解を深めています。

 今学期は”International Handbook of the Learning Sciences”という文献を輪読しています。前年度は”HANDBOOK OF RESEARCH ON LEARNING AND INSTRUCTION”を輪読していました。前年度の情報についてはこちらからご覧ください。
章選択には人がよく表れます。基本のスタンスとしては各ゼミ生の興味・関心に合わせた章を選択・担当し、参考文献と併せて資料を作成します。一方、一見全く関連しないような分野から章選択を行う方もいます。しかしそのような場合でも全く関連しないことはなく、根源のところで学問やテーマというものはつながっていることに気づかされ、驚かされることもしばしばです。

 ここから具体例を挙げます。私は先日の発表で“Simulations, Games, and Modeling Tools for Learning”という章を担当しました。一方、私の研究テーマは「大学生を対象としたフロー体験を促進する支援」ということで、一見シミュレーションやゲームといった分野とは重ならないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、特にゲームとフローの関係は強く、ゲームの楽しさをフロー理論を用いて分析的に評価しようとする論文も多く存在します。
 実際のグループディスカッションの課題としては「本文に記述されているテクノロジーベースのシミュレーションやモデリングツールを教育に取り入れたい立場のそれぞれの理論的前提から、シミュレーション・ゲーム・モデリングにおける学習を成立させる3原則を作成せよ」という課題のもとグループディスカッションを行いました。2グループでディスカッションを行い、そのそれぞれがグループを構成しているメンバーのこれまでの体験やバックグラウンドに基づいた多様なアイデアを出して課題を解決していこうとします。例えば、ファシリテーターとしての私の立場としての予想では、やはり、プログラミングなどといった、情報に関する学習活動においての事例をもとに原則を作るグループが多いと考えていましたが、あるグループでは美術教育や歴史学といった、いわゆる「文系科目」とみなされるような学問分野のバックグラウンドからシミュレーションや認知的葛藤についての考えをまとめており、ファシリテーターの想像を上回る多様な意見が提出されました。このような「予想に対する興味深い裏切り」はファシリテーターを行っているとしばしば起こります。私もこれまで複数回ファシリテーターを行ってきましたが、自分が事前に予想していた答えと同じものになることはまずありえませんでした。これは多様なバックグラウンドを持つ我々の研究室であるからこそなしえる活動なのだなと、そのようなシチュエーションに遭遇するたびに感心します。

 次回からも引き続き我々の学習活動の紹介を行いますのでご興味ある方はチェックしてみてください。

【M2 小野寺萌美】

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