2017.06.19

【研究計画】美術鑑賞における協調学習のデザインに関する研究(D1平野智紀)

みなさま、こんにちは。今年度より山内研D1としてお世話になっております平野と申します。

近年、学校や美術館において、美術史などの知識だけでなく「あなたはどう思うか」を起点に、ナビゲイター(ファシリテーター)のリードのもと複数名で対話しながらアート作品を鑑賞する「対話型鑑賞」が広く取り入れられてきています。一方で、作品についての知識は与えるべきでない(Yenawine 2013)とか、たとえば中世の西洋美術を鑑賞するときに美術史は重要なファクターだ(長井 2009)とか、様々なことが語られています。対話型鑑賞が個人の鑑賞能力発達に力点を置いており、対話の協調的な側面を見落としている(奥本 2006)という指摘もあります。

私は「美術鑑賞における協調学習のデザインに関する研究」というタイトルで研究に取り組んでいます。

実は、私は山内研で修士課程を修了しており、社会人院生として久しぶりに山内研に"戻ってきた"形になります。2008年に提出した修士論文「ミュージアムにおけるリテラシー概念の意義と領域越境に関する研究」では、美術館・博物館の来館者が持つリテラシー(ミュージアムを使いこなす能力)に着目し、すでにリテラシーを獲得していると想定される美術館・博物館のボランティア/友の会会員に東京大学総合研究博物館の展示を観覧してもらい、その様子を分析することでミュージアムにおけるリテラシーのありようを探索的に明らかにすることを試みました。

修士課程修了後は、内田洋行教育総合研究所で学力調査の集計・分析に関する仕事をしながら、京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センターと連携して、対話型鑑賞の企業研修への導入、ミュゼオバトル・ワークショップの開発、ロボットと一緒に美術鑑賞、など、いくつかの実践・研究を行ってきました。

2015年に美術科教育学会誌に採録された論文「対話型鑑賞における鑑賞者同士の学習支援に関する研究」平野・三宅 2015)では、対話型鑑賞における鑑賞者の成長とナビゲイターの学習支援について、ヴィゴツキー以降の学習理論と実証データをもとに考察することを試みました。その結果、経験を積んだ鑑賞者同士による鑑賞セッションでは、ナビゲイターによる学習支援の発話が減少し、同時に鑑賞者による相互学習支援の発話が増加していること(ナビゲイターのフェーディング)、また、そうした学習支援は複数の鑑賞者の間に"わかちもたれて"いることがわかりました。

ミュージアム研究から美術鑑賞教育研究へ、多少テーマが変わっているように見えますが、教育学・美術史学・博物館学等、単一のディシプリンではなく学際的にアプローチする必要性のあるテーマであること、情報の「受け手の能動性」への着目、といった点は修士からの関心を引き継いでいると考えています。

現在は、博士課程で取り組むもう一本の研究について、2015年の論文で明らかにできたこと、できなかったことを整理して、方向性を検討しているところです(重要な先行研究として、自由な対話型鑑賞に美的・教育的な意味生成の文脈を導入する「半開きの対話」(北野 2013)を引用するつもりです)。ほとんどの博士課程院生が修士論文を「1本目の研究」として使う一方で、私は修士論文ではなく、2015年の論文を「修士論文に代わるもの」として使うことになります。従前から、博士論文は「合体ロボ」(あるいは「ねぎま」)だとよく聞いていました。ロボの腕がとれたり、串に刺さった白ねぎがぐらついたりしないように、まずは構造をしっかりと固める必要があります。みなさまご指導よろしくお願いします。

追伸:
今年度、東京藝術学舎(京都造形芸術大学外苑キャンパス)にて「対話型鑑賞術」という講座を担当しています。もし対話型鑑賞に関心を持たれている方がいらっしゃいましたらぜひお申込みいただければと思います。
対話型鑑賞術~夏・基礎~鑑賞の技術(問いかけ・言い換え・焦点化)

平野智紀

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