2013.10.19
こんにちは!M2の梶浦美咲です。
もう10月も後半にさしかかり、修論が佳境に入ってきている今日この頃、私は開発したシステムの評価実験を丁度昨日行ったところです。
そしてブログの方は今週から新たなテーマ【参考になった研究の方法論】に切り替わります。
研究方法に関する書籍や、研究方法を参考にしている(したい)論文などをご紹介していきます♪
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まず第1回目は研究方法に関する書籍ということで、IBM SPSS Statisticsを使った統計分析をする際に参考になりそうな本をご紹介しようと思います!
「SPSSによるやさしい統計学」(岸学 2012年)です。
実験や調査をしてデータに関係性があるか、差があるかの統計分析をする際に役立つツールがSPSSです。
フリーソフトであるRでも統計分析は可能ですが、SPSSの方が直感的に分かりやすく慣れればとても使いやすいツールだと思います。
しかし慣れないとどのように操作したら良いのか、なかなか分かり辛いと思うのでこのような本を読みながら分析すると良いのではないでしょうか。
私も初めてSPSSに触ったとき、どのようにしたら良いのか分かりませんでした...(笑)
この「SPSSによるやさしい統計学」では多変量解析(共分散構造分析、因子分析、重回帰分析など)を除いた一通りの分析方法が紹介されています。
実際に架空のサンプルデータを使って、データの統計分析の手順である「尺度の確定」⇒「記述統計」⇒「変数の変換」⇒「推測統計」の流れに沿ってSPSSの操作が学べます。ところどころ実際のSPSSの操作画面が出てくるので分かりやすいです。
また、分析する上で出てきた統計学の用語についての解説も説明されているので統計学の勉強にもなります。
ちゃんと各用語を説明する数式まで紹介されています。
一応統計分析の手順を紹介しておきます。
①尺度の確定...各変数を名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比尺度に分類する。
②記述統計...データの様子をわかりやすく表現する。度数分布を描く、代表値(平均値、中央値など)を求める、散布度(標準偏差、四分位偏差など)を求めるなどの方法がある。
③変数の変換...必要に応じてデータを変換する。データをもとに対象者をグループ分けする、異なる平均値や標準偏差になっている得点同士を比較する、度数分布の中での位置をとらえやすくするなど。
④推測統計...「関係があるか」「差があるか」の分析をして、標本から母集団の様子を明らかにし、研究を通じて知りたかった仮説や目的に答える。
以上のような手順で分析をしていきます。
また、調査や実験に使用する質問紙を作成する際に考えるべき評定法の程度量表現用語の尺度(すごく、非常に、すこし、あまり、ぜんぜん等)が与える印象に関することも説明されています。個人的には大学生、中学生、小学生など被験者に応じて各用語が与える印象がどのように違うのか、ということまで説明されていて勉強になりましたし、質問紙を作成する際に役立つと思いました。
分析方法の章では、自分のデータに適合する分析方法の選び方もしっかり説明されています。
データ分析は基本的に「関係があるか」の分析と「差があるか」の分析に分類できます。
「関係があるかの分析」は、対象者が2つ以上の変数で表される特性をどの程度持っているかを示す分析、
「差があるかの分析」は、独立変数(要因)と従属変数があり、独立変数(要因)の値によって従属変数の値がどのように変動するかを示す分析
です。取得したデータの構造に応じて分析方法を選ぶ方法まで紹介されているため、とても役立ちそうです。
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その他、統計を基礎から学ぶのにおすすめなのが早稲田大学人間科学学術院・向後千春研究室が開発したWeb教材、
「ハンバーガー統計学( http://kogolab.chillout.jp/elearn/hamburger/ )」
「アイスクリーム統計学( http://kogolab.chillout.jp/elearn/icecream/index.html )」です。
ハンバーガーショップ、アイスクリーム屋さんにいる、という架空のストーリーに沿って統計学の学習が進んでいきます。
前者ではt検定、分散分析etc.、後者では回帰分析、因子分析etc.が面白く学べます。
書籍版もあるのですが、Excelを使用して学習が進んでいくので、こちらのWebバージョンが使いやすいかと思いました。
また、学部時代に初めて統計学を授業で学んだ際に使用していたのが「ゼロから学ぶ統計解析」(小寺平治 2002年)という本で、
こちらは数式を用いて統計学の専門用語が説明されていて、数式からしっかり統計学を学ぶ場合におすすめできます。
事例に基づいて各分析手法について説明がなされていたため分かりやすかったです。
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私は丁度昨日18日金曜日、開発した講義の聴き方支援システムの評価実験を行ったので、これから実験で得たデータを使って分析を行います。
私の実験は、他者の講義メモ書き込み状況を通知するシステムを使用した実験群・他者の講義メモ書き込み状況を通知しないシステムを使用した統制群の二群で行いました。一要因二水準の被験者間実験でした。
サンプルサイズが10:9でしたのでデータが正規分布に従った際に使用するパラメトリック検定(t検定)は使用せず、正規分布に従う必要のない、ノンパラメトリック検定(マン・ホイットニーのU検定)を使用して両群における有意差検定を行おうと考えています。
どんな結果が出るのかどきどきですが、しっかりデータと向き合いなんとか修論として成果を出したいと思っています!
