2017.07.06

【今年度の研究計画】幼児のNarrative Skill習得のための物語行為支援システムに関する研究(D4佐藤朝美)

 たて続けですが、今回のブログ、D4佐藤が担当します。
 早いもので博士課程に再入学し、3年目に突入してしまいましたが、進捗は亀の歩みの如くです。今回のブログテーマ「今年度の研究計画」は、昨年のブログから殆ど進捗が無いことを改めて確認し、愕然としてしまいました・・・

 2016年7月7日【今年度の研究計画】(D3佐藤朝美)

 が、何もしていなかった訳では決してありません!上手く表現できないのですが、博論の骨子となる理論を探す旅を続けてきたという感触です。私の研究はICTを用いて支援を行う開発研究です。この「支援」というキーワードと格闘しながら、ヴィゴツキーの最近接発達領域からブルーナーの足場かけ、学習科学における足場かけのデザインに関わる研究の旅をして参りました。

 効果的な「足場かけ」とは、学習者が自分の力で理解するための助けとなるようなヒントやきっかけを与えることを意味します[1]。

 支援方法のメカニズムを考える時に学習科学の「足場かけをデザインする」という視点は、これまで見えなかった仕組みに気づきをもたらせてくれます。例えば、ブルーナーが示した積み木課題の足場掛けでは、言葉かけから思考を促し、1つ1つの動作を制御しながら支援を行うチューターの役割に着目しています[2]が、学習科学ではブルーナーの理論を拡張し、「いかにして、スキャフォルディングは学習環境に埋め込まれるか?」という視点で、教示だけでなく、活動や人工物・道具にも分散していく手法で検討しています[3]。

 このような学習科学研究における学校教育現場での学習に関する知見は、インフォーマルな場での、教員ではなく親の立場での、子どもの支援にも有効と考えます。

 以下、これまでの変更点を意識しながら研究計画を書いてみようと思います。


【タイトル】
幼児のNarrative Skill習得のための物語行為の足場かけデザインに関する研究

【研究の背景】
 人にとって「物語」を伝える事、読む事、語ることは重要な営みである。発達途上にある幼児にとっての物語行為にも、いくつかの重要な意味がある。発達心理学の領域で着目されているNarrative Skill(話す力)は、言葉をうまく使う力にとどまらず、体験や自分の考えを一連のまとまった物語として他者に伝える力であり、幼児期に著しく発達するという。そして、幼児期の物語る行為は、Narrative Skill(話す力)の習得のための活動として重要な役割を果たしている。いっぽう、これらの習得は、思考の道具、自己の確立、文化への参入方法の理解等の要素があり、支援の意義は大きいものの、語彙習得や文法獲得の支援など従来の支援方法では難しい。さらに、「語り」は社会・文化・歴史的な状況を反映するもので、物語を導く大人の役割が大きく、その関係性を保ちながら支援する道具を検討していく必要がある。「子ども」・「親」・「道具」の3点を踏まえたNarrative Skill(話す力)習得のための物語行為の支援を検討することが求められている。

【目的】
 本研究では、「物語る行為」の発達が著しい段階にある幼児を対象に、Narrative Skill(話す力)習得のための物語行為支援システムを開発する。物語行為を支援するために、足場かけをデザインするという観点で、「言葉(教示)」、「活動」や「道具」などの足場がけを埋め込む方法を検討する。開発した支援システムを評価実践し、検証により得られた知見から、物語行為を通したNarrative Skill習得のための足場かけデザインの原則を導き出すことを目的とする。

【方法】
 「研究の背景」で物語行為の支援要素として導き出した「子ども」・「親」・「道具」の3点に対し、足場がけを埋め込む方法として、ミクロ(即時的な支援)的・マクロ(長期的な支援)的視点で支援方法を検討する。ミクロ的には子どもが直接操作しながら物語産出を促されるよう、物語スキーマや登場人物の目標・感情の足場かけとなる絵情報の要素を埋め込み、デザインを行う。マクロ的には、子どものNarrativeSkillの発達につながるよう長期的な視点で、親の「言葉」による引き出しが向上されるよう足場かけのデザインを行う。以上により、2つの支援形態(開発研究1と2)が導出される。

■開発研究1:
 「幼児の物語行為を支援するソフトウェアの開発」

 http://ci.nii.ac.jp/naid/110006792153/

■開発研究2:
 「幼児のNarrative Skill 習得を促す親の語りの引き出しの向上を支援するシステムの開発.」
 
 http://ci.nii.ac.jp/naid/110007520570/

【進捗状況と予測される結果】
 2つの支援形態である開発研究1・2は、開発・実践・評価が完了しており、効果は検証されている。足場かけがデザインされたシステムを用いた実践により即時的な支援だけでなく、長期的な環境要因である親の支援が可能であることが示唆され、子どもの「Narrative Skill」習得の足場かけのデザインが有効であることが明らかとなった。一方で、定義された目標以外の教育効果やいくつかの課題も残されている。それらも考慮した上で知見をまとめ、幼児のNarrative Skill習得のための物語行為を支援する足場かけの要件を整理し、デザイン原則を導き出す予定である。

【研究の意義】
 幼児期において、社会や文化への参入方法を理解する上で、物語は重要な役割を果たすとともに、物語の産出の過程で大人のやり取りを通じで意味形成を行っていくことも重要な活動である。そのような背景を踏まえ、物語の産出スキルであるNarrative Skillについて、その発達段階やメカニズムの解明を試みる数多くの研究が行われている。いっぽう、言語獲得の支援を超えた学習の支援原理が要求されるNarrative Skill向上の支援に関する先行研究は少ない。
 本研究では、発達段階やメカニズムに関する発達心理学、認知心理学の研究の知見をもとに、教育工学的なアプローチでシステムを開発している。支援方法として、ミクロ(即時的な支援)的・マクロ(長期的な支援)的視点で足場かけのデザインを検討し、新たなテクノロジーを用いてこれまでにない支援方法を実現している点で意義があると考える。

[1] Wood, D., Bruner, J. S., & Ross, G. (1976). The role of tutoring in problem solving. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 17, 89-100.
[2] Sawyer Keith (ed)-The Cambridge Handbook of the Learning Sciences-Cambridge University Press (2014)
[3] Guzdial, M. (1994). Software-realized scaffolding to facilitate programming for science learning. Interactive Learning Environments, 4(1), 1-44.

佐藤朝美

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