2014.11.08
みなさん、こんにちは。
M2の中村絵里です。
11月になりました。7月下旬から9月末までの2カ月以上もの長い夏休み期間、院生は何をして過ごしたのか(過ごすべきか)について語る【夏休みの過ごし方】シリーズを先月からお送りしていますが、やはり研究テーマや研究の立ち位置が異なると、それぞれの過ごし方は随分と違うものですね。
M1の夏休みとM2の夏休みでは、研究の進捗度が変わりますので、一概には言えないのですが、いずれの学年であっても長期休業期間には、じっくりと腰を据えてできることに取り組むのが一番だと思います。私の場合、今年の夏休み中の最大の山場は、モンゴルでのワークショップ実践でした。
9月第1週目に、モンゴルのウブルハンガイ県において遊牧民の親を対象としたワークショップを実践してきましたが、この実践のために、夏休み以前から少しずつ調整を進めていました。モンゴルでは、学校が夏休みに入る6月末から新年度がスタートする9月1日までは、現地の学校関係者や遊牧民の保護者とのコンタクトが滞ってしまいます。そこで、現地の学校の協力を得るための連絡調整は5月頃から始め、学校を通じたワークショップの参加者募集の告知は6月には行いました。
6月の時点では、ワークショップの具体的なプログラム構成原理までは組み立てができていませんでしたので、7月から8月にかけて、プログラム構成原理を練り上げ、先行研究をレビューする作業を繰り返し行いました。この時期は、ファシリテーターの荒さんに、ほぼ週1回のペースで研究相談に応じて頂き、問題点とそれを解決するためのロジックを整理することに専念しました。振り返ってみると、1週間ごとに与えられた課題をクリアするために大量の文献をレビューし、自身の研究領域に関わる先行研究の知見を深めることができた貴重な日々になったと思います。また、夏休み期間は、いつにも増してご多忙の山内先生にも時間を割いて頂き、2度も面談をして頂きました。お盆の夕刻しか空き時間がないとおっしゃる山内先生に無理をお願いして時間を取って頂きましたこと、この場を借りて改めてお礼申しあげます。
私にとっては、ワークショップのプログラム構成原理を組み立てて整理することが一番の難関でしたが、同時に、モンゴルでの実践に向けたロジの調整も着々と進めていました。日程調整、訪問地の選定、通訳者の手配、ワークショップ備品の手配、参加者へのお土産品の調達等数えればきりがないほどの準備項目になりますが、このあたりのロジ調整は、実はこれまでの社会人経験の中で仕事を通じて培ってきたものがありましたので、焦ることなく、もれなくダブりなくできたように思います。
そして迎えた9月の本実践。研究のカウンターパートであるセーブ・ザ・チルドレン モンゴル事務所のスタッフに、多大なご協力を頂き、2つの郡で、各4時間のワークショップを開催することができました。現地では、想定内のハプニングは多々ありましたが、郷に入れば郷に従えで、彼らの文化を尊重しつつ、研究の大筋を崩さずに実践することを心掛けました。実践結果の評価については、今、まさに分析中ですが、はっきりと言えることは、参加者が皆さん喜んでくださったこと、そして、就学前自宅学習に対する新たな知識と情報源を持ち帰ってくださったことです。このワークショップのために、遠路はるばる90km以上も草原を移動して集まってくださった遊牧民の方々にとって、少しでも役に立てる実践になったのであれば、本望です。
9月の中旬から夏休み終了の時期までは、実践結果のデータ(質問紙データ)を入力・整理したり、分析したりする作業を行いました。現地で採録したワークショップ中の発話データも膨大な量がありますが、すべてモンゴル語であるため、活用できる量は限定的です。現在は、収集したデータを、研究の目的と照らし合わせながら解釈を行っているところです。
約2カ月間の夏休みは、長いようですが、目的を持って過ごさないと本当にあっという間に終わってしまいます。修士論文提出までの残り約2カ月間も、なすべきことを確認しながら大切に過ごしていこうと、改めて身を引き締めているところです。
次回からは、M1のみなさんの夏休みの過ごし方をお届けします。
【中村絵里】
2014.11.04
11月1日付で、教授職を拝命いたしました。
准教授の期間、お世話になりましたみなさまに厚く御礼申し上げます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
【山内 祐平】
2014.11.02
「夏休みの過ごし方」シリーズ第三回は私、池田めぐみが担当致します。
8月、9月の夏休みは、主に大学生へのインタビューと、プレ実践、研究のロジックをたてたりしながら、月に2回程ファシリテーターの方や山内先生に研究相談をさせて頂くということを行っていました。相談に乗って頂いた先輩方と先生、実践に向け手助けして頂いた皆様、インタビューやプレ実践に協力して頂いた方々、本当にありがとうございます。
2014.10.28
東京大学としてMOOCプラットフォームedX初のコースとなる「Visualizing Postwar Tokyo」(担当:吉見俊哉教授)が11月4日火曜日に開講されます。どなたでも無料で受講できますので、ぜひご登録ください。オリンピックが近づいてくる今だからこそ振り返りたい東京の戦後史を、NHKの映像をはじめ、様々なビジュアル素材から学ぶことができるコースです。ご登録は以下のURLからどうぞ。
https://www.edx.org/course/utokyox/utokyox-utokyo001x-visualizing-postwar-1545
【山内 祐平】
2014.10.24
みなさん、こんにちは。M2の青木智寛です。
もうすっかり夏は過ぎ去って、気が付くと冬が顔をのぞかせてきていますね。寒いのが苦手な僕としては、穏やかな冬であってほしいなぁと願うばかりです。
さて、今回のお題【夏休みの過ごし方】第2回 です。何を書こうかと思って悩んでいた、今日このごろですが...