【梶浦美咲】
2013.10.13
こんにちは、D3の伏木田です。
秋が深まってきたと喜んでいたら、夏日に逆戻りの日々ですね。
前回より、安斎勇樹&伏木田稚子(博士課程3年)から「番外編」として、池尻良平さん(東京大学大学院 情報学環 特任助教)との座談会形式でお送りしていますが、今回はその後編になります。
山内研究室OBである池尻さんは「歴史を現代に応用する学習方法の開発」を博士研究テーマに掲げ、特任助教としてさまざまなプロジェクトに取り組みながら、現在博士論文を執筆中です。実は同世代(1985年生まれ)である3人で、大学院生活を振り返りながら研究についてあれこれと語らいました!
‐やりたいことは朝のうちに
伏木田:助教として研究するのと、博士課程の院生として研究するのと、何か違いはありますか?
池尻:仕事のくる量が違うのは大きいですね。博士課程まではコントロールできていたんだけど、助教になるとガンガン仕事がくるようになったので、コントロールが難しくなってきまして。
安斎:突然くるってこと?
池尻:そう。今日のお昼は余裕があると思って大学に来ても、いっぱいメールがきたり、相談が入ったり、急な仕事が増えるから、確実にこの時間は研究する、っていう時間をつくっておかないといけないですね。仕事が終わった後、例えば夜9:00くらいにカフェに行って、さぁ研究やろうって思ってもしんどい。なので、より朝型になりました。
伏木田:朝は早いんですか?
池尻:早い。大体いつも6:00くらいには起きてます。一応、勤務時間が10:00だから、それまで博論書いたり、自分の研究に関係する本を読んだりとかをやっているけど、1日没頭するのはできなくなってね。博士課程のときに何をやっておけばいいか、っていうことにも関係するけど、Dの頃にがーっと先行研究のレビューをやっていたんですが、今あれを働きながらやるのはしんどいなって思います。
伏木田:すでにできてないです、わたし...。
安斎:同じく(苦笑)。
池尻:だから、海外論文100本レビューとかは、早くやっておいた方がいいよ。
伏木田:池尻さん、いつ頃やってました?
池尻:D2の冬とかじゃない?
安斎:終わっちゃったよ、もう...。
伏木田:時間が戻らない(笑)。
‐仕事と研究を安定して続けていく秘訣
伏木田:モチベーションを保つとか、精神的に安定した状態を保つとか、そういうところでは博士課程の頃も今も変わらないですか?
