2007.07.14

【受験生に薦める1冊】「デジタル・メディア社会」

水越伸著 岩波書店(2002) 『デジタル・メディア社会』

私はここに来る以前は都市・建築学を専攻しており、受験勉強を始めた時は本当に0からのスタートでした。建築学科にいた頃に周りではやっていた『メディアビオトープ』から入り、その後本書を読みました。

本書は、メディアを情報技術の発達の産物としてではなく、人間や社会と情報技術の複合的な関係の中で捉えていくという視点に立っています。
授業の際に水越先生が、若者文化、ケータイ普及、コミュニケーション普及といった社会調査について、「”ワカル”ことだけでいいのか?と思った」とおっしゃったのが印象的でした。本書は、“ワカル”ことの先にある、人間や社会がいかに未来の情報技術やメディアのあり方をデザインしていくのかという視点で書かれています。

第1章では、メディアと人間の当たり前だとされてきた関係性を打ち破り、異化し、新しく組み替えていくための、メディアをめぐる「遊び」の重要性について述べています。更に、「デジタル・メディア社会における遊びをはらんだメディア空間のイメージ」としてメディアビオトープを紹介しています。
第2章では、第1章で紹介されたメディアビオトープの中に、「あな」や「すきま」という居場所を見つけそこに主体的に棲息する力である「メディアリテラシー」の意味、言説の系譜を明らかにし、それが新たな人間像を提示すると述べています。
第3章では、新しいメディアに媒介されて社会的に立ち上がり、コミュニケーションの回路を切り開いていこうとする新しいメディア表現者たちに焦点をあて、公共的なコミュニケーション活動のあり方について議論を展開しています。
第4章では、市民社会に基盤を持つメディア表現活動のアジアにおける拡がりについて述べています。
第5章では、公共圏を生み出し、新しいメディア論的実践を可能にするために必要な条件として、「表現への欲望」と他者との共同体を形成していくための「シンパシー」の必要性を主張しています。
終章では、日本のメディア社会の動向ついて述べ、メルプロジェクトの活動が紹介されています。

本書や『メディアビオトープ』の中にはたくさんの図が載っています。それが理解の助けになるのはもちろんなのですが、私はそれを見ながら自分の考えをまとめるためにたくさん図を描きました。これまで自分がやってきたこと、今関心があること、これから研究したいと思っていることなど、図にして考えました。その時に驚いたことは、本書の中に描かれている図式の中の言葉を変えるだけで、これまで専門にしてきた都市や建築という分野の中で考えてきたことが、とてもすんなりと当てはまったということです。

おそらく、山内研を受験される方の中には色々なバックグラウンドの方がいらっしゃると思います。でも、ここには、様々なバックグラウンドの人に対してたくさんのタッチポイントがあるような気がします。本を読む時に自分の専門分野、自分の関心に引きつけて考えると色々な発見があると思います。とにかく自分に引きつけて読む、書く、話すことが、受験の時の私の作戦でした。

[牧村真帆]

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