2023.06.04
みなさん、こんにちは。M1の松谷春花です。
この4月から山内研究室のメンバーとして加わりました。あっという間に2か月が経ち、もう6月ですね。
2023年度前期のテーマは2022年度後期から引き続き「自分の研究に影響を与えた書籍の紹介」です。どの本を選ぶか迷いましたが、私がワークショップに研究という側面から関わりたいと思うきっかけとなった本の中から、この一冊を選びました。
『凡才の集団は孤高の天才に勝る』キース・ソーヤー/金子宣子訳(ダイヤモンド社、二〇〇九)
キース・ソーヤーは、フロー理論で知られる心理学者チクセントミハイの弟子であり、創造性とイノベーションの科学的分析を行う研究者として知られています。また、The Cambridge Handbook of Learning Science(学習科学研究で有名なハンドブック)の編者でもあることから学習科学分野でもよく見る研究者です。彼は画期的なイノベーションは孤高の天才による閃きによるものなのではなく、集団による「グループ・ジーニアス」こそがイノベーティブなアイディアを生み出すのだと主張します。(余談ですが彼はジャズプレイヤーでもあり、チームの創造性とジャズの即興演奏を絡めた議論はジャズ好きな私にとって魅力的に映りました。)彼は一人の天才ではなく、グループによって生み出される力を様々な例を出しながら説明しています。
ここで私の研究に大きな影響を与えた原体験の話になるのですが、私は高校一年生の夏に参加したワークショップで、世界の見え方や考え方がガラッと変わる体験をしました。そのワークショップは、各地域から集まった高校生と、東大生、海外大学生と共に「地域の魅力を伝えるためのイノベーティブなアイディア」を考えるというものでした。
当時の私は「勉強」ができて「知識」をたくさん持っている人が頭のいい人で、その頂点にいるのが東大生や世界をリードする人たちなのだというイメージを持っていました。しかし、そこで出会った大学生は知識を手段として用いて、全く新しいアイディアを創造していたのです!!!それまで持っていたイメージが崩れ、本当に社会において必要な力が何かという点についての考え方が大きく変わり、私もこうなりたいと強く憧れる瞬間でした。そして、新たなものを創造するときにおけるチームワークの素晴らしさを実感した経験でもあります。
そのような思いのもと、高校から大学学部生の間、イノベーションワークショップ(先に出てきたようなイノベーティブなアイディアを出すことを目指したワークショップ)においてグループでアイディアを考えるというワークを積み重ねてきました。ワークを重ねる中で、いいチームワークができるときとそうでないとき、いいアイディアがでそうなチームの状態、あるいは個人であるよりもチームの方がいいと思える状態とはどのようなものなのか、どのような違いがあるのかという疑問を持つようになりました。その際にファシリテーターの教授から薦めていただいたのがこの本です。この本を通じてワークショップを研究として分析することができることを知り、自身がこれまでのワークで抱いてきた疑問を学術的に研究したいと思うようになりました。そして、チームの議論に関する研究にRA(リサーチアシスタント)として携わってきました。
さて、私は本研究室で「高校生を対象としたワークショップでの心理的な変化」をテーマとして取り扱う予定です。というのも、チームの議論に関する研究を手伝いながらも、自分の原体験となったあの体験は、それがどのようにして起きたのか、何が引き起こす要因になっていたのか、そしてその体験を設計することはできるのか、という大きな疑問を私に残し続けているためです。それはイノベーションワークショップやチームでのアイディア創造というワークに固有の体験なのか、それとも他の要因があるのか。あの高校1年生の夏、そして大学入学後のワークで感じたチームの力と没頭感、新たなものをチームで作り上げる体験、そこに何かヒントがあるのではないか。そのような自身の体験を頭に置きながら、私がずっと抱えてきた疑問に研究という形でアプローチすべく、今後山内研究室で取り組んでいければと思います。