2015.06.28
こんにちは。世間はすっかり梅雨ですね。
雨が降ると傘をささなくてはいけなくて、私の自由が少し奪われるので、梅雨はあまり好きではありません。
かといって、うだるような暑さが続く夏がきて欲しいかと聞かれれば悩ましいものですね。
そんなことを考えても季節は巡りめぐるものなので、おとなしく時の流れに身を任せたいと思います。
さて、前回にひきつづき、【最近気になっているキーワード】というテーマでお送りしています、今回のブログは協同学習(cooperative learning)です。
21世紀スキルの登場や、2020年度の入試改革に向け、「思考力、判断力、表現力」の重要性がましており、そのような社会の流れをうけ、グループ学習に関連する理論に注目が集まっています。
--協同学習(cooperative learning)--
Johnson & Johnson (1994)は協同学習を以下のように定義しています。
「学習者自身と成員相互の学習を最大化するため共に学習する小集団の教授的活用である。」
協同学習においては、共通の目的達成のために、共に作業し、自分だけでなくグループメンバー全員にとって利益のある結果を追求することを特徴としています。
またジョンソンは、協同学習を成立させる基本的な5つの構成要素を示しています。
⑴肯定的な相互依存関係(仲間が成功しない限り自分も成功しないという構造にあること)
⑵対面での促進的な相互作用
⑶個人の責任(個々人が課題達成に対し努力する必要があることを認識していること)
⑷社会的スキル(対人・集団に必要なコミュニケーション能力の必要)
⑸グループプロセスの振り返り(グループのやり取りの中で、良かったこと改善した方がいいことなどを学習者自身が振り返る機会を与えること)
現在までに、膨大な数の協同学習に関する研究の蓄積がありますが、それらの研究の学習効果は主に3つに分類されます。
⑴学業達成
⑵対人関係
⑶個人の心理的適応・社会的スキルの獲得
学業達成の効果には、成績の向上だけでなく、批判的思考やメタ認知的思考などの高次な能力も含まれます。
また、協同学習の特徴として、他者と関わり合いながら学ぶことで、積極的な対人関係が築かれることや、自己肯定感が向上するなど、テストの点数などいわゆる"学習成果"と呼ばれるもの以外にも、重きが置かれていることがあげられます。
似たような用語に協調学習(collaborative learning)があり、両者の違いを説明する議論が展開されています。
協調学習の中心的な考えは社会的構成主義を背景としており、伝統的な学習観では、教師から生徒へ一方的に与えられるものとされていた知識を、学習者の中から創られるものであると捉えていることが特徴です。
Paniz(1996)は、協調は相互作用の哲学であり、また個人の生き方であるとし、協同をグループで共に作業することを通して最終成果物や目標の達成を促進する構造化された相互作用だと区別しています。
また、Kirscher (2001)は、協同学習を、協調学習よりも教師によって統制され、構造化された相互作用過程であると述べている一方で、両者の違いよりも共通項の方が多いことを指摘しています。
・学習は能動的に行われる。
・教師はステージにいる賢者ではなく、ファシリテーターである。
・教えることと学習することは経験を共有すること。
・生徒は、小集団での活動に従事する。
・生徒は学習に責任を追わなければならない。
・仮定や思考過程を振り返るように刺激される。
・社会・集団技能が合意形成のやりとりを通して発達する。
日本においては、cooperative learningとcollaborative learningにあたる訳語は、学問領域や研究者の意図によって異なりますが、学習科学の領域では、cooperative learningを「協同学習」、collaborative learningを協調学習と訳しています。
認知科学の本では、collaborative learningを「協同学習」と訳されているので、とても混乱しやすいですね。
協同学習、協調学習の違いや共通点については、私自身まだまだ整理が必要だと、このブログを書いていながら改めて感じました。
次回は松山さんです。何を取り上げてくれるのか楽しみですね。
それでは、お弁当が腐りやすい季節になっていますので、みなさんお気をつけください。
逆瀬川
【参考文献】
Kirschner, P. A. (2001). Using integrated electronic environments for collaborative teaching/learning. Learning and Instruction, 10,
Kreijns, K., Kirschner, P. A., & Jochems, W. (2003). Identifying the pitfalls for social interaction in computer-supported collaborative learning environments: a review of the research. Computers in human behavior, 19(3)
Panitz, T. (1999). Collaborative versus Cooperative Learning: A Comparison of the Two Concepts Which Will Help Us Understand the Underlying Nature of Interactive Learning.
David W. Johnson, Roger T. Johnson, Edythe J. Holubec. (1994)『The New Circles of Learning : Cooperation in the Classroom and School』ASCD BOOK .
