2018.06.26
ご無沙汰しております。2年目のM1・宮川です。
昨年の秋から半年間の休学を経て、4月より研究室に復帰いたしました。
研究テーマは昨年度に引き続き「自己調整学習」です。
自己調整学習とは、アメリカの教育心理学者Barry Zimmermanにより提唱された理論の枠組みで、「予見段階」「遂行段階」「自己内省段階」という3要素のループによって表される図が有名です。いわゆる「PDCAサイクル」といったものに近い構造になっています。
Zimmerman (1986, 1989) において自己調整学習は〔学習者がメタ認知・動機づけ・行動において自身の学習過程に能動的に関与していること〕 と定義されています。特に「メタ認知」はその中でも主要な関心事であり、自分自身の置かれた状況を一歩外側から俯瞰するといった意味合いがあります。
自己調整の対象である学習過程とは「目に見えないもの」であり、そもそも捉えることが非常に困難です。そこで、たとえば学習目標の明文化であったり、学習日誌の作成であったりといった「プロセスの可視化」が基本的な支援として考えられる方法です。
そうした自己調整学習の支援研究はアメリカを中心として盛んに行われ、理論的・実践的な知見が多く獲得されてきていますが、日本においては特に実践研究に関する蓄積はまだ多くないという状況にあるようです。
しかし、平成32年度から順次実施される日本の学習指導要領において「主体的・対話的で深い学び」が目標として設定されていることからも、自らの学習のプロセスへの積極的な関与を促す自己調整学習という分野は、今後その役割を大きく広げていくことが期待されています。
さて、冒頭で述べましたZimmermanによる定義からも推察されるように、自己調整学習とはそれ自体が独立した研究分野であるというよりは、「学習プロセスへの主体的な関与」を軸に再構築された理論の体系である、と言えます。
そのため介入のアプローチ方法も様々ですが、私は持続的で人的コストの少ない支援方法として期待のできるICT(情報通信技術)を使用した実践に着目したいと考えています。また、介入の切り口として、「Co-regulation (共調整)」「Sense of agency (自己主体感)」「Perfectionism (完全主義)」といった、従来の介入研究においてあまり重視されてこなかった要素についても検討できないかと模索しつつ、先行研究のレビューを進めています。
私は休学中、テレビ番組の「構成」を考えるという仕事をしていました。番組における「エピソードトークの流れ」「企画の狙い」といった構成原理は、視聴者からすれば目に見えないものですが、メタな階層から番組を支える要素であると言えます。メタ認知的な頭の働かせ方というのは、勉強に限らず様々な場面で必要とされているはずです。
半年間の社会経験の中で私自身これまでとは異なる文脈を獲得し、また山内研にも多様なバックグラウンドを持つ新たなメンバーが加わりました。そうした学習環境の変化のなか、自らの研究・あるいは自分自身を再度見つめ直し、学際的な視野を保ちながら前進していければと思っています。
【宮川 輝】
2018.06.19
こんにちは。M1の小野寺です。
大変遅くなってしまいましたが、先日6月2日の入試説明会にお越しいただいた皆様、ありがとうございました。
さて、本日は私の研究計画について書かせていただきたいと思います。
私の研究テーマは、「成人を対象としたフロー状態を引き出す支援」です。
私は学部において教育学を専攻しており、特に初等教育について勉強していました。
つまり、初等教育については4年間学んでいましたが、学校以外の場面における学習についてはあまり馴染みがありませんでした。
それで、徐々に生涯学習について興味を持つようになりました。
学習という営為を長い目で見ていくと、子どもの頃は教師や保護者といった指導者の存在がありましたが、
生涯学習となると指導者不在、あるいは自らが指導者となって自分で進んで学習していかなければなりません。
その時に、いわゆる「やる気」をどのようにコントロールしていくかということは重要な問題となっていきます。
そのような問題意識が私の研究の土台となっていると思います。
以下、私の研究計画の概要です。
超高齢社会における高齢人口の増加や急速なグローバル化により、
絶えず知識や技術を習得・発展させていくことが必要となった現在、
学習という営みは、学校教育だけではなく生涯を通じてのものとなりつつあります。
そして生涯学習において、学習者がどのような学びを得、それをどのように生かしていくのかという、
学習内容や知識・技術の発展以外に、学びに向かう原動力と言える動機づけが重要となってきます。
その動機づけの1つの理論に、フロー理論があります。
フロー理論とは、「一つの活動に深く没入しているので他の何ものも問題とならなくなる状態、
その経験それ自体が非常に楽しいので、純粋にそれをするということのために多くの時間や労力を費やすような状態」
(チクセントミハイ著 今村浩明訳『フロー体験 喜びの現象学』p.5)
についての理論とされています。
加えてこのフローの状態になりやすい人となりにくい人がいるとされています。
私はこの「フロー状態になりにくい人」に焦点を当てて、どうしてなりにくいのか、
また、どうすればフロー状態に近づくことができるのかについて研究していきたいと考えています。
よろしくお願いいたします。
【小野寺萌美】
2018.06.07
皆さん、こんにちは。M2の中野です。
私は社会人学生で、昨年から働きながら学生との二足のわらじを履いています。今年から山内研に社会人学生が増え、研究室の多様性もさらに深みを増してとても刺激的な研究生活を送っています。
