2007.05.31
6月4日(月)から、福武ホール仮囲い壁を用いたアートイベント "Thikning Forest"が
はじまります。
工事中景:かんがえる森 Thinking Forest プロジェクトは、現在建設中の情報学環の新校舎「福武ホール」の建設現場の周囲、全長約160mにも及ぶ仮囲いを活用して、学環/学府の大学院生・教員・関係者全員が参加する一連のアートプロジェクトです。
6月4日(月)から一週間は、インタラクティブアートを工事壁で展開するi-forestが展開されます。また、6月18日からは、壁面全体に研究キーワードを「森」をメタファーに可視化するk-forestが始まります。(秋まで)
ぜひ、おいでください。
場所など、詳しい情報は、こちらからどうぞ。
2007.05.24
『複雑さを生きる』 安富歩 著 紀伊國屋書店,2006
相変わらず、複雑系「ブーム」は続いているようだ。
この流れは、教育研究の世界においても見られる。昨年の全米教育学会(AERA)においても「複雑系」のセッションが設けられ、「複雑系をどのように教えるか」、また「複雑系」というものをどのように教育研究に活かすか、という2点が熱心に議論されていたという。
私自身、ワークショップの研究をしているが、実践の中で起こっていることはまさに複雑であり、完全な予測のもとに学習プログラムをデザインすることは不可能であることを痛感させられる。しかしながら、何の予測も立てないのでは、これまた、実践は崩壊する。教育における理論と実践について考えていく上で、今後「複雑系科学」は一つの拠り所となるかもしれないと思う。
もちろん、「複雑系科学」は学問であり、単なる事象の“複雑さ”を指すものではない。今回取り上げた『複雑さを生きる』は、この点がきっちりとふまえられており、巷に出回るブーム本とは異なり、非常に濃い内容である。
著者である安富歩氏は、東京大学東洋文化研究所の教員。学際情報学府にて、現在授業も持っている。「ハラスメント」という概念から社会・経済・歴史・思想などを再構成するという「冒険」を行っている、と自ら述べる。東大での講義では、「その冒険の実況中継を行う」とし、用意したカリキュラムをシラバスに掲げながらも、「但し、『事前に計画を決めて、その通りに実践する、という思想がそもそも間違っている』ことを明らかにするのがこの授業の主張点なので、ここに掲げたテーマが実際に話されるとは限らない」と、チャーミングな記述をしている。
数理的手法にも明るい安富氏は、複雑系科学の知見を応用し、秩序の無根拠に対して、それをシステムの問題と捉えた上で、実践的に対処する態度と技法を探求しようとしている。困難な数式による目くらましもなく、複雑系初学者には最適の一冊だろう。文章も明解であり、非常に読みやすい。
ベイトソン、M・ポラニー、ルーマンといった、この分野の基礎文献に加え、リデル=ハートや孫子といった意外なテクストや、野球や鍼治療など卑近な実例もあり、言及範囲は学際的である。これら、一見収束しないかのように見える議論も、全体の構成としてみると、人文社会科学に対する複雑系科学の導入から始まって徐々に人間および社会のシステムへの応用の手続きへと広がっており、その主張には一貫性が感じられる。
黄土高原における実践活動など、多方面で活動する安富氏における現時点での問題意識が表出された一書。著者の今後の展開にも注目していきたい。
2007.05.20
5月19日(土)に大学院入試説明会が開かれました。
恒例の研究室案内イベント「学環・学府めぐり」は立錐の余地もないような状態で、たくさんの方においでいただき大盛況でした。ご来場いただいた受験希望のみなさん、お手伝いいただいた大学院生のみなさん、ありがとうございました。
今年の「学環・学府めぐり」では、山内研究室・中原研究室・ベネッセ先端教育技術学講座・マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門をまとめて、ALT@UTとして展示しました。
ALT@UT (Alliance for Learning Technology at the University of Tokyo) は、新しい学びの形を構想し、創造するために集まった、東京大学に籍をおく研究者と学生の実践共同体です。
幅広い研究者が集まっていますので、様々な研究関心に対応できます。また、必要なスキルを獲得できる補完学習プログラムも提供します。
http://www.altut.org/index.html
入試説明会では、十分に話しができなかった方や、当日所用でおいでになれなかった方は、研究室訪問していただければ説明させていただきますので、こちらまでご連絡ください。
2007.05.17
『インターネットの子どもたち 』 三宅 なほみ (著) 岩波書店 (1997/07)
インターネットやコンピュータの普及により、子どもたちの学習や遊びやコミュニケーションがどのように変化していくのか、この研究室を志望される方の中にはそのような興味をお持ちになる方もいらっしゃるかと思います。
この書は、当時のインターネット最前線にいる子どもたちの諸活動を紹介するとともに、「自己表現のための創造的メディアとしてのコンピュータの可能性」について取り上げています。この書で書かれた「インターネットの関わり中で子どもがどのように学ぶか」についての問いは、10年経った今でも変わりません。大変読みやすく、入門書としてお薦めします。
