2014.07.31

【助教の方々へインタビュー】大浦弘樹さんに聞く~研究との向き合い方

みなさま、こんにちは。
修士2年の中村絵里です。

いよいよ明日から8月です。
授業もゼミもしばらくお休みとなり、修士の院生にとっては、夏を満喫する歓声を遠くに聞きながら、自身の研究と向き合う過酷な2ケ月の始まりです。

さて、助教インタビューシリーズ第4回は、昨年9月より東京大学大学院情報学環の特任助教に着任された大浦弘樹さんにご登場いただきます。

大浦さんは、安斎さん、伏木田さんと共に、FLIT(社会連携講座) の仕事に従事されながら、現在もワシントン大学大学院教育学部の博士課程に在籍し、研究活動を続けられています(大浦さんのプロフィールはFLITメンバー紹介をご参照ください)。昨年夏の帰国から、まもなく1年を迎える大浦さんですが、Ylab Blogに登場されるのは初めてということで、大浦さんのアメリカ留学中のことから、帰国後の研究活動のことまで幅広くお聞きしました。

-------

〇まず、大浦さんと山内研・山内先生との出会いについてお聞かせください。
2007年の春から1年半ぐらいMEET(東京大学 大学総合教育センター マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門)のリサーチフェロー・特任研究員をしていたのですが、MEETのフェローが山内先生でした。

〇その後、アメリカに留学されたのですね。
2008年の秋から2013年の9月まで、ちょうど5年間、米国ワシントン州のシアトルにあるワシントン大学(University of Washington)教育学部の学習科学プログラム(Learning Sciences Program)の博士課程に留学しました。現在は博士論文を書いているので、一応まだ在籍中です(笑)。

〇アメリカでは、実際に高校の授業にも入っておられたと聞きましたが、現地の高校の印象はいかがでしたか。
リサーチアシスタントとして、現地の高校と小学校の主に科学(日本の理科)の授業に関わりました。初めて訪問したのは、公立高校のgenetics(遺伝学)の授業でした。想像と大きく違っていたのが、授業スタイルでした。アメリカの高校は議論中心でインタラクティブというイメージを持っていたのが、実際に授業を見学してみると、先生が前に出て講義をする日本の多くの高校と全く同じ講義形式だったので衝撃を受けました。それだけでもびっくりでしたが、もっとショックだったのが、授業態度。生徒が授業中にお菓子を食べたり、イヤホンで何か聞いていたり、今でも忘れられないのが、僕の目の前にいた女の子が授業が退屈だったのか、突然ダンスを踊り始めたんですよ。もうびっくりして、これがアメリカかぁと思いました。もちろんこれが普通ではありませんし、たまたま最初に訪問した高校のクラスがそうだったということです。その後いくつか高校を訪問したら、日本と同じで、生徒も先生も学校も様々。日本にいてメディアを通して入ってくる情報というのは、良い面も悪い面も、極端なものに偏っているのだなと学びました。要するに、教育でいうと、 MITやハーバードなどの極端に良い事例か、日本と比べて極端に悪い例しか入ってこないのではないでしょうか。日本とアメリカを比較すると、確かに違いはあるけれど、同じようなところもあります。印象としては、初等中等教育では思ったより違わなかったです。一方で、学び方、教え方に対する根本的な考え方の違いがあるような気がしているのですが、うまく言葉にしにくいですね。

〇日本に帰ってこられて、アメリカでの研究と日本での研究スタイルに、何か違いは感じていますか。
そもそも研究で扱っていることが違いますよね。ワシントン大学では教育学だったけれど、ここ(東京大学)では情報学環なので教育学では扱わない研究もしています。ワシントン大学では、人種や文化を含む様々な社会背景を考慮したequity(公平性)や 多文化教育に焦点があり、(アメリカの方が日本より格差が大きく)不利な立場にある子ども達にも質の高い教育を、という問題に立ち向かっている研究者が周りに多いです。一方、現在のFLITの仕事では、次世代の教育に向けたデザインをしています。もちろんMOOCなどは、何らかの理由で高等教育を受けられない(なかった)人も対象には入っているとは思いますが。その国、地域、大学で取り扱っている問題が違いますので、単純な比較はできないですね。研究スタイルについても違うと思いますが、フェアな言い方をしようとすると、どういう違いがあるとかは、なかなか言うのが難しいところです。

〇違いに戸惑うことはありましたか。
日本に帰ってきてからよりも、アメリカに行ったときの方が、戸惑いは大きかったです。初めは言葉の問題もありましたし。帰国してからは、さほど逆カルチャーショックもなく、やっぱりご飯おいしいな、とか思いました。山内研で仕事をするメンバーのほとんどは、以前から知っていたということも関係しているかもしれませんが。

