2013.05.23

【今年の研究計画】創発的コラボレーションを促すワークショップデザイン

D3の安斎勇樹です。早いもので、もうD3になってしまいました。おかげさまで書籍『ワークショップデザイン論ー創ることで学ぶ』の出版も決まり、いよいよ今年は博士論文の執筆に向けて準備を進めていきます。

博士論文の目的は、一言で言えば「ワークショップにおいて"創発的コラボレーション"を促すためのプログラムデザインの原則を提案すること」です。

近年、「新しい学びと創造のスタイル」として、ワークショップが注目されています。ワークショップとは「創ることで学ぶ活動」のことであり、授業や研修とは違うノンフォーマルな場で行われるものです。ワークショップ実践が行われる領域は多岐にわたりますが、大学生の「創造性」の育成の手段としても注目を集めており、グループでアイデアを考えたり、アート作品をつくったりするタイプのワークショップが多く実践されてきています。

創造性については、これまで数多くの研究がなされてきました。かつては、創造性は「個人」が発揮するものだと考えられてきましたが、近年では「コラボレーション」の重要性への認識が高まり、創造性を育成する上でもコラボレーション体験が重視され始めています。たとえば心理学者のキース・ソーヤーは、創造性を育成するためには学習者同士が即興的にアイデアを連鎖させながら新しいアイデアを生み出すような、いわば「創発的コラボレーション」の体験が必要であることを指摘しています。

自由で創造的なスタイルであるワークショップは、こうした「創発的コラボレーション」の体験の場として有効であると考えられます。しかしながら、その方法論に関する実証的な研究はいまだ少なく、具体的に「どのようにワークショップのプログラムをデザインすれば、創発的コラボレーションが起こせるのか」については明らかになっていません。

そこで、本研究では、創発的コラボレーションを促すためのワークショップのプログラムデザインの原則を提案することを目的とします。修士過程では、ワークショップのプログラムデザインの中でもメインアクティビティの「課題の設定」に焦点を当てて実証研究を行いました。具体的には、創発の源泉としての「矛盾」の効果に着目し、ワークショップの課題設定に矛盾のある条件を設定することが、創発的コラボレーションを促すことを実践と質的分析によって明らかにしました。

ところが、ワークショップのプログラムデザインはメインアクティビティの課題設定だけでなく、そこに至るまでの各アクティビティをどのように構成するか、という点も重要です。そこで、昨年は「活動の構成」に焦点を当て、「ジグソーメソッド」と「類推」の効果を組み合わせた「アナロジカル・ジグソーメソッド」という活動構成を仮説として設定し、実証研究に取り組んできました。

博士論文では、文献のレビューを重ねて論文全体の構成を洗練させながらも、これら2つの実証研究をまとめてあげて「創発的コラボレーションを促すためのプログラムデザイン原則」を提案できればと考えています。

安斎 勇樹

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