池尻:うん。僕ね、ストレスあんまり感じないタイプなんだけど、ストレスを感じることは感じます。で、実はうまいこと、ストレスをコントロールする方法があってですね...。
安斎:ほう。
池尻:これをやったら、助教時代もストレスを感じない。博士課程もそれをやっていたから、ストレスを感じなかったっていうのがあって、何かというとですね...。
伏木田:悪徳商法みたい(笑)。
安斎:聞きたい、聞きたい(笑)。
池尻:例えば、刺身7点盛りがあって、僕はホタテが食べたいとします。それで、ホタテを食べたら、僕のストレスはマイナス20%になるわけです。でも、もしアジを食べたら、ストレスがたまる。だから、いかにホタテを食べられる環境にするかが大事なんですよ。
安斎:なるほど。
池尻:例えば、いろんなタスクがあるときは、1ヶ月先のタスクまで全部整理しておいて、今日は本を読みたいなと思ったら本を読みます。今日は博論書きたいなと思ったら書く。淡々と仕事をしたいと思ったらそうする。そうすれば、ほとんどストレスがたまらないんですよ。むしろ、毎回好きなことをやっているから、自己効力感が上がりっぱなしになる。ちゃんと前からタスクを処理しておけば、本を読みたいときに読めるわけだから、ストレスはなくなるはずで、そういう生活をキープするようにしてます。
伏木田:安斎くん、異論は?
安斎:今回は異論ないよ。逆にすごいなって思って。また戦った方がよい?(笑)
伏木田:ふふふ。じゃあ、安斎くんは仕事ともろもろがかぶったときはどうしてるの?
安斎:それが出来ないのが今の悩みです。池尻先生、どうしたらいいですか?
池尻:それは、案件が多いっていうのと、納期が短すぎるんじゃない?
安斎:その通りです。仕事のキャパを、自分のモーターが回転できる最大値に設定しているのはよくないんだよなぁ。コイルは切れないけど、自分で回している感覚がなくなって、ゆとりがなくなる。
池尻:それはよくない、心がすたれていくよ。
安斎:たいていの仕事はおもしろそうだと思ってしまって、つい受けてしまう。
池尻:自分ができると思ってる80%くらいで止めても、100%になるから。7割くらいにしとかんと、自分の研究が枯れちゃうから。それは意識してます。
伏木田:「どや」って言ってる、顔が(笑)。
安斎:どや顔のコメントは基本カットしようか(笑)。で、伏木田さんは?今もピアノ、やってるんでしょ?
伏木田:それがちょっと、今はお休みモードです。でも、去年からヨガをはじめました。背中や肩がごりごりに凝っていて、そのせいで仕事がちゃんとできなくなるのはいやだなぁと思って。
池尻:そんなに凝ってるの?
安斎:肩は凝るでしょ。池尻さん、凝らないんですか?
池尻:凝らない。
安斎:仕事してないんじゃないですか?(笑)
※ ちゃんと仕事はしています。by池尻
‐研究日をつくる?つくらない?
伏木田:最近、自分がフルに使える時間が週に1日か2日になっちゃって、その状況が好きじゃないんです。今日はこれをやりたいなと思っても、やった方がいいこととやりたいことが一致しないので、むしろ、「やった方がいいことをやれば楽しい」って思えるように、気持ちの向け方を変えてみました。
池尻:あぁー。
伏木田: 1日にいくつものタスクを並行でやるのは嫌だから、はじめにやった方がいいことをざっと書き出して、この期間はAの仕事、次の期間はBの仕事というふうに、期間を分けてそれぞれの仕事に割り当ててます。だから、やりたいことが後になるんです。というよりは、仕事と研究が同じ濃度で入ってるんです、スケジュールの中に。
池尻:でもさ、研究日に研究したくないテンションってない?
伏木田:ないです。むしろ、何もしないんです、そういう日は。
池尻:研究日なのに?じゃあ、研究日はどうするの?
伏木田:研究日、ないですもん、わたし。だから、仕事、仕事、何もしない日、仕事、みたいにスケジュールを組んでいて、論文を書くって決めたら、その間に集中して書いて、というふうにしてます。
安斎:俺もそうだわ。
池尻:つくって、研究日!
安斎:D3の告白...「研究日がありません」(笑)
伏木田:例えば、インタビュー調査に行こうと決めたら、2ヶ月前くらいからその準備ができるように予定を組んでおいて、必要最低限の時間を確保しながら別の仕事を詰めるとか、休む日を決めておく。
池尻:それ、大丈夫?(笑) 35歳で新しい研究案、出る?
