2011.09.01
もう9回目を迎える【気になる研究者】シリーズですが、博士1年の安斎からはアメリカの心理学者、ミハイ・チクセントミハイを紹介したいと思います。研究室メンバーからは「どうせキース・ソーヤーでしょ」と思われていたようなので、変化球を...笑
チクセントミハイの研究の軸は2つあるといえます。1つは、「楽しさ」です。いわゆるフロー理論ですね。フローに関してはこれまでも散々紹介してきたので、こちらをご参照下さい。
https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2010/08/post-250.html
そして今回取り上げたいもう1つの軸は、「創造性」です。フロー理論が心理学的なアプローチだったのに対して、チクセントミハイはもう少し大きなケタで創造性について研究をしています。
創造性研究において「創造性とは何か?」というのは一つの主要な問いであり、その定義に関しては様々な議論があります。従来の古典的な考え方としては、創造性を"個人の中に備わっている性格特性"として捉え、知能テストのような方法でそれを評価する立場があります。(代表的なのは、ギルフォードやトーランスなど)
ところがチクセントミハイは、創造性を理解する為には、心理的な側面だけでなく、文化的・社会的側面も含めて考えなければならないと主張をしました。創造性は作り手と受け手の間の相互作用によってつくられる現象であり、何が創造的であるかということは、社会や文化によってしか判断できないと考えたのです。例えば、「音楽」における創造性について考えてみても、過去の作品や流行・作曲に関する理論・市場への流通・作品を聴く大衆など、文化や社会と作曲行為は切り離せない関係にあることがわかるはずです。
そこで、提案されたのが、以下の「創造性のシステムモデル」です。
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創造性のシステムモデルでは、個人(individual)、領域(domain)、場(field)がかかわり合い、交差するところにおいてのみ、創造のプロセスが観察できると考えます。領域とは文化であり、音楽でいえば作曲の理論を指します。場とは社会であり、音楽でいえば音楽業界を指します。
作曲をする個人は、領域にアクセスして理論を学び、場にアクセスして市場の好みを学びます。そして領域と場から得た情報に、個人的背景を反映させながら創作を行い、オリジナルの曲をつくり出します。そして場における音楽の専門家たちの評価や判断によって、その曲は領域に新たに加わり、領域自体に変化が起こります。...このように、創造性を静的なものと考えずに、個人・領域・場の相互作用の中で、社会的に構築されるものとして捉えるのが、チクセントミハイの創造性のシステムモデルの考え方なのです。やや広いケタのモデルですが、創造性を捉える枠組みとして、有用な視点を与えてくれます。
安斎の研究対象であるワークショップや創造性教育においても、社会や文化と関わり合うものとして創造性を捉えることは重要だと考えています。今後、現場で起きているプロセスを精緻な視点で丁寧に追いかけながらも、こうした大きな視点も忘れずに持ちながら研究を続けていきたいと思います。
[安斎 勇樹]