2014.09.01
みなさん、こんにちは。山内研M2の青木智寛です。
最近の山内研究室の様子ですが、夏恒例の合宿が行われようとしています。今年は島根県の海士町を訪問することになっていますが、その様子はまた別の記事でご紹介できたらと思います!
さて、今回のテーマ、学者紹介第2回では、コミュニティにおける学習理論で有名なエティエンヌ・ウェンガーについてご紹介したいと思います。
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エティエンヌ・ウェンガー(Etienne Wenger 1951~)教育理論家・実践家・コンサルタント
●生涯と著書
コミュニティや人々の集団における学習理論で有名なウェンガーですが、学士・修士は計算機科学を先行していました。大学を出た後はゼロックスのパロアルト学習研究所に所属し、2000年代からはCoPコンサルタントとしても活躍しています。
ウェンガーは単著、共著を含めると数冊の本を著しています。1987年に発表された最初の著作"Artificial Intelligence and Tutoring Systems"では、知的CAIシステムについて述べられています。その後、文化人類学者のジーン・レイヴとの共著"Situated Learning: Legitimate Peripheral Participation"(1991)(邦訳: 状況に埋め込まれた学習 - 正統的周辺参加)によって、「正統的周辺参加」という状況に埋め込まれた学習の理論が生まれました。その後、その中でも触れられていた「実践共同体」という、共同体における学習に焦点を当てた、"Communities of Practice"(1998)が発表され、2002年にはその実践共同体を企業という組織社会に当てはめて具体的に論じた"Cultivating Communities of Practice"(邦訳:コミュニティ・オブ・プラクティス - ナレッジ社会の新たな知識形態の実践)が発表されました。さらに近年では、デジタル社会における組織内のメンバーの振る舞いについて述べた"Digital Habitats"(2009)を公開しています。
●正統的周辺参加(Legitimate Peripheral Participation)
正統的周辺参加とは、1991年に文化人類学者のレイヴとの共著で書かれた「状況に埋め込まれた学習」にて発表された概念です。学習とは、従来の命題的な知識の獲得や認知構造の変化ではなく、実践共同体に参加することを通じてアイデンティティを形成していく過程であるということを述べたものです。実践共同体において、まず簡単な仕事・責任から始まり、だんだんと大きな仕事・責任を担っていくようになる過程こそが学習であり、その意味において学習は状況に埋め込まれているという特徴があります。
●実践共同体(Community of Practice)
実践共同体とは、上記の著作にて発表された概念ですが、その後のウェンガーの単著である"Communities of Practice"(1998)にて詳しく述べられています。この本では実践共同体を中心とした学習の定義や特徴、構成要素について詳しく述べられています。これをより企業社会に基づいた観点から捉え直した「コミュニティ・オブ・プラクティス」(2002)にある記述によれば、実践共同体の構造モデルは
・「領域」(グループで共有している問題や関心事の範囲を定義)
・「コミュニティ」(関心を抱く人々の社会的構造)
・「実践」(コミュニティのメンバーが共有する一連の枠組みやアイデア・ツール)
の三要素から成るとされています。
●テクノロジーステュワード(Technology Stewarding)
テクノロジーステュワードとは、上記"Digital Habitats"(2009)にて述べられている、テクノロジーの影響を大きく受けるようになってきている近年の社会において、共同体内の学びを促進するテクノロジーに精通した人物を説明する概念です。テクノロジーステュワードは、共同体内のテクノロジーに関する要求を理解できる十分な実務経験を持ち、要求に取り組む上でリーダーシップを十分に発揮できることなどのスキルが求められます。
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普段、何気なく様々なコミュニティで生活している私たちですが、そこにはさまざまな「実践」が行われており、「学習」が生起していることをウェンガーは気づかせてくれます。
他にもウェンガーの学習理論には重要なキーワードが登場しますが、紙面の都合上、この辺りで閉じさせていただきます。
それでは夏合宿、行ってまいります。
【青木智寛】