2017.02.11

【2016年、山内研ではこんなことあったよ】夏合宿in島根県雲南市

ここしばらく寒いですが、皆さま体調を崩されていないでしょうか?
山内研では風邪やインフルエンザが流行しています(私も最近熱を出して寝込みました)。

また、北海道や北陸はもちろんですが、今年は鳥取県島根県の雪が多いなという印象を受けます。
今年の夏に島根県に夏合宿に行ったため、山陰地方のニュースに敏感になっているだけかもしれませんが...

ということで、今回は昨年夏に行った夏合宿についてご紹介します。


■毎年夏合宿、春合宿に行きます
山内研では毎年夏(9月・2泊3日)と春(3月・1泊2日)に合宿に行きます。いずれも授業や通常ゼミの無い長期休暇期間。じっくり時間を取って自分たちの研究について考える貴重な機会です。
夏合宿の大テーマは「研究をするとはどういうことか?を考える」こと。フィールド・ワークや学習研究上著名な研究者についてのレビューを通じて、自身の研究の進め方を考えます。
合宿の場所や内容はM1が企画、毎年様々です。ここ最近の行き先は海士町@島根県(2014年)、越後妻有エリア@新潟県(2015年)、そして雲南市@島根県(2016年)というラインナップ(島根県が続くのは偶然です)。
以前にも本ブログで合宿の様子をご紹介したことがあります。
・合宿の概要紹介:2010年版2014年版
・夏合宿の様子:2013年度2014年度
・春合宿の様子:2015年度


■「フィールドに入って研究する」ということを考える
今年のテーマは「フィールドに入って研究する」とはどういうことか?としました。
修士論文や博士論文を書くときには、自分の問題意識や関心を大事にするのは勿論ですが、その上で先行研究を踏まえて問題を設定し、研究手法に則って調査や介入を行って結果をまとめる力をつけることが大事です。
一方でその後就職したり、博士課程終了後には会社の方や実践をされる方から(教育分野は特に多いのかもしれませんが)、「専門を活かして私のフィールドを良くしてくれない?」という要望をいただくことがあります。
そうした時に教育・学習に関する修士論文を書いたものとして、あるいは教育・学習に関わる研究者としてどう関われば良いのか...?実際に教育実践をされているフィールドにお世話になり、考えてみることにしました。


■場所は島根県雲南市
今回フィールドとして胸をお借りしたのは島根県雲南市。出雲大社で有名な出雲市の南部にあります。古くはたたら製鉄、最近は鷹の爪団吉田くんの出身地(豆知識です)として知られています。
雲南市HP
たたら製鉄
鷹の爪団吉田くん (スマホ用サイトです)
雲南市は6町村が合併してできた市です。いわゆる「中山間地域」と呼ばれる地域で、日本の地方都市が抱える過疎化・高齢化などの問題を抱えています。そうした流れに対応しようと、市長はじめ行政が主体となって、市民が行政に頼るのではなく、中高生〜高齢者の方が活躍できるようなまちづくりをしていこうと頑張っていらっしゃいます。
その中でも特徴的なのは中高生教育や大学生教育について、市の地域振興と総合学習などを組み合わせた施策をしようとされていることです。今回の夏合宿では行政や現場でどのような取り組みがされているのかを見学させていただくことにしました。


■合宿の流れ紹介
以下、合宿時のフィールドワークなどの様子をご紹介します。
・その1:市役所訪問
 雲南市役所を訪問し、市長や教育長、政策企画部の方のお話を伺いました。
・その2:フィールド訪問「三日市ラボ」「おんせんキャンパス」
 具体的な取り組みを行っているのはNPO。その現場に伺いました。
・その3:研究者のあり方とは?
 フィールドワークの結果を踏まえて、この地域に研究者としてどう関わるか?を議論しました。
・その4:研究者レビュー
 学習研究上有名な学者を、彼らの著書を通じて読み取る勉強会を行いました。
 

■その1:雲南市役所訪問
雲南市は2004年に、平成の大合併によって出来た人口4万人程度の市です。これまで各町村に分かれていた役場を統合して2015年に新しい庁舎が作られました。かなり立派な建物です。


まずは市長・教育長のお話を伺いました。速水市長(平成29年2月現在)は統合前の加茂町長に平成3年に就任。実は私の生まれが同じく平成3年なので、私が生きてきたのとほぼ同じ年月市長をされていることになります...!市長が主に注力されていることは人口減を防ぐこと、そのために行政が全てやるのではなく住民をはじめ様々な方がまちづくりに関わる仕組みを整えることだと言います。「市町村統合が始まってからでは遅いと思い、統合前から様々な仕掛けをした」とのこと。その結果、自治会組織が上手く機能しているとのことでした。

土江教育長(訪問当時・平成28年12月に退任)も教育長歴20年超の大ベテラン。そのキャリアを社会教育の充実にささげて来られたと言います。小〜高の連携、更には学校教育と社会教育を上手く結びつけるための仕組みづくりを色々とご紹介いただきました。


政策企画部の方々は20代後半〜30代前半の若手の方が中心。中にはUターン、Iターンで戻ってこられた方もいらっしゃるようです。上のような長期ビジョンの元で「雲南チャレンジ」と呼ばれる中高生、若者支援の取り組みをされています。特に、雲南市にとって大事にしたいのは大学生。雲南市には大学が無いため、雲南のまちづくりに関わることが大学生の学びにつながるようなプログラムを作っているとのことでした。


