2018.12.07
はじめまして、D3の田中聡です。
私は「新規事業創出経験を通じた中堅管理職の学習」について研究をしてます。
「○○社、△△サービスを開発」「○○社、△△事業に参入」など、連日のように新規事業の話題が各種メディアで取り上げられ、私たちの日常生活において「新規事業」という言葉を目にしない日はないと言っても過言ではないほど新規事業に対する社会的な関心が高まっています。
また、最近では経営人材を育成するという目的の下、既存事業で活躍していた中堅管理職を新規事業に配置する取り組みが大手企業を中心に広がっています。新規事業が中堅管理職の学習を促す重要な経験であることは人材育成の研究でも実証されており、有用な取り組みと言えるでしょう。しかし、その一方で、異動した中堅管理職が新規事業を通じて何を学んでいるのか、またその学びを促す要因とは何か、といった学習の具体的な内容については十分に学術的知見が蓄積されているわけではありません。
実際、新規事業の現場でも、新規事業を通じた中堅管理職の学習が考慮されているとは言い難く、事業の業績面に偏った人事評価が行われがちです。収益性や成長性の面で不確実性の高い新規事業において業績評価に偏った人事評価をするということは、経営人材の育成という本来の目的に沿わないだけでなく、将来の経営幹部候補である中堅管理職の意欲を減退させ、最悪の場合には社外への流出という問題を引き起こしてしまう可能性を孕んでいます。
このような背景と問題意識から、私は研究を通じて、新規事業を創る過程で大企業の中堅管理職が誰からどのような支援を受けながら、何をどのように学んでいるのか、という学びの全体像を明らかにし、経営人材の育成に資する実践的な知見を創出したいと考えています。
そのために、まず修士課程では、大企業で新規事業部門に所属する中堅管理職15名を対象に、新規事業創出経験を通じて何をどのように学んでいるのかについて定性調査を行いました。その結果、①他責思考の強化、②働く理由の探索、③事業価値の探索、④鳥瞰的視点での現状認識、⑤自責思考の獲得、⑥フォロワーマインドの批判的省察、⑦自己本位思考の批判的省察、⑧リーダーマインドの獲得、⑨他者本位思考の獲得、⑩経営者視点の獲得、という10のフェーズがあることが明らかになりました(ご興味がある方はこちらをご参照ください)
また、複数の調査対象者の語りから、学習プロセスを促進する要因として上司や経営層からの支援の重要性が示唆されました。例えば、④鳥瞰的視点での現状認識を促す要因には、上司からのリフレクションを促す支援が影響していることなどです。しかし、修士課程の研究では、学習プロセスを促進する環境要因について必ずしも十分なデータを得ることができなかったため、博士課程では新規事業創出経験を通じた学習プロセスを促進する環境要因を明らかにすることを目的とした実証的研究を行うことにしました。(博士課程での研究については別のブログでご紹介します)
現在は修士課程の研究と博士課程の研究知見を統合し、博士論文として一枚の大きな絵を描いているところです。まだ解を見出せているわけではなく暗中模索な日々を送っていますが、近い将来、現場で働く多くの方々のお役に立てるような意味のある知見をおかえしできるよう頑張ります!