2014.07.05

【留学回顧録】Aalto Universityでの半年間で僕は何を学んだのか

お久しぶりです.M2の吉川遼です.


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今年のフィンランドの気候は聞くところによると例年に比べ寒暖のメリハリが弱いみたいで(それでも冬は-20℃前後だった),6月は雨が多く,気温も15℃程度とあまり暖かくありませんでしたが,それでも時折訪れる快晴の日には芝生の上で本を読んだり,雑談したり,音楽を楽しんだり...,とそれぞれが友人や家族と思い思いの夏を楽しんでいる様子も見られました.


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6/21の夏至前後は朝3時に東の空が赤く染まり,日が沈むのは23時を過ぎてから,という非常に昼の長い,高緯度特有の日々の中で穏やかな日々を過ごしていました.

そんな6月にAalto Universityでの半年間の留学を終え,フィンランドから帰国いたしました.

今回,特別編として枠をいただいたので,Aalto Universityでの留学生活について振り返りつつ,ご紹介していきたいと思います.

■Media Labとは

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▲写真はDemo Day時の様子

僕が所属していたのはSchool of Arts, Design and Architecture(芸術デザイン建築学部)のMedia学科,New Media専攻で,一般的には"Media Lab"と呼ばれています.

このMedia Labには
◦ Game Design and Production(ゲームデザイン)
◦ Sound in New Media(サウンドデザイン)
◦ New Media Design and Production(メディアデザイン)
の3つが修士向けのコースとして開かれており,僕はNew Media Design and Productionに属していました.

Media labで開講されている授業の多くは,基本的に個人またはグループワークを通して与えられた課題に取り組む,課題解決型のプロジェクト型学習形態でした.

僕にとってはそのほとんどが魅力的な授業でしたが,時間やそれぞれのプロジェクトの関係で全部取れなかったのが惜しまれます.自分が取った授業でも特に面白かった授業が以下の2つです.


■Prototype Experience...Make an everyday object playful


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これは,近年日本でも話題になっているマイクロコンピュータのArduinoを使い,日常生活をPlayfulなものにしていく,という授業でした.

この授業では「いかに早く,コンセプトが的確に伝わるプロトタイプを作れるか」ということが求められました.UIデザインのみならず,様々な分野において,実際にプロトタイプを使ってみることで分かること,見えてくるものは非常に多く,さらに議論も促進され,非常に有用なフィードバックが得られることでプロダクトの質が向上していきます.

この「いい(=コンセプトが的確に伝わる)プロトタイプを早く作る」→「議論の活性化」→「有用なフィードバックの獲得」→「プロトタイプの修正」→「次のプロトタイプを作る」→...のサイクルをいかに早く回すことができるかが重要なのだそうです.

この授業で,僕はもう1人の学生と"Make bus ride more playful"という目標の下,どうやったらバスに乗っている間の退屈な時間を面白く出来るかを一緒に考え,制作を進めていきました.

当初はなかなか議論が収束せず,1回目のプロトタイプは「バスの進行方向に応じてLEDの色が変わる」というものを作ったのですが,中間発表ではそれがどう"Playful"に結びついていくのか,誰もピンときておらず,あまり議論が活性化せず,悔しかったのを覚えています.


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しかし2回目のプロトタイプ発表に向け,お互い「バスの天井に星座を模した路線図を描き,現在位置を示すことで,長く暗いフィンランドの夜のバスの中の雰囲気をよいものにする」という方向性で一致し,プロトタイプを作ったところ非常に好評で「乗客が座ったら他の星が光るインタラクションがあったらいいよね」「センサはこの部分につけたらいいんじゃないか」など様々なフィードバックを得られる,非常に有意義なディスカッションとなりました.


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最終的にこのプロトタイプは,5月末に開かれた"Media Lab Demo Day"という学生の制作物展示会に展示し,様々な人がこのプロトタイプを体験しました.

このプロジェクトの詳細やDemo Dayの様子などは僕のポートフォリオMedia labのFlickrなどでも見られます.

研究においてもプロトタイプをもっと早く作ることができればなー,と思ったりするのですが,研究の場面においては開発する前,もしくは並行してしっかりとした研究のロジックを立てておかないと開発物の方向性や実験計画に一貫性がなくなってしまうので,ここはなかなか難しいところです.


