2014.07.27

【助教の方々へインタビュー】池尻さんの授業編


皆様こんにちは。修士2年の池田めぐみです。
猛暑が厳しくなってきましたね。「助教の方々へインタビュー」第3回目は2013年の春から特任助教に着任された池尻良平さんにインタビューさせて頂きました。
修士課程・博士課程と「歴史を現代に応用する学習方法の開発」というテーマで研究されていた池尻さん。研究のことや、なぜ博士課程に進まれたかについての記事は過去のYlab blog池尻さんのblogにありましたので、今回は意外に知らなかった、先生としての池尻さんに着目し、"池尻さんの授業の工夫"についてお話を聞かせて頂きました。

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Q.今担当している授業について教えて下さい。
今担当している授業は3つで、
教育工学の方法を半期を通じて学ぶ、教育工学研究法
情報に関する知識や方法を入門的に学ぶ、情報科学研究法
あと、プログラミング入門を早稲田大学の人間科学部で行っています。

Q.授業をつくるときに気をつけていることは何ですか?
文脈つくりを大事にしていて、その授業に学生がのれるように工夫しています。
今期の、教育工学研究法だったら、「動画教材をつくって教育コンテンツか教育方法をつくる」っていう課題だったんですけど、ただオンデマンド授業を作るっていうの面白くないやん?(笑)その時に文脈にのせるっていうのがやっぱり重要だし、そこで学生のテンションがあがるようにしたいなって思ったんですよ。僕の修士研究の授業実践もそうだったんですけど、そのときも、最初に「労働問題を考えよう」って言うんじゃなくて、「君たちがこのまま日本にいたら非正規雇用の割合が増えて、みんなの給料も減りうる」という形で学生がのりやすい文脈を作ったりしていて。そういった授業の文脈作りに結構時間をかけていますね。
 それで、早稲田の授業では、受講者みんなが研究者志望なわけじゃないし、教育に興味がない子もいる。けれど、ここでやっていることは君たちに今後役に立つんですよっていうことを強烈に印象づけるために、下記のような伝え方で課題を伝えました。
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あなた達は科学に基づく教育教材の開発で有名なベンチャー企業の社員です。
昨今、MOOCや反転授業など動画を活用した教育ニーズが高まっており、
うちの会社にもそのような依頼が殺到しています。

ミッション
顧客にモデルケースとして提案できる新しい教育コンテンツを開発して下さい。

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こういう話をすると、教育工学に興味がない人も楽しそうってなったりリアルに感じてくれたりするんですよね。

でも、やっぱり教育工学を学んだ方が良いということに関しても説得性をもたせた方が良いなと思って、導入と一緒にそれをなしとげたらどうなるかのイメージも伝えられるようにしています。学校に作った教材を実際に導入してみるとか。今回はそれはできなかったんですけど、自分が教育工学を学んでどんな良いことがあったかを伝えるようにしました。これは、僕の応用するっていう研究の価値観にも似ているんですけど、役に立つということを授業の入り口と出口でしっかり担保するっていう工夫はすごいしているなって思います。

そういうのを考えられるのは、応用させる研究をやっている僕の強みでもあるし、アウトプットの時に色んな状況を想定できるのは色んなひとがいる学際情報学府に所属した強みでもあるし、授業にリアリティをもたらせるのは実践研究をやってきた強みでもあると思いますね。

Q.他に工夫していることはありますか?
グループ活動を導入する際は、個々人が活躍できるようにすること、特に、受講者それぞれが自分の創造性を発揮できるようにすることを意識しています。あらかじめ、自分は何タイプかを診断する自己分析のようなアンケートを行って、色んなタイプの人がグループにいるよう工夫したり、授業においても、「この課題は論理系の人に任せる!」とか「発表はリーダーの人がやって」とか、役割をもたせるように意識していますね。

後は、Javaだったら、数式だすだけの課題になってしまいがちなんですけど、(お酒が飲める歳になった)大学2年生が多かったりしたら、「コンビニのお酒の年齢認証に使えるプログラムを作ろう」といった課題を出してみたり、Siriやトロのような人工無能が多くなってきているから、それに準ずる物を作ってみましょうといった課題をだしてみたりしています。自分で作る人工無能はSiriなどに比べてレベルが落ちてしまうけど(笑)「最新の機能につながるものを作っているんですよ」、「今の世界とつながることをしているんですよ」っていうのを意識できるように工夫しています。