伏木田:だから、いろいろな研究案を広く持った人と一緒にやらせてほしいなと思っていて。
安斎:一貫はしてるな(笑)。
池尻:なるほどね。
伏木田:うまくいえないんですけど、仕事に向かうのと同じ意気込みで研究に入っていくんです、わたし。
池尻:ほんとう?俺、それは違うわ。
安斎:俺は違わないかも。To doに並列して仕事も研究も並ぶ。どっちも楽しいですけど。
池尻:まじか...。例えばさ、博論が終わって何も制約なかったら、新しい本を1冊書きたいなってある?
伏木田:博論は書きたいけど、本は特に...。今はわからないです。
安斎:僕は書きたいですよ。すぐ論文には出来ないけれど、いま仕事に忙殺されている中で、頭の中でもやもやと言語化できない違和感と仮説が少しずつ生まれてきている。それが博士研究の次の「種」になる気がしているので、それを言葉にする作業に時間を使いたいですね。
伏木田:わたし、修論の頃に戻りたいです。無理にマルチタスクでやらなくてよくて、修論だけやってた頃が、すごく幸せだった。マルチタスクはちょっと...。
池尻:世の中にシングルタスクはほとんどないよ。
安斎:修論のときは、僕ですら外部の仕事は全て断ってたもんね。
‐自分にとってのいい研究とは
安斎:最後に、いい研究とは何かっていう話をしましょうか。
池尻:先にどうぞ。
伏木田:はい、わたしにとってのいい研究は、人の役に立つ研究、社会的還元性のある研究です。ひとりよがりじゃない研究...?(笑)
池尻:それ、俺のこと?(笑)
伏木田:いえいえ(笑)。ただ、誰かが役に立ててくれるような研究がしたいんです。
安斎:僕も基本的には現場の役に立ちたいと思っているけど、「すぐに役立つノウハウ」を提供したいわけでもないんです。研究者が実践者の思考を停止させてしまっては意味がない。新しい視点を提供しながらも、それまでの考えを揺さぶり、議論と試行錯誤を誘発するような「噛みごたえ」のある深みを持った研究がしたいですね。実践者同士、あるいは実践者と研究者のコミュニケーションメディアになる研究が、いい研究なのかもしれません。ただし、現世の人とね(笑)。
伏木田:誰かが自分の研究を深堀りできたらすごいなって思います。池尻さんは?
池尻さん:いい研究とは何かは、俺ねM1の頃に主張したんやけど、パラダイムシフトを起こす研究がいい研究だと思っているんです。
伏木田:・・・。
池尻:「パラダイム」を、「シフト」...。
安斎:それはわかりますって。伏木田さんはね、「...というと?」っていう顔をしたんですよ(笑)。
池尻:そっか(笑)。いや、俺はね、レイヴの『日常生活の認知』を読んだとき、みんながずっとこうだと考えていたことを批判して、きれいにガラッと変えているのに感動したんですよ。ブレイクダウンする考察でもなく、現世の横のつながりばかりを意識したY=0の研究でもなく、理論に向かって斜めに上がっていくような、喧嘩を売るような研究がいい研究だなと。だから、デューイやレイヴに喧嘩を売るような研究がいい研究だなと思ってて。
安斎・伏木田:・・・。
池尻:今、2人が半笑いと苦笑いをしてますけど...。でも、デューイやレイヴがやり残したこともあるはずだし、それを超えていきたいなっていうか、ライバル意識というか。
伏木田:わかった!池尻さん、すごいガッツありますよね。
池尻・安斎:ガッツ...(笑)。
池尻:その言葉聞いたんウルフルズ以来やわ(笑)。
安斎:池尻さんは研究ポリシーみたいなものってありますか?
池尻:1つのテーマをずっと掘っていくことです。ふらふらしない。伏木田さんは?
伏木田:ていねいに研究しようと思ってて。しっかりした技法をもって、人と人がコミュニケーションをする場面を研究できるのであれば、それをていねいにやりたい。安斎くんは?