■Action Games...Learning by doingによるゲームデザイン再考

この授業ではゲームの題材となったスポーツを実際に体験することで,ゲームデザインを考えるというコンセプトのもと,ボルダリング,フットサル,ストリートダンス,トランポリンなど様々なスポーツを経験し,翌日の授業で既存のスポーツゲームのデザインについて考える活動を数回行いました.

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例えばボルダリング.体験前は「指先に力を入れて身体を支えることが登る上で一番大事なのかな」と思っていたのですが,体験してみると指先よりもむしろ,
◦両腕を使い,身体を壁に引きつける
◦足を石に乗せるだけではなく,壁に踏ん張ることで身体を支える

といったように身体全体を複合的かつタイミング良く動かすことが実際には必要になってくることを文字通り身をもって学びました.実際,次の日は両腕両脚の筋肉がパンパンに張り,動けませんでした・・・

翌日の授業で既存のボルダリング,クライミングゲーム(e.g. Wii Fitなど)をより現実の動作に近い,かつ面白いものにするためにはどんなゲームデザインが求められるかを各自考え,
◦ 自分の手足が届く範囲を可視化する
◦ Oculus Riftを使い,自分では見えない身体全体と周辺の石が見られるようにする

などそれぞれ独自性のある,実用的なアイデアが共有されました.

この授業では,これら"Learning by doing"の活動だけでなく,Fittの法則など認知,人間工学系のレクチャーも挟みながら身体動作とその応用について考えていく授業だったので,僕が研究で扱っている「身体動作の暗黙知の追体験」と重なる部分が多く,研究にもそのまま活かせそうな面白い授業でした.


■多様性の中で日常を異化する行為

個人的に,メディアデザインに関し学ぶ機会が得られたこと,そしてその中で様々なグループワーク,プロジェクトを通し実際にものづくりができた経験は自分の研究のみならず,今後に繋がっていく,貴重な経験となりました.

ここで紹介したことは,もしかしたら日本の美大・芸大でも経験できることなのかもしれませんし,設備に関しては同様のものが備わっているところも多いのではないでしょうか.

しかし,このMedia labの最大の特徴であり,僕がとてもよいと考えている点は,ここに所属している学生の多くが留学生であり,各学生が多様な専門性,バックグラウンドを持っていることです.

そんな人たちがプロジェクトを通じて共同で何かを創り上げていくその過程の中でこそ,私たちが日々当たり前だと思っている日常を異化し,捉え直し,課題を見つけ,課題に対するよりよい解決策を編み出していく活動が生まれるのだと思います.

また,それぞれが素晴らしい発想力と観察力,そして技術力を持っており,課題に対して情報が整理された分かりやすいプレゼンテーション,面白いインスタレーション,美しいヴィジュアリゼーションを持って各自のアイデアを提示し,圧倒される場面も多々ありましたが,そのような環境に半年間であれ身を置けたことは非常に充実し刺激的な日々でした.


■フィンランドでの留学


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▲Otaniemiキャンパスそばの橋を通り,バス停に向かう時に遭遇した夕日

初めての海外生活ということもあり,やはり最初の1, 2ヶ月は大学や生活に慣れることにものすごく苦労しました.特に自身の思考体系がいかに母語に制約されているかを痛感しましたし,その思考体系を英語に適応させていくことはすごく時間が掛かりました.また多様な人々がいるということは,それだけ多様な「常識」が入り交じっていることを意味し,それらを理解するのにも時間を要しますし,理解する上で齟齬が生じることも多々ありました.

ただ,留学先としてフィンランドを選んでよかったこととして,
◦ 首都であり,便利でありながらも,人と街が穏やかなヘルシンキの環境
◦ 英語ネイティブではない環境下において多様な人々が暮らしていることから,差別のないフラットな人間関係が築ける
◦ ものすごく親日

などが挙げられます.結果的に先に挙げた多様性を許容できるようになったことで,自分の物差しで測れるものが多くなり,色々と受け入れられるようになれたかな,と思ってます.


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東京に戻り,今後は修士論文執筆に向けて研究を再開し,開発,実験,評価などなど,来年までは東京で忙しい日々が続きますが,あまり突き進みすぎて視野が狭くならないよう,俯瞰的に自身を捉えつつ,一つ一つ自分のやるべき事に落ち着いて取り組んでいけたらと思います.

最後までご高覧いただきありがとうございました.

吉川遼

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