2017.07.12

【印象に残っている本の一節】注文の多い学びの支援(M2 原田 悠我)

皆さん,こんにちは
山内研究室 修士2年の原田です.
いかがお過ごしですか?

 今回から新しいブログのテーマ「印象に残っている本の一節」になります.どうしてその一節を選んだのか,どんな切り口でその理由を語るのか,研究室のメンバーが選ぶ一節から山内研のメンバーの関心や思いを感じて頂けたら幸いです.

■ 私が選んだ一節

 トップバッターの私が選んだのは,宮沢賢治 「注文の多い料理店」のクライマックスで登場する一節です.この短編は猟に出かけ疲れきった2人の若い紳士が,山奥で1件の西洋料理店を見つけるところから始まります.2人の紳士はお腹も空いていたため料理店に入ることにしました.入ると扉には「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」と書かれていました.2人はこの文章の意図を「きっと流行っているから注文が多くて支度が手間取るのだ」と解釈し次に進みました.すると今度は「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。」と書かれていました.2人はこの文章の意図を今度は「偉い人が来るから作法が厳しいのだと」解釈しました.このように2人は不思議な指示を次々とこなしていきます.

 そして,いよいよ今回の印象に残っている一節です.

だからさ、西洋料理店というのは、ぼくの考えるところでは、西洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてやる家とこういうことなんだ。これは、その、つ、つ、つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが......。(宮沢賢治 「注文の多い料理店」 )

 2人は西洋料理店で西洋料理を食べさせてもらえると思っていましたが,実は自分たちが料理にされ食べられる立場だったのです.つまり,これまでの2人が従ってきた指示は,2人が思っていた意図とは文字通り180度違ったものでした.

■ なぜ印象に残っているのか

 この一節が印象に残っているのには,私の「学ぶとき」と「学びを支援するとき」の苦い経験があります.もちろん宮沢賢治が描くような180度違ったものではありません.しかし,ちょっとしたしかし重要な,指示とその意図のすれ違いです.

 私は今までに数多くのアドバイスをもらいながら学んできました.例えば高校時代の現代文の授業では,「原田くん.現代文を読むときはね.接続詞に丸をつけるといいんだよ.」「先に問題文をチェックして本文に入ろう」などです.高校生の私は,丁寧に鉛筆で接続詞に丸をつけ,始まるとすぐに問題文をチェックしました.さすがに回答が不正解の時に時に丸の濃さが足りないからだとは考えませんでしたが,なぜ先生が接続詞に丸をつけるといいと教えてくれたのか,なぜ問題文を先にチェックしなさいと教えてくれたのか,その意図が何となくでも分かってきたのはその何年も後のことでした.高校時代の私は手法を形だけ覚えて,その意図はおそらく聞いてすらいなかったのだと思います.これだけではありません.学校やアルバイトそしてゼミ,そのなかで学んできたことや頂いた助言,私がその意図を本当に理解するのは,多くの場合けっこうそれも多くは大失敗した後になってなのです.

 一方で,教育工学という分野を選んだこともあり,人の学びを支援する方法を考えることも多くなりました.例えばコンピューターを様々な問題を解決するツールとして使えるようになって欲しいと思い,様々なゲームや問題,システムを作り試しています.うまく遊んでくれたな,思ったように使ってくれたなかなと思ってインタビューをすると,「とりあえずやりましたが,なんかよく分かりませんでした」「えっそんなことなんですか」と答えられてしまうことが多々あります.わかりやすく伝わるように細かく小さな目標や支援にしたつもりなのに,まったく伝わらないもしくは意図しない学習目標が伝わっていたのです.

■ まとめ
 注文の多い料理店に出てくる2人は指示を自分なりに解釈し,そして指示に従い行動しました.しかし,実際にはその指示の意図は思っていたものとは異なり,2人は望まない結果に導かれてしまいました.

 では,私が誰かにアドバイスを頂いた時,

 ・私はアドバイスの意図を本当に理解できているだろうか?
 ・自分が解釈したいように曲げて,解釈してはいないだろうか?

 また,私が何かを伝えたいと思い支援を試みた時,

 ・本当に伝えたいことが伝わる支援方法になっているだろうか?
 ・仮に伝えたい内容が学習者に伝わった時,本当に学んで良かったと思ってくれるだろうか?

 何年も前に読んだ注文の多い料理店の一節は,私が学ぶときそして学びの支援を考えるときそんな問いが思い出される,私の印象に残っている一節なのです.

 今回もご覧頂きありがとうございました.

原田 悠我

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