安斎:僕は池尻さんでいう「歴史」みたいに、特にコンテンツにはこだわりはないですね。比較的なんでも楽しめる。今は「ワークショップ」という方法を主軸にしているけれど、それもいずれ変わると思う。
池尻:そうなの?
安斎:最近気がついたのは、僕は「目からうろこが剥がれる瞬間」が好きなんだなと。うろこって、ある程度一つのことに深く打ち込まないと、形成されないじゃないですか。ある程度の深く掘り下げていったあとに、何らかの機会に揺さぶられて、それまでに気がつかなかった外側の世界が新たに拡張される瞬間が好き。いまワークショップという学習形態が好きな理由も同じです。そして、次はワークショップの外側に行きたい。
池尻:3人とも違うね。これから博論を書いてるとわかるかもしれないけど、掘ったと思った穴から領域がどんどん広がっていくんですよ。どろどろしたところを掘っていく快感はすごいよ。だから、これからもっと楽しくなっていくと思うよ。
‐お・ま・け
池尻:このインタビュー、半分くらい記事にしてほしくない...。
伏木田:なんでですか?
池尻:君らの質問がえぐ過ぎる。(※ここには載せられないような質問もされました...笑。by池尻)
安斎・伏木田:あはははは(笑)。
[伏木田 稚子]
2013.10.06
こんにちは、D3の安斎です。これまで山内研究室のOB・OGの皆さんに対するインタビューシリーズをお届けしてきましたが、最後の2回は安斎勇樹&伏木田稚子(博士課程3年)から「番外編」として、池尻良平さん(東京大学大学院 情報学環 特任助教)との座談会形式でお送りします。
山内研究室OBである池尻さんは「歴史を現代に応用する学習方法の開発」を博士研究テーマに掲げ、特任助教としてさまざまなプロジェクトに取り組みながら、現在博士論文を執筆中です。実は同世代(1985年生まれ)である3人で、大学院生活を振り返りながら研究についてあれこれと語らいました!
-博士課程に進学を決めた理由
安斎:そういえば、二人はそもそもなんで博士課程に進学したんですか?
池尻:僕はね、もともと小さい頃から「人類を良くしたい」と思ってたんですよ。
伏木田:...(笑)
安斎:伏木田さん、さっそく苦笑い。
池尻:でも、中学生くらいの時に「僕一人では人類は良くできない」と気がついて。だから自分が良い「教師」になって、人類を良くできる後進を育てようと思ったんです。修士課程に進学したのも、最初は自分が教師として使うための教材を開発するためだったんですよ。
安斎:自分もまだ先に進んでないのに、もう後進のことを考えてたんですか(笑)。
池尻:そう(笑)。それでずっと教師を目指してたんだけど、大学院で研究しているうちに、人のために頑張るというより、研究そのものが面白くなってきて。結局「教師になって後身に人類を良くしてもらうのを期待するか」あるいは「研究者になって自分で人類を良くするのか」を天秤にかけた結果、色んな手応えを感じて、後者を信じてみようと思ったんですよね。最初は、親から「まだ学生やるの?」って反対されましたよ。
安斎:周囲からは反対される場合が多いかもしれないですよね。伏木田さんは?
伏木田:私は、大学に入学したときから修士課程までは行くつもりでした。でも修士課程を卒業したら就職してみたいなとも思ってたんですよね。ちゃんとスーツ着て、丸の内で働きたくて(笑)。
池尻:イメージ全然違う(笑)
伏木田:でも、就職してもいつかは博士過程に進学したくなるだろうなとは思っていたんです。そこで親に相談したら、「あなたは就職したあとで受験する馬力はないから、いつか進学したいと思っているのならわたしたちが助けられるうちに早く行きなさい」と奨めてくれたので、甘えさせてもらいました。安斎くんは?