9月に行われた毎年恒例の研究室合宿で、島根県隠岐島の海士町を訪問させていただき、ありがたいことに、僕がこれから行う修士研究の実践を実施させていただくことになったので、夏合宿について書かせていただこうかと思いました。...が、番外編で合宿についてはすでに記事が上がっておりますので(こちら)、今回はちょっと外して、普段ゼミや研究室でもあまりお話する機会のない、開発についてのお話をしようかと思います。思い返してみると、実際、夏休みの大半の時間は、修士研究のシステム開発をしていたように思います。
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山内研究室では、研究の領域として、大まかに分けて「空間」「活動」「共同体」「人工物」を対象として、各メンバーがそれぞれ研究を行っているのですが、(詳しくは研究室の紹介のページをご覧ください)僕は山内研に興味を持ったときから「人工物」の領域、すなわちシステム開発(+実践)型の研究をしたいと思っていました。
僕は、学部時代に「学力データを効果的に可視化する」ことをテーマとして、日々の学習履歴をアニメーションの形で可視化するアプリケーションを「processing」という言語兼開発環境を用いて開発していました。processingとは、MITが開発した、グラフィックを描画するのに適した言語(兼開発環境)で、無償で提供されている開発環境を用いて、細かい宣言をほとんどせずにかなり直感的に2D,3DCGを制作できるという便利なものでした。そこで、ある程度はデータを視覚的に表現することに関しては経験がありましたが、いざ修士研究で自分がつくることになったのはWebアプリケーション。どうして作っていこうかと、最初は少し戸惑いがありました。
基本的に、Web上に上がっているリソースを元にして簡単なものから作ってみて、だんだんと複雑化していく、というプロセスは経験上、浮かんでいたものの、どうしていいものかわからなかった時に、お世話になったのがドットインストールなどの無料のプログラミング学習サイトです。Webアプリケーションを作る際に必要な言語(HTML, CSS, PHP, JavaScript, MySQL ... など)についての解説だけでなく、ローカル環境を含む開発環境の設定まで細かく解説されており、最初の数日はこれに浸ってひたすら説明されているとおりに作っていきました。たまに+αとして自分なりのアレンジを加えてみるなどしながら、とりあえず簡単なものが動く状態をつくり、少し安心感が得られました。
次は、簡単な動くものを、自分が作りたいものに近づけていくフェーズです。基本的なステップとしては、開発者の方々がよくされているように、Googleで 「[言語] [やりたいこと] 」のように検索をかけて、フォーラムなどでおなじ質問をしている人の記事を読む、または載せてあるソースコードを自身のコードに適用してみる、といった作業を何回か繰り返してみました。
ところが、コーディング量が多く、正直このままでは間に合わないと判断され...再度焦りが生まれました。そこで、開発を大きく加速させることになったのが、「フレームワーク」の利用です。
フレームワークとは、世間でよく利用されている機能をあらかじめ作っておき、それをまとめてパッケージ化したもので、現在、様々な言語で提供されています。僕はPHPという言語を利用してサーバ通信するアプリケーションを開発していたので、PHPフレームワークとして多く使われているCakePHPを利用することにしました。これによって、"記事の投稿・変更・削除","コメント","ログインなどの認証"が非常に簡単に実装できました。
あとは、オリジナルな部分をいかに作りこむか、というフェーズに入り、「新しい機能を作る→動かす→バグ発見→修正→...」を繰り返して、設計した通りの形にしていき、今に至ります。ここまででちょうど夏休みが終わる9月末となりました。(もちろん、この後、テストしていくうちに安定的に運用できない部分が見つかり、順次修正していくのですが。)