お話を伺っていて印象に残ったのは「市長・教育長のキャリアの長さ」「若手職員のエネルギッシュさ」でした。長期政権というと一般的には良い印象を抱かないものですが、「長い年月を使えばここまでのことができるのか」と感じる時間でした。


■その2:フィールド訪問「三日市ラボ」「おんせんキャンパス」
続いて「雲南チャレンジ」の実務を担うNPOの事務所にお邪魔しました。


「三日市ラボ」
雲南市での起業支援をサポートする「NPO法人おっちラボ」のオフィス兼、地域起業を志す人向けのコワーキングスペース。このおっちラボでは2011年から幸雲南塾と称して雲南市で起業を志す若者の受け入れ、育成を行っています。訪問介護事業をはじめ、新規事業や様々な活動が産まれています。現在は、こうした活動に高校生〜大学生世代をどう巻き込んでいくか、また高校生や大学生の教育にどう活かしていくかを検討しているとのことでした。


「おんせんキャンパス」
廃校になった小学校の校舎を利用した小学生〜高校生の放課後学習施設。運営は雲南市と東京に拠点を置く「NPOカタリバ」が共同で行っています。主には不登校の小・中学生支援、中高生向けのプロジェクト型学習支援を行っています。現在はこうした取り組みに対して、学校や地域の方からご理解をいただくこと、またその上で市内外の色々な方がこうした活動に関わることで雲南市の教育を皆で支えるモデルを作ることに注力しているとのことでした。


2箇所ともお話を伺っていると一見、とても上手くいっている印象を受けます。しかし、当然課題もいろいろ。見学中にも、
「ただむやみやたらに起業支援をしても上手くいかないことは分かっている。どうすれば雲南市で成り立つビジネスを作り出せるか」
「学校内外の教育をつなぐといっても、先生方・地域の方々・おんせんキャンパスのような施設が上手く役割分担をしなければお互いの仕事を取り合ったり、逆にお互いに押し付け合ったりしてしまう」
「大人向けの起業支援プログラムをいきなり中高生向けにやっても上手くいかない。どのようなプログラム構成にすると学びにつながるか」
といったような課題があること、またそれらに一生懸命取り組んでおられるということをおっしゃっていました。


■その3:研究者のあり方とは?
その1、その2のフィールドワークを通じて見てきた雲南市の取り組み。これらを元に「自分たちが研究者として雲南市の実践を良くするための研究をするとしたらどうするか?」を考えてみました。


「大学生が雲南市を学習の場として上手く使うためには雲南市の課題を大学生が身につけるべき力とリンクさせる必要がありそう。PBLの理論と照らしてみるとどういうプログラムにすれば良いのかが見えてくる?」
「雲南市の地域を使ったプロジェクト型学習と社会・理科などのカリキュラムを繋げられれば学校とも連携できる。学校では地域学習などは行われているのか気になる」


先生や助教の方々からもアイデアが出ます。
「PBL(Project Based Learning)の際に一番大事なのは課題設定だということを考えると、幸雲南塾の取り組みも産業(農業など)をある程度限定すると良いのでは」
「ICT導入とかの研究をしていた時にも感じたことだけど、新しい取り組みをする時には『それらを受け入れる一つ一つのステークホルダー(地域の方、学校の先生方など...)がそれらに対してどう感じていらっしゃるか』が大事。その調査を行うことでその先が見えてきそう」
「聞いていた感じ、地域の方々の間に対立・葛藤がありそう。そうした対立や葛藤を調査した上で、それらを乗り越えるようなワークショップなどの場の設定はエンゲストロームとかを参考にするとできそうだよね」


学生たちにとってはなるほど!と思えるアイデアばかりでしたが、よくよく考えてみるとこれらのアイデア1つ1つは先生や助教の方の専門と紐付いたコメント。修士・博士とトレーニングを重ねるうちに身についた視点は、こういう場所でもパッと出せる(というか出せるようにならないといけない)のだなと実感しました‥


■その4:研究者レビュー
その1〜3は、「実際にフィールドに出てみて研究者としてのあり方を考え」ましたが、もう1つのセッションでは「著名な研究者のあり方を参考に研究者としてのあり方を考え」ます。今年は以下5名の研究者を取り上げました。過去記事でこれらの様子を取り上げたものがあるので、ご関心のある方はぜひご覧になってください。
 デューイ:【学者紹介】John Dewey
 ピアジェ:【学者紹介】Jean Piaget
 ヴィゴツキー:【学者紹介】ヴィゴツキー L.S.Vygotsky
 ブルーナー:【学者紹介】Jerome S. Bruner
 ショーン:【本の紹介】ドナルド・ショーン『専門家の知恵』


■おわりに
合宿では他にも飲み会をしてメンバー同士普段なかなかできない話をしたり、温泉を楽しんだりと濃い3日間を過ごしました。普段の授業やゼミでの勉強、自分の研究、そしてその後の仕事?などがどうつながっているかを少し感じられた機会だったと思います。


「おんせんキャンパス」の職員の方と会話していてボソッと聞いた言葉です。
「色々やってみて、生徒や学生さんが変わっている、良くなっていることは肌で感じる、ただそれが何なのか上手く説明できないんだよね」
その場では「確かにそうですね...」としか返事が出来なかったのですが、それを上手く言葉にできるようになることが勉強を続けていく上での一つの目標になっています。


2017年に行われるJSET(日本教育工学会)の全国大会は島根大学での開催です。もし参加される方は、少し足を伸ばして雲南市に遊びに行ってみてはいかがでしょうか?
以上、最近島根県宣伝の多いと言われる根本でした。


【根本】

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