安斎:僕は、修士1年の夏くらいには進学を決めてたかな。大学生の頃から起業をしていたんだけど、その時に「お金を稼ぐこと」と「面白いことを探求すること」の両立がいかに難しいかということを実感したんです。特にまだ実力や専門性がないうちは、つい日銭を稼ぐことに絡めとられてしまう。山内先生や中原先生のような実践的な研究者像にも影響されたし、「面白いことを持続的に探求できる環境」として、博士課程や大学教員は良い選択肢ではないかと思って進学しました。専門性がないまま独立してしまっても、小さくまとまるだろうなと思ったんですよね。人それぞれ、進学の理由が違いますね。
-博士課程の過ごし方
伏木田:博士課程を振り返ってみて、やっててよかったことって何かありますか?
池尻:自己分析をきちんとして、自分が苦手なことにも積極的に取り組んだことは良かったです。山内研究室っていろんな人がいるじゃないですか。実践が得意な人もいれば、システム開発ができる人もいるし、統計に詳しい人もいる。その中で自分の強みは文献レビューを大量にして、自分の実証研究を理論レベルに上げていくところだと思っていて、修士課程の頃は自分の強みをとにかく活かして頑張っていました。けど、博士課程に上がってからは、自分が苦手なことも20%くらいは頑張ってみようと思って色々挑戦してみたんです。ワークショップもやってみたし、統計も勉強したし、ブログも書いてみたり、苦手な英語で国際会議で発表したり、企業の案件も受けたり、研究会の運営もしてみた。苦手なことを得意にするのは無理なんだけど、あえてそういうことにも少しずつ取り組むことで、人のつながりや研究の幅が拡がったと思いますね。
安斎:博士課程から、というのがポイントなのかもしれませんね。修士課程からあれこれ手を広げすぎると専門性が身につかないしね。ところで、池尻さんは博士課程の満足度に点数をつけるとしたら、何点くらい?
池尻:100点!
安斎:1000点満点ですか。
池尻:低すぎるやろ(笑)。100点満点で、うーん、やっぱり90点かな。-10点は、システム開発がやりたかったのに、プログラミングをちゃんと勉強できなかったこと。それは唯一の心残りです。総じて博士課程はすごく楽しく過ごせたし、やりたいことはほぼ全てやったと思います。
伏木田:へ~。私は50点くらいかも...。本当は、もっとゆっくりのんびりしたかった(笑)。もともとあれこれ詰め込んでやるのが得意じゃないのに、今は締め切りに追われてるから...。私は池尻さんの逆で、実践とかも非常勤以外ではしていないし、自分から何かに挑戦するというより、いただいた仕事をちゃんと受け止めて、取り組みたい。あと今不安なのは、これから一人でやっていけるかどうか。もうちょっと社会調査とか勉強しておけばよかったなーというのがあるので、50点です。安斎くんは何点?
安斎:...65点くらいかなぁ。いや、基本的にめちゃくちゃ楽しいですよ。書いた論文や書籍にも満足してるし、最近では企業からも多く仕事を頂けるようになって、やりがいもある。けど、なんだろう、やっぱり大変ですよね。博士2年くらいから仕事が増えすぎてしまって、だんだん論文をじっくり読んだり、集中して研究できる時間が少なくなってきていて、博士課程のうちからこれじゃダメだって思うよね。あと、海外にもちゃんと行きたいですね。
-なぜ大学教員になるのか
伏木田:あ、私もう一つ博士課程に進学した理由があった。一つのところで長く、じっくり、働きたくて。
池尻:僕は真逆だわ。研究者って深い研究アイデアが枯れたら終わりだなと思っているところがあって、できるだけ「研究者」でいたいけど、早ければ10年で終わりだと思っているから。
安斎:映画『風立ちぬ』的な研究者像ですね。もうあと残り5年くらいですね(笑)。
池尻:でも、自分の納得いく研究ができなくなったら、研究者じゃなくて、もともとやりたかった高校教師になるのも良いと思ってますよ。
安斎:そうなんだ!いまはなぜ大学教員として研究するんですか?