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こうして見てみると、当たり前のシステム開発のフローを述べているだけですが、なにごとも初めてのことをするのには何かとハードルが高いものですよね。実際、上記の内容だけ見るとサクサク作っていけたように見えますが、何回も打つ手がなくなって途方に暮れていました(笑)そのようなときは、知り合いのエンジニアの方や、助教の先生方に助けていただき、なんとか切り抜けて行きました。基本は個人プレイなのですが、どうしようもなくなった時に、周りの知識と経験を持った方々の存在は大きかったです。やはり最後はGoogle先生よりもリアルな先生にお世話になりました。
と、いうことで、開発を終えて、これからこのWebアプリをもって、再度、夏合宿で訪れた島根県隠岐郡海士町に行ってまいります。このシステムが、高校生の皆さんのより質の高い学びにつながればと思っています。
さて、次回は第3回、M2池田さんです。
2014.10.24
山内が運営委員をつとめているKALSを管理する東京大学教養学部附属教養教育高度化機構でアクティブラーニング部門特任准教授もしくは特任講師を募集しています。アクティブラーニングに関する研究教育業務にご関心をお持ちの方は、下記のリンクをご覧ください。
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/employment/20141024111357.html
2014.10.16
皆様いかがお過ごしでしょうか.
M2の吉川遼です.
さて,今回からの山内研ブログは「山内研メンバーの夏休みの過ごし方」というテーマで,7人それぞれが授業,研究,実践,学会や合宿など様々な角度から自分たちの夏休み中の生活や研究の進め方について書いて参ります.
僭越ではありますが,1回目の今週は吉川遼が担当致します.
さて,山内研の夏学期ゼミは7月最終週に終わってしまうため,冬学期ゼミの始まる10月第1週まではゼミがありません.
もちろん,やるべきことがないかといえば,むしろ学期中に比べると忙しいのではないかと思うくらいです.
例えばM1であれば,
◦夏合宿の準備,宿の手配,先方とのスケジュール調整
◦学際情報学府講義「文化・人間情報学研究法Ⅲ」でのワークショップ企画・実践
◦その他「学際情報学概論Ⅱ」などグループワーク
M2やDであれば
◦日本教育工学会全国大会で発表するための原稿・ポスター作成
◦研究のプレ実践,システム開発
◦実験参加者募集,実践先との交渉
が主なイベントでしょうか.
これに加え,研究室の学生は夏合宿で発表する学者についてまとめたり...,と「夏休み」という字面とは裏腹に,課題やミーティングであっという間に時間が過ぎ去り,Facebookにアップロードされた海や花火やバーベキューの写真を横目に,大学内で課題に忙殺されていたら10月...と,時の流れに精気が失われる大学院生も少なくありません.
さて,このように毎週定期的に行われていたゼミ発表がなくなり,様々な課題をこなす必要がある夏休みにおいては,どのように自分の研究を進めていくのか,すなわち停滞せずにいられるかが鍵となってきます.
特にM2の昨年や3年目になる今年度に関して言えば,JSETでの発表や修論を見据えた進捗が求められるため,密に研究のご相談をさせてもらっています.
僕はとてもスケジューリングが下手な学生で,生活にバッファが持てないために,何かイレギュラーな事が入ってしまうとすぐ頭がパンクしてしまい,方向性を見失いがちです.
しかし,そうも言ってられない時期ではあるので,なんとかバッファ不足によるパンクを防ぐために,現在ファシリテーターとして研究のアドバイスを頂いている池尻さんに,この夏休みに入ってからは週に1回の頻度で研究の相談をさせていただいております.このペースは通常月1-2回で研究の相談を行っている学期中と比べると倍近い回数です.
ロジックの微妙な軌道修正や開発コンテンツの中身に関する本質的な議論であったり,プレ時にどのポイントを見て改善に繋げるか,など具体的で細やかなアドバイスを頂いているお陰もあり,千鳥足の牛歩ではあるのですが,何とか自分の方向性を道中見失わずに次のステップへと進むことが出来ていると感じています.
