2017.08.27

【印象に残っている本の一節】 スイートリトルライズ (M1 宮川 輝)

こんにちは。山内研究室・修士1年の宮川です。
蒸し暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
今回のブログテーマは「印象に残っている本の一節」になります。


■ 私が選んだ一節

私が取り上げたいのは江國香織さん『スイートリトルライズ』の一節です。

この作品は、それぞれが秘密の恋をしている主人公の瑠璃子と夫の聡(さとし)が、小さな嘘を積み重ねながら進行させていく夫婦生活・そして彼女たちの心の機微をとらえた小説です。その中でも特に印象深いのは、瑠璃子が不倫相手の春夫の部屋で共に過ごすシーンです。

「今付き合っている彼女(美也子)と別れるかもしれない」と告白する春夫に対し瑠璃子は、自分と春夫は互いに「嘘をつけない関係」であることを指摘します。そしてその後に瑠璃子が発するセリフが、多くの読者にとって心に残っているであろう次の一節です。


「なぜ嘘をつけないか知ってる?
人は守りたいものに嘘をつくの。
あるいは守ろうとするものに。」


■ なぜ印象に残っているのか

この表現を初めて目にしたとき、私は「なんて人間の心の本質を捉えた言葉なんだ!」と思いました。しかし少し経ってから考えてみると「本当にそうか?」という気持ちも出てきました。

その後に瑠璃子は「あなたが美也子さんに嘘をつくように。私が聡に嘘をつくように。」と続けるのですが、これは素朴な発想をすれば「夫婦の間であっても嘘がないに越したことはないし、不倫相手にも嘘はつけるんじゃないか...?」といった考えにも辿りつきます。

とはいえこの瑠璃子のセリフにはどこか不思議な説得力があり、何度も自分の頭の中を行き来していくうち、気付けば忘れられない言葉になっていました。


■まとめ

解釈の開かれた表現というのは文学作品における一つの魅力で、何度もその言葉を咀嚼していくうちに今まで思いもしなかった考え方に出会ったりすることがあります。こうした経験がある種の「学習」であることは間違いないでしょう。

たとえば数学の問題が解けるようになるといった文字通りの「学習」ばかりでなく、開かれた意味を解釈するといったような、さまざまなタイプの学習を育むことにも目を向けていきたいと思いました。

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