池尻:研究の時間を確保できるかどうかだと思う。今は研究に没頭したいから。教師をやりながらはさすがに時間的に難しいし、独立してフリーの研究者になるには生計が成り立たない。バランスを考えたら、大学教員が一番良いんじゃないかな。
安斎:それは僕も思います。僕らは大学教員の仕事である「教育」もフィールドにできるから、生計を立てながら研究がしやすい領域ですよね。
伏木田:私がいいなと思ってるのは、なんか「学者」って響きが好きで。
安斎:え、響き?(笑)
池尻:それ、わかるわ。わかる。わかる。
安斎:めっちゃ共感してる...。
伏木田:それに、ちゃんと頑張って博士研究をして、助教としても研究を続けて、もしいつか大学の教員になれたら、何かテーマを持ってる方々と一緒に新しい研究がやり続けられるかなって。それまでにちゃんと技術を磨いておけばね。
池尻:自分のテーマじゃなくていいの?
伏木田:たぶん私はゼロからアイデアを出すのはあんまり得意じゃないから、そういうことが出来る人と一緒に組んで研究している方が、多分楽しく、気持ちよくできるかなって。
-面白いアイデアを見つけ、その面白さを伝える工夫をする
池尻:研究者は、本当に自分が好きなことが出来るから良いよね。会社だったら自分のやりたいことを社内で説得できなかったらやれないじゃないですか。研究者は自分の才能一本で勝負が出来るところが、面白い。
安斎:それについては異論がありますね。
伏木田:ふふ(笑)。
安斎:修士研究までは確かに好き勝手に出来るかもしれないけど、大学教員としてやっていくとしたら、大学に就職しなきゃいけないですよね。大学の研究費は年々減らされてるわけですから、資金調達のことも考えれば、それなりに社会に価値を感じてもらえる研究をしていかないといけないじゃないですか。
池尻:え~。いやいやいや、社会って誰?それは現代を生きている人のことでしょ?
安斎:そうですよ。もちろん現場のニーズに迎合する必要はないんだけど、自分の好きなことをやりながらも、現場の人に対してもその面白さをちゃんと伝えられて、資金を調達できるスキルがあったほうが、好きなことが出来るじゃないですか。
池尻:いや、違うね。
伏木田:...ねえ、いっつもお酒飲みながらこんな話してるの?(笑)
安斎:そうだよ、毎回(笑)。
池尻:お酒飲んだらもっとひどいで(笑)。
伏木田:すごーい!(笑)
池尻:...話を戻すけど、そういうアピールをやらなきゃいけないのは、本質的にそもそも選んでる研究テーマがみんなの心に響いてないんですよ。みんなが直観的に「これはすごい」と思える、深くて意味のある研究テーマが設定できていれば、お金はあとからついてくると思う。例えばカントは、本質的にみんなが興味を持つテーマを設定していたから、何百年も参照され続けてますよね。そのくらいを目指して研究テーマを作れば、お金や人はついてくるんじゃないかな。本質的に面白い研究だったら、「営業」にはそんなに力を入れなくても良いと思う。
安斎:それはわかりますよ。僕も周囲の人を惹きつける研究テーマは必要だと思う。つまらない研究をテクニックで演出したって意味がないですよね。けど、池尻さんは今から300年後とかを見据えてるじゃないですか。確かに自分の研究で300年後に価値が残せたら良いなとはもちろん思うけど、僕らはそもそも応用領域の研究者で、現場に関連する研究を求められていますよね。現実的には、現場のステークホルダーを巻き込みながら、実践のリアリティを積極的に理解して、自分の研究の価値をアピールしながら研究テーマを育てていかないと、短・中期的には良い研究ができないんじゃないですか。
池尻:いや、それはさぁ、ステークホルダーって言い方は非常に現世的な考え方で...。
安斎:「現世」って(笑)。
伏木田:おもしろい、このやり取り(笑)。
池尻:僕は現世のステークホルダーよりも、研究者コミュニティとして、100年前の研究者たちから、100年後の研究者たちにつないでいく研究がしたいんですよ。先人を超えて、次世代に手を伸ばしたいんですよ。
安斎:確かに、そういうカードゲームを作ってましたもんね。僕は、現世の人たちと創発的コラボレーションがしたいのかもしれない(笑)。
伏木田:でも、私は学振に落ちたときに、2つとも大事だと思いましたよ。本質的に面白い研究をしていることと、それがきちんと届く書き方のコツを知っていること。論文を書くときも、科研費をとるときも、常にその2つは走り続けていくことだと思います。池尻さんだって、なんだかんだそういうテクニックも使ってますよね??