また,僕の場合は新しいデバイスを組み合わせて何かシステムを開発する,という技術ドリブンな側面もあるため,開発を進めていく中で様々な制約が生じる場合もあります.そのような場合に研究の方向性と照らしあわせつつ,ある種の最大公約数的な落としどころを見つけなくてはならないのですが,頻繁に議論を重ねることで,開発が停滞せずに済む,という利点はあると思います.
もちろん,頻繁な進捗報告や研究相談がどの人のどの場面においても良いことであるとは限りませんし,やみくもに研究の進捗を報告しても,新たな問題点が生じていない限りは,あまり建設的な議論になるとも思えません.
初期の先行文献レビューの時期や,フィールドワークやプレ実践などを実施している場合には,ある程度回数を重ねてそれなりにデータが集まり,分析できてから報告することが望ましいと思いますが,今回の僕のように新しいデバイスを用いつつ何かを開発するといった,未知数が多い場合にはこのような形がよいのかもしれません.
お忙しい中,毎回ご相談に応じてくださる池尻さんには本当に感謝しきりです.
しかし裏を返せばそれだけ僕の進捗が危機的状況であるということなので,研究以外のあれこれに気を取られずに,他の優秀な研究室のメンバーを見習って,早く開発を終わらせ,ある程度形にできればと思います.
次回はM2の青木くんです.一体どんな夏休みを過ごされたのでしょうか.お楽しみに.
【吉川遼】
2014.10.14
パシフィコ横浜で開催される図書館総合展でフォーラム「オープンエデュケーションと図書館 オンライン時代における対面学習の価値」に登壇し、MOOCと図書館の関係について考えます。ぜひお越し下さい。
会場 : 第3会場
日時 : 11月7日(金)
時間 : 15:30~17:00
主催 : 株式会社NTTドコモ/企画・協力:アカデミック・リソース・ガイド株式会社
フォーラムの内容
米国を中心に始まったMOOC(Massive Open Online Courses)は、誰でもどこでも自由に学習でき、学習環境を変える可能性を秘めています。国内でもサービスが開始され、国内外で動向が注目されています。オンラインでの学習が中心となるMOOCですが、「反転学習」をはじめとした、対面での学習も重視されています。また、海外のみならず国内でも、図書館で受講環境を提供する動きもあります。図書館での導入は、デジタルデバイドや地方における教育格差の解消も期待されています。本フォーラムでは、図書館でMOOCの受講環境を提供する意義、これからのオンライン学習における対面学習の価値を議論します。
※事前申込はありません。当日先着順での受付となります。
発表者:
講師:山内祐平(東京大学大学院情報学環 准教授)
講師:下吹越かおる(指宿市立指宿図書館 館長)
講師:河瀬裕子(くまもと森都心プラザ図書館 副館長)
講師:NTTドコモ担当者
対象者:
公共図書館関係者
大学・短大・高専図書館関係者
小・中・高学校図書館関係者
その他の行政関係者
【山内 祐平】
2014.10.12
みなさま、こんにちは。修士2年の中村絵里です。
秋の夜長。
夜ごと庭から流れてくる虫の声が、このところの急な冷え込みのためか、元気がなくなってきたように感じます。
今年は台風の勢いがすさまじいですね。電車が動かず外に出られない日こそ、集中して研究に取り組みたいと思います(が、子ども達の小学校が休業になると、家の中の雑念もすさまじいです、、、)
【学者紹介】シリーズ最終回となる今回は、Jerome S. Bruner (1915年~)についてご紹介します。
ジェローム S. ブルーナーは、米国の心理学者で、認知心理学、教育心理学、教育哲学などに多大な貢献をしています。ブルーナーの自伝『心を探して』によると、彼の子ども時代は、将来心理学者になる道とは、まるでつながっていなかったとあります。生まれながらに視覚障害があり、2歳を過ぎてから手術を受けるまでほとんど盲目だった彼は、その後、視覚を得てからも眼鏡の視野の狭さを補完するために、頭を動かさなくてはならず、その様子がいかにも用心深く見られたのではないか、と述べています。少年時代を利発で快活だったと回顧するものの10代以前の学業成績には、将来学者になることを予想させるようなことは何もなかったそうです。これは、後に彼に多大な影響を与えることになる、早熟で非凡な才能を発揮していたピアジェやヴィゴツキーとは対照的です。
ブルーナーは心理学者の道に「たまたま出くわした」と述べており、デューク大学からハーバード大学大学院へと進学する過程で、心理学の世界に傾倒していったことが窺えます。