例えば「第五章インターネットで英語を学べるか」では、インターネットによる英語教育の支援を考えるために、英語教育の「真実性」問うことから始めています。学校教育現場で行われている英語教育が、最終的に受験等の試験で評価される場合、教える知識や技能はその目標を満たすものになってしまいます。つまり、将来実際に英語を使う場面で必要とされる知識や技能とは異なります。そこで、真実性を持たせるためにインターネットの役割が期待されます。インターネット上では、世界の専門家たちとのつながりが持てるわけで、自分が「知りたいこと・知らせたいこと」のコミュニケーションに英語を使うことができるわけです。
さらに、この書が大変面白いのは、各々で学んだ経験の結果を比較しているところです。両者の差は、単純に点数の上下というものではありませんでした。影響が出たのはむしろ穴埋め問題や他人が書いた手紙を読みやすく直す問題でした。ものすごくテスト的な問題にみえますが、実はこれが実際のコミュニケーション能力を反映するそうです。日常的な会話でも聞き取れない言葉を自分で生めることが出来れば会話が成立しますし、それは相当の言語使用力があることを意味するそうです。その他の結果も興味深いものでしたが、ここでは、両者を比較する際の評価の難しさについても言及していました。
人工物を用いて「学び」を支援するためには、本来の「学び」の真実性を問い、新たな「学び」を提案することになるのだと思います。そして、提案した「学び」が引き起こす変化がいかなるものであるのか、さらに問い続ける姿勢が大切なわけです。この書で書かれた一連の流れは、対象者や支援形態も全く異なる私の修士における開発研究にも重なることが多々ありました。
これからの子どもが必要なものとして、未知を創造する力について次のように言及しています。「ものを知っていること」から「どこに行ったらどのようなことを知ることができるかを知ってること」について、また、「問題を解けること」より「問題を解けるためにはそもそも何をしたらよさそうかを知っていること」、「何が問題かを見つけ出すこと」、さらに「問題そのものを作り出すこと」が必要なわけです。そのためには一人で学ぶことには限界がある。新たな学びの可能性をインターネットを通じた協調活動へ託してます。本書は、平易な文章で書かれ大変読みやすいのですが、とーっても奥深いです。
[佐藤朝美]
2007.05.10
この本は、教育・教育工学の専門書では、ありません。
教育とは一見、関連性のないように見える対談集です。
また、一方で、私たちの生活と密接に関係している事柄を扱っています。
教育や学習の視点からではなく、社会やテクノロジーに関して語られている
ものです。
教育とテクノロジーは、現在、どのような歴史的、社会的文脈、政治的文脈、
経済的文脈に位置づけられているのか。
教育はどこから来て、どこへ行こうとしているのか。
それを必ずしも教育に一見、親和性のないように見える、他の領域の知見と
照らし合わせたり、比較して、眺めてみせることが出来るのが、
学際情報学府で学習や教育を研究する「醍醐味」のひとつだと言えます。
あえて異なる分野の視点から教育を冷静に見つめ、自分なりの世界観を思い描くことは、
学際情報学府において教育や学習を語る上で、また、実践やシステムを開発して
いく上で、実は非常に大切な営みなのではないか、と個人的には、思っています。
非常に難しいことですが。
また、これらの対談の論者の学問的背景と、例えば山内研究室で読まれる、
社会文化歴史的アプローチの心理学研究などのルーツと思いがけないところで
接点を感じられるという意味でも少しお得です。
様々な分野の知見は、色んな所でひっそり繋がっているのです。
「受験生にお勧めの一冊」という実用的な意味では、以下の3点を意識しました。
情報学環からは西垣通先生や水越伸先生がゲストとして参加されています。
1)対談集ですので、人文社会的なフレーバーのする本に馴染みのない方に
とっては、「入門書を手に取る前の」良い切っ掛けとなるのではないでしょうか。
例えば、ここから西垣通先生の『こころの情報学』や水越伸先生の『メディア
・ビオトープ』、『コミュナルなケータイ』などを読む。
更に、教育・学習ではない、情報学環の先生方の本を読んでみる。
※情報学環の先生方のパンフレットを携えていると良いかも知れません。
2)学際情報学府では、入学後に色んな領域の、様々なバックグラウンドを持つ
方々と出会います。その際に教育・学習に閉じずにディスカッションできるための
レッスンの一つ。
3)自分の研究(教育)と社会、また他領域との距離をはかるための、
複数の補助線うちの一つ。
学際といっても色んなアプローチがありますので、他にも色んな領域の視点が
あるはずです。
さて、あなたはどこから来て、どこへ行こうとしているのですか?
あなたの研究はどんな未来に繋がっているのですか?
2007.05.01
連休明けから、山内が設計を担当した新しい教室・駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)の運用が始まります。
(教養学部・情報学環・大学総合教育研究センターのジョイントプロジェクトです。)
KALSは、東京大学初のIT支援型協調学習スタジオです。定員40名で、2人~6人までのグループワークにフレキシブルに対応するまが玉型のテーブル(コクヨと共同開発)を備え、40台のタブレットPC (Lenovo Thinkpad X60 Tablet)をワゴンから自由に引き出して使えるようになっています。
プロジェクタは、前後左右4面ワイヤレスで提示できるようになっており、前面はガラス黒板・インタラクティブボードとして利用できます。
これから、この教室でどのような学びが展開されていくのか、今から楽しみです。
[山内祐平]