池尻:...使ってるね(笑)。でもね、やっぱり、今の自分の研究テーマが実現したら、子どものころに思い描いた「人類を良くする」ことにつながると本気で思ってるんです。たとえ現時点でそれが評価されなくたって、今は気にしない。それで悩んでいても人類は良くならないし、お金が無くたって研究すればいいんだから。もしやっていくうちにみんなに認められて、お金がついてきたらそれはそれで良いんじゃない、っていうくらいの気持ちで研究していますね。
(後編に続く)
[安斎 勇樹]
2013.10.02
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FLIT 第1回 公開研究会
MOOCと反転授業で変わる21世紀の教育
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FLIT(東京大学情報学環 反転学習社会連携講座)の開設記念イベントとして、公開
セミナー「MOOCと反転授業で変わる21世紀の教育」を開催いたします。
MOOC(Massive Open Online Course)は、大学の講義をビデオ教材としてオンライン
で無料提供し、宿題の提示や採点といった教授活動や掲示板など学習者同士のコミュ
ニケーションを支援する機能が備わった大規模公開オンライン講座ウェブサイトの総
称です。2012年に米国でCourseraやedXなどのMOOCプラットフォームが開発、公開さ
れ、現在は他の大学も続々と参入し拡大しています。
従来の講義を教室外で受けられるようになった今、学習者が事前に講義ビデオを視聴
し、対面で講師による個別指導や学習者同士の議論など、人的、時間的に困難だった
より柔軟でインタラクティブな教授、学習活動が可能になります。このようなオンラ
イン+対面のセットで授業を行うアプローチを反転授業(Flipped Classroom)と呼
び、近年、教育関係者の注目を集めています。
第1回目となるFLITセミナーでは、サンノゼ州立大学(San Jose State
University)のMohammad Qayoumi 学長を迎え、サンノゼ州立大学での反転授業の実
践について講演していただきます。同大学はMOOCと組み合わせた反転授業を積極的に
取り入れ、工学部のある講座で中間試験の成績が向上したケースが複数のメディアで
紹介されました。講演後は、日本での実践も含めた反転授業の今後と課題について議
論する予定です。
みなさまのご参加をお待ちしております。
-------------【2013年度 第1回 FLITセミナー概要】-------------
■日時:2013年10月23日(水) 午後5時00分~午後7時00分
■場所:東京大学 本郷キャンパス 情報学環・福武ホール(赤門横)地下2階
福武ラーニングシアター
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access/
■お申込み締切日:2013年10月22日(火)
■定員:100名(定員に達し次第、受付を終了させていただきます)
■参加費:無料
■参加方法:参加希望の方は以下の申し込みフォームからご登録をお願いいたしま
す。
https://docs.google.com/forms/d/1s1eyn9_KE465R0ODCYAgCOkDKK8j-9riWf1wyVM4j7g/viewform
■内容:
1. 趣旨説明
『日本におけるMOOCと反転授業』
山内祐平(東京大学大学院情報学環 准教授 (FLIT併任))
2. 講演
『サンノゼ州立大学におけるMOOCと反転授業の実践』
Mohammad Qayoumi (サンノゼ州立大学 学長)
3. 参加者によるグループディスカッション
4. パネルディスカッション
『MOOCと連携した反転授業の今後と課題』
司会:山内祐平
パネラー:Mohammad Qayoumi
吉見俊哉(東京大学 副学長/大学総合教育研究センター長)
5. 総括 吉見俊哉
■主催:東京大学大学院情報学環 反転学習社会連携講座
■共催:日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)
■お問い合わせ:反転授業社会連携講座(FLIT) 事務局(大浦)
Mail: flit.application[atmark]gmail.com