2010.08.06

【学びのキーワード】フロー理論

みなさま、こんにちは。修士2年の安斎勇樹と申します。

今週から、学習や教育に関連するキーワードを解説する
新シリーズ【学びのキーワード】をお送り致します!

第1回のキーワードは「フロー理論」です。


■フロー=没入状態
皆さんは、気付かないうちに目の前の作業や活動に集中し、時間を忘れてのめり込んでしまった経験はありませんか??例えば、工作をしている時、絵を描いている時、スポーツをしている時、ゲームをしている時など...楽しくて無我夢中になってしまった経験があると思います。

このように、活動に没入し、楽しさを感じている状態のことを、心理学者チクセントミハイは「フロー(flow)」と名付けました。


■フロー状態とその条件
チクセントミハイは、様々な分野の活動を調査した結果、どの分野においても「楽しい!」と感じているフロー状態の時は、「時間を忘れるほど活動に極度に集中している状態」「環境と自分が一体化している感覚」「行動を調節しながら次々に新たな状況に対応できている状態」などの特徴があることを明らかにしました。

チクセントミハイは、こうしたフロー状態に入るためには個人の「能力」と活動の「難易度」が重要であると考え、その条件を以下の図にまとめました。

画像(リンク切れ)

縦軸は「活動が自分にとってどのくらいの難易度か」を示しており、横軸は「自分の能力が標準状態に比べてどのくらい発揮出来ているか」を示しています。円の中心が、難易度も発揮している能力も平均的な状態ということです。

例えば、
すごく簡単な課題で、能力はほどほどに発揮している場合は「退屈」状態、
すごく難しい課題で、自分の能力が全然発揮できない場合は「不安」状態、
となっていますね。直感的にもイメージが出来ると思います。

そして、右上に位置している肝心の「フロー」は、いつもよりもやや難易度が高く、能力を普段以上に発揮する必要がある活動、つまり、「ちょっとした背伸び」が必要な場合に起きていることがわかります。


■グループフロー
フローは、個人作業だけでなく、集団によるコラボレーションにおいても発生します。例えば、成功している音楽のセッションや、チームスポーツなどを想像するとわかりやすいでしょう。

チクセントミハイの弟子、キース・ソーヤーは、こうしたコラボレーションにおけるフローを「グループフロー」と呼び、その条件を10挙げています。

1.適切な目標:明確だが、多様な解釈を生む自由度の高い目標
2.深い傾聴:自分が聴き取ったことに対して純粋に反応する
3.完全な集中:現在の活動とそれ意外の活動を切り離す境界線を引く
4.自主性:柔軟性を持ちながらも、自分がすべてを管理している感覚を持つ
5.エゴの融合:自分のエゴを抑え、グループ全員と協調する
6.全員が同等:すべての参加者が同等な役割を担う
7.適度な親密さ:惰性にならない程度の親密さを持ち、文化を共有する
8.不断のコミュニケーション:インフォーマルな会話を大切にする
9.先へ先へと進める:他人の意見を受け入れながら即興的に対応する
10.失敗のリスク:失敗へのリスクや恐怖感を推進力として利用する

こうした集団によるグループフローは、創造的なコラボレーションやイノベーションにとっても重要な要素であることがわかっています。


■学習をもっと楽しいものに!
以上、まだまだ完成された理論ではありませんが、フローについてわかっている基本知識を紹介してきました。

チクセントミハイは、地位やお金等の外発的動機付けに支配された現代に憤りを感じ、現代にもっと「楽しさ」を増やすために、フローの研究を開始しました。

フローは教育や学習の理論ではありませんが、あらゆる学習活動においても「楽しさ」や「活動への没頭」は重要です。

学びをより楽しい営みにするために、学習環境をデザインするための知見として、あるいは実践を評価する枠組みとして、フロー理論は私たちに有用はヒントをくれるはずです。

  


[安斎 勇樹]

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