私の研究テーマは「社会情動的スキル(Social Emotional Skills/Competencies)」です。一般的には、「認知能力以外の能力」という意味で「非認知能力」とも呼ばれています。新米研究者として様々な文献を読む中で、アカデミック用語と一般的な用語とには乖離があることや、研究者の立ち位置によってある能力やスキルの捉え方が大きく異ることが分かりました(社会人学生あるあるです!笑)。当該スキルに関していうと、教育分野の研究者は「非認知能力」という言葉使いません。こう表現する研究者は経済学者であったり統計学者であったりします。また心理学の研究者はこれをパーソナリティ特性≒性格と捉えて、短期的には変わりにくいものとして捉える研究者もいます。教育分野の研究者は、社会情動的スキル(コンピテンシー)であったり、情動知能(Emotional Intelligence)として捉える研究者が多いと思いますが、国内にはあまりこの分野の研究者が多くないのが現状です。研究分野によって、長い年月多くの研究者に研究されて、知のマップが出来上がっている研究分野もあれば、社会情動的スキルのように比較的研究の歴史が浅く、概念の定義がまだまだ揺れている分野もあります。
私の研究では、CASELが定義する社会情動的スキル(Self-awareness, Self-management, Social awareness, Relationship skills, Responsible decision-making)に基づいて、当該スキルが育成される学習環境はどんな環境なのか、社会情動的スキルの育成には何がキーファクターであるかを明らかにし、教育プログラム・環境をデザインしている教育関係者の皆さんに知見をお返しできたら、と考えています。具体的にはUWC ISAK Japanが中学生を対象に実施しているサマースクールを研究対象として、社会情動的スキルに及ぼす影響や、変化の要因を明らかにすることを目的としています。
なぜ中学生に着目するのか?
大規模な身体的・社会的・認知的変化が起こる青年期の中でも、中学生は、小学校からの移行に伴って、学業面では学習内容の高度化、また学級担任制から教科担任制への転換、さらに対人関係面では友人や教師との新たな関係作りが求められ、部活動も始まるなど、大きな変化を経験する時期です。これらの状況への有望なアプローチとして、社会情動的スキルの育成が注目されており、当該スキルの育成が彼らが抱えうる問題の改善・予防に大きく寄与し、子ども達のWell-Beingに繋がると考えられるため、この年代の子ども達に着目しています。
なぜ学校外教育に着目するのか?
Granger(2002)は、Youthのwell-beingに寄与する要因の一つとして「supportive relationship with peers and adults」を、またDes Marais, Yang, and Farzanehkia(2000)は、Youth leadersの成長に重要な要素として「partnerships between youth and adults」を特定しており、対人関係を重要視しています。社会情動的スキルの5つの下位概念の中でも、他者との関係が色濃く反映される社会意識(social-awareness)や関係構築(relationship building)は其々、「The ability to take the perspective of and empathize with others, including those from diverse backgrounds and cultures.」「The ability to establish and maintain healthy and rewarding relationships with diverse individuals and groups. 」と定義されており、いずれも"Diversity(多様性)"を強調しています。
これまでの社会情動的スキル育成の実践・研究は学校内の活動に着目したものばかりで、正課外活動(学校外)を対象とした社会情動的スキルの研究は少なく、更なる実証研究の必要性が指摘されています(遠藤, 2017)。学校内の中でも、とりわけ学級内のものが多く、同じ地域出身、同じ年齢という、どちらかというと均質的なバックグラウンドを持つ子ども達が集まる環境であり「多様性に富んだ」環境とは言い難い環境です。一方で、正課外の活動は、異なる年齢、異なる学校出身の子どもが参加し、また関わる大人のバックグラウンドも教員だけではなく学校内の環境より多様性に富んでいるため、本研究では、正課外の活動に着目したいと思います。
なぜサマースクールなのか?
先行研究において、SEL指導のアプローチは制限的で、教育者の焦点を教室や学校内での人間関係に向かわせる方法ではなく、個人個人の欠点・弱点の測定と改善にのみ焦点を当てている(Hoffman, 2009)と批判されています。このような批判から、アメリカでは近年、Positive Youth Development(地域社会、学校、組織、仲間グループ、家族の中で、生産的で建設的な方法で若者を関与させる、意図的で向社会的なアプローチ)という考え方が広がってきています。ほとんどのサマーキャンプは、大人の監督の元、参加者が成人期に向けて成長を手助けできるように目標設定されており、そのプログラムモデルはPYD理論に根ざしています。キャンプは若者の情動的、認知的、行動的、身体的、社会的、精神的(spiritual)な成長を促進する、と言われています(Garst & Bruce, 2003)。上記より、本研究では正課外の活動の中でも、とりわけサマーキャンプ・サマースクールに着目します。
今はアセスメント手法を含めた調査方法を検討中で、引き続き四苦八苦の研究生活が続きそうです。
【中野生子(Seiko NAKANO)】