〇現在は、山内研でFLIT(社会連携講座) の仕事にメインで関わっておられますが、博論も執筆中ということで、ご自身の研究活動と仕事とのバランスはどのように取ってらっしゃいますか。
なるべく自分の研究はしたいけれど、仕事もちゃんとしなくてはいけないので。ただ、スタッフ室にいる間も自分の研究はできます。僕の場合は、朝早起きして駅前のファミレスなどで6時くらいから始めて、東大の門が開く7時ぐらいにスタッフ室に来て午前9時か10時までは自分の研究をします。そうすれば半日は自分の研究ができるじゃないですか。それからFLITの仕事をして夕方4時か5時にはもうへとへとになっていますね。体力には限界があるんだな、と思います。といっても、これは理想的な時間配分の例で、特に今年の3月から5月はgacco の仕事が集中していたので、思うように研究の時間は割けませんでした。でも、仕事はやりがいがあって楽しいですよ。山内先生には感謝しています。
夕方以降は、研究をしたくても疲れてなかなかできないので、夜、家で本や論文を読んで情報をインプットします。朝起きたときが、一番頭がすっきりしているので、分析とかアウトプットをします。あくまで理想ですが。それから、どうしても心が動かないとき、やる気がおきないときもありますよね。そんなときは、もう、できなかったらしょうがないですね、とりあえず寝て休む。それでパッと朝起きればまたできる。
博論は、今年中には提出はしたいと思っています。これが終わらないと次のステージに行けないので。仕事が休みになって、休めって言われても博論が終わらないと休めないですよね。この気持ちは、安斎くん、伏木田さんも同じだと思います。実は、帰国して仕事をすることについて、いろんな人から反対されたんですよ。まあ、実際は反対というよりもアドバイスに近いんですが、博論を書いてからにした方が良いと言われました。これまで、何人も仕事を始めて、博士号を取らないまま終わった人がいるからと。本当にその通りで、仕事をしながら博論を書くのは実際大変ですよね。

〇そうですね、誰に怒られるわけでもなく、自分との闘いですね。精神力が強くないと。
この世界は怒られることが少ないですからね。僕の場合は、精神論ではなくて、どうすれば自分が結果としてやるのかということを考えます。例えば、朝早く起きた方ができるから朝早く起きる、ちゃんと寝ないと集中できないからしっかり睡眠をとる等、行動と結果ベースで決めるようにしています。自分が強いとか弱いとかそういうことではなく。でも、人間だから思いますよ、どうしてできないんだろうって。そういうときは、どういう生活習慣をしたら、自分がイメージするように動けるかというのを基準にして考えます。要するに、うまくいくルールというか生活のパターンを作る工夫をしています。他人の話は聞くけれどそれが自分にうまくいくとは限らないので、トライしてみて、うまくいったらそれを続けます。気分の波もあるので、意欲が下がっているときはあまり自分を責めずにまた上がってくるのを待ちます。

〇最後に、山内研の助教としてもう1つの重要な仕事である修士の院生のファシリテーター役についてお聞きします。ファシリテーターを務める上で心掛けていることなどありますか。
ファシリテーターは人間関係が要ですよね。お互いにとって、うまくいくポイントをコミュニケーションを取りながら模索しています。こういうことを言った方が、この人には効くかなと考えながらアドバイスしたりしています。研究については、修士の人は研究をしたことがないから、どうやったらいいかわからないことが多いですよね。だから、研究の大枠を見せてあげて、細かい部分は自分で考えてもらうようにしています。また、最初の方は質問をオープンクエスチョン(なぜ?どんな?)にします。質問をすると活性化されていくので、答えながら本人が気づくようになります。その人の研究を頭の中でイメージして質問すると、研究の全体像マップの中に穴が出ますよね。そこをさらに聞いていくと、相手の気づきになるのかなと思います。そうなって欲しいなと思っています。

-------

大浦さん、この度は貴重な時間をいただき、ありがとうございました。

大浦さんは、山内ゼミでは、ムードメーカー役で、研究に行き詰っている人には明るく、方向を見失っている人には的確に、様々なアドバイスをしてくださる大変ありがたい存在です。今回、インタビューをさせていただき、改めて大浦さんの心の広さに触れることができました。また、研究と向き合う姿勢や時間の使い方など、大変参考になるお話が多く、私も少しでも大浦さんのように行動ベースで研究を進めていけるようにしたいと思いました。

なお、今回FLITのプロジェクトについて詳しくお聞きすることができませんでしたので、ご関心ある方は、2014年1月5日付YlabBlog(http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2014/01/)の山内研のプロジェクト紹介をご欄ください。

【中村絵里】

PAGE TOP