2016.03.12

【本年度を振り返って】問うべき問いを問うために

M1の杉山です。私の【本年度を振り返って】を書きたいと思います。

本年度を振り返ってみて、M1としての1年間、これまで辿ってきたのは「何を問うことに価値があるのか」を探す道のりだったと感じます。来月に修論構想発表を控え、修士研究の枠組みがそろそろ固まる時期ですが、そこでは何をリサーチクエスチョンに据え、それの解明や実現に取り組む意義がいかにあるのかを明示しなければなりません。なんでもかんでもいいから問いを立てる、ということは簡単にできますが、それが果たして「問うべき問い」なのか、立場を明確にしてはじめて、リサーチクエスチョンになります。

私は一貫してアマチュア芸術活動における学習に関心をもち、この一年間文献のレビューも行ってきましたが、アマチュアという存在はとかく学術領域では扱われにくい存在だと感じます。音楽でいえば、学校の授業として行われる音楽活動と、音楽院などの高等教育機関や仕事で行われるプロ・エリートの専門的な音楽活動に関しては、教育や学習の文脈でよく研究されてきました。しかし、大人たちが、趣味や余暇として―暇つぶしというよりは真剣な活動として―行っている音楽活動というのは、ほとんど対象になってこなかったのです。

なぜ対象になってこなかったのでしょうか。一つの要因には「それが私的な活動だから」ということがあると思います。学校教育やある領域の専門家は、かなりの程度、公の事柄としての性格をもっています。音楽を学校でどう教えるべきか、これからの音楽家はどうあるべきか、という問題は、個人的な問題を越えて、社会的なイシューになりやすいし、それに対し教育的・工学的に介入する根拠も主張しやすいと思います。それに対し、アマチュアの音楽は「人それぞれ」「好きでやっているから」というイメージをもたれやすく、なかなか研究する「意義」、問いの「価値」を語りにくい性格をもっています。

しかし、それはアマチュアを「研究する意義がない」ということでは決してないと思う、ということが、この1年言いたくてなかなか明瞭に言い切れないことでした。実際のところ、今でも言い切れてはいません。特に秋ごろまでは「研究したいから研究する」「自分が知りたいことを学術用語で言い換えてみただけ」のような状態が続いて、学術領域に自分の研究を位置づけることも、ままなりませんでした。それに比べれば、今は多少前進してきたような気もするのですが、満足はできていないです。とはいえ、そこに拘泥して研究ができないのもしょうがないですから、考えながら走り回るというのが目下の課題です。アマチュアにも豊かな学習があるということは、自分の経験からも、周りの友人たちを見ていても確信するところですから。

吉見俊哉先生が近著『「文系学部廃止」の衝撃』で書かれた一節が、最近頭の片隅にいつもあります。曰はく、「文系の知は、既存の価値や目的の限界を見定め、批判・反省していくことにより新しい価値を創造することのできる知です」。何かを問う価値は、既存の価値観の枠組みだけが保障するものではないはずです。では、いかにして、新しい価値観を創造しながら、問いを立てていくことができるか。とても難しい課題ですが、この先研究を続ける中で、少しずつ実践していければと思います。

【杉山昂平】

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