2015.06.21
東京も梅雨入りしましたね。
洗濯物を外に干せなくて悲しい気分が続くM2の青木翔子です。
今回のブログテーマは、最近気になっているキーワード、ということで、私からは、21世紀型スキルを簡単に紹介したいと思います。
「21世紀型スキル」とは、ACT21S「21世紀型スキルのための教育と評価プロジェクト」(assessment & teaching of 21st century skills, ACT21S)にて定義されている言葉です。
21世紀は、グローバル化・高度情報化が進展し、知識・情報・技術が人の活動を動かしていくような知識基盤社会と呼ばれます。
未知の状況や、答えのない課題に向き合うときには、既存の知識や技術だけでは通用しません。適切な問いを立てたり、情報を収集したり、新しい技術や必要な資源を手に入れたりしながら、対処し、新しいものを創造していくことが求められます。さらに、そういった活動では、他者と協力しあうことが必要不可欠になっていくでしょう。
このように、工業中心から知識基盤社会へと転換している現代において、求められる能力像が変わってきているなかで、教育のあり方とその教育をどのように評価していくべきかを考えるプロジェクトが、ACT21Sです。
21世紀型スキルでは(1)思考の方法、(2)働く方法、(3)働くためのツール、(4)世界の中で生きるに分類され、10個のスキルを定義しています。
(1)思考の方法
創造性とイノベーション
批判的思考、問題解決、意思決定
学び方の学習、メタ認知
(2)働く方法
コミュニケーション
コラボレーション(チームワーク)
(3)働くためのツール
情報リテラシー
ICTリテラシー
(4)世界の中で生きる
地域とグローバルのよい市民であること
人生のキャリア発達
個人の責任と社会的責任
そして、さらに、それらは、知識、技能、態度のカテゴリから整理されます。
知識:10個のスキルそれぞれに要求される特定の知識や理解のために必要な内容
技能:児童生徒の能力・スキル・プロセス
態度・価値・倫理:21世紀型スキルの一つひとつに関係するような児童生徒の行動や適性
また、このACT21Sプロジェクト以外にも、世界中で知識や技能だけでなく、人間の全体的な能力を定義し、教育目標を設計しようとする動きが広がってきています。
新しい能力を捉えようとする言葉には、key、generic, general, 21st centuryとcompetencies、skills, capabilitiesなどを組み合わせたものが多いようです。ここで、国立教育政策研究所(2013)報告書の図を掲載しておきます。
このように、世界の動きを概観すると、基礎的なリテラシー、認知スキル、社会スキルの3つが含まれていることがわかると述べられています。(日本の動きも踏まえ、この報告書では「21世紀型能力」の提案もなされています。)
こういったスキルや教育目標などにはいろいろな感想があるかと存じます。しかしながら、時代や技術が劇的に変わっている・そしてこれからも変わっていくのも事実です。そして、どんなに時代が変わっても、変わらず教育が目指していくべきものもあると思います。
今度、教育とはどのような役割を担っていき、どのような形態になっていくのでしょうか。そんなことを考えるひとつの重要な資材が、21世紀型の能力像だと思います。
同時に、ここでは深く触れませんでしたが、評価のあり方については私たちはもっと慎重に考える必要があるとも思います。
まだまだ私も勉強不足ですので、ちゃんと勉強していきたいと思います。
では、このへんで失礼いたします。
【青木翔子】
---------------
*参考文献
Griffin. P, McGaw. B, Care. E(2012)Assessment and Teaching of 21st century Skills, Springer Netherlands.(=2014,三宅なほみ監訳、益川弘如・望月俊男編訳『21世紀型スキルーー学びと評価の新たなかたち』北大路書房)
国立教育政策研究所(2013年3月)「社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理(教育課程の編成に関する基礎的研究 報告書5)」『平成24年度 プロジェクト研究調査研究報告書』
2015.06.11
みなさんこんにちは。
【最近気になっているキーワード】シリーズ第1回目の今日は、私M2の池田がお送りします。
私が昨今気になっているキーワードは、インフォーマル学習です。
普段、日々を過ごしている中で、授業で何かを習ったりしたわけではないけれど、「あー、勉強になったなー」「学んだなー」と感じた経験はありませんか?インフォーマル学習とは、おそらく、そんなときに起きている学びです。
しっかりした定義を持ってくると、インフォーマル学習とは、フォーマル学習(学校での授業など、組織化され、構造化された学習)と違い、「仕事、家庭生活、余暇に関連した日常の活動の結果としての学習(0ECD 2011)」のことです。
例えば、サークル活動の中で人間関係のトラブルがおきて、それに対応して行くなかで、知識やスキルが身に付いた場合、サークル活動の中でインフォーマルな学びが起きていたということができるでしょう。
フォーマル学習と、インフォーマル学習の違いはOECD(2011)により、下図のようにまとめられています。
※OECD(2011)を参考に筆者が作成
フォーマル学習とインフォーマル学習の間にはノンフォーマル学習という学習も存在します。ノンフォーマル学習とは「学習(学習目標、学習時間、もしくは学習支援の観点から)としては明確にデザインされていないが、計画された活動に埋め込まれた学習(OECD 2011)」のことで、ワークショップなどが、それにあたります。
このようにフォーマル学習と、インフォーマル学習は学習の提供者等によって分類されています。しかし、これらの学習が全く持って別ものというわけではありません。昨今では、フォーマルな学びとインフォーマルな学びのつながりに着眼した研究も見られます。
例えば、アメリカの研究では、家庭での数学的経験(くだものの数を数えるなど)が、後に数学を学ぶ際の理解を助けることが明らかにされています(Bevan et al. 2013)。また、日本の大学生研究においても、授業外の活動において、授業で学んだ知識を使ったり、活動に参加する中で、もっと学びたいと思った授業を、学生が履修するようになることが明らかにされています(河井 2012)。
MOOC等オンライン学習やワークショップ、企業やNPOが企画する数々の参加型学習などの広まりと共に、フォーマルでない学びの場もたくさん溢れる世の中になりました。山内先生(2013)が言うように、フォーマルな学習と、インフォーマルな学習がシームレスにつながっていく中で、学習者ひとりひとりが持つ可能性が最大限に発揮できる学習環境が構成されていくと良いですね。
参考文献
Bevan, B., Philip, B., Stevens, R., & Razfar, A. (2013). Lost opportunities : learning in out of school time. Springer.