この効果はすごいあるなって気がしていて、「楽しかった」とか「他の物にも応用したいとおもいます」という声も聞くことができて、嬉しかったですね。

あと、プロジェクト型学習は雑多にやっている印象になってしまうこともあるので、ポイントを押さえる工夫もしています。
節目節目で学生にポイントをおさえてもらうようにしたり、段階ごとにやったことに対するスキルパックを提供するようにしています。でも、アイディアとかは自分からださないで、フレームだけ示して、コンテンツは自分達で考えてもらうようにしています。よく考えたら、僕の研究のカードゲームも、歴史をフレームワークにして、高校生が自分の観点で現代のものをいれていくから、そう考えると一緒かもしれないですね(笑)

あと、教えるタイミングはかなり意識していますね。
君たちに学んで欲しいことみたいなのを、タイミングをすごく重視して教えていて。体験してみた後に言われたらわかることは、体験後に言うとか、考えている方向性がわからなくなったときに方向性を言うとか。困る時に教えて、それまでは教えないっていうことをしていますね。自分のなかで、グループの進行を想定をしていて、あのチームはここでつまずきそうだなとか。その時に一言コメントできるように意識していますね。面白い物で、自主的にやっていると、助けを求めてくるタイミングがあるんですよ。そのタイミング、一番重みが出るタイミングでコメントできるよう意識していますね。

Q.授業をしていて大変なことはありますか?
大変なこと...状況把握ですかね。各自の進行をしっかり頭にたたきこまないと、重みのあるコメントができない。だから、ポートフォリオを渡して、授業後はSAとよみあって、つまるかもしれないポイントを掴むようにしています。後は、授業中も歩き回りながら、今どういうことをやっているかしっかりアップデートしているかな。人数が多いと、一人だとしんどいから、SAと協力しながらリアルタイムに状況が把握できるようにしています。

Q.印象的だった出来事はありますか?
今回彼らのやっている活動を教室にとじこめないことを目標としていたんですよ。コンテンツを作る時に、生協で動画をとるグループがあって、そのグループには、プロットを作るのが好きな子だとか、撮影が得意な子だとか、演技派の男の子とかいて、すごくこだわりながら楽しそうにやっていて、編集とかもかなりこだわってやっていて、もう1回動画を撮りに行ったりしていて。動画を作成する時に、各グループがすごい面白そうにやっていて、クォリティー的にはもうちょっとな部分もあったけど、すごい楽しそうに作っているのはやっぱ印象的やったなぁ..と思いますね!頭で考えるだけじゃなくて、型にはまらずにつくるっていうのは、教育工学の一番面白いところでもあるし、自分達の作品に段々愛情がうまれてくるのも印象的でしたね。

授業や教育プログラムを行う人に向けたメッセージをお願いします
まず、ひとつは、ワークショップや研究、あらゆることに通じることだと思うんですけど、対象者のことを考えて、対象者が学習できる状況をつくってあげることだと思います。彼らが求めていることにマッチした環境をがんばって作りこんであげることだと思いますね。大学生だったら卒業後社会人になる人、研究者になる人、独立する人、いっぱいいると思うんですけど、みんなにマッチするよう意識して授業をつくり、今からやることはみんなに役に立つということを伝えてあげる。そうしていくためには、大学生の現状を知る必要もあるだろうし、社会の情勢も知る必要があるだろうし、大学生の能力の現状や、若い人に価値があるものは何かも知らないといけない。今回も他の助教さんと2週間くらいずっと、そういったことを考えながら授業をつくっていましたね。

もうひとつは、グループについて。
グループってすごい簡単にくめるし、すごい簡単に課題も出せるんですよ。
でも、グループでひとりひとりがどういう風に貢献するかだとか、どういう会話するかだとか、最終的なパフォーマンスを最大にする為にはグループ構成がこれでいいかだとか、グループの中身をすごい意識していますね。
だから、そのために必要な情報があれば聞き出しているし、グループの組み方とかグループ課題も、ものすごく細かくシミュレーションして授業に望んでいますね。これを考えることは、学校の授業にも役立つだろうし、研究にも活きると思っていて、ワークショップをやるときとかにも役立つだろうなと思っています。

あとは自分自身がその授業を面白いと思っているかというのも、すごい大切ですね。そこの自信がないと、みんなついてこない。面白さに対して自分が責任をもつことが大切だなって思っています。その責任感というか、覚悟がみんなに電波する気がするんですよね。クールな開発研究じゃなくてロジックはクールだけど、自分が自信をもっておとどけする面白さを全面に出すことも大事だなって思いますね。

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池尻さんありがとうございました!!
お話を聞いていて何度も「池尻さんの授業うけたいなー」と思いました。
授業ではないですが、私も修士研究でワークショップを開発し実施します。
対象者のことやグループ編成をとことん考えて、対象者が学習できる状況をつくりあげること、面白さに対して自分が責任をもつこと、しっかり意識してワークショップ案を練って行こうと思いました。

次回の【助教の方々へインタビュー】は大浦先生編になります。お楽しみに!


【池田めぐみ】

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