デューク大の心理学科では、「学習とは受動的かつ漸次的なもので、同じものを映し出していくようなものなのか、もしくは、段階的で不連続で、仮説によって進むものなのか」という議論がおこりました。ブルーナーは、前者の意見に反対し、学習を受動的で個別的な行為とはみなさず、学習者を社会的に位置づけられている存在だとみなしました。彼は、知覚を一種の思考ないしは問題解決として研究し続け、心は文化への参加を通じてのみ最大限の可能性に達することができると考えました。
ブルーナーは教育に対する「心理-文化的アプローチ」として、次の原則を挙げています。
1 見通しの原則
2 制約の原則
3 構成主義の原則
4 相互作用の原則
5 外在化の原則
6 道具主義
7 制度の原則
8 アイデンティティと自尊心の原則
9 物語の原則
このうち、相互作用の原則(interactional tenet)については、ヴィゴツキーの最近接発達領域(Zone of Proximal Development)から多大な示唆を得て、幼児の学びをサポートする上で、経験あるtutoringによる介助が重要な役割を果たすことを示しました。このプロセスをブルーナーは足場がけ(scaffolding)と定義し、David Wood、Gail Rossと共にThe Role of Tutoring in Problem Solving(1976)を発表し、3、4、5歳児がブロックをピラミッド型に積み上げる際におとなが介入する段階を分析しています。これによって、彼はデューク大で巻きおこっていた議論の答え、すなわち「学習が段階的なもので、他者との社会的・文化的文脈から醸成されていくものだ」ということを、導き出していたともいえます。
ブルーナーの乳幼児期の発達に関する研究は、米国の教育プログラムにも影響を与えています。貧困層やマイノリティの子ども達が、初等教育の初年次を脱落することなくスムーズにスタートできるようにするために取り組まれたヘッド・スタート・プログラムは、ブルーナーの研究に起因しています。このプログラムは、イギリスで女性が労働力として駆り出された社会背景の中、手ごろな価格の保育を保障するために導入されたシュア・スタート・プログラムを参考として、1960年代半ばに、米国でジョンソン大統領が開始したものです。この政策では、貧困層の家族への包括的サービスを提供し、子どもの就学前の読書や基礎的な計算などに焦点をあてた発達支援を行っています。同プログラムには、一定の効果(例えば、プログラム参加者の犯罪率減、退学率減、社会福祉給付の受給減等)が見られましたが、ブルーナーは、対象となる子どもの欠損を補償するという概念に懸念を示していました。しかしながら、研究の重要な知見が得られたことも確かです。プログラムでは、親やおとなが、子ども達と一緒に遊び、彼らと対話し、時には子ども達に主導権を渡すことが、その後の学校教育で成功するのに役立つと考えられました。つまり、相互作用と自己主導性を通して、子どもの学習や心の発達を促すことが重要だとされたのです。
1960年代に「ジョン・デューイ以来の教育における最も大きな影響をもつ人」として、既に認められていたJ.S.ブルーナー。関心領域は、実験心理学(動物実験)、社会心理学、認知心理学、教育論、教授論、発達心理学、幼児教育論と幅広く、このブログではその一端しかご紹介できていません。人間の心と思考の研究を続け、それらの教育との関わりについて多くの業績を残しているブルーナーについて、さらに知りたい方は、以下の参考文献を読んでみてはいかがでしょうか。
秋の夜長の読書、おすすめです。
<参考文献>
ジェローム・ブルーナー著, 田中一彦訳(1993)心を探して ブルーナー自伝.みすず書房, 東京
ジェローム・ブルーナー著,田中一彦訳(1998)可能世界の心理.みすず書房,東京
J.S.ブルーナー著,鈴木祥蔵・佐藤三郎訳(1963)教育の過程. 岩波書店,東京
サンドラ・シュミット著,野村和訳(2014)幼児教育入門―ブルーナーに学ぶ.明石書店,東京
佐藤三郎編著(1968)ブルーナー入門.明治図書新書,東京
【中村絵里】
2014.10.07
東大1・2年生を対象に反転授業形式の集中講義「Visualizing Tokyo」を開講します。東京の歴史と現代を可視化する映像作品を制作する授業です。10月10日(金)にオリエンテーションします。詳しくは下記のページをご覧ください。
http://flit.iii.u-tokyo.ac.jp/sp/visualizingtokyo/index.html
【山内 祐平】