河井亨. (2012). 授業と授業外をつなぐ学生の学習ダイナミクスの研究 : WAVOCプロジェクト参加学生へのインタビュー調査の分析から. 教育方法学研究 : 日本教育方法学会紀要, 37, 1-12.
OECD(2011). 学習成果の認証と評価 : 働くための知識・スキル・能力の可視化. 明石書店.
山内祐平. (2013). 教育工学とインフォーマル学習(<特集>情報化社会におけるインフォーマルラーニング). 日本教育工学会論文誌, 37(3), 187-195.
【池田めぐみ】
2015.06.04
みなさまこんにちは!
今週の【今年度の研究計画】、今年から再入学を果たしたD3佐藤(朝)が担当いたします。
4月から再び学生生活がスタートし、新たなゼミメンバーとも少しずつ仲良くなれ、ワクワク楽しい気分もありつつ、あっという間の2か月です。が、本職の大学業務も含め、山積みのタスクに追われ、まさに体力勝負の日々を送ってます(^^;;
■テーマ■
三項関係に着目した幼児の物語行為を支援する学習環境デザインに関する研究
私の研究テーマは、「話す力」に着目するところからはじまりました。
M1当時、小学校入学直後に息子が激突した「言葉の壁」[*]、私自身が10年ぶりに学び直しで修士課程に入って体験した学習観のギャップ[**]等々、親子ともに「話す」ということが課題になっていたからです。
[*]幼稚園での「身近な人との気持ちの共有を大切にするやり取り」から、小学校での「1対多で他者へ考えを伝える」という状況へと変化し、幼小の隔たりは大きいと言われています。
[**]黙って教員の話を聞けば良かった私がこれまで受けてきた教育から一変、語らなければ始まらないという文化に衝撃を受けました・・・
そんなこんなで修士から博士課程にかけて2つの研究を行いました。
■「幼児の物語行為を支援するソフトウェアの開発」
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006792153/
■「幼児のNarrative Skill 習得を促す親の語りの引き出しの向上を支援するシステムの開発.」
http://ci.nii.ac.jp/naid/110007520570/
今年度は、この2つの論文をまとめ、「博士論文」として仕上げることが目標です。
ゼミでは博士論文を「合体ロボ」のメタファーで説明することがあります。
研究1と2をどのように合体させていくか・・・合体させるために、現在私には2つの課題が立ちはだかっています。
まず1つ目は、博士研究で取り扱う発達支援が、社会・文化・歴史的アプローチの文脈でどのように位置づくのか?もう1つは、親子支援が主に母子支援となっていることについて、ジェンダーの観点からどのように説明がつくのか?についてです。
幼児教育での言葉の取り扱い、さらには言葉の発達に対する親や教員の意識には文化差があります。そこで日本で発達支援を行う私の博士研究が、他国の発達支援研究の中でどのように位置づくのかについて検討しています。
また、先行研究で当然のように扱われていた「親子=母子」を引き継いだ私の研究において、ジェンダーの視点からはどのように認識すべきなのか、その解釈を述べようとしています。
どちらもとても大きな課題で、右往左往、暗中模索、五里霧中な感じで取り組んでいます。
特に研究室の先輩が仰っていたことですが、業務の合間に思考を研究モードに切り替えるのが本当に難しく、いや元来浅はかということもあるのですが、深く考えるためにも山に籠りたい衝動に駆られてます。
「合体ロボ」は、無理やりつなげも動かなければ意味が無いとも言われてます。
けれど、うまく動けば単体より最強ですよね・・・今年度は、指導教官・助教の方々・ゼミメンバーの力を借りて、少しでも強いロボになるよう粛々と取り組んでいきたいと思います。
【佐藤朝美】