2016.07.07

【今年度の研究計画】幼児のNarrative Skill習得のための物語行為支援システムに関する研究

 うっとうしい梅雨が続きますが、明けると猛暑の夏がやってくるというのは悩ましいですね・・・今週のブログ、D3佐藤が担当します。

 私は、子どもが遊びで熱中する物語づくりという行為に着目し、支援を通じてお話しする力を育むことができないか、という関心のもと研究に取り組んでいます。

 3歳頃から見られるようになる「物語」を語る行為。幼児期後期になると、かなり複雑な物語ができるようになります。けれど、想像上の物語を楽しむ様子は微笑ましいものの、その話には、脱落や飛躍があり、筋や脈絡に一貫性が認められないことも多いようです。頭の中には何らかの表象があり、表現しようという動機があるらしいのですが、うまくことばで表現できないように見える時期があるのです・・・

 この発達段階、壮大な博論という物語を書いている私の現状に重なります・・・統括性のある博論の生成に必要な知識、博論の筋を生成するための技能はどのようなもので、どのように習得できるのでしょうか。

 渦中の私にはメタ的な見通しが出来ず、指導教官、助教の方々、研究室のメンバー達の、発達の再近接領域への働きかけにより、緩やかに発達している状況(のはず)です。ともあれ、せっかくの貴重な体験なので、子どもに負けず、嬉々として語っていきたいと思います!


【タイトル】
幼児のNarrative Skill習得のための物語行為支援システムに関する研究

【研究の背景】
 人にとって「物語」を伝える事、読む事、語ることは重要な営みである。発達途上にある幼児にとっての物語行為にも、いくつかの重要な意味がある。発達心理学の領域で着目されているNarrative Skill(話す力)は、言葉をうまく使う力にとどまらず、体験や自分の考えを一連のまとまった物語として他者に伝える力であり、幼児期に著しく発達するという。そして、幼児期の物語る行為は、Narrative Skill(話す力)の習得のための活動として重要な役割を果たしている。いっぽう、これらの習得は、思考の道具、自己の確立、文化への参入方法の理解等の要素があり、支援の意義は大きいものの、語彙や文法の支援など従来の支援方法では難しい。さらに、社会・文化・歴史的な状況を反映するもので、物語を導く大人の役割が大きく、その関係性を保ちながら支援する道具を検討していく必要がある。「子ども」・「親」・「道具」の3点を踏まえたNarrative Skill(話す力)習得のための物語行為の支援を検討することが求められている。

【目的】
 本研究では、「物語る行為」の発達が著しい段階にある幼児を対象に、Narrative Skill(話す力)習得のための物語行為支援システムを開発する。システムは、「子ども」だけでなく、子どもをスキャフォルディングする「大人(親)」、さらには「子どもと大人(親)」の対話を支援するものとする。その要件として、物語を「表現(外化)・共有」することが可能な現在のテクノロジー技術を用いることとする。
 開発した支援システムを評価実践し、検証により得られた知見から、物語行為を通したNarrative Skill習得支援形態のデザイン原則を導き出すことを目的とする。

【方法】
 「子ども」の物語行為を賦活するための設計要件、「親」の語りの引き出し方の向上を支援するシステム開発のための設計要件、文化的道具として物語行為を支援するための要件の定義から、2つの支援形態(開発研究1と2)が導出される。

■開発研究1:
 「幼児の物語行為を支援するソフトウェアの開発」

 http://ci.nii.ac.jp/naid/110006792153/

■開発研究2:
 「幼児のNarrative Skill 習得を促す親の語りの引き出しの向上を支援するシステムの開発.」
 
 http://ci.nii.ac.jp/naid/110007520570/

 まず開発研究1では、システムにより素材を提供することで物語を賦活し、システムを操作しながら物語るという形態で、物語の産出に注力できるよう認知機能を考慮した物語産出の「外化(表現)」を支援する。次に開発研究2では、外化されたものを録画し、他親子と物語産出過程を「共有」することで、子どもに合わせた多様な語りの引き出し方の実践知を習得することにより親の語りかけの向上を支援する。

【進捗状況と予測される結果】
 先行研究により導き出された2つの支援形態、開発研究1・2は、開発・実践・評価が完了しており、効果は検証されている。システム開発により「外化・共有」の機能を実現し、2つの活動の支援を行うことで、子どもの「Narrative Skill」の習得を支援することが可能になることが明らかとなった。一方で、定義された目標以外の教育効果やいくつかの課題も残されている。それらも考慮した上で知見をまとめ、幼児のNarrative Skill習得のための物語行為を支援するシステムの要件を整理し、デザイン原則を導き出す予定である。

【研究の意義】
 幼児期において、社会や文化への参入方法を理解する上で、物語は重要な役割を果たすとともに、物語の産出の過程で大人のやり取りを通じで意味形成を行っていくことも重要な活動である。そのような背景を踏まえ、物語の産出スキルであるNarrative Skillについて、その発達段階やメカニズムの解明を試みる数多くの研究が行われている。いっぽう、言語獲得の支援を超えた学習の支援原理が要求されるNarrative Skill向上の支援に関する先行研究は少ない。
 本研究では、発達段階やメカニズムに関する発達心理学、認知心理学の知見をもとに、教育工学的なアプローチでシステムを開発している。子どもが1人でシステムを使用するのではなく、子どもの支援に重要な役割を果たす親を含めた道具のあり方を含めて検討し、新たなテクノロジーを用いてこれまで行われなかった支援方法を実現している点で意義があると考える。物語産出の「外化」を支援することと、物語産出過程を「共有」することをシステムで実現することにより、新たなメディアによる対話形態の支援・コミュニケーションスタイルの提案を行っている。

佐藤朝美

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